- ビズリーチのCTOが「1人で月約100億トークン」を消費していると公表した
- 全社員にGeminiを配り、週3回以上使う社員が95%を超えた
- 一部業務で工数80%削減。でも全社で見ると改善は10〜20%どまり
- 費用対効果は「アウトカムが理想、まずはアウトプット」で測る
- 日本企業の生成AI活用度は87%。それでも効果実感は6カ国で最下位
「AIの利用料が高すぎる」と経理から言われたことはありませんか。企業の悩みは今、「AIをどう導入するか」から「その支出は本当に見合っているのか」へ移っています。1人で月100億トークンを使う会社は、この問いにどう答えているのでしょうか。
1人で月100億トークン——何が起きたのか
2026年8月3日、ITmediaビジネスオンラインがある対談記事を公開しました。
登場したのは、ビズリーチの外山英幸氏(執行役員 CTO/DX本部 本部長)です。
外山氏は、自分自身が1カ月で約100億トークンを使っていると明かしました。
トークンとは、AIが処理する文章の量を数える単位です。AIに入れた文章と、AIが返した文章を合計した処理量を表します。日本語ならおおむね1文字が1トークン前後になります。
100億トークンは、400字詰め原稿用紙にすると2500万枚を超える計算です。それを1人が1カ月で回している、ということになります。
この記事は、ビズリーチ主催のイベント「BizReach Conference」(7月1〜2日開催)での講演をもとに構成されたものです。対談相手はOpenAI Japanの宇都宮聖子氏(ソリューションズエンジニア)でした。
その金額はいくらになるのか
気になるのはお金です。
ビズリーチが使っているのは、OpenAIのAIコーディングツール「Codex」です。指示を出すとプログラムを書いてくれるAIだと考えてください。
仮に、API(プログラムから直接AIを呼び出す仕組み)の従量課金で単純計算してみましょう。入力の単価を100万トークンあたり5ドルとすると、100億トークンで5万ドル。1ドル155円なら約775万円という数字が出てきます。
ただし、これはあくまで机上の試算です。CodexはChatGPTの契約プランに含まれる形で提供されており、一度読み込んだ内容を再利用する「キャッシュ」を使えば単価はぐっと下がります。実際の支払額がこの通りになるわけではありません。
それでも、1人分のAI利用でこれだけの処理量が動く時代になった、という事実は変わりません。
ビズリーチのAI活用、3つの段階
外山氏は、AI活用には3つの段階があると整理しています。
第1段階:個人活用
社員一人一人が、自分の仕事でAIを使う段階です。
ビズリーチは約1年半前から、全社員が「Gemini」(Googleの生成AI)を使える状態にしました。方針はシンプルで、「まずは使ってください」というものでした。
その結果、週3回以上AIを使う社員が95%を超えました。
第2段階:全社展開
ところが、次の壁が見えてきます。「量は増えたけれど、質はどうなのか」という問題です。
そこでビズリーチは、推進役となる「AIチャンピオン」を置きました。社内コンテストを開いたり、コミュニティで活用事例を共有したりもしています。
この1年は、良い使い方を組織全体へ広げることに力を注いだそうです。
第3段階:組織成果
そして今、同社が向き合っているのが「組織成果」です。
AIがあることを前提に、組織そのものを設計し直して成果を出す段階だと外山氏は言います。
「工数80%削減」でも全社では10〜20%どまり
ここが、この対談でいちばん考えさせられる部分です。
ビズリーチでは、業務の一部で「工数80%削減」「生産性200%向上」という成果が出ています。数字だけ見れば大成功です。
ところが会社全体で見ると、改善は10〜20%程度にとどまるケースが多いといいます。
外山氏はこれを「『革命』というより『改善』です」と表現しました。
なぜこうなるのでしょうか。ある部署が資料作成を5時間から1時間に短縮できたとします。けれど、その資料を待っている次の工程が週1回の会議のままなら、全体のスピードは変わりません。速くなった部分の前後に、昔のままの手順が残っているのです。
だからこそ外山氏は、組織の設計そのものを変える必要があると話しています。AIへの投資がこれだけ進むのなら「組織全体がパラダイムシフトした」と言えるレベルまで変えなければならない、という考え方です。
費用対効果はどう判断する?「まずアウトプット」
では本題です。増え続けるAIの利用料を、どう正当化すればいいのでしょうか。
トークン数は答えではない
OpenAI Japanの宇都宮氏は、はっきりこう指摘しています。
トークン数は、処理量を表す一つの指標にすぎません。見るべきなのは「売り上げが伸びたか」「採用人数が増えたか」といったビジネスのKPI(目標の達成度をはかる数字)だ、という主張です。
宇都宮氏によれば、OpenAI Japan自身もまだ小さな組織ながら、売り上げを伸ばせているかどうかという事業成果でAI活用の成果を見ているそうです。
理想と現実のあいだを埋める
一方、外山氏はもう一歩踏み込んで、現実的な進め方を示します。
「アウトプットではなく、売り上げや契約数といったアウトカムで評価すべきだ」。これが理想であることは、外山氏も認めています。
ただし現時点では、アウトカム(最終的な事業成果)だけを見るのは難しい。だから「まずはアウトプットで測ればよい」というのが外山氏の答えです。
プロダクト開発なら、「プルリクエスト」の数が分かりやすい指標になります。プルリクエストとは、書いたプログラムの変更をチームに提出する単位のことです。
チーム全体でアウトプットが増えているかを確認する。そこから始めればいい、というわけです。
ちなみに外山氏は、AIによるプロダクト創出を手掛ける「AI Product Studio室」の室長も務めています。ここではAI利用量とプロダクト開発の生産性を継続的にチェックしており、AIを使う量が増えるほど生産性も伸びる傾向が確認できているそうです。
AIを使うほど「疲れる」という誤算
面白いのは、二人とも「AIで楽になる」とは言っていない点です。
宇都宮氏は現場の感覚を、自分のアシスタントが10人くらい急に増えたようなものだと表現します。
大変なのは、その10人の仕事が妥当かどうかを瞬時に見極めて、次のアクションを決めることです。やることがなくなるのではなく、判断する仕事がどんどん増えていくのです。
外山氏も同じ感覚だと言います。「AIで仕事が楽になるというイメージがありましたが、実際には考える時間が増えるので、むしろ疲れます」。
AIに仕事を任せること自体よりも、その結果をどう判断するかが重要になってきた、というわけです。
他社・従来の測り方と何が違うのか
AIの効果測定には、いくつかの流派があります。整理してみましょう。
- 利用率で測る:何人が使っているかを見る方法です。導入初期には有効ですが、「使っているだけ」の状態を見抜けません。ビズリーチが95%を達成した後で「質はどうなのか」と悩んだのは、まさにこの限界です。
- 削減時間で測る:「月◯時間削減」と換算する方法です。分かりやすい反面、浮いた時間が別の価値を生んでいるとは限りません。全社で10〜20%どまりという現象は、これでは説明できません。
- 開発系の指標で測る:デプロイ頻度や変更のリードタイムを見る「DORA指標」などが代表例です。エンジニア組織では定番ですが、営業や管理部門には当てはめにくいのが難点です。
- ビジネスKPIで測る:売上や契約数で見る、最も正しい方法です。ただしAI以外の要因も混ざるため、因果関係の切り分けが難しくなります。
ビズリーチのやり方が現実的なのは、4つ目を理想と認めたうえで、今すぐできる3つ目・2つ目から始めると割り切っている点です。
完璧な測定方法を探して動けなくなるより、プルリクエスト数のような荒い指標でもいいから追いかける。そのほうが前に進む、という判断だといえます。
日本企業にとって何を意味するのか
この話は、日本企業の弱点にそのまま重なります。
PwC Japanグループの「生成AIに関する実態調査2026 春」によると、日本企業の生成AI活用・推進度は87%に達しました。導入率だけなら、もう先進国と大きく変わりません。
ところが、その効果を「期待以上・期待通り」と答えた企業の割合は調査対象6カ国で最下位でした。生成AIで得た効果を従業員や顧客への財務的な還元につなげられた割合も40%にとどまり、これも6カ国で最低の水準です。
つまり日本企業は、入れるところまでは行ったが、成果に変えられていないという状態にあります。ビズリーチが直面している「全社では10〜20%どまり」は、日本全体の縮図と言えるでしょう。
評価制度が揺さぶられる
もう一つ、日本企業に効きそうなのが「AIチャンピオン」の考え方です。
宇都宮氏は、チャンピオンの見つけ方についてこう言っています。AIのよいところは利用状況を可視化しやすいことで、たくさん使っている人は自然と目立ってくる、と。
外山氏の話はさらに示唆的です。同社でモニタリングして分かったのは、これまで社内評価が高かった人ほどトークン消費量が多いわけではないという事実でした。
「この人はどんな使い方をしているんだろう」と思ったら、急に1on1を入れて話を聞くこともあるそうです。既存の評価制度では測れない人材が、AIの使い方を通して浮かび上がってくる。人事評価のあり方にまで関わる話です。
なお同社は「Yesterday is Dead」というスローガンを掲げているとのこと。昨日までの常識がすぐ変わる前提で動く、という宣言です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 100億トークンは会社全体の使用量ですか?
いいえ、外山氏1人の使用量です。元記事では「1人で月間約100億トークンを消費するビズリーチの外山英幸氏」と紹介されています。会社全体の合計ではない点に注意してください。
Q2. トークンをたくさん使えば生産性は上がるのですか?
ビズリーチのAI Product Studio室では「AIを使う量が増えるほど生産性も伸びる傾向」が確認されています。ただし、これは特定の組織で観測された傾向です。OpenAI Japanの宇都宮氏は、トークン数そのものを目標にするのではなく、売上などのビジネスKPIを見るべきだと指摘しています。
Q3. 中小企業でも同じやり方は使えますか?
測り方の考え方は、規模を問わず応用できます。「まずアウトプットで測る」なら、作った提案書の数、対応した問い合わせ件数、公開した記事数などが候補になります。高価なツールを入れなくても、今ある業務の産出量を数えるところから始められます。
Q4. 明日から何をすればいいですか?
外山氏は「1日だけ、AIエージェントしか使わない日を作る」ことを勧めています。予定の確認もメールの作成も、すべてAIエージェント経由でやってみる。すると自分が普段どんな判断をしているのかが見えてきて、仕事そのものを見直すきっかけになる、という提案です。宇都宮氏は「AIエージェントに任せられそうなタスクを1つ作ってみる」ことを勧めています。
まとめ
- ビズリーチの外山英幸CTOは、1人で月約100億トークンを消費している
- 全社員にGeminiを配布し、週3回以上使う社員は95%超に到達した
- 一部業務では工数80%削減・生産性200%向上。しかし全社では10〜20%の改善どまり
- 効果測定はアウトカム(売上・契約数)が理想だが、まずはアウトプット(プルリクエスト数など)から始める
- AIで仕事は楽にならず、むしろ「判断する仕事」が増えて疲れる
- 日本企業の生成AI活用度は87%だが、効果実感は6カ国中最下位
まずは自分のチームで「先月より何が何件増えたか」を1つだけ決めて数え始めてみてください。それが、AI投資を語るときの最初の共通言語になります。

