- Perplexityが2026年8月25日、全処理をローカルで動かすAIエージェント「Portable Computer」を公開
- PPLX 27B・Qwen 3.8 27Bをデバイス上で実行し、ローカル処理のトークン課金は0ドル
- 必要なのはNVIDIA DGX Sparkか、24GB以上のVRAMを積んだRTX GPU搭載Linux機
- 自社ベンチではPPLX 27Bが85.4%、クラウド併用時のTerminal Benchは73.0%
- 機密データを外に出せない金融・医療・法務にとって、日本でも現実的な選択肢になる
AIエージェントに仕事を任せたいけれど、毎月のトークン代と情報漏えいが心配、と思ったことはありませんか。Perplexityが出した答えは「全部、自分のパソコンの中でやる」でした。何ができて、何にいくらかかるのかを整理します。
Perplexityが公開した「Portable Computer」とは
Perplexityは2026年8月25日、完全ローカル動作のAIエージェント「Portable Computer」を公開しました。NVIDIAとの共同開発です。
エージェント(人間の指示を受けて、自分で手順を考えて作業を進めるAI)を動かす部品には、いくつか種類があります。
全体の司令塔になるオーケストレーターLLM、手順を組むプランナー、道具を選ぶツールルーター、予約実行を管理するスケジューラ、そして作業待ちを覚えておくタスクキュー。
Portable Computerは、この一式をすべて手元のマシンの中に入れました。ファイルを検索するための索引データもローカルに作られます。
もともとPerplexityは2026年2月25日に、クラウド版のPerplexity Computerを出しています。19のAIモデルと400以上のアプリをつなぎ、Claude Opus 4.6を中心の推論役に据えたサービスでした。
今回のPortable Computerは、その画面と操作感をほぼそのまま残したまま、中身をローカルに置き換えた兄弟版という位置づけです。開発を率いたPerplexityのエンジニアリング担当VPは「まったく同じUIを完全ローカルアプリとして実装した」と説明しています。
トークン課金ゼロが、実際にはどう効くのか
クラウドのAIエージェントは、動いた分だけお金がかかります。トークン(AIが文章を処理するときの文字のかたまり)を消費するたびに課金される仕組みだからです。
ローカル実行なら、この課金が発生しません。電気代以外は何時間動かしても0ドルです。
Perplexity自身の実測では、同じ作業をやらせたときのコストはこう変わりました。ローカルだけなら0ドル。クラウドを部分的に相談役として使うと1タスク約0.415ドル。すべてクラウドに任せると約0.65ドルです。
では、どんな場面で効いてくるのでしょうか。
ある会計事務所を思い浮かべてください。確定申告の時期に、顧問先300社分の帳簿PDFを1件ずつ突き合わせる作業があります。クラウドに投げれば書類が外に出ますし、300件×数十往復のトークン代も積み上がります。手元で夜通し回せるなら、どちらの問題も消えます。
社内の情報システム部門なら、共有サーバーに眠る10年分の議事録を横断検索させる使い方があります。索引もローカルに作られるので、資料が社外のサーバーに複製されません。
個人開発者にとっては、実験の心理的ハードルが下がります。「試したら数百円かかるかも」という迷いがなくなるので、失敗前提の長時間実行を気軽に投げられるようになります。
動かすには何が必要か
対応ハードウェアとモデル
気軽さと引き換えに、機材のハードルはそれなりに高めです。
推奨されているのはNVIDIAの小型AIワークステーションDGX Sparkです。もしくは、24GB以上のVRAM(GPUが持つ専用メモリ)を積んだRTX GPU搭載のLinux機で動きます。ストレージは最低1TBが必要とされています。
使えるモデルは2種類からのスタートです。
- PPLX 27B:Perplexityが自社で追加学習させたモデル。3ビット量子化(データを粗くして軽くする圧縮技術)で17.4GB、動作に32GBのRAMが必要
- Qwen 3.8 27B:中国Alibaba系のオープンモデル。26万トークンの文脈長を持つが、実運用では10万トークンあたりから精度が落ちるとされる
- NVIDIA Nemotron 3.5 Lightning:30BのMoE型で近日対応予定。4ビット量子化で19GB、36GBのRAMが必要
Google DriveやGmail、GitHubとつなぐコネクタも最初から用意されています。
対象プランと未対応の環境
利用できるのはPerplexity Pro、Max、Enterprise Pro、Enterprise Maxの契約者です。Proは月20ドル(約3,000円)、Maxは月200ドル(約3万円)が目安になります。
OSはLinuxが先行で、Windows版は2026年9月に予定されています。macOS・Apple Siliconはロードマップに入っていません。
もうひとつ制約があります。現時点ではDGX Spark 1台での動作のみで、複数台をつなげて処理を分担させるクラスタ構成には対応していません。
精度はどこまで出るのか
27Bはクラウド最上位よりずっと小さい規模です。実力はどうなのでしょうか。
53個の実務タスクを集めた「Local Knowledge Work Bench」では、PPLX 27Bが85.4%、Qwenが82.6%。比較対象となった他のローカル向けエージェントはPiが77.6%、Hermesが74.0%でした。
ターミナル操作を評価するTerminal Bench 2.1では、ローカルのみで59.6%。ここでクラウドへの相談を許すと73.0%まで上がり、費用は1回あたり約0.415ドルでした。
Web検索能力を測るBrowseCompでは66.7%で、Piの50.2%を上回っています。トークン消費と処理時間も大きく削減されたと報告されていますが、いずれも同社の内部評価である点は差し引いて見る必要があります。
「完全ローカル」ではない部分もある
実は、Portable Computerは100%オフラインで完結するわけではありません。
最新のWeb情報が必要なとき、あるいは手元の27Bでは荷が重い難しい推論のとき。そういう場面ではオーケストレーターがいったん処理を止めて、ユーザーに確認を求めます。
承認すると、その1ステップだけが15種類以上のクラウドモデルのどれかに送られます。全部を丸投げするのではなく、必要な工程だけを外注するイメージです。Terminal Benchの成績が59.6%から73.0%へ跳ね上がったのは、この併用の効果でした。
送信の前にはPII分類器(氏名や住所などの個人情報が混ざっていないかを判定する仕組み)が働きます。何が外に出ようとしているかを、ユーザーが見てから決められる設計です。
Ollama・LM Studioとの違いはどこか
ローカルでAIを動かす環境は、すでにいくつも存在します。混同しやすいので整理しておきます。
- Ollama:コマンドラインでモデルを動かす軽量ツール。REST APIを備え、開発者が自分でアプリに組み込む前提
- LM Studio:同じ推論エンジンをGUIで包んだデスクトップアプリ。モデルを選んでチャットする用途が中心
- Foundry Local:Microsoftが出した、業務アプリに同梱して社内配布するためのライブラリ寄りの選択肢
これらはどれも「モデルを動かす土台」です。エージェントとして仕事をさせるには、司令塔や道具の使い分けを自分で組み立てる必要があります。
対してPortable Computerは、司令塔から道具選び、予約実行、検索索引までを丸ごとパッケージ済みで配っています。しかもクラウド版と同じ画面で操作できます。
手を動かして組み上げる楽しさを取るならOllama。届いた日から仕事を任せたいならPortable Computer、という住み分けになりそうです。
日本のユーザーと企業にとっての意味
日本では、生成AIの導入が「情報を社外に出せない」という一点で止まっている職場が少なくありません。
クラウド型は入力内容が外部サーバーに送られます。そのため金融・製造・医療といった機密性の高い業界では、社内合意が取れずに検討段階で足踏みするケースが目立ちます。
インテックや日立ソリューションズがオンプレミス向けのローカルLLM導入支援を打ち出しているのも、この需要を見てのことです。Portable Computerは、その流れに乗る完成品として登場したと言えます。
気になるのは費用です。DGX Sparkは発売当初のFounders Editionが3,999ドルでしたが、2026年2月下旬に4,699ドルへ約18%値上げされました。世界的なメモリ供給の逼迫が理由とされています。
日本国内の実売価格はおおむね98万〜101万円です。法人向けではNTTPCが税込909,700円で扱っており、パソコン工房やTSUKUMOなど一般の通販ルートでも購入できます。
100万円弱は安くありませんが、月200ドルのMaxプランを複数人分契約し、さらにトークン従量課金を積み上げる運用と比べれば、回収の計算は立ちます。
一方で日本語の扱いには注意が必要です。PPLX 27BもQwen 3.8 27Bも多言語対応ですが、27Bという規模でクラウド最上位と同等の日本語品質が出るとは限りません。まずは自社の実データで小さく試すのが安全です。
よくある質問(FAQ)
Q. MacやWindowsでは使えませんか?
Windows版は2026年9月に対応予定と発表されています。macOSとApple Siliconについては、現時点でロードマップに入っていません。今すぐ使いたい場合はLinux環境が必要です。
Q. ゲーミングPCでも動きますか?
24GB以上のVRAMを持つRTX GPUなら動作対象です。RTX 3090以上が目安とされています。ただしストレージ1TB以上、モデルによっては32〜36GBのRAMも必要になるので、事前に確認してください。
Q. 本当に一切ネットにつながらないのですか?
いいえ。ローカルだけで完結させることもできますが、最新情報の取得や難しい推論のときはクラウドへ問い合わせる選択肢が提示されます。送信前に個人情報の有無が判定され、ユーザーが承認しない限り外には出ません。
Q. Perplexityの契約なしで使えますか?
使えません。Pro、Max、Enterprise Pro、Enterprise Maxのいずれかの契約が前提です。ローカル処理のトークン代はかかりませんが、サブスクリプション料金は別途必要になります。
Q. クラウド版のPerplexity Computerとどちらを選ぶべきですか?
扱うデータの機微さで判断するのが分かりやすい方法です。社外に出せない資料が中心ならPortable Computer、公開情報を広く速く処理したいならクラウド版が向いています。両方を使い分ける運用も可能です。
まとめ
- Perplexityが2026年8月25日、NVIDIAと組んで完全ローカル版AIエージェント「Portable Computer」を公開した
- 司令塔・プランナー・道具選び・検索索引まですべてが手元で動き、ローカル処理のトークン課金は0ドル
- 必要な機材はDGX Sparkか24GB VRAM以上のRTX搭載Linux機。Windows版は2026年9月予定
- 自社ベンチではPPLX 27Bが85.4%、クラウド併用時のTerminal Benchは73.0%まで向上
- 日本国内のDGX Sparkは約98万〜101万円。機密データを扱う業種には現実的な投資額になってきた
まずは手持ちのGPUのVRAM容量を確認し、24GBに届いているかどうかから調べてみてください。
参考文献
- GIGAZINE「Perplexityが完全ローカル版AIエージェント『Portable Computer』を公開」
- Perplexity公式ブログ「Introducing Portable Computer for local-first AI」
- VentureBeat「Perplexity partners with Nvidia to launch Portable Computer」
- MarkTechPost「Perplexity Ships Portable Computer on NVIDIA DGX Spark」
- NTTPCコミュニケーションズ「DGX Sparkの購入・お問い合わせデータから読み解く」

