- Appleが新しい「Siri AI」をEU圏のiPhone・iPadで延期すると発表しました
- 理由はEUの規制「DMA(デジタル市場法)」との折り合いがつかなかったためです
- 影響を受けるのは約4億5000万人のEUユーザーで、提供時期は未定です
- Mac・Apple Watch・Vision Proでは、EUでも新Siriが使えます
- 日本は対象外ですが、似た「スマホ新法」が2025年12月に施行されています
「iPhoneの新しいSiriがすごい」と聞いて楽しみにしていた人も多いはずです。ところがヨーロッパでは、その目玉機能がおあずけになりました。理由は技術ではなく「ルール」です。この記事では、何が起きたのか、なぜEUだけなのか、そして日本に関係はあるのかを、やさしく整理します。
何が起きた?iOS 27の新SiriがEUで止まった
2026年6月8日(日本時間6月9日)、Appleは開発者向けイベント「WWDC26」を開きました。
そこで発表されたのが、生まれ変わった「Siri AI」です。iPhoneのおなじみの音声アシスタントが、最新のAIで大きく賢くなる機能です。
ところが同じ日、Appleはもう1つの発表をしました。
この新しいSiriを、EU(ヨーロッパ連合)圏のiPhoneとiPadでは提供できない、という内容です。
対象となるのはiOS 27とiPadOS 27。2026年秋に予定されている新しい基本ソフト(OS)です。
影響を受けるEUのユーザーは、報道によると約4億5000万人と言われています。とても大きな数です。
しかも提供できる時期は「未定」です。Appleは「いつ出せるか今は言えない」と述べています。
そもそも「新Siri(Siri AI)」とは何ができる?
新しいSiriは、これまでの「天気を教えて」レベルとは別物です。AIによって、人の言葉をより深く理解して動きます。
WWDC26で紹介された主な機能を見てみましょう。
- 会話の履歴をあとから見返せる専用アプリ
- カメラで写したものをその場で理解するVisual Intelligence(映像を読み取る力)の強化
- メールや文章作成を手伝うライティング機能
- カメラの中でSiriに直接話しかけられる「Siriモード」
つまり、ただ質問に答えるだけでなく、あなたの代わりに作業をこなす「秘書」に近づくイメージです。
たとえば、撮った写真を見せて「これと同じ商品をさがして」とお願いする。そんな使い方が想定されています。
このワクワクする機能が、EUのiPhoneでは当面使えないのです。
なぜEUだけ延期?DMA(デジタル市場法)の中身
カギを握るのがDMA(デジタル市場法)です。GAFAなどの巨大IT企業を対象にした、EUの競争ルールです。
DMAの狙いは「特定の企業がサービスを独り占めしないようにする」ことです。考え方そのものは利用者を守るためのものです。
問題は、その解釈です。Appleの説明によると、EUの規制当局は次のような対応を求めたといいます。
- 他社のAIにも、Siri AIと同じ機能やデータへのアクセスを認めること
- 端末の中身にほぼ無制限でアクセスできるようにすること
- ユーザーの監視や許可なしに、AIが自動で動けるようにすること
具体的には、メッセージの読み書き、買い物の実行、ファイルへのアクセスなどが含まれます。
Appleはここに強く反発しました。「それでは安全を守れない」という立場です。
Appleの言い分はこうです。もし他社のAIが端末を自由に操れるようになれば、パスワードや写真が盗まれたり、設定を勝手に変えられたりする危険がある。だから簡単には開けられない、というわけです。
AppleとEU、どこですれ違った?
Appleは何も対策をしなかったわけではありません。
同社は「Trusted System Agent」という仕組みを提案しました。日本語にすると「信頼できる仲介役」のような意味です。
これは、他社のAIがSiriと同じ機能を使うとき、安全を保ったまま橋渡しをする中間の仕組みです。Appleは18か月(約1年半)かけて設計したと説明しています。
しかし、欧州委員会(EUの規制当局)はこの提案を受け入れませんでした。
Appleのソフトウェア責任者クレイグ・フェデリギ氏は、強い言葉で残念さを示しています。
「EUのユーザーに、新しいSiri AIをiPhoneやiPadで届けられないことを深く残念に思う」という趣旨のコメントを出しました。
一方でAppleは「規制当局が建設的に向き合ってくれなかった」とも主張しています。つまり、話し合いが行き詰まったという見方です。
ちなみに、新Siriは中国でも当初は提供されないと報じられています。国ごとのルールの違いが、機能の差につながっているのです。
他社はどう?GoogleやアプリAIとの違い
ここで気になるのが「他のAIはどうなの?」という点です。
実は、ここに皮肉なねじれがあります。
SiriのようにOS(基本ソフト)に深く組み込まれたAIは、DMAの規制を強く受けます。
一方、GoogleのGeminiのようにアプリとして配るAIは、同じ規制の対象になりにくいのです。
つまり、EUのiPhoneユーザーが新Siriを使えなくても、Geminiのアプリをダウンロードすれば高度なAIは使えます。
あるアナリストは「EUの人はSiriが使えないなら、Geminiアプリを直接使うだけだ」と指摘しています。
整理すると、違いは次のようになります。
- Siri AI:OSに組み込み型。規制の影響を強く受け、EUで延期
- Geminiアプリなど:単体アプリ型。EUでもダウンロードして利用可能
- Mac・Watch・Vision ProのSiri:iPhone・iPad以外なので、EUでも利用可能
同じ「AIアシスタント」でも、提供のかたちで明暗が分かれているのです。
日本のiPhoneユーザーには関係ある?
結論から言うと、今回の延期は日本には直接関係ありません。DMAはあくまでEUのルールだからです。
日本のiPhoneユーザーは、予定どおり新Siriを使える見通しです。ひとまず安心してよいでしょう。
ただし、油断はできません。日本にも似た法律があるからです。
それが「スマホソフトウェア競争促進法」(通称スマホ新法)です。2025年12月18日に全面施行されました。
この法律は、基本ソフト・アプリストア・ブラウザ・検索エンジンの4分野で公正な競争を促すものです。公正取引委員会は2025年3月、AppleとGoogleを規制対象に指定しました。
すでに、標準ブラウザや検索エンジンを選ぶ画面の表示などが義務づけられています。
つまり、考え方はEUのDMAとよく似ています。将来、日本でも「ある機能だけ提供が遅れる」可能性はゼロではありません。今回のEUの一件は、日本にとっても他人事ではないのです。
よくある質問(FAQ)
Q1. EUのiPhoneでは、Siriがまったく使えなくなるのですか?
いいえ。今までのSiriは使えます。新しく強化された「Siri AI」の機能だけが、当面提供されません。
Q2. いつになればEUでも新Siriが使えますか?
現時点では未定です。Appleは「いつ提供できるか今は言えない」としています。規制当局との話し合い次第です。
Q3. EUに旅行中の日本人は、新Siriを使えますか?
新Siriが使えるかは、主に端末や設定の地域に左右されると考えられます。日本で設定したiPhoneなら基本的に使える見込みですが、Appleの正式な案内を確認するのが確実です。
Q4. なぜAppleはルールに合わせて機能を出さないのですか?
Appleは「EUの求める形ではユーザーの安全を守れない」と考えているためです。データの盗み見や勝手な操作の危険を理由に挙げています。
まとめ
今回のポイントを振り返ります。
- Appleが新「Siri AI」を、EUのiPhone・iPadで延期すると発表しました
- 理由はEUの規制「DMA」との折り合いがつかなかったためです
- 影響は約4億5000万人のEUユーザーに及び、提供時期は未定です
- Mac・Watch・Vision Proや、Geminiアプリなどは引き続き利用できます
- 日本は対象外ですが、似た「スマホ新法」が2025年に施行済みです
技術の進歩とルール作りのバランスは、これからますます難しくなりそうです。自分が使うAIが「どの国のルールで動いているか」に、少し目を向けてみてください。

