3GBで動く視覚AI|スマホが画面を読む

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Liquid AIが2026年8月12日、31億パラメータの視覚AI「LFM2.5-VL-3B」を公開した
  • メモリ約3GBで動き、MacBook(M5 Max)で毎秒228トークン、スマホでも毎秒20トークン出る
  • 28種類のベンチマーク平均69.4点で、1.5倍の大きさのモデルとほぼ互角
  • 画面の読み取り(ScreenSpot-v2で80.7点)は4.7BクラスのQwenを上回った
  • 年商1000万ドル未満なら商用も無料。日本語特化モデルもすでに公開されている

スマホで写真を撮って「これ何?」とAIに聞くとき、その画像はどこへ行っていると思いますか。ほとんどの場合、海の向こうのデータセンターです。ところが今、あなたの手のひらの中だけで完結する「目を持つAI」が現実になりました。しかも必要なメモリはたった3GB。何がどう変わるのか、順番に見ていきます。

LFM2.5-VL-3Bとは何か

Liquid AIが2026年8月12日に公開した、31億パラメータの視覚言語モデル(VLM)です。

視覚言語モデルというのは、画像と文章の両方を理解できるAIのこと。写真を見せて「この請求書の合計金額は?」と聞けば答えてくれます。

これまでこの手のAIは、大きくて重いのが常識でした。データセンターの高価なGPUがないと動かない。だから写真をクラウドに送るしかなかったわけです。

LFM2.5-VL-3Bはそこを崩しにきました。必要なメモリは約3GB。最近のスマホやノートパソコンなら、そのまま載ります。

開発元のLiquid AIはどんな会社か

2023年に設立されたMIT(マサチューセッツ工科大学)発のスタートアップです。

創業者は同大コンピュータ科学・人工知能研究所のダニエラ・ルス氏、ラミン・ハサニ氏、アレクサンダー・アミニ氏の3人。「リキッド・ニューラルネットワーク」という、主流のTransformerとは違う設計思想が売りです。

半導体大手のAMDが主導した2億5000万ドル(約375億円)の資金調達を実施済みで、評価額は約20億ドル(約3000億円)とされています。累計調達額は2億9700万ドル(約445億円)。

つまり、思いつきの実験ではありません。「小さくて速いAI」に本気で賭けている会社です。

どれくらい速いのか

数字で見ると、この速さは想像以上です。

  • Apple M5 Max搭載Mac: 毎秒228トークン
  • Galaxy S26 Ultra(スマホ): 毎秒20トークン
  • GPUで大量同時処理: 毎秒約11,000トークン

トークンというのは、AIが文章を扱うときの最小単位です。日本語だとおおよそ1〜2文字分と思ってください。

毎秒228トークンなら、人が読むスピードよりずっと速い。答えが返ってくるのを待つ感覚がほぼありません。

スマホの毎秒20トークンも、実用上は十分です。文字がスラスラ流れてくるくらいの速度が、通信ゼロで出るのですから。

「速い」より重要な、通信しないという価値

ここが本題かもしれません。端末の中で処理が終わるということは、画像が一度も外に出ないということです。

病院のカルテ、工場の設計図、社員証、契約書。クラウドに送りたくない画像は、世の中にいくらでもあります。

電波が届かない場所でも動きます。地下の点検作業、山間部の農地、飛行機の中。ネットワークが前提だったAIの制約が、そのまま外れるわけです。

何ができるのか 4つの得意分野

今回のバージョンで大きく伸びたのは、次の4つです。

1. 画面を読む(スクリーン理解)

スマホ・ウェブ・デスクトップの画面を見て、どこに何のボタンがあるかを理解します。

ScreenSpot-v2というテストで80.7点を記録しました。前のバージョンは1桁台だったので、別物レベルの進化です。

これはAIエージェント(人の代わりに操作するAI)の土台になります。「この設定画面から通知をオフにして」と頼めば、AIが自分でボタンを探せるということです。

2. 物の位置を指し示す(グラウンディング)

「赤いバッグはどこ?」と聞くと、画像の中の座標で答えます。

RefCOCOという定番テストの平均で87.9点。前バージョンから約30点も跳ね上がりました。

3. 文字と図表を読む

書類の読み取りテストDocVQAで91.1点、写真内の文字を読むTextVQAで84.3点。

領収書、名刺、伝票、グラフ。紙とAIをつなぐ作業のほとんどが、この精度でカバーできます。

4. 道具を呼び出す(関数呼び出し)

画像を見て「これは経費精算が必要だ」と判断し、社内システムのAPIを自分で叩く。そういう動きです。

ToolSandboxというテストで59.5点。前バージョンの26.4点から2倍以上に伸びました。

身近な現場ではこう効いてくる

ある地方の建設会社の現場監督を思い浮かべてください。1日に何十枚も現場写真を撮り、事務所に戻ってから写真を分類し、報告書に貼り付ける作業に毎晩1時間かけています。端末内のAIが撮影直後に「配筋工事・3階east側」と判定してくれれば、この1時間はゼロに近づきます。電波の弱い現場でも動くことが決定的です。

小さな会計事務所の担当者はどうでしょう。顧問先から送られてくる領収書の写真は、ピントが甘く、傾いていて、しわだらけ。それでもDocVQA91.1点の読み取り力があれば、金額と日付と店名を拾って仕訳の下書きまで進みます。顧客の財務データをクラウドに上げずに済むのは、士業にとって小さくない安心です。

製造ラインの検査担当も分かりやすい例です。部品の外観写真を1枚ずつ目視でチェックしていた工程に、3GBのモデルを載せた端末を置く。「傷がある部品を指し示して」と指定すれば座標で返ってきます。ラインを止めずに、工場の外に画像を出さずに検査ができるのは、これまで難しかった組み合わせでした。

ライバルと比べてどうなのか

気になるのは「小さいぶん、性能を犠牲にしていないか」という点でしょう。

28種類の視覚ベンチマークの平均は69.4点。比較対象はこうなります。

  • LFM2.5-VL-3B(31億パラメータ): 69.4点
  • InternVL-3.5-4B(47億パラメータ): 69.4点
  • Qwen3.5-4B(47億パラメータ): 70.1点

1.5倍の大きさのモデルと、ほぼ横並びです。Qwenには0.7点差で届きませんが、パラメータ数は3分の2しかありません。

そして画面理解では逆転します。ScreenSpot-v2でLFM2.5-VL-3Bが80.7点、Qwen3.5-4Bは78.5点。得意分野を絞って勝ちにいく設計だとわかります。

Qwen3-VLやGemmaとの使い分け

ローカルで動く視覚AIの選択肢は、いま3つの系統に整理できます。

AlibabaのQwen3-VLは、文字読み取りが最強クラス。8B版はDocVQAで96.1点を出します。ただしVRAM(GPUのメモリ)が6GB以上ほしいところです。

GoogleのGemma系は、最初に動かすまでが一番ラク。情報量が多く、つまずきにくいのが利点です。

そこにLFM2.5-VL-3Bが、3GBという最小クラスの消費量でスマホ実機に載るという別軸で入ってきました。「GPUに載せる」ではなく「スマホに載せる」を狙うなら、現時点で有力な一手です。

中身の設計とライセンス

技術的な構成も押さえておきます。

  • 言語部分: LFM2.5-2.6B
  • 画像を見る部分: SigLIP2 NaFlex(4億パラメータ)
  • 画像の扱い方: 512×512の区画に分割+全体の縮小版を併用
  • 一度に扱える長さ: 32,768トークン
  • 対応言語: 16言語

あえて「じっくり考える型(推論モデル)」にはしていません。即答して待たせないことを優先した設計です。端末で動かす以上、これは理にかなっています。

商用利用は無料になる条件がある

ライセンスは「LFM Open License v1.0」。Apache 2.0をベースにしつつ、商用に条件が付いています。

年間売上1000万ドル(約15億円)未満の企業は無料で商用利用できます。これを超える企業は個別交渉が必要です。研究・教育・非営利には売上の上限がありません。

スタートアップや中小企業なら、実質フリーで使えると考えていいでしょう。

形式もそろっています。Hugging Faceで公開され、llama.cpp、MLX、vLLM、SGLang、ONNXに初日から対応。GGUF形式もあるので、手元のPCで試すハードルは低めです。

日本市場への影響

この話、日本にとってはかなり近いところにあります。

Liquid AIは日本法人(Liquid AI株式会社)を構えており、日本語特化モデルもすでに公開済みだからです。

言語モデル「LFM2.5-1.2B-JP-202606」は、同サイズ帯で最上位クラスの領域平均53.11を記録。音声モデル「LFM2.5-Audio-1.5B-JP」は15億パラメータながら、文字誤り率(CER)4.42でWhisper-large-v3を上回りました。

展開先として名前が挙がっているのは、自動車、製造、ロボティクス、金融、公共分野、スマートデバイス。日本の産業構造とかなり重なります。

さらにAMD、Qualcomm、Nexa AIと組み、NPU(AI処理専用チップ)向けの展開も進行中です。自動車メーカーやスマホメーカーとのOEM提携が増える見込みとされています。

車載ナビが通信なしで標識を読む、工場のロボットが手元で図面を照合する。「クラウドに送れない」が理由でAI導入が止まっていた日本の現場に、直接効いてくる技術です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 自分のパソコンでも動きますか?

メモリに3GBほどの空きがあれば動く可能性が高いです。llama.cpp用のGGUF形式やMac向けのMLX形式が公開されているので、比較的手軽に試せます。ただし速度は端末の性能次第で、M5 Maxのような高性能チップと同じ体感にはなりません。

Q2. ChatGPTの画像認識と比べて性能は落ちますか?

総合力では、クラウドの大型モデルにはまだ及びません。31億パラメータですから当然です。ただし書類の読み取りや画面のボタン検出といった絞られた用途では実用水準にあります。用途を決めて使うのがコツです。

Q3. 日本語の画像も読めますか?

16言語対応と発表されており、日本語も扱えます。ただし日本語のOCR(画像内の文字読み取り)精度についての公式な数値は示されていません。日本語書類での実用性は、自分の使うデータで試すのが確実です。同社は日本語特化の言語モデルを別途出しているため、今後の日本語強化も期待できます。

Q4. 会社の業務で使ってもライセンス違反になりませんか?

年間売上が1000万ドル(約15億円)未満であれば、商用利用も無料の範囲です。それを超える規模の企業は、Liquid AIとの個別ライセンス交渉が必要になります。導入前に自社の売上規模を確認してください。

Q5. 「推論モデルではない」のはデメリットですか?

用途によります。複雑な数学や多段階の論理には向きませんが、画面を見て操作する・書類を読むといった作業では、考え込まずに即答するほうが快適です。端末で動かす前提なら、むしろ正しい割り切りといえます。

まとめ

  • Liquid AIが2026年8月12日、31億パラメータの視覚AI「LFM2.5-VL-3B」を公開した
  • メモリ約3GBで動作し、M5 Max搭載Macで毎秒228トークン、Galaxy S26 Ultraで毎秒20トークン
  • 28ベンチマーク平均69.4点で、47億パラメータのInternVL-3.5-4Bと同点
  • 画面理解(ScreenSpot-v2)は80.7点で、より大きなQwen3.5-4Bの78.5点を上回った
  • 年商1000万ドル未満なら商用も無料。GGUF・ONNX・MLXなど主要形式に初日対応
  • 日本法人が日本語モデルも公開済みで、自動車・製造・ロボティクス分野への展開が進む

まずはHugging Faceで公開されているGGUF版を手元のPCに落として、自社の書類や画面を1枚読ませてみてください。実用になるかどうかは、その1枚で見当がつきます。

参考文献