中国製744BのAIが無償公開|Opus 5と3点差

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • 中国Z.aiが2026年8月29日、744BのAI「GLM-5.3」の重みを無償公開しました
  • 知能指標は60点。Kimi K3と並びオープンモデル首位で、Claude Opus 5の63点に3点差です
  • ターミナル作業の成績は4.6点から28.3点へ、約6倍に跳ね上がりました
  • API料金は100万トークン約210円。Kimi K3の約7分の1、Opus 5との実測比では約3分の1です
  • 量子化版なら256GBメモリのMacでも動き、社内の閉じた環境で使えます

「一番賢いAIは、月2万円払わないと使えない」。そんな常識が、また1つ崩れました。2026年8月29日、中国のZ.aiが最新モデルGLM-5.3の中身をまるごと無料で公開したのです。しかも成績は、世界最高クラスのモデルとわずか3点差でした。

GLM-5.3の重みが公開された 何が起きたのか

「重み」を配るとはどういうことか

Z.aiは日本時間の8月29日0時、GLM-5.3の重み(AIの頭脳そのものにあたる数値データ)をHugging FaceとModelScopeで公開しました。

重みが手に入るということは、AI会社のサーバーを通さず、自分の機械の中でAIを動かせるということです。

ChatGPTやClaudeは、いわば「お店に行かないと食べられない料理」です。対してGLM-5.3は、レシピと材料をまとめて渡してくれる状態にあたります。

ライセンスは「GLM-5.3 License」という独自のものです。MITライセンス(ほぼ何でも自由に使ってよい条件)ではないので、商用利用の細かい条件は原文を読む必要があります。

2週間の「お預け」があった

実はGLM-5.3というモデル自体は、8月14日にすでに発表されていました。

ところが重みの公開だけが遅れます。当初は8月末とされていた予定が、安全性の評価を理由に先延ばしになりました。

その間、Z.aiは320Bの軽量版「GLM-5.3-Flash」を先にMITライセンスで出しています。本命は最後まで温存されていた、というわけです。

過去のGLM-5.2が数日で重みを公開していたことを考えると、今回の慎重さは異例でした。理由は後で触れる「あるスコア」にあります。

744Bの「怪物モデル」をやさしく分解する

全部は使わない、という賢さ

GLM-5.3の総パラメータ数は7440億(744B)です。パラメータとは、AIが学習で身につけた「調整つまみ」のようなものだと思ってください。

ただし、1回の返答で全部が動くわけではありません。実際に働くのは400億(40B)だけです。

この仕組みをMoE(Mixture of Experts=専門家の寄せ集め)と呼びます。社内に744人の専門家がいて、質問の内容に応じて40人だけが会議室に呼ばれる、という運用に近い形です。

おかげで巨大なのに動作は軽く、費用も抑えられます。扱える文章の長さは20万トークン(日本語でおよそ十数万字)です。

学習をやり直していないのに強くなった

今回いちばん興味深いのは、Z.aiが事前学習をやり直していない点です。

ベースはGLM-5.2とまったく同じ744Bのモデルでした。伸びはすべて、事後学習(できあがったモデルに追加の訓練を施す工程)の量を増やしたことから来ています。

大学受験でたとえるなら、教科書を買い替えたのではなく、過去問演習の量を数倍に増やしただけ。それで偏差値が跳ね上がった状態です。

巨額の費用がかかる事前学習をせずに性能を上げられるなら、他の開発元も同じ手を使うはずです。業界の常識が変わる可能性があります。

ベンチマークが示した実力 伸び幅が異常

総合知能はオープンモデル首位タイ

第三者評価機関Artificial AnalysisのIntelligence Index(知能指標)でGLM-5.3は60点を獲得しました。

これはKimi K3と並ぶ同点で、重みが公開されたモデルとしては世界首位タイです。

最上位のClaude Opus 5は63点なので、その差はわずか3点しかありません。GLM-5.2からは7点の上積みです。

この指標は、エージェント作業・ツール操作・ターミナル上のコーディング・科学的推論・長文読解など9種類の試験を平均して出されます。1教科だけ得意、というごまかしが効きにくい設計です。

数字で見る成長幅

  • Terminal-Bench 3.0(長時間のターミナル作業): 4.6点 → 28.3点(約6倍)
  • DeepSWE v1.1(実際のソフト不具合の修正): 46.2点 → 66.9点
  • CyberGym(脆弱性の発見): 77.2% → 84.5%
  • ExploitBench(攻撃コードの生成能力): 24.4% → 54.4%

さらに、現実の知的労働を再現するGDPval-AA v2という評価では、Eloレーティングが1524から1770へ246点も上昇しました。この試験での順位は2位で、上にいるのはOpus 5(1855)だけです。

ここで先ほどの「公開が遅れた理由」につながります。ExploitBenchが24.4%から54.4%へ倍増した、という事実です。

攻撃コードを書く力が急に伸びたモデルを、無条件でばらまくのはためらわれます。Z.aiが安全評価に2週間かけたのは、この数字を見た後だったと考えるのが自然でしょう。

価格と競合比較 1タスク100円の衝撃

API料金を並べてみる

重みを使わず、クラウド経由で呼び出すこともできます。その場合の料金は100万トークンあたり入力1.40ドル(約210円)、出力4.40ドル(約660円)です。キャッシュされた入力なら0.26ドル(約39円)まで下がります。

競合と並べると差は明白です。

  • GLM-5.3: 入力約210円 / 出力約660円 ・ 1タスク平均0.68ドル(約100円)
  • Kimi K3: 入力3.00ドル(約450円) / 出力15.00ドル(約2,250円)・ 1タスク0.84ドル(約126円)
  • Claude Opus 5: 1タスク2.34ドル(約350円)

同じ知能指標60点のKimi K3と比べて、出力料金はおよそ7分の1です。実際の作業単価で見ても、Opus 5の約3分の1に収まります。

定額プランも用意されています。GLM Coding Planは月18ドル(約2,700円)から始まり、上位のMaxで月168ドル(約2万5,000円)です。年払いにすると実質12.60ドル(約1,890円)まで下がります。

オープンモデル勢の中での位置づけ

2026年のオープンモデル競争は、中国勢が主役になりました。DeepSeek V4-ProはMITライセンスで汎用性に強く、AlibabaのQwenシリーズはダウンロード数で世界最多を誇ります。7月にはMoonshotがKimi K3を出して規模の記録を塗り替えました。

その中でGLM-5.3の武器は、前作GLM-5.2から引き継いだ「エージェント作業の強さ」と価格です。単純な物知りコンテストではなく、道具を使って作業をやり切る力で上位に食い込んでいます。

自分のパソコンで動かせるのか

「無料で配られても、動かす機械がない」と思った方も多いはずです。実際、744Bをそのまま動かすにはデータセンター級の設備が要ります。

ただし現実的な逃げ道があります。量子化(数値のけたを削ってファイルを小さくする技術)版です。

UD-IQ2_Mと呼ばれる量子化版なら、統合メモリ256GBのMac Studioで動きます。あるいはVRAM 24GBのグラフィックボードとRAM 256GBを積んだPCという構成でも起動します。

個人の趣味で買う金額ではありませんが、企業のサーバー1台分と考えれば十分に手が届きます。小型モデルの高性能化と合わせて、手元で完結するAI環境が現実味を帯びてきました。

日本のユーザーと企業への影響

情報を外に出せない現場が変わる

ある地方の病院で、電子カルテの要約をAIに任せたいという話が出たとします。しかし患者情報を海外のサーバーへ送る判断は、まず通りません。

重みが公開されたモデルなら、この壁を越えられます。院内のサーバーにGLM-5.3を置けば、データは一歩も外へ出ないからです。

同じ悩みは、設計図を抱える製造業や、顧客名簿を扱う金融機関にもあります。「性能は欲しいが情報は出せない」という現場にとって、知能指標60点のモデルが手元に来た意味は小さくありません。

開発コストの計算が変わる

都内のあるスタートアップが、問い合わせ対応のAIを作る場面を考えてみましょう。月100万トークンの出力なら、Kimi K3では約2,250円、GLM-5.3なら約660円です。

これが月1億トークンに膨らむと、差は月20万円規模になります。事業の採算ラインそのものが動く金額です。

日本語での実力は要検証

注意点もあります。公開されたベンチマークの多くは英語や、プログラムコードを対象にしたものです。

日本語の敬語表現や、業界特有の言い回しをどこまで自然に扱えるかは、まだ十分な検証が出ていません。導入前に自社のデータで小さく試すことをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q1. GLM-5.3は本当に無料で使えますか?

重み(モデルのデータ)そのものはHugging Faceなどから無償で入手できます。ただし動かすための機械の費用は自分持ちです。クラウド経由のAPIを使う場合は、100万トークンあたり入力約210円・出力約660円がかかります。

Q2. Claude Opus 5から乗り換えるべきですか?

用途によります。知能指標では3点差ですが、日本語の細かい表現力や安全対策の作り込みでは、まだ差がある可能性が高いです。費用を重視する定型作業から部分的に置き換えるのが現実的でしょう。

Q3. 中国製のAIを使うのは安全ですか?

クラウドAPI経由なら、データが中国のサーバーに渡る点を考慮する必要があります。一方、重みをダウンロードして自社サーバーで動かす場合は通信が発生しません。用途に応じて使い分けるのが安全です。

Q4. GLM-5.2から何が一番変わりましたか?

作業をやり切る力です。ターミナル上での長時間作業を測るTerminal-Bench 3.0が4.6点から28.3点へ、約6倍になりました。文章生成より、道具を使う仕事での伸びが際立っています。

Q5. GLM-5.3-Flashとの違いは何ですか?

Flashは320Bの別モデルで、新しく学習し直した基盤の上に作られています。MITライセンスで day one から公開され、動作も軽い一方、総合的な知能では744B版が上です。

まとめ

  • Z.aiが2026年8月29日、744BのGLM-5.3の重みを無償公開しました
  • 知能指標60点でKimi K3と首位タイ。Claude Opus 5の63点に3点差まで迫りました
  • 事前学習をやり直さず、事後学習の拡大だけで7点の上積みを実現しています
  • Terminal-Bench 3.0は4.6点から28.3点へ約6倍、実務での作業能力が大きく伸びました
  • API料金は出力100万トークン約660円で、Kimi K3の約7分の1です
  • 量子化版なら256GBメモリのMacで動き、社外にデータを出せない現場でも使えます
  • ライセンスはMITではなく独自条件なので、商用利用前に原文の確認が必要です

まずはクラウドAPIで自社の実データを少量流し、日本語の品質を確かめるところから始めてみてください。

参考文献