- オーストラリアのARIAが、AIだけで作られた曲を公式チャートから除外すると発表
- 適用は2026年8月28日発表分のチャート(チャート日付8月31日)から
- きっかけはSpotifyで4800万再生を超えたAI製カバー曲「Like a Prayer」
- 背景には国際団体IFPIが7月30日に出した世界共通ルールがある
- Deezerでは1日の新規アップロードの5割超(約9万曲)がAI製という現実
あなたが今週いちばん多く聴いた曲、本当に人間が作ったものですか。オーストラリアの音楽チャートが、その問いに世界で最も踏み込んだ答えを出しました。この記事では、何が禁止されて何が許されるのか、そして日本の音楽ファンやクリエイターに何が起きるのかを整理します。
ARIAが「人間が作った音楽」だけをチャートに載せると決めた
2026年8月25日、オーストラリアレコード産業協会(ARIA)が大きな方針転換を発表しました。
AIだけで作られた楽曲は、公式チャートに載せないという決定です。
ARIAはオーストラリアの音楽業界団体です。日本でいえばオリコンと日本レコード協会を合わせたような立場だと考えるとわかりやすいでしょう。
今回変更されたのは「チャート実務規範(Charts Code of Practice)」と呼ばれるルールブックです。適用は2026年8月28日(金)に発表されるチャートからで、チャートの日付表記は8月31日付になります。
ARIAのCEO、アナベル・ハード氏はこう述べています。「ARIAチャートはオーストラリアでの音楽の消費と売上を追うものですが、同時に人間の芸術性と成功を称えるものでもあります」。
さらにハード氏は、ラジオ局や他のプラットフォームにも同様のルール整備を呼びかけました。チャートだけの話で終わらせない、という意思表示です。
きっかけは4800万再生を超えたAI製カバー曲
ラジオで最も流れた曲がAI製だった
今回の決定には、はっきりとした引き金がありました。
オーストラリア・クイーンズランド州のDJ、ジョシュ・ファワズ氏が制作した、マドンナの名曲「Like a Prayer」のダンスカバーです。
この曲はオーストラリア全国のラジオ・エアプレイチャートで4週連続1位を記録しました。つまり、国内でいちばん多く電波に乗った曲だったわけです。
ARIAのチャートでも成績は圧巻でした。オーストラリア国内シングルTOP20で最高2位(5月)、その後も長く上位に残り、ダンスシングルチャートでは1位を獲得しています。
Spotifyでの再生回数は4800万回を突破しました。
「AIボーカル」と「AIドラム」が後から判明
問題になったのは制作方法でした。
批判が集まったあと、ファワズ氏は2026年7月にSpotifyのクレジット欄を更新します。そこにはボーカルとドラムに生成AIを使用したと明記されていました。
本人はAIを「ツールとして使った」と説明しています。とはいえ、曲の中心であるリードボーカルがAI製だったという事実は、オーストラリアの音楽コミュニティに強い反発を生みました。
人気デュオPeking Dukのアダム・ハイド氏は「排除すべきだ」と明言し、AIが「人生から人間の経験を取り除いている」と語っています。
ARIAの広報担当は、新ルールのもとではこの曲は失格になる可能性が高いとの見方を示しました。
新ルールの中身|「実質的に人間が作った」が分かれ目
ここで多くの人が気になるのは、「AIを少しでも使ったらアウトなのか」という点でしょう。
答えはノーです。ARIAが除外するのは全部または大部分がAI生成の楽曲に限られます。
新しい規範では、生成AIを使った録音物は次の2つを満たせばチャート対象として認められます。
- 実質的に人間によって作られている(substantially human-made)こと
- 再生数やチャート順位の不正操作の懸念がないこと
ノイズ除去、音量調整、マスタリングの補助といった裏方作業でAIを使うぶんには、これまで通り問題ありません。
ARIAには、条件を満たさない楽曲をチャートから削除し、順位を修正し、受賞歴を取り消す権限が与えられました。
一方で、除外されたアーティスト側が異議を申し立てる仕組みも用意されています。一方的な排除ではなく、審査と反論のプロセスをセットにした設計です。
背景にある世界共通ルール|IFPIが20カ国超で展開
実は、ARIAの動きは単独の判断ではありません。
2026年7月30日、国際レコード産業連盟(IFPI)が、AI楽曲のチャート適格性に関する世界共通の原則を発表していました。IFPIは世界のレコード会社が加盟する国際団体です。
原則の柱は主に3つあります。
- 使われたAIサービスが合法で、適切に許諾を得ていること
- 録音物が実質的に人間によって作られていること
- 再生数やチャートの不正操作に関与していないこと
加えて、著作権・パブリシティ権などの法令を守ること、AIサービスの利用規約に違反しないこと、AI利用を配信サービス上で消費者にきちんと表示することも求められます。
IFPIのCEO、ヴィクトリア・オークリー氏は「公式チャートは単に売上を記録する以上のものであり、人間の芸術性を称えるものです」と述べています。
この原則は、IFPIが直接運営する中東・アフリカ(13市場)、東南アジア(6市場)、中南米各国のチャートにまず適用されます。
さらに20を超える各国の公式チャートが順次導入を進めており、韓国のCircle Chart、フランスのSNEP、ドイツのOffizielle Deutsche Charts、ニュージーランド、イタリア、スペインなどが名を連ねています。ARIAはその先陣を切った形です。
配信サービス側の現状|Deezerは1日9万曲がAI製
たった半年で「4割」から「5割超」へ
チャート側がここまで急ぐのには理由があります。数字が想像以上に速く動いているからです。
フランスの音楽配信サービスDeezerは、自社に届く新規アップロードのAI比率を定期的に公表しています。
- 2026年1月:1日約6万曲、全体の39%
- 2026年4月:1日約7万5000曲、全体の44%
- 2026年7月:1日約9万曲、全体の50%超
半年で「新しくアップロードされる曲の過半数がAI製」という段階に到達しました。
Deezerは2025年1月から独自のAI検出ツールを運用しており、これまでに1340万曲以上をAI製として検出しています。SunoやUdioといった主要な音楽生成AIの出力を見分けられる仕組みです。
さらに同社は、AI楽曲のストリーミングのうち85%が不正な再生だったと発表し、それらの収益化を停止しました。ボットで再生数を水増しし、印税プールから分け前を抜き取る手口が横行していたのです。
各社の対応を並べると違いが見える
プラットフォームごとにアプローチは異なります。
- ARIA(チャート):全AI生成曲をランキングから除外。ペナルティ型
- Spotify:この1年で7500万曲のスパム楽曲を削除。2026年4月16日からDDEX規格に沿った「AIクレジット」表示を開始。ボーカル・演奏・後処理のどこにAIを使ったかを細かく申告できる
- Deezer:AI楽曲を検出してタグ付けし、不正再生ぶんを非収益化。検出技術を他社にも提供
- Apple Music・主要ディストリビューター:アップロード時にAI利用の申告欄を追加する流れが進行中
Spotifyが強調しているのは、削除の基準は「AIを使ったかどうか」ではなく「スパム的な振る舞いかどうか」だという点です。大量投稿、重複アップロード、再生数の不正操作が対象になります。
つまり業界全体としては、AIを禁止するのではなく、AIを隠すことを禁止する方向に進んでいます。ARIAのチャート除外は、その中でも特に踏み込んだ一手だといえます。
日本への影響|オリコンやビルボードジャパンはどうなる
日本の公式チャートは今のところ静観
気になるのは日本の状況でしょう。
2026年8月26日時点で、オリコンやビルボードジャパンが同様のルールを導入したという公式発表は確認できていません。IFPIが公表した導入予定リストにも、日本のチャートは含まれていませんでした。
ビルボードジャパンの2026年上半期「Hot 100」を見ると、上位は米津玄師さん、M!LKさん、Mrs. GREEN APPLEさんなど、人間のアーティストが占めています。オーストラリアのような直接的な火種は、まだ表面化していない状況です。
ただし、日本レコード協会はIFPIの加盟団体です。世界20カ国超で共通ルールの導入が進めば、日本だけが例外でいられる期間はそう長くないと見られています。
音楽を作る人が今からやっておくべきこと
3つの場面を想像してみてください。
ひとつめ。趣味で作曲しているあなたが、Sunoで作ったトラックにボーカルだけ自分で乗せて配信したとします。この場合、実質的に人間が作ったと説明できる可能性は十分あります。ただし配信時にAI利用を申告していなければ、後から発覚したときの信頼低下は避けられません。
ふたつめ。企業のプロモーション動画を作る制作会社が、BGMを生成AIで用意する場面です。ここで確認すべきは、使ったAIサービスの学習データが適法か、そして商用利用が規約で認められているかです。IFPIの原則が求めているのはまさにこの部分です。
みっつめ。インディーズバンドが配信リリースする場面。マスタリングにAIツールを使っただけなら申告は基本的に不要ですが、ディストリビューターの入力画面にAI申告欄が増えている場合は、正直に該当項目を選ぶのが安全です。
共通するのは、制作工程の記録を残しておくことです。誰がどのパートを作り、どこにAIを使ったのか。異議申し立てが必要になったとき、それが唯一の武器になります。
よくある質問(FAQ)
Q. AIを少しでも使ったらチャートに載れないのですか?
いいえ。除外されるのは全部またはほぼ全部がAI生成の楽曲です。編集や音質調整の補助としてAIを使うぶんには、これまで通りチャートの対象になります。
Q. 「実質的に人間が作った」の線引きはどこですか?
現時点で数値的な基準は公表されていません。ARIAが個別に判断し、アーティスト側は異議を申し立てられる仕組みです。今回のケースでは、リードボーカルがAI製である点が決定的だったと見られています。
Q. すでにチャートに入った曲はさかのぼって消されますか?
新ルールは8月28日発表分のチャートから適用されます。ただしARIAには順位の修正や受賞の取り消しを行う権限が与えられているため、今後の運用次第という部分は残ります。
Q. 日本のリスナーにはどんな影響がありますか?
すぐに聴ける曲が減るわけではありません。変わるのは表示です。SpotifyのAIクレジットなど、AIをどこに使ったかが曲の情報欄で見えるようになりつつあります。気になる曲があれば、クレジット欄を確認する習慣をつけておくと安心です。
Q. AI音楽そのものが禁止される流れなのですか?
そうではありません。業界が問題視しているのは、AI利用を隠すことと、ボットによる再生数の水増しです。Deezerが85%を不正と判定したように、実害の中心は「AIの質」ではなく「不正な稼ぎ方」にあります。
まとめ
- ARIAが2026年8月28日発表分のチャートから、全面的にAI生成された楽曲を除外する
- 条件は「実質的に人間が作っていること」と「不正操作の懸念がないこと」の2点
- 引き金は、ラジオ4週連続1位・Spotify4800万再生を記録したAI製カバー曲だった
- 7月30日にIFPIが世界共通原則を発表し、20カ国超のチャートが追随中
- Deezerでは新規アップロードの5割超(1日約9万曲)がAI製で、そのストリーミングの85%が不正
- 日本の公式チャートは現時点で未対応だが、国際的な流れの影響は避けにくい
音楽をAIで作っている方は、まず自分のリリース楽曲の配信クレジットを開き、AI利用の申告状況を確認するところから始めてみてください。
参考文献
- Fully AI-generated music to be banned from ARIA charts – ABC News(2026年8月25日)
- IFPI Rolls Out Global Principles for the Eligibility of Recordings Developed Using AI in Official Music Charts Worldwide(2026年7月30日)
- ‘Get it out’: ARIA to ban AI-generated music from Australian charts – SBS News
- AI Music Tops 50% of Daily Uploads on Deezer – Deezer Newsroom(2026年7月)
- Josh Fawaz’s Like a Prayer now has AI credits on Spotify – ABC News(2026年7月17日)

