工場ロボは車輪で勝負|英Humanoidが230億円調達

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • イギリスのロボット企業「Humanoid(ヒューマノイド)」が約230億円を調達し、欧州初の「純粋ヒューマノイド・ユニコーン」になったこと
  • 評価額は約2000億円。創業からわずか2年でのスピード成長だったこと
  • 同社があえて「二足歩行」より「車輪型」ロボットを主役に選んだ理由
  • 自動車部品大手シェフラーと結んだ、2032年までに数千台という巨大契約の中身
  • Figureやテスラなど強豪ひしめく競争のなかで、日本の国産ロボットがどう関わってくるか

「工場で人と同じように働くロボット」が、いま世界中の投資マネーを集めています。今回、イギリスの新興企業が一気に約230億円を調達し、大きな話題になりました。しかも主役は二足歩行ではなく「車輪型」。この記事を読むと、その意外な選択の理由と、日本への影響がわかります。

英Humanoidって何?230億円調達のニュースを整理

2026年7月21日、あるニュースが世界のロボット業界を駆けめぐりました。

イギリス・ロンドンの企業「Humanoid(ヒューマノイド)」が、1億5200万ドル(約230億円)の資金調達を発表したのです(1ドル150円換算、以下同)。

この調達で会社の評価額は13億5000万ドル(約2000億円)になりました。

評価額が10億ドルを超えた未上場企業は「ユニコーン」と呼ばれます。伝説の一角獣くらい珍しい、という意味です。

Humanoidは「欧州初の、ヒューマノイド専業ユニコーン」になりました。

驚くのはスピードです。会社ができたのは2024年。わずか2年でユニコーンに駆け上がったことになります。

創業者でCEOのアルテム・ソコロフ氏は「2年でアイデアから欧州初の専業ユニコーンになった」と語っています。

今回の出資を主導したのは、米国の投資会社プライム・ムーバーズ・ラボです。

さらにドイツの自動車部品大手ボッシュやシェフラー、台湾の富邦系ファンドなども加わりました。創業からの累計調達額は約2億7000万ドル(約400億円)に達します。

なぜ「二足歩行」ではなく「車輪型」を選んだのか

ヒューマノイドと聞くと、人間のように足で歩くロボットを想像しますよね。

ところがHumanoidが工場向けの主役に選んだのは、下半身が車輪になったタイプでした。

理由はとてもシンプルです。二足歩行はとにかく難しいからです。

人型ロボットは、転ばずに立つだけでも大量の計算をこなす必要があります。バランスを取ることに頭脳の大半を使ってしまうのです。

そこで下半身を車輪にすれば、転倒の心配がほぼなくなります。

すると浮いた計算能力を、腕や手の作業に全部まわせるわけです。荷物を運ぶ、仕分けるといった工場の仕事なら、車輪のほうが速くて安定します。

実際、出資したボッシュやシェフラーも「工場では脚より車輪」という判断を後押ししました。

もちろん二足歩行版も開発中です。階段など車輪が入れない場所は、歩くロボットが担当します。

ロボットの中身「HMND-01 Alpha」と頭脳「KinetIQ」

Humanoidのロボットは「HMND-01 Alpha(エイチエムエヌディー・ゼロワン・アルファ)」という名前です。

まず車輪型の性能を見てみましょう。

  • 移動スピードは最大 時速7.2km(早歩きくらい)
  • 運べる重さは合計10kg(片腕あたり5kg)
  • 連続で最大4時間の作業が可能
  • 指が5本ある手で、細かい作業もこなせる

一方の二足歩行版は、身長179cm・体重90kg。時速5.4kmで歩けます。ほぼ大人の男性と同じサイズ感です。

そして注目したいのが、ロボットの頭脳「KinetIQ(キネティックIQ)」です。

これは複数のロボットが情報を共有する「共通の脳」のような仕組みです。

1台が覚えた作業のコツを、仲間のロボット全体ですぐに共有できます。

KinetIQは「VLA」という新しいAI技術を使っています。目で見た映像と言葉の指示から、次の動き(アクション)を自分で判断するタイプのAIです。

つまり、いちいち細かくプログラムしなくても、「あの箱を棚に置いて」と伝えれば動いてくれる方向を目指しています。

シェフラーとの巨大契約|2032年までに数千台

今回のニュースには、もう一つ大きな話が含まれています。

Humanoidは自動車部品大手のシェフラーと、業界で公表された中では過去最大級の商用契約を結びました。

内容は、シェフラーの世界中の工場に数千台の車輪型ロボットを、2032年までに導入するというものです。

いきなり数千台ではありません。段階を踏んで増やしていきます。

  • 2026年後半:ベータ版(試験導入)をスタート
  • 2027年:改良版「ガンマ」を投入
  • 2028年:いよいよ量産版の製造を開始

ある工場の光景を想像してみてください。これまで人が台車で運んでいた部品を、車輪型ロボットが黙々と棚から棚へ運ぶ。夜勤の時間帯も、休まず動き続ける。そんな現場が、数年のうちに現実になろうとしています。

製造のパートナーはボッシュです。作るのはボッシュ、頭脳はHumanoidという役割分担で量産を目指します。

ほかにもNVIDIA(エヌビディア)やSAP、シーメンスといった大企業が名を連ねます。技術と資金の両面で、そうそうたる顔ぶれが支えているのです。

競合との比較|Figure・テスラ・1Xとどう違う?

実はいま、ヒューマノイドの開発競争は世界中で過熱しています。

Humanoidの評価額は約2000億円。数字だけ見れば大きいですが、上には上がいます。

  • Figure(フィギュア/米):評価額なんと約6兆円。業界の断トツ首位
  • 1X(ワンエックス/ノルウェー):約1.5兆円。家庭用ロボット「NEO」は約300万円、月額499ドルでも使える
  • Apptronik(アプトロニック/米):約7500億円。累計で約1400億円を調達
  • テスラ Optimus(オプティマス):第3世代を開発中。量産化はこれから
  • Unitree(ユニツリー/中国):約2000億円。低価格を武器に台数で勝負

こうして並べると、Humanoidはまだ「新顔」です。

ではなぜ注目されるのでしょうか。ポイントは「工場での実用」に一点集中していることです。

派手な二足歩行のデモよりも、地味でも確実に働く車輪型。しかも数千台の導入契約を先に取ってしまいました。

「見せる」より「使ってもらう」。この現実路線が、投資家の評価を集めているのです。

日本市場への影響|国産ヒューマノイドはどうなる?

この動きは、日本にとって他人事ではありません。

日本でも「純国産ヒューマノイド」を目指す動きが本格化しています。

京都では、ロボットベンチャーや村田製作所、早稲田大学などが集まり、2026年に試作機を作る計画が進んでいます。

大企業も動いています。テスラはオプティマスの第3世代を公開し、川崎重工は倒れても壊れにくい大型ヒューマノイド「Kaleido(カレイド)」を開発中です。

市場そのものも急拡大の見込みです。ヒューマノイド市場は2030年までに現在の約5倍にふくらむと予測されています。

日本は少子高齢化で、工場や物流の人手不足が深刻です。

だからこそ、Humanoidのような「工場ですぐ働ける車輪型」は、日本の現場とも相性が良いといえます。海外製が先に入ってくるのか、国産が間に合うのか。数年後の勢力図が気になるところです。

よくある質問(FAQ)

Q1. Humanoidのロボットはもう買えますか?

いいえ、まだ一般販売はされていません。2026年後半にベータ版を工場で試験導入し、2028年ごろに量産版の製造を始める予定です。

Q2. どうして車輪型なのに「ヒューマノイド」と呼ぶのですか?

上半身が人間そっくりで、腕や手を使って人と同じ作業をこなすからです。下半身が車輪でも、人の仕事を代わる点はヒューマノイドと同じ、という考え方です。

Q3. 人間の仕事を奪ってしまうのでしょうか?

当面の狙いは、人手不足の工場や物流の穴を埋めることです。重い荷物運びや単純作業をロボットが担い、人はより判断が必要な仕事にまわる、という役割分担が想定されています。

Q4. 日本でこのロボットが使える日は来ますか?

可能性は十分あります。ボッシュやシーメンスなど世界展開する企業が関わっているため、将来的に日本の工場へ導入される道もあります。ただし現時点で日本での提供時期は未定です。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • 英Humanoidが約230億円を調達し、評価額約2000億円の欧州初「ヒューマノイド専業ユニコーン」になった
  • 創業からわずか2年というスピード成長だった
  • あえて二足歩行より「車輪型」を主役にし、計算能力を作業に集中させる戦略
  • 頭脳「KinetIQ」は複数ロボットで学びを共有するAIの仕組み
  • シェフラーと2032年までに数千台という過去最大級の契約を締結
  • 日本でも国産ヒューマノイド計画が進行中で、市場は2030年に約5倍へ

まずはこの夏以降、Humanoidのベータ版が実際の工場でどう動くのか、続報を追ってみてください。

参考文献