- AIとの会話を「ノードと線」の地図に変える無料ツール「ThoughtDAG」が公開された
- 線をつなぎ替えるだけで、AIが読む文脈(コンテキスト)そのものを編集できる
- パイロット実験では、間違った情報のかたまりを切り離すと162件中162件が修復された
- MITライセンスの完全無料。Windows・macOS・Linuxに対応し、ローカルAIでも動く
- LangGraph StudioやDifyとは目的が違い、「考えるための道具」に振り切っている
AIとの会話が長くなるほど、答えがどんどんズレていく。そんな経験はありませんか。原因は、AIが「どこまでを覚えているか」が私たちに見えないことにあります。この記事では、その見えない部分を線と箱で可視化し、自分の手で編集できるようにした新ツール「ThoughtDAG」を紹介します。
ThoughtDAGとは?「線がコンテキスト」という発想
ThoughtDAG(ソートダグ)は、AIとの会話を無限に広がるキャンバス上の「地図」に変えるツールです。2026年8月30日にテックメディアのGIGAZINEが報じ、話題になりました。
開発したのはXia Chen氏(GitHubアカウント名 chenxiachan)。海外のエンジニア向け掲示板Hacker Newsで公開され、GitHubのスター数は305を数えます。
いちばんの特徴は、開発者本人が掲げる「ワイヤー(線)がコンテキストである」という原則です。
コンテキストとは、AIが答えを作るときに読み込む材料のこと。過去のやり取りや添付した資料などがこれにあたります。
質問と回答が「箱」になる
ThoughtDAGでは、1回の質問と1回の回答が、それぞれキャンバス上の「ノード(箱)」になります。
ノード同士を線でつなぐと、つながっている先の内容だけがAIに送られます。線でつながっていない情報は一切届きません。
つまり、線を1本切るだけで、AIの記憶からその話題を消せるということです。同じ質問をもう一度投げれば、今度は切り離した枝を知らないAIとして答え直してくれます。
なぜ普通のチャットでは文脈が壊れるのか
ふだん使っているチャット画面を思い出してみてください。上から下へ、会話が一本の巻物のように積み上がっていきます。
ただし深刻な弱点があります。途中で試した失敗作や脱線した雑談も、すべて同じ文脈に混ざり続けるのです。
開発者のChen氏も、この点に不満を持っていたと語っています。ある枝には有用な調査結果があり、別の枝には捨てたはずの仮説があり、3つ目の枝は無関係な寄り道。それなのに、どれがAIに届いているのか確認する手段がありませんでした。
「コンテキストロット」という業界の悩み
実は近年、AI業界ではコンテキストロット(文脈の腐敗)という言葉が注目されています。渡す情報を増やしすぎると、かえってAIが賢くなくなる現象のことです。
AIは入力された文章の最初と最後には強く注意を向けます。ところが真ん中あたりの情報は取りこぼしやすく、置き場所によっては精度が20ポイント以上落ちるとも言われています。
だからこそ今、専門家の間では「たくさん入れる技術」ではなく「入れないものを決める技術」が重要だと語られています。ThoughtDAGは、その引き算をマウス操作でできるようにした道具だと言えます。
162件中162件を修復した実験結果
「線を切ると本当に直るの?」という疑問には、開発者が小規模な検証実験(パイロットスタディ)で答えています。
実験では9種類のAIモデル接続先を使い、わざと誤った情報を推論の途中に混ぜ込みました。そのうえで、汚染された答えがどこまで元に戻るかを調べたのです。
結果は明快でした。誤情報の出どころのノードだけを消した場合、修復できたのは162件中152件。10件は汚染が残りました。
一方、影響を受けた枝(サブグラフ)ごとまるごと切り離した場合は、162件すべてが修復されました。誤情報をもとに書かれた要約にも毒がまわるため、枝ごと落とす必要があるわけです。
主な機能:PDFクリップから陳腐化バッジまで
ThoughtDAGには60を超える機能が搭載されています。ここでは特に実用的なものを挙げます。
資料を読みながら、その場で枝を伸ばす
マテリアルリーダーという機能では、PDFを開いて気になる箇所を選択できます。
選んだ文章はそのまま新しいノードになり、「(p.12)」のように出典ページが自動で記録されます。根拠をあとからたどれる仕組みです。
古くなったノードを黄色で知らせる
上流のノードを書き換えると、下流の答えは中身が食い違います。ThoughtDAGは各ノードにアンバー(黄色)のバッジを付けてこれを知らせます。まとめて再生成すれば、依存関係の順番どおりに作り直してくれます。
共有・保存・操作性
- 読み取り専用の共有リンク:アカウント登録なしで、思考の地図をそのまま他人に見せられます
- 自動バックアップ:一度フォルダを指定すれば、変更のたびに
.thoughtdag.jsonへ書き出されます - キーボード操作:スペースで折りたたみ、Rで再生成、矢印キーで枝を移動、Escで一段戻る
- ノード単位のモデル切り替え:この質問は高性能モデル、こっちは軽いモデル、という使い分けができます
導入方法と対応環境
データはブラウザ内のIndexedDBに保存され、専用サーバーへの登録は不要です。現在のバージョンは0.3.32で、ライセンスはMIT(自由に使える代表的なオープンソース条件)。料金は無料です。
macOSはHomebrewから brew install --cask thoughtdag で導入でき、.dmgファイルも配布されています。Windowsはx64インストーラー、LinuxはAppImageが用意されています。
接続先は、Ollama(自分のパソコンでAIを動かす仕組み)と、OpenAI互換のエンドポイント全般。設定ファイルにキーを書けば9系統のプロバイダを登録できます。
他のノード型ツールと何が違う?
「ノードと線でAIを扱う」と聞くと、すでにあるツールを思い浮かべる人も多いはずです。ただ、狙っている場所がかなり違います。
LangGraph Studioとの違い
LangGraphは、AIエージェントを状態機械として設計する開発者向けフレームワークです。2026年時点の最新版は1.1.10で、承認フローや条件分岐を含む複雑な自動処理に強みがあります。
付属のStudioで見えるのは「プログラムの設計図」です。対してThoughtDAGが描くのは、人間が今まさに考えている内容そのもの。コードは書きません。
ComfyUI・Difyとの違い
ComfyUIはもともと画像生成用のノードエディタで、LLM Partyなどの拡張によってGPT系やDeepSeek、Ollamaとつなげられます。Difyのようなツールも、業務フローを組み立てる用途が中心です。
これらは同じ処理を繰り返す装置を作る道具です。ThoughtDAGは繰り返しません。1回きりの調べもの、1回きりの意思決定のために、そのつど枝を伸ばして切って整える道具です。
普通のチャットとの違い
ChatGPTやClaudeにも会話を枝分かれさせる機能はあります。しかし、分かれた枝は別画面に隠れてしまい、複数の枝を並べて比べたり、AとBの結論だけを合体させたりはできません。
ThoughtDAGでは捨てた枝もキャンバス上に残ったまま見えているのに、AIには届かない。この「見えるけど渡さない」状態を作れる点が独特です。
日本のユーザー・企業にとっての意味
日本で使う場合、いくつか押さえておきたい点があります。
インターフェースは英語ですが、日本語で質問すれば日本語で返ってきます。表示言語は接続するAIモデルに依存しません。
そして最大の利点は、ローカルAI(Ollama)だけで完結できることです。社外にデータを出せない企業にとって、これは大きな意味を持ちます。
実際に効きそうな3つの場面
ある大学院生が、修士論文のために20本の英語論文を読むところを想像してみてください。1本ずつPDFから重要な段落を切り出してノードにし、そこから質問を伸ばす。あとで「この記述はp.7が根拠だった」とすぐ確認できます。
次に、地方の中小企業で就業規則の改定を任された総務担当者。労働時間の論点、育児休業の論点、賃金の論点をそれぞれ別の枝で検討します。賃金の枝で出た極端な案を線から外せば、最終まとめにその案は混ざりません。
3つ目は、深夜にバグを追いかけているエンジニアです。「原因はキャッシュだ」という仮説が間違いだったと分かったとき、その仮説から派生した推論を枝ごと切り落とせます。誤った前提のまま話が進むことを防げるわけです。
国内サービスとの位置づけ
日本でも、GoogleのNotebookLMを資料整理に使う人は増えました。ただしNotebookLMは、渡した資料の中からAIが自動で必要箇所を拾う方式です。
選ぶ主導権をAIに預けるのがNotebookLM、人間が手で選ぶのがThoughtDAG。この違いは好みが分かれるところでしょう。
開発者自身も、人々が本当に手動でコンテキストを制御したいのか、それとも検索やエージェントに任せたいのかを検証中だと述べています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 本当に無料ですか?
はい。ソフト自体はMITライセンスのオープンソースで、費用はかかりません。ただしOpenAIなど外部のAIを使う場合は、そのAPI利用料が別途発生します。Ollamaでローカルモデルを動かせば、その費用もゼロにできます。
Q2. プログラミングの知識は必要ですか?
基本的な利用には不要です。macOSならHomebrew、Windowsならインストーラーで導入できます。ソースコードから動かす場合は npm install などのコマンド操作が必要になります。
Q3. 会話の内容はどこに保存されますか?
ブラウザ版ではIndexedDBという端末内の保存領域に置かれ、運営側のサーバーには送られません。デスクトップ版では、指定したフォルダに自動でバックアップが作られます。
Q4. まず試すにはどうすればいいですか?
公式サイトにブラウザで動くデモが用意されています。機能は一部に限られますが、APIキーなしで触れるので、線を切ると答えが変わる感覚をつかむのに向いています。
Q5. 仕事で本格的に使って大丈夫ですか?
バージョンはまだ0.3.32で、活発に開発が続いている段階です。重要な業務に使う場合は、バックアップを取りながら小さく試すのが安全だと言えます。
まとめ
- ThoughtDAGは、AIとの会話をノードと線の地図に変える無料のオープンソースツール
- 線でつながった情報だけがAIに届くため、文脈を目で見て手で編集できる
- 9種類のモデル接続先を使った実験では、汚染された枝を切ることで162件中162件が修復された
- PDFの出典記録、陳腐化バッジ、読み取り専用共有など60超の機能を搭載
- LangGraphやDifyが自動化の道具なのに対し、ThoughtDAGは考えるための道具
- Ollamaと組み合わせれば、データを外に出さずに使える
長い会話でAIの答えが崩れて困っているなら、まずは公式サイトのブラウザデモで線を1本切ってみるところから始めてみてください。


