年商16億円を1人で|AI起業が3倍増

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • 従業員ゼロで年商1000万ドル(約16億円)を超える事業者が、2023年から2025年の2年で約3倍に増えた
  • 調査したのは決済大手Stripeの経済研究チーム。米国勢調査局のデータや各国の法人登記とも突き合わせている
  • Stripeの新規登録のうちAIの影響が見えるものは、1年前の約4倍に増加した
  • 一方でソロプレナーの55%は年収5万ドル(約820万円)未満。全員が儲かっているわけではない
  • 日本もフリーランスが1303万人・労働力人口の18.8%に達し、同じ変化が起き始めている

「社員を雇わないと、事業は大きくできない」。ずっとそう言われてきました。でも、その常識が数字の上で崩れ始めています。従業員ゼロのまま年商16億円に届く人が、2年で約3倍に増えたのです。

1人で年商16億円 Stripeが見つけた異変

2026年6月22日、決済サービス大手のStripe(ストライプ)の経済研究チームが「The age of the solopreneur(ソロプレナーの時代)」というレポートを公開しました。

ソロプレナーとは、従業員を雇わず1人で事業を回す人のことです。日本語だと「ひとり社長」「ひとり事業者」が近い言葉になります。

レポートの数字は、かなりインパクトがあります。

  • 年商100万ドル(約1.6億円)超のソロプレナー:2023年→2025年で2倍以上
  • 年商500万ドル(約8.2億円)超:ほぼ3倍
  • 年商1000万ドル(約16億円)超:ほぼ3倍

もっと足元の層を見ても、変化は同じ方向を向いています。

年収10万ドル(約1640万円)以上を稼ぐ1人事業者は、2010年代初頭には約200万人でした。それが2023年には約400万人と倍増しています。

大事なのは「人数が増えた」だけではない点です。稼げる層の割合そのものが2年で2倍になりました。母集団が薄まらずに、上に伸びているということです。

スピードも変わった

Stripeは、登録年ごとの事業者グループを追いかけて比較しています。

2025年に登録した事業者は、累計売上100万ドルに到達するまでの速さが2023年組より約30%速いという結果でした。

2019年組と比べると、その差はおよそ3倍です。同じゴールに、はるかに短い時間でたどり着いている計算になります。

なぜ「1人」で回せるようになったのか

Stripeのチーフエコノミスト、アーニー・テデスキ氏はこう語っています。「今ではAIを組み込みのビジネスパートナーにできます」。

この一言に、変化の中身が詰まっています。

「できない仕事」を埋めるために人を雇っていた

これまで起業でチームが必要だった理由は、意外とシンプルでした。

1人の人間が、市場調査もプログラミングも価格設計もマーケティングも営業もサポートも全部できる、なんてことはまずありません。

だから足りないスキルを埋めるために、共同創業者を探したり、最初の社員を雇ったりしてきました。

レポートの表現を借りると、AIは「これまで別の人間に頼っていた穴」を埋める存在になりました。ここが決定的な違いです。

数字にもAIの足跡が出ている

Stripeは、自社への新規登録にAIの影響がどれくらい混ざっているかも測りました。

MCP(AIが外部ツールを直接操作するための共通規格)経由の連携、CLI(黒い画面にコマンドを打って操作する仕組み)からの登録、ChatGPTからの流入などが対象です。

結果、AIの影響が見える登録の割合は1年前の約4倍になっていました。

さらに業種別に見ると、AI利用率が高い業種ほど、新しい1人事業の申請件数も大きく伸びるという関係が確認されています。ただし製造業は伸びが鈍く、運輸・倉庫は逆に想定より伸びるなど、例外もありました。

著者たち自身、測定できたAI活用は「上限ではなく下限」だと書いています。実際の影響はもっと大きい可能性が高い、という意味です。

実際にやっている人たち

統計だけだとピンと来ないかもしれません。実在の人物を3人見てみます。

従業員ゼロで顧客1万人 ベン・ブロカ氏

40歳のベン・ブロカ氏は、起業家向けのAIツールを提供しています。

顧客は1万人以上、年商は1000万ドル(約16億円)に届く見込み。調達額は3000万ドル(約49億円)です。

それでも従業員はゼロ。開発にはAnthropicのClaudeを使い、その後コスト面から中国発のオープンソースAIモデルに切り替えたと報じられています。

10万人が使うアプリを1人で クレア・ヴォ氏

サンフランシスコ在住、41歳のクレア・ヴォ氏は、製品ドキュメントやデザインを管理するアプリを運営しています。

ユーザーは10万人、利益は7桁ドル(1億円超)の見込みです。

初期は「ChatGPTからコピペしていた」と本人が振り返っています。ただし同氏は、AIで作るのが簡単になったことより業界で積み上げた信頼のほうが重要だとも指摘しています。

月3000ドルの副業サイズも トロイ・ジョンストン氏

オーランド在住、40歳のトロイ・ジョンストン氏は、クレジットカードの特典を活用するアプリを1人で運営し、月3000ドル(約49万円)の利益を得ています。

16億円の話ばかりが目立ちますが、こういう「生活に効くサイズ」の成功のほうが実際には多数派です。

同氏の言葉が印象的です。「すべての人が剣を持ち、エクスカリバーを抜く力を得た」。道具は前からあった、でも今は誰でも抜けるようになった、ということでしょう。

昔の「ひとり起業」と何が違うのか

1人で商売をする人は昔からいました。では今回の波は、何が新しいのでしょうか。

従来の個人事業との違い

これまでの1人ビジネスは、多くが時間の切り売りでした。デザイナー、ライター、コンサルタント。自分が働いた分だけ売上になる形です。

今回伸びているのは、そこではありません。ソフトウェアやサービスを作って売る、寝ている間も売れる型のビジネスが中心です。

AIネイティブな事業は、創業1年目で中央値55か国に販売していたというデータもあります。1人なのに、いきなり世界市場です。

従来のスタートアップとの違い

ベンチャー型のスタートアップは、資金を集めて人を雇い、一気に規模を作るのが基本でした。

ハーバードビジネススクールのレンブラント・コーニング准教授が5万社を調べたところ、AI志向の企業は従業員が25%少ないという結果が出ています。

バンク・オブ・アメリカ・インスティテュートのテイラー・ボウリー氏も、情報セクターの新規事業申請が直近1年で45%増える一方、採用計画を持つ企業の割合は大きく下がったと指摘しています。

米国勢調査局の統計でも、この違いははっきり出ています。「雇用する見込みが高い」申請はほぼ横ばいなのに、申請全体は2024年後半から再加速しました。増えているのは、人を雇わないタイプの起業なのです。

世界共通の動きなのか

Stripeのデータだけだと「Stripeを使う人が増えただけでは?」と疑いたくなります。

そこでレポートは、各国の法人登記も確認しています。2017年からの新規事業登録は、フランスで約80%増、フィンランドで約70%増、オーストラリアで約40%増。特にフランスは、増えた分の大半が1人創業者や超小規模事業者でした。

米国デラウェア州の法人設立も、2025年初頭から前年比約40%増で推移しています。制度がバラバラな国々で同じ方向に動いているので、単なる統計のノイズや不正登録では説明しづらいという結論になっています。

数字の裏側 全員が儲かっているわけではない

ここは正直に書いておきます。この話には、明確な裏側があります。

マスターカードと給与プラットフォームBranchの調査によると、ソロプレナーの55%は年収5万ドル(約820万円)未満です。79%が10万ドル未満に収まっています。

別の2026年のデータでは、約78%の1人事業が年商5万ドル未満だとされています。

理由のひとつは時間です。62%が事業の初期段階にあると報告されています。ただ、それを差し引いても、16億円組は極端に恵まれた上澄みだという事実は変わりません。

うまくいかなかった例もあります。ペンシルベニア在住のサミール・アフマド氏は、コーチング・コンサルティング事業を数か月で畳み、大手電力会社の正社員に戻りました。

Stripeのレポート自体にも限界があります。データがStripe利用者に偏るため、デジタル系・SaaS系に有利な見え方をしている可能性は否定できません。事業の生存率や長期の持続性についても、数字は示されていません。

Stripeの著者たち自身、最も楽観的な解釈が本当に当たるかどうかは「まだわからない」と書いています。

日本のひとり事業者に何が起きるか

「アメリカの話でしょう」と思うかもしれません。ところが日本の数字も、驚くほど似た形をしています。

土台はすでにできている

ランサーズの調査では、2024年のフリーランス人口は1303万人、経済規模は20兆3200億円に達しました。

労働力人口に占める割合は18.8%。2015年の14.2%から着実に上がっており、この10年で39.1%増えています。

法人側も同じ傾向です。2024年の新設法人は約15.4万社で過去最多を更新し、日本の法人の約60%が従業員0〜4人の「ほぼひとり社長」だと言われています。

AIの普及も追いついてきた

中小企業の生成AI利用率は、2023年の23%から2024年には58%へ跳ね上がりました。個人の利用率も、複数の調査で過半数に達しています。

コスト面の意味は小さくありません。月1〜3万円のAIツールで、年240〜480万円分の人件費に相当する作業を代替できるケースが出てきています。

ある地方の一人社長の月末を想像してみてください。請求書の作成、SNS投稿の下書き、問い合わせメールの一次返信、簡単なLPの修正。これまで外注か残業で埋めていた部分が、AIツールで数時間に圧縮されます。浮いた時間を営業に回せば、それがそのまま売上の差になります。

日本ならではのハードル

とはいえ、日本にそのまま当てはまらない部分もあります。

米国の伸びの中心はソフトウェア販売です。日本のフリーランスは受託・請負の比率が高く、時間の切り売りから抜け出す設計がまず必要になります。

インボイス制度への対応、社会保険、そして「1人の会社は信用されにくい」という商習慣も現実的な壁です。クレア・ヴォ氏の「信頼のほうが重要」という指摘は、日本ではさらに重く響きます。

逆に言えば、実績と信頼をすでに持っている人にとって、今の環境は追い風そのものです。

よくある質問(FAQ)

Q1. ソロプレナーと個人事業主・フリーランスは何が違いますか?

厳密な定義はありませんが、一般にソロプレナーは仕組みを持って稼ぐ1人事業者を指します。

フリーランスが「働いた時間に対して報酬を得る」形が中心なのに対し、ソロプレナーはサービスや製品を作り、自分が働いていない時間にも売上が立つ形を目指します。法人か個人かは問いません。

Q2. AIがあれば誰でも年商1億円を狙えますか?

いいえ。データはむしろ逆を示しています。ソロプレナーの55%は年収5万ドル未満で、約78%は年商5万ドル未満です。

AIはスキルの穴を埋める道具であって、需要を作ってくれるわけではありません。売れるものを見つける力と、その分野での信頼は、これまで通り必要です。

Q3. 具体的にどんな仕事がAIに置き換わっているのですか?

報道や調査で共通して挙がるのは、コーディング、カスタマーサポートの一次対応、マーケティング用の文章制作、経理・事務、デザインのたたき台づくりです。

いずれも、以前なら最初の1〜2人を雇って任せていた領域です。ここが埋まったことで、「雇う前の壁」が一段低くなりました

Q4. この流れは雇用を減らしますか?

少なくとも、新しい会社が生まれても以前ほど採用が増えない兆候は出ています。AI志向企業は従業員が25%少なく、採用計画を持つ企業の割合も下がりました。

一方で、事業を始める人の数そのものは各国で増えています。雇用が消えるというより、雇われる形から自分で始める形へ重心が移っていると見るほうが実態に近そうです。

Q5. 今から始めるなら何から手をつけるべきですか?

いきなり会社を作る必要はありません。今の仕事の中で「外注か残業で埋めている作業」をひとつ選び、AIツールで置き換えてみるところからで十分です。

そこで浮いた時間を使って、自分の得意分野を小さな商品にするのが現実的な順番になります。

まとめ

  • Stripe経済研究チームのレポート(2026年6月22日公開)で、従業員ゼロの年商1000万ドル(約16億円)超が2023〜2025年の2年で約3倍に増えたことが示された
  • 年商100万ドル超は2倍以上、500万ドル超はほぼ3倍。100万ドル到達までの速さも2023年組より約30%速くなっている
  • 背景にあるのはAI。かつて共同創業者や初期社員に頼っていたスキルの穴を埋め、Stripeの新規登録でAIの影響が見えるものは1年で約4倍になった
  • ただしソロプレナーの55%は年収5万ドル未満。華やかな数字は上澄みであり、データはStripe利用者に偏るという限界もある
  • 日本もフリーランス1303万人・労働力人口の18.8%、中小企業の生成AI利用率58%と土台は整いつつあるが、受託中心の構造とインボイス・信用の壁が残る

まずは自分の仕事の中で、AIに任せられる作業を1つだけ選んで置き換えてみてください。そこで生まれた時間の使い方が、この波に乗れるかどうかを分けます。

参考文献