- Tencentが2026年8月28日、総パラメータ7700億の大規模AI「Hy4 preview」をApache 2.0で無償公開した
- 7700億のうち実際に動くのは490億だけ。だから巨大なのに動作は軽い
- プログラミング試験「SWE-bench Pro」で65.7点。GPT-5.6 Solの64.6点をわずかに上回った
- API料金は出力100万トークンあたり約388円。GPT-5.6 Solの約8分の1
- ただし自宅で動かすには214GB以上のVRAMが必要。個人には現実的ではない
「最新のAIを使いたいけれど、API料金が高すぎる」と感じたことはありませんか。そのモヤモヤに、中国のTencent(テンセント)が真正面から答えを出しました。7700億パラメータの巨大AIを、商用利用OKの条件でタダで配り始めたのです。しかも一部のテストでは、OpenAIの最新モデルを上回りました。
Tencentが公開した「Hy4 preview」とは何か
2026年8月28日、Tencentが新しいAIモデル「Hy4 preview」を発表しました。
Tencentは中国の巨大IT企業です。日本では対話アプリ「WeChat」やゲーム事業で知られています。そのTencentのAI研究チーム「Hunyuan(ハンユアン)」が開発したのが、このHy4 previewです。
最大の特徴は、モデルの中身(重み)がまるごと無料で公開されたことです。ライセンスはApache License 2.0。これは「商売に使ってもいい」「改造してもいい」「公開しなくてもいい」という、とても緩いルールです。
つまり日本の企業が、このAIを自社サーバーに入れて有料サービスを作っても、Tencentに1円も払う必要がありません。
公開先はHugging Face(AIモデルを配布する世界最大の置き場)です。誰でも今すぐダウンロードできます。
「preview」という名前の意味
名前の末尾にある「preview」は、まだ完成版ではないという意味です。
Tencentは正式版の前に、開発者コミュニティへ先に触らせて反応を集める道を選びました。バグや弱点を世界中の技術者に見つけてもらう、という戦略です。
7700億なのに490億しか動かない仕組み
Hy4 previewのスペック表には、不思議な数字が2つ並んでいます。
- 総パラメータ数: 7700億(770B)
- アクティブパラメータ数: 490億(49B)
パラメータとは、AIが学習でため込んだ「知識のつまみ」の数です。多いほど賢くなりますが、そのぶん計算も重くなります。
ではなぜ2つあるのでしょうか。答えはMoE(Mixture of Experts=専門家の寄せ集め)という設計にあります。
256人の専門家から8人だけを呼ぶ
Hy4 previewは78層のブロックでできています。最初の1層をのぞく77層に、それぞれ256人の「専門家」と1人の「なんでも屋」が待機しています。
質問が入ってくると、AIは内容を見て256人のうち8人だけを指名します。残りの248人は眠ったままです。
大学の総合病院を思い浮かべてください。院内には何百人もの医師がいますが、腹痛の患者を診るのは消化器の担当と、必要に応じて呼ばれる数人だけです。全員が診察室に押しかけたりはしません。
この仕組みのおかげで、知識量は7700億ぶんありながら、1回の計算コストは490億のモデル並みに抑えられます。「賢さは巨大モデル、速度は中型モデル」という、いいとこ取りの設計です。
100万トークンの記憶力
もう1つの目玉が、約105万トークン(1,048,576トークン)のコンテキスト長です。
コンテキスト長とは、AIが一度に読み込んで覚えていられる文章の量のことです。100万トークンは、日本語なら文庫本にして数冊ぶんに相当します。
実務ではこう効きます。数百ファイルからなるプログラムのソースコードを丸ごと投げ込んで、「この機能のバグを直して」と頼めるのです。ファイルを小分けにして渡す手間が消えます。
ベンチマーク結果を正直に読む
公開されたスコアを見てみます。派手な見出しになりやすい部分なので、事実だけを並べます。
- SWE-bench Pro: 65.7点(実際のソフトウェア開発課題を解かせる試験)
- SWE-bench Multilingual: 82.9点(複数のプログラミング言語での修正力)
- GPQA Diamond: 92.3点(博士レベルの科学問題)
- Deep SWE: 64.3点
注目されているのがSWE-bench Proです。GPT-5.6 Solの64.6点に対し、Hy4 previewは65.7点。オープンモデルが最前線の商用モデルを1.1ポイント上回りました。
ただし、ここは冷静に見る必要があります。すべての試験で勝っているわけではありません。難しい推論タスクでは、Claude Opus 5やGPT-5.6 Solが依然としてリードしているとの評価が一般的です。
163人の専門家による目隠し評価
数値テストとは別に、Tencentは人間による比較も実施しました。
163人の専門家に、どのAIの回答かを伏せた状態で203件の実務課題を採点させる方式です。結果は4点満点で以下のとおりでした。
- Hy4 preview: 2.99点
- Kimi K3: 2.94点
- GLM-5.3: 2.92点
差はごくわずかです。中国発のオープンモデル同士が、団子状態で競り合っている構図が見えます。
なお、この評価はTencent自身が実施したものです。開発元の社内テストである点は、差し引いて読むのが妥当でしょう。
自社の設備を31.8%速くした
実は、いちばん説得力があるのは社内での使用実績かもしれません。
Tencentは、Hy4 preview自身に学習・推論システムの改善を手伝わせたところ、全体の処理速度が31.8%向上したと報告しています。AIが自分を動かす土台を最適化した、という話です。
競合モデルとの料金・性能比較
Hy4 previewはAPI経由でも使えます。Tencent CloudのTokenHubと、各社モデルをまとめて扱えるOpenRouterから接続できます。
気になる料金を、主要モデルと並べてみます(1ドル155円換算)。
- Hy4 preview: 入力$0.834(約129円)/出力$2.501(約388円)
- GPT-5.6 Sol: 入力$4(約620円)/出力$20(約3,100円)
- Claude Opus 5: 入力$5(約775円)/出力$25(約3,875円)
※すべて100万トークンあたりの価格です。
出力トークンで比べると、Hy4 previewはGPT-5.6 Solの約8分の1。Claude Opus 5とは約10倍の開きがあります。
ちなみにGPT-5.6 Solの$4/$20という価格は、2026年8月に2割以上値下げされた後の数字です。それでも1桁違います。
同じ中国勢のライバルたち
オープンモデルの世界は、いま中国勢が主戦場になっています。
直近ではGLM-5.3(総7440億パラメータ)が無償公開され、Claude Opus 5と僅差のスコアを出して話題になりました。Kimi K3も同じ層で戦っています。
Hy4 previewの立ち位置は「その激戦区に、Tencentという最大手が本気で乗り込んできた」というものです。
選ぶ基準はシンプルです。長い文章やコードをまとめて扱いたいならHy4 previewの100万トークンが効きます。より小さい設備で動かしたいなら、パラメータの少ない他のモデルが向きます。
自分のパソコンで動かせるのか
「無料なら自分で動かしたい」と考えた方に、現実的な数字をお伝えします。
そのままの形式で動かすには、約1.5TBのメモリが必要です。個人のパソコンでは絶対に足りません。
そこで登場するのが量子化(データを粗くしてサイズを縮める技術)です。公開されている圧縮版のサイズは次のとおりです。
- Q4_K_M版: 435GiB
- STQ1_0版: 214GiB
いちばん軽いSTQ1_0版でも214GiB。最新の高性能GPU「NVIDIA H100」は1枚80GBなので、3枚以上を束ねる計算になります。
個人には手が届きません。ただし企業なら話は別です。GPUを数枚積んだサーバー1台で、自社の中だけでAIを完結させられる水準まで下りてきました。
推論にはvLLMまたはSGLang(どちらもAIを効率よく動かすソフト)が推奨されています。公式のDockerイメージも配布されているので、環境構築のハードルは以前より下がっています。
日本のユーザーと企業にとって何が変わるか
日本から見たとき、このニュースには3つの意味があります。
1. データを社外に出さずに済む
ある地方の医療機器メーカーが、設計書のレビューをAIにやらせたいと考えたとします。
これまでは海外のAPIに図面や仕様書を送る必要があり、情報管理の観点で社内稟議が通りませんでした。Apache 2.0のオープンモデルなら、社内サーバーに置いて完結できます。データが1バイトも外に出ないのです。
金融、医療、官公庁など、機密性の高い分野ほどこの価値は大きくなります。
2. AI活用のコストが1桁下がる
従業員50人の会社が、問い合わせ対応にAIを使う場面を考えてみてください。
月に3000万トークンを出力するとして、GPT-5.6 Solなら約9.3万円。Hy4 previewのAPIなら約1.2万円です。年間にすると約97万円の差になります。
「試したいけど予算が下りない」で止まっていた案件が、動き出す金額帯です。
3. 日本語性能は自分で確かめる必要がある
ここは注意点です。公開されているベンチマークは、英語と中国語、そしてプログラミングが中心です。
日本語の自然さや敬語の扱いについては、公式な評価データが乏しいのが実情です。日本語での接客チャットなどに使う場合は、必ず自社のデータで試してから判断してください。
Tencentは自社製品「WorkBuddy」「CodeBuddy」「元宝」などにもHy4 previewを載せていますが、これらは中国市場向けが中心です。日本のユーザーは、Hugging Faceからの導入かOpenRouter経由のAPIが現実的な入り口になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 本当に無料で商用利用できますか?
はい。ライセンスはApache License 2.0です。改造も再配布も、有料サービスへの組み込みも認められています。ただしライセンス表記を残す義務があるため、公開前に条文の確認をおすすめします。
Q2. GPT-5.6 SolやClaude Opus 5より優秀ということですか?
一部の試験では上回りましたが、全体では「同格に近づいた」という表現が正確です。SWE-bench Proでは65.7点対64.6点でHy4 previewが上でしたが、難しい推論タスクでは商用の最前線モデルが優勢と見られています。
Q3. 中国製のAIを使うのは安全ですか?
自社サーバーで動かす場合、通信は発生しないため外部への情報流出は原理的に起きません。一方、Tencent CloudのAPIを使う場合は、中国のクラウドにデータが渡ります。用途に応じて使い分けるのが安全です。
Q4. 個人がいちばん手軽に試す方法は?
OpenRouter経由でAPIを呼ぶ方法です。ダウンロードもGPUも不要で、従量課金だけで使えます。入力100万トークンあたり約129円なので、お試しなら数十円で感触をつかめます。
Q5. なぜTencentは無料で公開するのですか?
開発者に自社の技術基盤を使ってもらい、周辺のクラウドサービスやツールで収益化する狙いがあると見られています。世界中の技術者に検証してもらうことで、改良のスピードが上がる利点もあります。
まとめ
- Tencentが2026年8月28日、総7700億・アクティブ490億パラメータの「Hy4 preview」をApache 2.0で無償公開した
- MoE設計により、巨大な知識量と軽い計算コストを両立している
- コンテキスト長は約105万トークン。大規模なコードや長文をまとめて扱える
- SWE-bench Proで65.7点を記録し、GPT-5.6 Solの64.6点をわずかに上回った
- API料金は出力100万トークンで約388円。GPT-5.6 Solの約8分の1
- 自前運用には214GiB以上のVRAMが必要で、個人向けではなく企業向けの選択肢
- 日本語性能の公式データは乏しいため、自社データでの検証が必須
まずはOpenRouter経由で数十円ぶんだけ試してみて、自社の業務データで日本語の実力を測るところから始めてみてください。

