ChatGPTで成績1点上昇|独創性は伸びず

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • ボッコーニ大学とOpenAIが1000人超の学生でランダム化実験を実施
  • ChatGPTを使えた学生は5点満点の採点で「1点近く」高得点
  • ただし独創性は伸びず、伸ばしたのは「因果推論」の訓練だった
  • 両方を受けた学生が、点数と発想の広さの両方で最も伸びた
  • OpenAI自身が共著者という利益相反や、日本の大学への示唆も整理

「AIを使うと考える力が落ちる」。そんな話を聞いたことはありませんか。ところが2026年8月27日、その通説に数字で切り込む実験結果が公開されました。1000人超の大学生を4つに分けた大規模テストです。結論は単純な賛成でも反対でもありませんでした。

1000人の学生を4つに分けた大規模実験

実験を行ったのは、イタリアのボッコーニ大学の研究者チームです。ヨーロッパを代表するビジネススクールとして知られています。

そこにOpenAIの経済研究チーム(AIが経済や仕事に与える影響を調べる部門)が共同で参加しました。

対象は同大学の1年生1000人以上。全員が同じ課題に取り組みました。

課題は「大学グッズ店を立て直せ」

学生に与えられたのは、大学が運営するグッズショップのマーケティング戦略を考える、という実在の課題でした。

教科書の練習問題ではありません。売り上げをどう伸ばすか、誰に何を売るか、実際のビジネス提案として書く必要がありました。

採点は5点満点のルーブリック(採点基準表)で行われます。提案が定められた2つのマーケティング目標にきちんと答えているか、という物差しです。

くじ引きで4つのグループに

学生はクラス単位でランダムに4グループへ振り分けられました。

  • ChatGPT組:課題中にChatGPT(GPT-4o)を使える
  • 訓練組:因果推論のトレーニングだけを受ける
  • 併用組:ChatGPTもトレーニングも両方
  • 対照組:どちらもなし

くじ引きで分けるのが重要な点です。もともと優秀な学生がAI組に偏る、といった偏りを防げるからです。こうした手法をランダム化比較試験(条件を1つだけ変えて比べる実験)と呼びます。

なお訓練組が受けた講習は、AIの使い方ではありません。原因と結果のつながりを整理する「因果推論」を、ゲームや例題、質疑応答を通じて学ぶ内容でした。

ChatGPT組と訓練組、伸びた場所が違った

AIは「答えの質」を押し上げた

まず点数です。ChatGPTを使えた学生は、5点満点で1点近く高いスコアを取りました。

5点満点で1点は大きな差です。感覚としては、Cの提案がBやAに変わるくらいの開きがあります。

中身も変わりました。提案に盛り込まれるアイデアの数が増え、話の筋道が通り、専門家が書いた推薦案に近い仕上がりになったのです。

研究チームはこれを「より専門家らしい(expert-like)」と表現しています。

訓練組は点数が伸びなかった

意外だったのは訓練組です。因果推論のトレーニングを受けた学生は、ルーブリックの点数がほとんど上がりませんでした

ここで研究チームは提出物の文章そのものを分析しました。すると別の変化が見えてきます。

訓練組の提案は、他の学生と重ならない独自のアイデアが明らかに多かったのです。さらに「この戦略はここが弱い」と自分の案の限界に踏み込む記述も増えていました。

つまり、思考の訓練が生んだ価値を、従来の採点基準はまったく拾えていなかったことになります。ルーブリックは目標に答えているかしか見ておらず、独創性を測る欄がなかったからです。

併用組が最も広い範囲で伸びた

いちばん興味深いのは、両方を受けた併用組です。

この組は点数ではChatGPT組と並び、アイデアの多様さでは訓練組と並びました。いいとこ取りです。

さらに、論理のつながりの強さと「前提を疑っている形跡」については、どちらの単独グループよりも上回りました

AIは答えを良くする。思考の訓練は発想を広げる。この2つは奪い合いではなく、役割が違うということです。

身近な場面に置き換えてみましょう。企画書を作る新人が、文章の型を整えてくれる先輩と、そもそもこの企画は誰の何を解決するのかと問い返す先輩の両方についた状態に近いといえます。片方だけでは、整った凡案か、粗削りな面白い案のどちらかで止まります。

この結果をうのみにできない3つの理由

ただし、この研究をそのまま「AIは学習に良い」と読むのは早すぎます。

第一に、OpenAI自身が共著者である点です。自社製品を評価する研究に自社が関わっている以上、完全に独立した検証とはいえません。

第二に、対象がボッコーニ大学の1年生に限られ、課題も1つだけでした。ビジネススクールの学生という、もともと選抜された集団です。日本の高校生や社会人に同じことが起きるとは限りません。

第三に、使われたモデルがGPT-4oという点です。2026年時点では2世代以上前の性能にあたります。最新モデルなら差はもっと開くかもしれませんし、逆に学生が丸ごと任せてしまい思考が減る可能性もあります。

そして最大の論点は、実は採点方法にあります。きれいな答案がAIで誰でも作れるようになったなら、きれいさを評価する採点表は何も測っていないのと同じになる、ということです。

学習向けAIを比べる:Study Mode・Guided Learning・Khanmigo

この実験で使われたのは素のChatGPTですが、2026年現在は学習専用の機能が各社から出ています。

  • ChatGPT Study Mode:答えを即座に出さず、質問を返して考えさせる。全プランで無料開放済み
  • Gemini Guided Learning:練習問題を自動生成するのが得意。Google Workspaceを使う学校と相性が良い
  • Claude Learning Mode:「自分で考えさせる」姿勢が最も厳しいとされる
  • Khanmigo:Khan Academyの教材と連動。月4ドル(約600円)と安く、K-12の算数・理科に強い

主要ツールの多くが月20ドル前後に集まる中、Khanmigoの月4ドルは際立ちます。安全性評価でもKhanmigoはChatGPTより高い評価を受けています。

今回の実験が示したのは、ツール選びより「使う人の思考訓練とセットにできるか」が効くという点です。ヒントだけ返すStudy Modeのような仕組みは、その方向に近いといえます。

日本の学生と大学にとっての意味

日本ではすでにAIが学生の日常に入り込んでいます。

調査では生成AIの利用経験がある大学生は96%、ChatGPTの利用率は90.4%にのぼります。

継続利用率は84.5%で、前年の57.7%から26.8ポイントも増えました。83.8%が「生成AIが使えなくなると困る」と答えています。

一方で大学側の整備は追いついていません。生成AIガイドラインを策定済みの大学は45.1%、策定中が23.0%という状況です。しかも現場が最も苦しんでいるのは策定そのものより「ガイドラインの実質化」だと指摘されています。

ある大学のレポート課題を想像してみてください。学生の9割がChatGPTを使い、提出物はどれも構成が整い、論理も通っています。教員は誰が本当に考えたのか、点数からは判別できません。

今回の結果は、その状況への処方箋にもなります。禁止でも放任でもなく、採点基準に「独自性」と「前提を疑った形跡」を足すという方向です。

就職活動でも同じことが起きています。エントリーシートがAIで整うなら、企業が見るべきは文章の完成度ではなく、その人固有の視点になります。

よくある質問(FAQ)

Q. 結局、AIを使うと考える力は落ちるのですか?
A. この実験では落ちませんでしたが、伸びもしませんでした。伸びたのは答案の質です。発想の広がりは、AIとは別の訓練から生まれています。

Q. 「因果推論のトレーニング」とは何ですか?
A. 原因と結果のつながりを整理する練習です。なぜこの施策で売り上げが伸びるのか、他の理由では説明できないのか、を順に問い直します。AIの使い方講習ではありません。

Q. 自分でも同じ効果を得られますか?
A. 近いことは試せます。AIに案を出させたあと、「この案が失敗するとしたら理由は何か」「前提として何を勝手に信じているか」と自分で問い返す習慣が、訓練組の行動に当たります。

Q. 大学のレポートでAIを使ってよいのですか?
A. 大学ごとの規定によります。策定済みは45.1%にとどまるため、まず自分の大学のガイドラインを確認してください。使用可の場合でも、利用箇所の明示を求められることが多くあります。

Q. 教員や親は何を変えればよいですか?
A. 完成度だけを見る採点をやめることです。他の人と違う点はどこか、どんな前提を疑ったか。この2つを問う欄を足すだけで、見えるものが変わります。

まとめ

  • ボッコーニ大学とOpenAIが1000人超でランダム化実験を実施(2026年8月27日公開)
  • ChatGPT(GPT-4o)を使えた学生は5点満点で1点近く高得点、専門家に近い提案に
  • 因果推論トレーニング組は点数が伸びず、代わりに独自のアイデアが増えた
  • 併用組は点数と発想の広さを両取りし、論理性でも単独組を上回った
  • OpenAIが共著者、単一大学、GPT-4o使用という3つの限界がある
  • 日本は学生の96%が生成AI経験ありに対し、ガイドライン策定済みは45.1%

次の一歩として、AIに出させた案に「これが失敗する理由は何か」と一度問い返すところから始めてみてください。

参考文献