- Anthropicが、マルウェア感染の疑いがあるClaudeユーザーを強制ログアウトし、支払い方法を削除して不正利用分を返金しました
- 盗まれたのはパスワードではなく「セッションCookie」。ログイン済みの状態を奪う手口なので、2段階認証では防げません
- 使われたのはVidar、LummaC2、StealC、RedLine、Acreedなど。macOSでもAtomic Stealerが確認されています
- 「使っていないのに利用枠が減る」が、最もわかりやすい被害のサインです
- インフォスティーラーの被害は2026年前半だけで740万台以上、約17億件の認証情報に及びます
朝、Claudeを開いたら利用枠がほとんど残っていない。でも昨日はほとんど使っていない。もしそんな経験があるなら、それは不具合ではないかもしれません。2026年8月30日にAnthropicが一部ユーザーへ送った警告メールが、その正体を明かしました。
Anthropicが「強制ログアウト」に踏み切った理由
ことの発端は、Anthropicが一部のClaudeユーザーに送った1通のメールでした。海外メディアのBleepingComputerが2026年8月30日、国内ではGIGAZINEが8月31日にこの件を報じています。
メールに書かれていた内容
Anthropicはメールの中で、次のように説明しています。
「一般的なインフォスティーラー型マルウェアを使ってユーザーのコンピューターからClaudeのログインセッションを盗み、そのセッションでアカウントにアクセスして利用枠を消費している攻撃者を確認しました」
インフォスティーラーとは、感染したパソコンから情報を盗み出すことだけを目的にしたマルウェア(悪意のあるソフト)です。
パソコンを壊しも、画面を乗っ取りもしません。静かに忍び込んで、静かに持ち去ります。だから被害者は気づきにくいのです。
実際に取られた3つの対応
Anthropicは、影響を受けたとみられるアカウントに次の措置を取りました。
- 侵害されたセッションを無効化し、対象ユーザーを強制ログアウトさせた
- 保存されていた支払い方法(クレジットカード情報など)を削除した
- 不正利用と判断した請求を返金した
いきなりログアウトされ、カード情報まで消えていたら驚くはずです。
ですがこれは、攻撃者がそのアカウントで勝手にプランを買い増したり追加請求を発生させたりするのを止めるための措置でした。守るための強制切断だったわけです。
なお、Anthropicは「このマルウェアがClaudeに関係している、Claude経由で入った、あるいはあなたがClaudeで行った何かに起因すると考える理由はない」とも明言しています。
つまりAnthropicのサーバーが破られたのではなく、ユーザー個人のパソコンが先に感染していた形です。実際、Redditでこのメールを共有したユーザーは、海賊版ゲームのインストールが感染のきっかけだったと報告しています。
なぜ2段階認証があっても突破されるのか
「自分は2段階認証をかけているから大丈夫」と思った方こそ、ここを読んでください。今回の手口は、その安心を静かに無効化します。
盗まれたのは「ログイン済みの状態」そのもの
Webサービスにログインすると、ブラウザの中にセッションCookieという小さなデータが保存されます。「この人は本人確認が済んでいます」という通行証のようなものです。
次に開いたときにパスワードを聞かれないのは、この通行証があるからです。
インフォスティーラーが狙うのは、まさにこれ。パスワードを盗んでログインし直すのではなく、ログインが完了した状態を丸ごとコピーして持ち去ります。
ホテルで暗証番号を推測されたのではなく、発行済みのルームキーを財布から抜き取られたようなものです。フロントでの本人確認は、もう終わったあとの話になってしまいます。
だから2段階認証が働きません。認証はすでに通過済みだからです。
確認されたマルウェアと、その速さ
今回Anthropicが確認したとされるマルウェアは次のとおりです。
- Windows:Vidar(ヴィダー)、LummaC2(ルマC2)、StealC(スティールC)、RedLine(レッドライン)、Acreed(アクリード)
- macOS:Atomic Stealer / AMOS(アトミックスティーラー)※少数の端末で確認
Macだから安全という話ではなくなっている点にも注目してください。
さらに厄介なのが速さです。セキュリティ各社の解説によれば、感染からブラウザ保存のIDやパスワード、Cookieが攻撃者へ送信されるまで、およそ1分程度とされています。気づいて対策ソフトを走らせた頃には、情報はすでに手元を離れている計算です。
被害を見分ける方法と、いま取るべき対策
いちばんわかりやすいサイン
Anthropicは判断の目安をひとつ示しています。「利用枠が回復したように見えたのに、あなたが使っていない間に減っていたなら、これが原因の可能性が高い」
たとえば、朝にClaudeを開いたら、前夜リセットされたはずの上限がもう半分以上消えている。しかし前夜は寝ていた。こういうケースです。
「なぜか制限が早く来る」と感じていた人は、不具合ではなく他人が使っていた可能性を疑ってみてください。
いま取るべき5つの行動
- 1. 端末からマルウェアを取り除く:ここを飛ばすと意味がありません。感染したままではパスワードを変えてもまた盗まれます
- 2. パスワードを変更する:Claudeだけでなく、そのブラウザに保存していた他サービスも対象です
- 3. 他のセッションをすべて無効化する:残った通行証を全部無効にして攻撃者を締め出します
- 4. ブラウザへのパスワード保存をやめる:そこはインフォスティーラーが最初に開ける引き出しです。パスワード管理ツールへ移しましょう
- 5. パスキーなど端末に紐づく認証へ移行する:コピーして持ち出せない仕組みが、根本的な解決に近づきます
なお、Anthropicは現時点で一般ユーザー向けの2段階認証の設定項目を公式に案内していません。GoogleやAppleのアカウント経由でログインしているなら、そちらの2段階認証を固めるのが実質的な守りになります。Claudeへのパスキー対応は、GitHub上で要望として議論が続いている段階です。
半年で740万台|インフォスティーラーの現在地
今回の件は、Claudeだけの特殊な事故ではありません。背景には、インフォスティーラーそのものの急拡大があります。
2026年8月公開の調査レポートによると、2026年前半だけで740万台以上の端末が感染し、約17億件の認証情報が盗まれたと報告されています。感染ホスト数は前の期から約27%増えました。
そこで主要ファミリーとして挙がるのは、Vidar、StealC、Lumma。今回Anthropicが確認したものときれいに重なります。
盗まれる中身もパスワードだけではありません。ブラウザのCookie、認証トークン、保存済みのアカウント情報まで、まとめて持っていかれます。
ChatGPTでも起きていた|狙われるAIアカウント
AIサービスのアカウントが盗まれる話は、今回が初めてではありません。
セキュリティ企業のGroup-IBは、2022年6月から2023年5月にかけて10万件を超える侵害済みChatGPTアカウントがダークウェブに出回っていたと報告しました。地域別ではアジア太平洋が最多で、約40.5%を占めています。
IBMが2026年2月に公開したレポートでも、インフォスティーラーに盗まれたChatGPTの認証情報が約30万件確認されたとされています。Kasperskyの集計では、AI関連とゲーム関連を合わせた流出は3年間で3,600万件を超えました。
Claudeのケースが違うところ
| 観点 | ChatGPTの過去事例 | 今回のClaudeの件 |
| 盗まれたもの | ID・パスワード中心 | ログイン済みセッション |
| 攻撃者の目的 | アカウントを売る | 利用枠を自分で使う |
| 2段階認証 | ある程度は防げる | 回避されてしまう |
| 提供元の対応 | 注意喚起が中心 | 強制ログアウト・カード削除・返金 |
過去の事例は「アカウントが商品として転売される」構図でした。一方で今回は、攻撃者が盗んだアカウントで自らAIを動かし、計算資源を消費している点が特徴です。
AIの利用枠そのものに値段がつき、狙われる対象になった。事業者側も、注意喚起にとどまらずユーザーの同意を待たずに接続を切るところまで踏み込みました。
日本のユーザーへの影響
「海外の話でしょう」と思われるかもしれません。ですが日本は、インフォスティーラーの被害が現実に出ている国です。
2025年には、この種のマルウェアで証券会社のログイン情報が盗まれ、不正な取引がおこなわれる被害が国内で相次ぎました。本人が指示していない売買が勝手に実行され、ログを見るまで気づけない。今回のClaudeの件と構造がよく似ています。
警察庁が2026年3月に公表した資料では、日本を含む26か国の捜査機関が国際共同捜査に動き、日本国内だけで129台の指令サーバが停止されたことが示されています。その多くは、企業が自社で運用するサーバが管理者に気づかれないまま悪用されていたものでした。
身近に起きうる3つの場面
個人事業主のデザイナーが、素材を探していて非公式サイトからツールを落とす。その週からClaudeの制限が妙に早く来るようになりますが、「最近使いすぎたかな」で片づけてしまいます。
中小企業の社員が、業務用ノートに私物のソフトを入れる。同じブラウザにはClaudeも社内システムもログインしたままです。盗まれるのはClaudeだけではありません。
大学生が海賊版ゲームを入れる。今回Redditで報告された経路そのものです。奨学金の管理サイトも同じブラウザで開いていたなら、影響はAIの利用枠だけにとどまりません。
会話履歴という、もうひとつのリスク
見落とされがちですが、危険は利用枠だけではありません。多くのAIサービスは会話履歴を保存しています。
業務の相談、社内資料の下書き、顧客への提案文。そうしたやり取りを入れていたなら、アカウントを開かれた時点で読まれた可能性を考える必要があります。ChatGPTの流出事例でも、保存された会話が攻撃者にとって貴重な情報源になりうると指摘されていました。
よくある質問(FAQ)
Q1. メールが届いていなければ安全ですか?
今回Anthropicが検知できた範囲では対象外だった、ということです。「感染していない」証明にはなりません。利用枠の減り方に不自然さがないか、一度確認しておくと安心です。
Q2. 強制ログアウトされました。アカウントは消えたのですか?
いいえ。無効化されたのはログインセッションで、アカウント自体は残ります。マルウェアを駆除したうえでパスワードを変更し、再度ログインしてください。支払い方法は削除されているため、必要なら登録し直す形になります。
Q3. 不正に使われた分の料金は請求されますか?
Anthropicは、不正利用と判断した請求について返金したと説明しています。身に覚えのない請求が残っている場合は、そのままにせずサポートへ問い合わせるのが確実です。
Q4. パスワードを変えれば解決しますか?
不十分です。端末にマルウェアが残っていれば、新しいパスワードも同じように盗まれます。駆除が先、パスワード変更が後です。
Q5. 会社でClaudeを使っています。管理者は何をすべきですか?
業務端末での私的なソフト導入を制限すること。ブラウザへのパスワード保存を禁止し、パスワード管理ツールに統一すること。そして利用枠の消費が不自然に増えていないかを定期的に見ておくことです。
まとめ
- Anthropicは感染疑いのユーザーを強制ログアウトし、支払い方法を削除、不正利用分を返金しました
- 盗まれたのはセッションCookie。ログイン済みの状態を奪う手口なので、2段階認証では止められません
- 「使っていないのに利用枠が減る」が最大の判断材料です
- Anthropicのサーバーが破られたのではなく、入り口はユーザー個人の端末でした
- 対策の順番は「駆除 → パスワード変更 → 全セッション無効化 → ブラウザ保存をやめる → パスキーへ移行」です
まずは今日、ご自身のClaudeの利用枠が不自然に減っていないかを確認し、ブラウザに保存したままのパスワードをパスワード管理ツールへ移すところから始めてみてください。
参考文献
- Anthropicがマルウェア感染の疑いがあるユーザーを強制ログアウトさせ支払い方法を削除し返金処理を実施 – GIGAZINE(2026年8月31日)
- Anthropic warns infostealer malware is hijacking Claude sessions to drain usage – BleepingComputer(2026年8月30日)
- インフォスティーラーが740万台のホストを侵害:2026年前半で約17億件の認証情報が盗まれた(2026年8月17日)
- Group-IB Discovers 100K+ Compromised ChatGPT Accounts on Dark Web Marketplaces – Group-IB
- More than 36 million AI & gaming credentials compromised by infostealers in 3 years – Kaspersky

