Unitree新型ロボが2m跳躍|時速45kmで走る

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

taolis.net X note Voicy YouTube
  • 中国Unitreeの新型人型ロボットが、助走なしで高さ2mのジャンプに成功した
  • 走行速度は秒速12.66m(時速45.576km)で、ウサイン・ボルトの瞬間最高速度を上回る
  • 頭部がなく、脚の長さは85cm。開発開始からわずか3カ月での記録
  • 4カ月前の記録は時速36km。進化のスピードが異常に速い
  • Unitreeは上海STAR市場に上場予定で、日本ではGMO AI&ロボティクス商事が正規代理店

2mといえば、一般的な家の天井の高さです。その高さを、助走なしで跳び越えるロボットが現れました。しかも時速45kmで走ります。開発が始まってから、まだ3カ月しか経っていません。ロボットの運動能力は、いつの間にか人間を追い抜いていました。

助走なしで2mジャンプ、時速45kmで走行

2026年8月17日、中国のロボット企業Unitree Robotics(ユニツリー・ロボティクス)が新型の人型ロボットを公開しました。

披露されたのは、2つの記録です。

1つ目は、助走なしで高さ2mのジャンプ。その場に立った状態から、真上に2m跳び上がります。

2つ目は、秒速12.66m(時速45.576km)での走行。原付バイクの法定速度が時速30kmですから、それより速く走る計算です。

Unitreeは、この2つがどちらも「人類の世界最高記録を超えた」とアピールしています。

公開された機体のスペック

気になる中身ですが、詳しい仕様はほとんど公開されていません。

わかっているのは、頭部がない人型だということ。そして脚の長さが85cmだということです。

体重や関節の自由度、バッテリー容量、価格といった情報は現時点で不明です。市販モデルというより、性能を極限まで追い込むための実験機に近い位置づけと考えられます。

人間の世界記録とくらべてみる

「人間超え」という言葉は、こういう発表でよく使われます。でも本当でしょうか。実際の記録と並べてみます。

ジャンプ:非公式世界記録は1.90m

助走なしで真上に跳ぶ競技を「立ち高跳び」といいます。かつては陸上競技の正式種目でしたが、今はほとんど行われていません。

この立ち高跳びの非公式世界記録は、1.90mです。スウェーデンのルーネ・アルメーン選手が1980年5月3日に記録しました。46年間破られていません。

今回のロボットは2m。差は10cmですが、たしかに人間の記録を上回っています。

走行:ボルトのトップスピードを超えた

走りのほうは、もっとわかりやすい比較ができます。

100m走の世界記録保持者ウサイン・ボルト選手は、2009年の世界記録樹立時に瞬間最高速度12.27m/s(約時速44km)を出しました。100m全体の平均速度は10.44m/sです。

今回のロボットは12.66m/s。人類最速の男のトップスピードを、わずかに上回りました。

ただし注意点があります。ロボットの記録は「どんな条件で、どれくらいの距離を走ったのか」が明示されていません。短い区間の瞬間速度である可能性は残ります。

わずか3カ月、頭部なし——記録の裏側

この記録でいちばん驚くべき点は、数字そのものではありません。開発開始からまだ3カ月ほどという点です。

Unitree側も「今後さらに性能を伸ばす余地がある」としています。つまり、これは完成形ではなく通過点だということです。

なぜ頭がないのか

頭部がない理由は、記録を狙うための割り切りです。

頭にはカメラやセンサー、それを支える構造が入ります。重い部品が体の一番高い場所にあると、跳ぶときも走るときも不利になります。

実は同じ手法は、4カ月前にも使われていました。2026年4月11日、北京で開かれた人型ロボットハーフマラソンのテストイベントで、UnitreeのH1が10.1m/s(約時速36km)を記録しています。このときの機体も、頭と手を取り外した改造版でした。

ただ、面白いのは重量です。改造版H1は標準の47kgから62kgへ増えていました。単純に軽くしたのではなく、脚に出力を集中させるための設計変更だったと見られます。

4カ月で時速36km→45kmへ

ここで、時間軸を整理してみます。

  • 2026年2月:中国のMirror Meが10m/sを記録
  • 2026年4月11日:Unitree H1改造版が10.1m/s(時速36km)
  • 2026年8月17日:Unitree新型機が12.66m/s(時速45km)

半年で、時速9kmも上乗せされました。人間の陸上競技で100m走の世界記録が0.01秒縮まるのに何年もかかることを考えると、この伸び方は異常です。

ロボットの運動能力は、ハードウェアの改良だけでなく制御ソフトウェアの学習で伸びます。シミュレーション上で何百万回も転んで学べるため、人間の練習とは時間の流れ方が違うのです。

他社ロボットと何が違うのか

人型ロボットの開発競争は、いま世界中で加速しています。主要プレイヤーと比べてみましょう。

Boston Dynamics「Atlas」

バク宙や360度回転ジャンプで有名な、運動能力の代名詞的存在です。電動化された新型Atlasは、押されてもバランスを取り戻し、障害物を飛び越えます。現在は現代自動車(ヒュンダイ)の工場で、重量物を扱う産業用途を狙っています。

Unitreeの新型が「速さと跳躍力の一点突破」なら、Atlasは複雑な全身動作の総合力で先行しています。

Tesla「Optimus」/Figure「03」

この2機種は、方向性がまったく違います。

Optimusの移動速度は1.2m/s。今回のロボットの10分の1以下です。体重は57kgで、Atlasより35%軽く作られています。

遅いのは技術力の問題ではありません。倉庫や工場で長時間動き続けることを優先しているからです。バク宙ができても、バッテリーが1時間で切れる工場ロボットは使えません。

Figure 03も同じく、省エネで安定した歩行を重視しています。

戦略の違いを整理すると

  • Unitree:極限性能でブランドを作り、低価格で数を売る
  • Boston Dynamics:高度な全身制御を産業用途に落とし込む
  • Tesla・Figure:地味でも実用的な作業能力と稼働時間を優先

どれが正解かは、まだ誰にもわかりません。

日本市場への影響

「中国のロボットの話でしょ」と思うかもしれません。でも、日本と無関係ではありません。

日本でもUnitree製品は買える

Unitree製品は、すでに日本で正規に流通しています。GMO AI&ロボティクス商事(GMO AIR)が国内正規代理店として、人型ロボット「G1」「H1」や四足歩行ロボット「Go2」「B2」を取り扱っています。

価格帯も現実的になってきました。

  • R1 Air:4,900ドル(約73万円)
  • R1:5,900ドル(約89万円)
  • G1:13,500ドル(約203万円)
  • H2:29,900ドル(約449万円)
  • H1:約90,000ドル(約1,350万円)

人型ロボットの平均価格は、2020年から2025年の5年間で93%下落し、約58,000ドル(約870万円)になったというデータもあります。軽自動車が買える値段で二足歩行ロボットが手に入る時代が、もう来ています。

日本メーカーの立ち位置

正直に言えば、商用人型ロボットの分野で日本は米中に後れを取っています。

川崎重工の「Kaleido(カレイド)」、トヨタの遠隔操作型「T-HR3」、ソフトバンクロボティクスの「Pepper」など、開発自体は続いています。トヨタのバスケットボールロボット「CUE」は、24.55mのシュート成功でギネス世界記録も持っています。

ただ、多くはまだ研究段階です。「毎年何千台も出荷して売上を立てる」という段階には至っていません。

一方で、部品サプライヤーとしての日本は今も強いという点は見逃せません。減速機、モーター、センサー、ベアリング。人型ロボットの関節に入る精密部品では、日本企業が世界シェアを握っている領域が複数あります。ロボット本体で勝てなくても、中身で稼ぐという道は残っています。

Unitreeは上場目前

Unitreeは、上海証券取引所の新興市場「STAR市場(科創板)」への上場を控えています。

公開価格は1株150.8元(約3,170円)。調達額は約9億ドル(約1,350億円)で、企業価値は約610億元(約1.3兆円)と見られています。実現すれば、中国本土で初の人型ロボット企業の上場です。

目論見書によると、2025年のヒューマノイド出荷台数は5,500台超。この数字は、世界トップ水準です。今回の記録発表が上場直前のタイミングで出てきたことには、投資家へのアピールという側面もありそうです。

なぜ跳ぶ必要があるのか

ここで素朴な疑問が浮かびます。2m跳べるロボットは、何の役に立つのでしょうか。

倉庫で荷物を運ぶのに、時速45kmは要りません。介護施設で高齢者を支えるのに、垂直跳び2mは危険ですらあります。

1つ目の答え:制御技術の証明

跳躍と高速走行は、バランス制御の総合試験です。

2m跳ぶには、離陸の瞬間に全身の力を一点に集中させ、空中で姿勢を保ち、着地の衝撃を吸収して倒れずに立つ必要があります。この一連の動作を成立させる制御技術は、そのまま「段差でつまずかない」「押されても倒れない」という実用性能につながります。

2つ目の答え:現場は意外と過酷

災害現場を想像してみてください。倒壊した建物の中を進むには、瓦礫を乗り越え、隙間を跳び越える必要があります。平らな床を歩けるだけのロボットは、そこで止まります。

建設現場の資材をまたぐ。工場の配管を乗り越える。屋外の急な階段を降りる。こうした場面で、余裕のある運動性能は保険になります。

3つ目の答え:話題になること自体に価値がある

身も蓋もない話ですが、これも大きいです。

「人間の記録を超えた」というニュースは世界中に拡散します。上場前の企業にとって、広告費をかけずに得られる注目は、そのまま企業価値につながります。

実際、業界内では「人型ロボットの運動記録は実用性と結びついていない」という批判も出ています。4月の10m/s記録のときも、同じ議論がありました。派手さと実用性のギャップは、この分野が抱え続けている課題です。

よくある質問(FAQ)

Q1. このロボットは買えますか?

現時点では買えません。詳しいスペックも価格も公開されておらず、性能を追い込むための実験機と考えられます。市販されているのは、G1(約203万円)やH2(約449万円)などの既存モデルです。

Q2. 本当に人間より速いのですか?

数字の上では、ウサイン・ボルト選手の瞬間最高速度12.27m/sを上回っています。ただし測定条件が公開されていないため、100m走のように一定距離を走り切った記録かどうかは不明です。「短距離の瞬間速度で人間のトップを超えた」という理解が正確でしょう。

Q3. なぜ頭がないのですか?

記録を狙うために、あえて外していると考えられます。頭部にはカメラやセンサーが入り、体の最上部に重量が集まります。跳躍でも走行でも不利になるため、性能テスト用の機体では取り外されることがあります。4月に記録を出したH1改造版も、頭と手を外していました。

Q4. 日本の企業は追いつけますか?

完成品での競争は厳しい状況です。日本メーカーの人型ロボットは研究段階のものが多く、出荷台数では中国・米国勢に離されています。ただし減速機やモーターなどの精密部品では日本企業が強く、市場拡大の恩恵を受ける立場にあります。

Q5. 家庭に人型ロボットが来るのはいつですか?

掃除や料理を任せられるレベルは、まだ先です。運動能力は急速に伸びていますが、家庭は「物が散らかっていて毎回レイアウトが違う」という、ロボットにとって最難関の環境です。当面は工場・倉庫・研究機関・教育現場が主戦場になります。

まとめ

  • 2026年8月17日、Unitreeの新型人型ロボットが助走なしで2mジャンプ、時速45.576kmでの走行を記録した
  • 立ち高跳びの人間記録1.90m、ウサイン・ボルトの瞬間最高速度12.27m/sを、どちらも上回っている
  • 頭部を持たない設計、脚の長さ85cm。開発開始からわずか3カ月での達成で、伸びしろも残されている
  • 4カ月前の時速36kmから9km上乗せ。学習ベースの制御技術が進化速度を押し上げている
  • Boston DynamicsやTesla Optimusとは戦略が異なり、Unitreeは極限性能と低価格の両輪で攻めている
  • 日本ではGMO AIRが正規代理店。本体では後れを取るが、精密部品では依然として強い

まずは、Unitreeが公開したデモ動画を実際に見てみてください。数字で読むより、2m跳ぶ瞬間を目で見たほうが、この変化の速さは体で理解できます。

参考文献