ソニーら音楽大手がAnthropic提訴|1曲2250万円

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

taolis.net X note Voicy YouTube
  • ソニーとワーナーの音楽出版部門が2026年8月28日、AI企業Anthropicを米連邦地裁に提訴しました
  • 請求は1作品あたり最大15万ドル(約2250万円)で、対象は数万曲におよびます
  • 訴状はCEOのダリオ・アモデイ氏ら個人も被告に指名した異例の内容です
  • Anthropicは2026年7月、作家との訴訟で約2250億円の和解金を支払ったばかりでした
  • 日本でもJASRACが著作権法30条の4の改正を求め、議論が動いています

あなたが口ずさむあの曲の歌詞は、AIの学習データに入っているかもしれません。世界的な音楽大手2社が「史上最大級の知財窃取だ」と主張し、AI企業を裁判所に引きずり出しました。請求額は1曲あたり約2250万円。この記事では、何が起きたのか、そして日本の私たちに何が関係するのかを整理します。

ソニーとワーナーが仕掛けた訴訟の中身

誰が、誰を訴えたのか

2026年8月28日の深夜、アメリカのカリフォルニア州北部連邦地方裁判所に1通の訴状が提出されました。

原告はソニー・ミュージックパブリッシングワーナーチャペル・ミュージック、そして関連する多数の音楽出版社です。音楽出版社とは、作詞家や作曲家から権利をあずかって管理する会社のことです。

訴えられたのは、対話型AI「Claude(クロード)」を開発するAnthropic(アンソロピック)でした。

これで、世界3大音楽グループすべての出版部門がAnthropicと法廷で争う構図になりました。ユニバーサル系はすでに2023年から訴訟を起こしていたからです。

請求は1曲あたり最大15万ドル

訴状が求めているのは、故意の侵害1作品あたり最大15万ドル(約2250万円、1ドル150円換算)の法定損害賠償です。

対象となる楽曲は「数万曲」とされています。単純にかけ算すると、賠償額は数千億円規模に達する計算になります。

さらに原告は、著作権情報を消した行為1件につき2万5000ドル(約375万円)を別途請求しています。原告側は陪審員による裁判も要求しました。

訴状で名前が挙がった楽曲には、マーヴィン・ゲイの「Ain’t No Mountain High Enough」、ボン・ジョヴィの「Livin’ On a Prayer」、マライア・キャリーの「All I Want for Christmas is You」、サバイバーの「Eye of the Tiger」、テイラー・スウィフトの「Paper Rings」などが含まれます。誰もが一度は耳にしたことがある曲ばかりです。

「大胆不敵な知財窃取」と呼ばれた理由

500万冊を落としたとされる2021年の夏

訴状の言葉はかなり厳しいものでした。原告は今回の件を「史上最大かつ最も露骨な、知的財産の継続的な窃取のひとつ」と表現しています。

具体的な告発の中身はこうです。

訴状によると、共同創業者のベンジャミン・マン氏が2021年6月、海賊版書籍サイト「Library Genesis」から少なくとも500万冊の本をダウンロードしたとされています。

さらに2022年7月には、別の海賊版サイト「Pirate Library Mirror」から200万冊が追加で取得されたと主張されています。

これらの本のなかには、歌詞や楽譜を掲載したものが大量に含まれていました。原告は、そこから歌詞データが取り出されたと考えています。

加えて、正規の歌詞サイトであるMusixMatchLyricFindからのスクレイピング(ウェブサイトから自動で情報を抜き取る行為)も指摘されました。

「めちゃくちゃ怪しい」という社内メモ

訴状がとくに強調しているのは、Anthropic側が問題を認識していた可能性です。

原告は、マン氏がLibrary Genesisを社内で「sketchy AF(めちゃくちゃ怪しい)」と表現していたと主張しています。

また、書籍を裁断してスキャンする作業について「これをやっていることを知られたくない」という社内の指示があったとも記されています。

知っていて、隠しながら進めた。原告はそう組み立てているわけです。

著作権情報の削除という第2の罪状

今回の訴訟には、単なる「無断利用」とは別の論点があります。

それがCMI(著作権管理情報)の削除です。CMIとは、作品に付いている「誰が権利を持っているか」を示すデータのことです。曲名、作詞者名、出版社名などが該当します。

本の背表紙に貼られた持ち主のラベルを剥がしてから本棚に並べるようなもの、と考えるとイメージしやすいはずです。あとから誰の本か分からなくなります。

アメリカの法律では、このCMIをわざと消す行為が独立した違反として扱われます。だから原告は、侵害の賠償とは別枠で請求を立てているのです。

CEO個人が被告になった異例さ

今回の訴訟でもっとも目を引くのは、被告に会社だけでなく個人が並んでいる点です。

被告として名前が挙がったのは、Anthropicという法人、CEOのダリオ・アモデイ氏、そして共同創業者のベンジャミン・マン氏の3者でした。

AI企業への著作権訴訟は2023年以降いくつも起きていますが、経営トップを個人で訴えるケースは多くありません。

原告がこの形をとった理由は明快です。マン氏が「支払う手間を避けるために海賊版の本をダウンロードした」とされ、両氏がその行為に関与していたと主張しているからです。

会社の判断ミスではなく、経営陣の意思だった。原告はそう位置づけようとしています。

企業にとって、これはかなり重い展開です。個人責任が認められれば、AI開発の現場で「とりあえずデータを集める」という判断が一気にしにくくなります。

2250億円の前例がのしかかる

実は、Anthropicにとって著作権訴訟は初めてではありません。

2025年、作家のアンドレア・バーツ氏らがAnthropicを訴えた「Bartz対Anthropic」という裁判がありました。

2025年6月、担当のウィリアム・アルサップ判事が重要な判断を示します。

「合法的に入手した本でAIを学習させるのはフェアユース(公正な利用)にあたる」。ただし「海賊版で永久的な蔵書ライブラリを作る行為はフェアユースではない」という内容でした。

つまり、学習そのものより入手方法が問われたわけです。

この判断を受け、Anthropicは15億ドル(約2250億円)での和解に応じました。2026年7月に裁判所が最終承認しています。著作権関連の和解としては世界最大級です。

内訳は40万冊超に対して1冊あたり3000ドル(約45万円)。今回ソニーとワーナーが持ち出した論理は、この判決の延長線上にあります。

すでに「海賊版からの取得はアウト」という判断が出ている以上、原告にとって有利な地面がすでに整っているのです。

音楽業界とAI企業、対立と和解のマップ

音楽業界とAIの関係は、いま真っ二つに割れています。訴え続ける道と、手を組む道です。

Anthropicを取り囲む訴訟の列

Anthropicに対する音楽業界の訴訟は、今回が初めてではありません。

  • 2023年10月:ユニバーサル系、Concord、ABKCOが約500曲で提訴
  • 2026年1月:同じ出版社らが2万曲超・30億ドル(約4500億円)超で追加提訴
  • 2026年3月:BMGが493曲で提訴
  • 2026年8月17日:Round Hill Musicが提訴
  • 2026年8月28日:ソニーとワーナーが数万曲で提訴(今回)

わずか10か月で訴訟の規模が桁違いに膨らんでいることが分かります。

SunoやUdioは和解へ舵を切った

一方で、AI作曲サービスの側では別の動きが進みました。

AI音楽生成サービスのSuno(スノ)は、ワーナー・ミュージックと和解し、ライセンス契約を結びました。権利者にお金が回る仕組みを作ったうえで、正規のAIモデルを提供する方向です。

同じくAI作曲サービスのUdio(ユーディオ)は、ユニバーサルと2025年10月に和解し、ワーナーとも和解しています。

ただしUdioのサービスは大きく変わりました。ユーザーは楽曲を作れますが、外部にダウンロードして持ち出すことができません。契約の枠内でしか使えない「囲われた庭」になったのです。

Sunoについては、ユニバーサルとソニーとの交渉が難航しており、係争が続いています。

AnthropicとSuno、決定的な違い

ここで整理しておきたい違いがあります。

SunoやUdioは音楽そのものを生成するサービスです。だから権利者と分け前を話し合う余地がありました。

対してClaudeは汎用の対話AIで、音楽が本業ではありません。ライセンス料をどう計算するのかが見えにくく、和解の設計そのものが難しくなります。

この構造の差が、Anthropicへの訴訟が和解ではなく法廷闘争に向かいやすい理由になっています。

日本の音楽業界と私たちへの影響

日本の「30条の4」という特殊ルール

「これはアメリカの話でしょう」と思ったかもしれません。ところが、日本にはむしろAI開発に寛容すぎるとも言われる条文があります。

それが著作権法30条の4です。この条文では、情報解析を目的とする利用であれば、原則として著作権者の許可なく作品を使えるとされています。

AI学習に関しては、日本は世界でもかなり緩い部類に入ります。

JASRACは法改正を求めている

この状況に、日本の音楽業界も動き始めました。

JASRAC(日本音楽著作権協会)は、30条の4の改正を求める立場を明確にしています。営利目的のAI開発にまで自由利用を認めるなら、クリエイターの努力へのただ乗りを容認することになりフェアではない、という主張です。

JASRACは2025年9月に「AIに関する懇話会」を設置し、2025年12月には音楽団体協議会の一員として権利保護に関する意見を表明しました。

2026年1月から3月に実施されたクリエイター向けアンケートの結果も示唆的です。自作をAI学習に使われることについて、反対・どちらかといえば反対が54%、賛成・どちらかといえば賛成は20%にとどまりました。

作り手の半数以上が、少なくとも今のままでは納得していないということになります。

身近な場面で何が変わるのか

この話は、業界の外にいる人にも関係します。3つの場面を想像してみてください。

ひとつめ。作詞を仕事にしている人が、AIに自分の代表曲のタイトルを入力してみたところ、歌詞がほぼそのまま出力されたとします。自分は許可した覚えがありません。今回の訴訟は、まさにこの状態を問題にしています。

ふたつめ。インディーズバンドがAI作曲サービスでデモ曲を作り、配信サイトにアップしたケースです。学習データの適法性が争われれば、生成物の権利がグレーになり、配信停止のリスクが残ります。Udioがダウンロードを止めたのは、まさにこのリスクを避けるためでした。

みっつめ。企業のマーケティング担当者が、AIで広告用のBGMや歌詞を作った場合です。もし学習データに未許諾の楽曲が含まれていたら、その広告を使い続けてよいのかという判断を迫られます。法務部門が確認を求めるのは当然の流れでしょう。

つまり、この裁判の結論は「AIで作ったものを安心して使えるか」に直結します。

よくある質問(FAQ)

Q1. Anthropicは今回の訴えに何と反論していますか?

報道時点でAnthropicはコメントを出していません。過去の訴訟では、学習行為はフェアユースにあたると主張してきました。ただし海賊版からの取得については、すでに不利な司法判断が出ています。

Q2. Claudeを使っている日本のユーザーに影響はありますか?

現時点でサービスが止まる話は出ていません。ただし今後、歌詞の出力に強い制限がかかる可能性はあると考えられます。過去にも他社AIで、歌詞の全文表示が制限された例がありました。

Q3. 日本の作詞家や作曲家も賠償を受け取れますか?

今回の訴訟の原告は米国の音楽出版社です。ただしソニー・ミュージックパブリッシングは日本の楽曲も多く管理しているため、対象作品に日本発の楽曲が含まれる可能性は否定できません。詳細は訴状の対象リスト次第です。

Q4. AIに歌詞を学習させること自体が違法なのですか?

そうとは限りません。2025年6月の米国の判断では、合法的に入手した作品での学習はフェアユースにあたるとされました。争点になっているのは入手の方法と、著作権情報を消した行為です。

Q5. 日本の著作権法でも同じ結論になりますか?

日本には30条の4があり、情報解析目的の利用は原則として許諾不要です。そのため米国とは判断が分かれる可能性があります。ただし海賊版と知りながら入手する行為は、日本でも別の問題として扱われ得ます。

まとめ

  • ソニー・ミュージックパブリッシングとワーナーチャペルが2026年8月28日、Anthropicを米連邦地裁に提訴した
  • 請求は1作品あたり最大15万ドル(約2250万円)、対象は数万曲で総額は数千億円規模になり得る
  • 訴状はCEOのダリオ・アモデイ氏と共同創業者ベンジャミン・マン氏を個人で被告に指名した
  • 争点は「学習の是非」ではなく「海賊版からの入手」と「著作権情報の削除」にある
  • Anthropicは2026年7月に作家との訴訟で約2250億円を支払ったばかりで、前例が不利に働く
  • SunoやUdioは和解とライセンス契約に舵を切り、業界は「争う」と「組む」に二分している
  • 日本ではJASRACが著作権法30条の4の改正を求め、クリエイターの54%がAI学習利用に否定的

まずは自分が使っているAIサービスの利用規約を開いて、生成物の権利と学習データの扱いがどう書かれているかを確認してみてください。判断の材料は、そこから増えていきます。

参考文献