OpenAIがロシア発のAI悪用を阻止|偽シンクタンクで世論操作

OpenAIがロシア発のAI悪用による影響工作を発見・遮断。ChatGPTを使った偽のシンクタンクで世論操作を試みた手口と、日本でも起こりえるリスクを解説

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

taolis.net X note Voicy YouTube

この記事でわかること

  • OpenAIが2026年8月にロシア発の影響工作を発見・遮断したこと
  • ChatGPTがVPN経由で悪用され、偽情報拡散に使われた手口
  • 架空のシンクタンクで信頼性を偽装する新しい工作方法
  • 小規模ながら今後拡大する可能性がある理由
  • 日本でも同様の手口が使われるリスク

OpenAIが発見したロシア発の影響工作とは

2026年8月25日、OpenAI(ChatGPTを開発するアメリカの企業)が、ロシアからの組織的な偽情報キャンペーンを発見し、関連するChatGPTアカウントを停止したと発表しました。

この影響工作では、ChatGPT(人間のように文章を書けるAI)が悪用され、ロシアを好意的に見せる偽の記事やSNS投稿が大量に作成されていました。

つまり、AIを使って「ロシアは素晴らしい国だ」「西側諸国は衰退している」といった偏った意見を、本物の専門家が書いたかのように見せかけていたのです。

OpenAIは、VPN(仮想プライベートネットワーク:アクセス元を偽装する技術)を使ってロシアからの接続制限を回避した複数のアカウントを特定し、削除しました。

ChatGPTを使った巧妙な手口

この影響工作で特に注目すべきは、その巧妙な手口です。工作員たちは以下のような方法でChatGPTを悪用していました。

まず、OpenAIはロシアからのChatGPTへのアクセスを制限しています。しかし工作員は、VPNを使ってアクセス元の国を偽装し、この制限を回避しました。

次に、ロシア語でChatGPTに文章を書かせた後、「ロシア語の特徴を消して、自然な英語にして」と指示を出しました。こうすることで、ロシア発の文章だとバレにくくなります。

作成された文章は、Substack(ブログプラットフォーム)、Telegram(メッセージアプリ)、X(旧Twitter)、Facebook、LinkedInなど、複数のSNSに投稿されました。

多くのプラットフォームに同時に投稿することで、より多くの人の目に触れる機会を増やそうとしたのです。

偽のシンクタンクで信頼性を演出

この影響工作の中心にあったのは、「International Burke Institute(IBI、国際バーク研究所)」という架空のシンクタンク(政策研究機関)でした。

IBIのウェブサイトには、イスラエルに拠点があると書かれており、一見すると本物の研究機関のように見えました。

さらに驚くべきことに、このサイトには著名な学者であるフランシス・フクヤマ氏やノーム・チョムスキー氏の名前が、本人の許可なく掲載されていました。

OpenAIの調査によると、IBIが2025年9月から2026年5月の間に公開した36本の記事のうち、なんと34本が他のサイトからコピーした盗作でした。

つまり、本物の学者が書いた記事を勝手にコピーして、IBIの研究成果であるかのように見せかけていたのです。

さらにIBIは、「主権指数」という独自の指標を公開していました。この指数では、ロシアが高い評価を受けるように設計されており、ロシアを好意的に描く道具として使われていました。

規模は小さいが「地ならし」の可能性

今回の影響工作は、実際の影響力としては限定的でした。OpenAIによると、SNS投稿の閲覧数は少なく、Telegramのフォロワー数も1万〜2万人程度だったといいます。

しかし専門家たちは、この小規模な工作を「地ならし」だと警戒しています。つまり、今は影響が小さくても、将来的に大規模な偽情報キャンペーンに発展する可能性があるということです。

AIツールを使えば、偽の専門家集団を簡単に作り出し、一見すると信頼できる情報源のように見せかけることができます。

これまでの偽情報キャンペーンでは、大量のボットアカウント(自動投稿するアカウント)が使われることが多く、比較的見抜きやすいものでした。

しかし今回のように、本物の研究機関を装い、盗用した学術記事を掲載し、著名な学者の名前を無断使用する手口は、より巧妙で見破りにくいのです。

日本への影響は?今後の対策

今回の事件はロシア発のものでしたが、同様の手口は日本でも十分に起こりえます。

たとえば、架空の日本の研究所を装い、ChatGPTで生成した記事を日本語で大量に投稿することは、技術的には簡単にできてしまいます。

私たち一人ひとりができる対策としては、以下のようなものがあります。

  • 情報源が本物かどうか、複数のサイトで確認する
  • 著名な専門家の名前が出てきたら、その人が本当にその組織に関わっているか調べる
  • あまりにも一方的な意見や、感情的な表現が多い記事には注意する
  • 公式サイトや信頼できる報道機関の情報と照らし合わせる

OpenAIのような企業も、AI悪用を防ぐための技術開発を進めています。しかし技術だけでは完全に防ぐことはできません。

結局のところ、情報を受け取る私たち自身が、「この情報は本当に信頼できるのか?」と疑問を持つ習慣が、最も重要な防御策になります。

まとめ

  • OpenAIが2026年8月、ロシア発のChatGPT悪用による影響工作を発見・遮断
  • VPN経由でアクセス制限を回避し、偽情報を生成していた
  • 架空のシンクタンク「IBI」を作り、著名学者の名前を無断使用
  • 36本中34本が盗作記事、ロシアを好意的に描く「主権指数」も公開
  • 現時点では小規模だが、将来的な大規模工作の「地ならし」の可能性
  • 同様の手口は日本でも起こりえるため、情報の真偽を確認する習慣が重要

生成AIは便利な技術ですが、悪用されると私たちの判断を誤らせる強力な道具にもなります。今回の事件は、AI時代における情報リテラシーの重要性を改めて教えてくれました。