味の素がAI画像で謝罪|1300万表示の教訓

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • 味の素パークの公式Xが、AIで加工した「ほんだし」の画像を投稿し8月16日に謝罪した経緯
  • 今回はAIで「生成」したのではなく、実写真をAIで「修正」したことが原因だった
  • 画像生成AIが日本語の文字やロゴを壊してしまう技術的な理由
  • ツールによって文字の保持力に差があること(Photoshop・Geminiの検証結果)
  • 景品表示法との関係と、企業が明日から実践できる5つの再発防止策

自社の商品写真を、AIでちょっと明るくしただけ。そのつもりが、パッケージのブランド名が別物になっていたとしたら、どう感じますか。2026年8月、味の素の公式アカウントで実際に起きたこの一件は、約1300万回も見られました。何が起き、どうすれば防げたのかを整理します。

8月14日の投稿から16日の謝罪まで、何が起きたのか

舞台は、味の素が運営するレシピ情報サイト「味の素パーク」の公式X(旧Twitter)アカウントです。

2026年8月14日、手作りめんつゆのレシピ画像が投稿されました。写っていたのは、同社の定番商品「ほんだし」と計量カップです。

ところが、画像をよく見た利用者たちが次々と違和感を指摘します。パッケージの文字がぐにゃりと歪み、読めない記号のようになっていたのです。

ブランド名の表記が崩れて「AINOMOTO」に見えるという指摘や、計量カップの目盛りに「100ml」が重複しているという指摘もありました。

お盆の日曜日に出された謝罪

投稿は瞬く間に拡散します。8月16日の夕方時点で、表示回数は約1300万回に達しました

味の素パークは同じ8月16日、公式Xで謝罪しました。お盆休みの真っ最中、しかも日曜日という異例のスピード対応です。

説明によれば、使ったのは実際に撮影した写真でした。それをAIで明るさや背景を調整したところ、文字やラベルが崩れてしまい、確認が不十分なまま公開してしまった、という内容です。

ここが今回の最大のポイントです。ゼロからAIに絵を描かせたのではなく、本物の写真をAIで「修正」した結果の事故でした。

なぜAIは日本語の文字とロゴを壊すのか

「元の写真があるのに、なぜ文字だけ壊れるの?」と思いませんか。ここには、画像を扱うAIの根本的な仕組みが関係しています。

AIにとって文字は「意味」ではなく「模様」

画像生成AI(文章の指示から絵を作るAI)は、文字を言葉として理解していません。

学習の過程で文字は、木目や布地の柄と同じ「模様の一種」として扱われます。だから「それっぽい形」は再現できても、一字一句を正確に保つ動機がないのです。

特に日本語は不利です。ひらがな・カタカナ・漢字が混ざり、漢字は細かい部品の組み合わせでできています。線が1本欠けたり、部品の位置が少しずれたりするだけで、漢字っぽい何かに化けてしまいます。

アルファベットや数字が比較的きれいに出るのは、学習データの量が桁違いに多いからだと言われています。

「明るさ調整」でも画像は作り直されている

もうひとつの落とし穴が、AIによる修正の裏側です。

写真編集アプリの明るさスライダーは、元の画素の値をそのまま計算し直すだけです。文字は絶対に変わりません。

一方、AIによる加工は違います。画像をいったん圧縮した情報に変換し、そこから絵を描き直すという工程を通ることが多いのです。

全体の構図や色は保たれても、画素レベルの細部――つまりロゴや小さな文字――は描き直しの過程で失われます。原稿をコピー機ではなく、記憶を頼りに書き写す作業に近いと言えます。

ツールで結果は変わる|Photoshop・Geminiの検証

では、どのツールを使っても同じ結果になるのでしょうか。答えは「いいえ」です。

この件を検証したITジャーナリストの山口健太氏は、複数のツールで同種の加工を試しています。

  • Gemini 3.7 Flash:全体のレイアウトは維持されるものの、拡大すると文字が歪んだり崩れたりした
  • Photoshopの生成塗りつぶし(Firefly Image 5):文字の再現性が最も高く、実用に耐える水準だった

差が出る理由は、設計思想の違いにあります。汎用の画像生成モデルは「新しい絵を作る」ことが得意です。

対してPhotoshopの生成塗りつぶしは、選択した範囲だけを描き替え、それ以外の画素には手を触れない設計になっています。ロゴに触らせない、という発想です。

ちなみに、AI画像に文字を入れたい場合の最も安全な方法も同じ考え方です。背景だけAIに作らせ、文字はCanvaやPhotoshopで後から重ねる。この分業なら、文字化けは原理的に起きません。

日本企業への影響|景品表示法とブランド保護

今回は「気持ち悪い」という感情的な反発が中心でした。しかし日本企業にとっては、法律とブランド管理の両面でリスクがあります。

景品表示法は「作り方」を問わない

景品表示法の第5条は、商品を実際より著しく優れていると誤認させる表示(優良誤認表示)を禁じています。

この法律は、表示を人が作ったかAIが作ったかを問いません。AIが生成した画像でも、内容が誤認を招けば規制の対象になります。

2024年10月に施行された改正法では、措置命令を経ずに100万円以下の罰金を科せる直罰規定も導入されました。10年以内の再違反では、課徴金が1.5倍に引き上げられます。

なお2026年時点の日本には、AI生成であることの表示を一般的に義務づける法律はありません。とはいえ実物と異なるイメージ画像には、注記が事実上不可欠になっています。

崩れたロゴは商標を守りにくくする

もうひとつ、SNSの反応で鋭かったのが商標の観点です。

企業がロゴのフォントや配色を厳格に管理するのは、それが権利の裏づけになるからです。公式アカウントが崩れたロゴを自ら発信すれば、「自社でも正確に扱っていない」という記録が残ってしまいます。

国内でも、2025年8月に日本航空がサイト掲載のAI画像をめぐって対応に追われるなど、同種の指摘が続いていると報じられています。海外でもコカ・コーラやトイザらスのAI広告が議論を呼びました。

現場で使える再発防止の5ステップ

ここからは実務の話です。地方の食品メーカーで、SNS担当が1人しかいない現場を想像してみてください。

お盆前に3週間分の投稿を作り置きし、撮影スタジオを借りる予算はない。手元のスマホ写真は背景が生活感だらけ――だからAIで整える。今回と同じ状況は、どの会社にも起こり得ます。

1. 商品が写る画像はAI加工の対象外にする

最も確実な線引きです。パッケージ、ロゴ、価格表示が入る画像は、AIで触らない。ルールを「使わない領域」で決めておくと、担当者が毎回悩まずに済みます。

2. 背景だけを差し替える「ハイブリッド」にする

商品部分は元の写真を切り抜いて残し、背景だけAIに作らせます。都内の中小飲食店がメニュー写真を整える場合も、この手順なら料理の質感と店名ロゴは守れます。

3. 200%に拡大して文字を1つずつ読む

投稿前チェックで最も効くのがこれです。スマホのタイムラインでは小さくても、誰かが必ず拡大します。画面上で200%以上に拡大し、読める文字をすべて声に出して確認するだけで、今回の事故は防げました。

4. 別のAIに「おかしい点」を探させる

人手が足りない現場では、チェック自体をAIに任せる手もあります。加工後の画像を別のAIに読ませ、「文字やラベルに不自然な箇所はないか」と質問する方法です。

ただし完全ではありません。最終確認は人が行うのが前提です。

5. 加工画像には注記を添える

不動産の物件写真でAIによる家具配置(バーチャルステージング)を使う場合、「画像はイメージです」「家具は含まれません」と明記するのが定着しつつあります。食品や物販でも同じ姿勢が求められます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 味の素は商品写真をAIで作ったのですか?

いいえ。同社の説明では、実際に撮影した写真をAIで明るさと背景だけ調整したとしています。その加工の過程で、文字やラベルが崩れました。

Q2. なぜアルファベットより日本語のほうが崩れやすいのですか?

学習データの量と、文字の複雑さが理由です。漢字は細かい部品の組み合わせで、線1本のズレが別の記号に見えてしまいます。

Q3. 文字が崩れない画像加工ツールはありますか?

絶対に崩れないツールは、現時点ではありません。ただし加工範囲を限定できるPhotoshopの生成塗りつぶしは、文字の保持力が高いと報告されています。

Q4. AIで加工したと表示する義務はありますか?

2026年時点の日本では、AI生成表示を一般的に義務づける法律はありません。ただし実物と異なる印象を与える画像は、景品表示法の優良誤認に問われる可能性があります。

Q5. 個人がSNSで使う場合も気をつけるべきですか?

商品や店舗を紹介する投稿なら注意が必要です。特にアフィリエイトなど広告性のある投稿では、実物と異なる画像はトラブルの原因になります。

まとめ

  • 味の素パークが8月14日に投稿したAI加工画像で文字が崩れ、16日に謝罪した
  • 投稿の表示回数は約1300万回に達し、お盆中の日曜に異例の速さで対応した
  • 原因はAI生成ではなく、実写真へのAI修正。画像を描き直す工程で細部が失われた
  • 日本語は文字数と字形の複雑さから、特に崩れやすい
  • ツールにより保持力は異なり、範囲を限定できる編集機能のほうが安全
  • 景品表示法はAI製かどうかを問わないため、企業には確認体制が不可欠

まずは自社のSNS運用ルールを開き、「商品パッケージが写る画像はAI加工の対象外」の一文を今日中に追記してみてください。

参考文献