AIと書かねば最大24億円|EU規制8月2日開始

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • 2026年8月2日から、EU AI法(EUのAIルール)の「透明性義務」が本格スタートします
  • AIが作った文章・画像・音声には「AI製」とわかる印を付けることが義務になります
  • チャットボットは「私はAIです」と名乗り、ディープフェイクには目立つラベルが必要です
  • 違反すると最大1,500万ユーロ(約24億円)または世界売上の3%という重い罰金があります
  • EUの外にある日本企業も、EU向けにAIサービスを出していれば対象になります

あなたが見ているそのSNS動画、本当に「本物」ですか?AIが作った偽物かもしれません。EUはこの不安に法律で答えを出しました。2026年8月2日から「AIが作ったものにはAI製と表示せよ」というルールが始まります。日本企業にも関係する、この新しい規制をやさしく解説します。

EU AI法の「透明性義務」とは?8月2日に何が変わる

まず、今回のニュースの中心を押さえましょう。

2026年8月2日、EU AI法の「第50条(透明性義務)」の適用が始まります

EU AI法とは、EU(ヨーロッパ連合)がAIを安全に使うために作った、世界初の本格的なAIルールです。段階的に効き始めていて、今回はその中の「透明性」に関する部分がスタートします。

透明性義務をひと言でいうと、こうです。

「AIが作ったものは、AIが作ったとわかるようにしなさい」

これまでは、AIで作った文章や画像を「人間が作りました」という顔で出しても、法律上の問題はありませんでした。8月2日からは、それがEUでは違法になり得ます。

SNSにあふれる偽動画や、人間そっくりのチャットボットに、多くの人が不安を感じています。EUはその不安に「表示の義務」という形で答えを出したわけです。

具体的に何が義務になる?4つのルール

透明性義務は、大きく4つのルールに分かれます。順番に見ていきましょう。

1. チャットボットは「私はAIです」と名乗る

人間と会話するAI(チャットボット)は、相手に「これはAIです」と伝える必要があります。

たとえば、あなたが通販サイトの問い合わせ窓口でチャットをするとします。その相手がAIなら、会話の最初に「AIが対応しています」とわかるようにしないといけません。

ただし、それがAIだと誰の目にも明らかな場合は、わざわざ伝えなくてよいとされています。

2. AI生成コンテンツに「機械が読める印」を付ける

ここが今回のいちばん大きなポイントです。

AIサービスの提供者(作って売る側)は、AIが生み出した文章・画像・音声・動画に、機械が読み取れる印を埋め込む義務を負います。

この印は「電子透かし(ウォーターマーク)」や「メタデータ署名」と呼ばれる技術で付けます。目には見えないけれど、ソフトで調べると「これはAI製」とわかる仕組みです。写真の中に見えないハンコを押しておくイメージに近いです。

しかも、この印は簡単に消したり書き換えたりできないようにする必要があります。

3. ディープフェイクには目立つラベルを付ける

ディープフェイク(実在の人そっくりに作った偽の映像や音声)を公開する人は、「これは加工されたものです」とはっきり表示しなければなりません。

注目すべきは、だます目的がなくても表示が必要という点です。パロディや広告でも、本物の人物に見えるなら原則ラベルがいります。

4. 公共性の高い文章にもラベルを

ニュースのように、社会にとって大事な情報をAIで作って公開する場合も表示が必要です。

ただし、その文章を人間がきちんと目を通して編集・チェックしているなら、この義務はゆるくなります。人間の責任者がいれば大丈夫、というわけです。

違反したらどうなる?最大24億円の罰則

「表示しなくても、どうせ罰は軽いのでは?」と思ったかもしれません。ところが、そうではありません。

透明性義務に違反すると、最大1,500万ユーロ(約24億円)、または世界での年間売上の3%のどちらか高いほうが罰金になります

売上の3%というのは、大企業にとって非常に重い数字です。売上が1兆円の会社なら、単純計算で300億円にもなり得ます。

EUは、このルールを守っていることを示す助けとして、2026年6月10日に「行動規範(Code of Practice)」という実務ガイドを公表しました。

この行動規範に沿って対応していれば、「ちゃんとやっています」と説明しやすくなります。反対に、独自のやり方で通そうとすると、証明の負担が重くなると言われています。

日本企業は他人事?域外適用の落とし穴

ここで多くの人が疑問に思うはずです。「ヨーロッパの法律でしょう?日本には関係ないのでは」と。

残念ながら、そうとは言い切れません。EU AI法には「域外適用」という仕組みがあるからです。

域外適用とは、EUの外にある会社でも、そのAIの結果がEUの中で使われるなら、EUの法律に従わせるという考え方です。

身近な3つの場面で考えてみましょう。

1つめ。日本のスタートアップが、画像生成AIのアプリをヨーロッパのユーザーにも配信しているケース。この場合、生成画像へのAI表示が必要になります。

2つめ。日本の広告代理店が、AIで作ったCM動画をEUの消費者に向けて配信するケース。人物がリアルなら、ディープフェイクとしてラベルがいる可能性があります。

3つめ。日本メーカーの問い合わせチャットボットに、ヨーロッパの顧客がアクセスするケース。ここでも「AIが対応中」の開示が求められます。

つまり、EUに拠点がなくても、EUの利用者がいれば無関係ではいられないのです。

日本のAI新法と何が違う?各国ルールを比較

では、日本や他の国のルールと比べると、EUはどう違うのでしょうか。整理してみます。

日本のAI新法(2025年6月成立)は、AIの基本的な方針を示す「基本法」の性格が強く、罰則はありません。国が事業者に協力を求める形が中心です。今のところ、ディープフェイクを直接取り締まる専用の法律もありません。

EU AI法は、そこが大きく違います。具体的な表示義務と、重い罰金がセットになっています。「お願い」ではなく「命令」に近いのです。

技術面では、コンテンツの出どころを記録する「C2PA」という国際規格や、Googleの電子透かし技術「SynthID」などが、実際の対応の土台として注目されています。EUはこうした技術を組み合わせて使うことを想定しています。

アメリカでも、カリフォルニア州などが独自のAI表示ルールを進めています。世界全体が「AI製の表示」に向かって動いている、と考えるとわかりやすいです。

技術は義務に追いついている?ウォーターマークの課題

ここで、正直な課題にも触れておきます。

実は、「AI製の印を付ける技術」が、法律の要求に完全には追いついていないという指摘があります。

たとえば、AIが書いた文章を見分ける検出ツールの中には、AI文章の多くを見逃してしまうものもあると研究で報告されています。画像の電子透かしも、加工や再保存で消えてしまうことがあります。

ルールが「消えない印を付けろ」と求めても、その印を確実に残す技術がまだ発展途上、というわけです。この「制度が技術を追い越している」状態が、今後の運用の焦点になりそうです。

それでも方向性ははっきりしています。企業は今のうちから、C2PAやウォーターマークへの対応を少しずつ準備しておくのが安全です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 個人がAIで画像を作ってSNSに載せるのも違反になりますか?

主な義務は、AIサービスを提供する企業やコンテンツを公開する側にかかります。ただしディープフェイクを公開する場合は、個人でも表示が求められる場面があります。趣味の投稿でも、本物の人に見える合成映像には注意が必要です。

Q2. AIで下書きして、自分で大きく書き直した文章も対象ですか?

人間がしっかり編集・確認していれば、公共性の高い文章の表示義務はゆるくなります。人間の関与と責任があるかどうかが判断のポイントです。

Q3. 日本国内だけでサービスをしていれば、まったく関係ないですか?

EUの利用者がまったくいないなら、この法律の直接の対象にはなりにくいです。ただしネットサービスは国境を越えやすく、知らないうちにEUユーザーが使っていることもあります。海外展開の予定があるなら早めの確認が安心です。

Q4. いつまでに対応すればいいですか?

透明性義務の適用は2026年8月2日からです。すでに目前なので、EU向けにAIを使う事業者は、今すぐ自社サービスの表示状況を点検するのがおすすめです。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • 2026年8月2日、EU AI法の透明性義務(第50条)がスタートする
  • AI生成物には機械が読める印、チャットボットにはAI開示、ディープフェイクには目立つラベルが必要
  • 違反の罰金は最大約24億円または世界売上の3%と重い
  • 域外適用があるため、EU向けにAIを使う日本企業も対象になり得る
  • 日本のAI新法は罰則なし。EUは「表示の義務化」で世界をリードしている

まずは「自社のAIサービスがEUの利用者に届いていないか」を確認することから始めてみてください。

参考文献