採用を増やさず収益1.5倍|Remote社のAI活用術

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • 米Remote社が「社員1人あたりの収益」をAIで50%増やしたと発表しました
  • 採用をほとんど増やさず、年間収益(ARR)3億ドル(約480億円)を突破しました
  • カギは全社員がアプリを作る社内マーケット「Remote Labs」です
  • CEO自らノートPCで5つのAIを同時に動かして開発しています
  • ただし300%成長などの数字は第三者の検証がない点に注意が必要です

「人を増やさないと、売上は増えない」。多くの会社が当たり前だと思ってきた常識が、いま揺らいでいます。米Remote(リモート)社は、社員数をほぼ変えずに1人あたりの収益を50%も伸ばしました。AIを全部門に広げた結果です。この記事では、何が起きたのか、どうやって実現したのか、そして日本の私たちにどう関係するのかを、やさしく整理します。

Remote社が達成した「収益1.5倍」とは

Remote社は、海外にいる人材を雇うときの面倒な手続きを代行する会社です。専門用語でEOR(雇用代行。自社で現地法人を作らなくても海外の人を雇える仕組み)と呼ばれます。

2026年5月、同社はある発表をしました。

社員1人あたりの収益が50%以上も増えた、という内容です。

しかも採用を大きく増やしたわけではありません。今いる社員の生産性が上がったのです。

会社全体の数字も好調でした。年間で繰り返し入る収益(ARR)は3億ドル、日本円でおよそ480億円を超えました。お金の出入りも黒字に転換しています。

給与計算サービスにいたっては、前の年と比べて300%以上の成長だといいます。CEOのJob van der Voort(ヨブ・ファンデルフォールト)氏は、この成長の多くをAIのおかげだと語っています。

なぜ採用を増やさずに成長できたのか

普通なら、売上を伸ばすには人を雇います。ではRemote社はどうやったのでしょうか。答えは「社員一人ひとりがAIで何倍も働けるようにした」ことです。

全社員がアプリを作る社内マーケット「Remote Labs」

同社にはRemote Labsという社内のしくみがあります。これはエンジニアだけのものではありません。

営業も、人事も、サポートも、あらゆる部門の社員が自分の仕事に必要なアプリを作って公開できる「社内のアプリ売り場」のような場所です。

象徴的なエピソードがあります。共同創業者のMarcelo Lebre(マルセロ・レブレ)氏は、これまで年間6万ドル(約960万円)払っていた外部サービスを、AIを使ってわずか3時間17分で自作してしまいました。かかった費用はたったの216ドル(約3万円)です。

1年分の契約料が、半日もかからず数万円で置き換わったのです。

CEO自らAIを5つ同時に動かす

トップの本気度も桁違いです。van der Voort氏は、ノートPCの2画面目で5つのClaude Codeを常に同時稼働させていると明かしました。Claude CodeはAIにプログラムを書かせるツールです。

社内のコードの変化も劇的です。エンジニアが提出するコードの量は1年で60%以上増えました。さらに直近1か月では、提出されたコードの85%以上がAIによる生成だったといいます。

つまり、人が手で書く部分はどんどん減り、人はAIに指示を出して仕上げる役割に変わっているのです。

身近な例で考えてみる

この変化を、私たちの仕事に置き換えてみましょう。

たとえば、ある営業担当者が毎週、見積書を50件手作業で作っているとします。AIに作らせる小さなツールを自分で用意できれば、その時間はほぼゼロになります。空いた時間は、お客様との対話に回せます。

あるいは、経理担当者が月末に数百件の請求書を1枚ずつ確認している場面を想像してみてください。チェック作業をAIに任せれば、人は「おかしいものだけ」を見ればよくなります。

サポート窓口でも同じです。よくある質問への下書きをAIが用意し、人は最終確認と気配りに集中する。Remote社で起きているのは、こうした小さな効率化を全部門・全社員の規模で同時に進めたことなのです。

競合のDeel・Ripplingとの違い

グローバル人事の分野には強力なライバルがいます。代表格がDeel(ディール)Rippling(リップリング)です。

Deelは130か国以上に対応し、海外への支払いの手早さに強みがあります。EORの料金は1人あたり月599ドルからです。

Ripplingは、もともと米国企業向けの人事システムが出発点です。EORは他社と組んで提供する国も多く、自社で全部をまかなう形ではありません。

これに対しRemote社は、各国の法人を100%自社で持っているのが特徴です。さらにMCP(AIと外部ツールをつなぐ共通の仕組み)に対応し、BambooHRやWorkdayなど他社サービスとも連携できます。今回の「AIで自社開発を加速する」路線は、この自前主義と相性が良いと言えます。

日本企業・働く人への影響

「海外の話でしょう?」と思ったかもしれません。でも、これは日本にも直結します。

日本の中小企業では、社員1人あたりの年間生産性はおよそ540万円とされます。AI活用が進めば、これが610万円ほどまで上がる可能性が示されています。

大企業の事例も出ています。住友商事はMicrosoft 365 Copilotを全社員8,800人に導入し、年間12億円のコスト削減を達成しました。

調査会社EYによると、AIに投資した企業の96%が何らかの生産性向上を実感しています。Gartnerは2026年を「AIとの協働が当たり前になる年」と位置づけています。

ポイントは、Remote社のやり方が「人を減らすため」ではなく「今の人を強くするため」のAIだという点です。人手不足に悩む日本企業にとって、現実的なお手本になります。

数字をどう読むべきか

ここで冷静になる必要もあります。

「収益1.5倍」「300%成長」といった数字は、いずれもRemote社の自己申告です。第三者による独立した検証はありません。

また、収益が伸びた理由はAIだけとは限りません。市場の追い風や営業努力など、複数の要因が重なった可能性があります。

さらに、AIへの支出自体は増えています。効率が上がっても、ツール代がかさめば利益を圧迫します。Remote社もこの点は「監視している」と認めています。AI活用は万能薬ではなく、コスト管理とセットで考えるべきものなのです。

よくある質問(FAQ)

Q. Remote社とはどんな会社ですか?
A. 海外の人材を雇うときの手続きや給与計算を代行する、グローバル人事のサービス会社です。EOR(雇用代行)と呼ばれる分野の大手です。

Q. 「社員1人あたりの収益」とは何ですか?
A. 会社の収益を社員数で割った数字です。少ない人数で大きく稼ぐほど、この値は高くなります。生産性の目安としてよく使われます。

Q. AIで人員削減をしたのですか?
A. いいえ。Remote社は人を減らしてはいません。新しい大量採用を控え、今いる社員のスキルアップとAI活用に投資する方針に切り替えました。

Q. 日本の中小企業でも真似できますか?
A. 完全な再現は簡単ではありませんが、考え方は応用できます。まず一部の定型業務をAIに任せ、効果を確かめながら広げるのが現実的です。

Q. 発表された数字は信頼できますか?
A. 第三者の検証はなく、自己申告です。参考にはなりますが、そのまま鵜呑みにせず、傾向として捉えるのが安全です。

まとめ

  • Remote社はAIで社員1人あたりの収益を50%以上伸ばし、ARR約480億円を突破しました
  • カギは全社員がアプリを作る「Remote Labs」と、トップ自らのAI活用です
  • 狙いは人員削減ではなく「今の社員を強くする」ことにあります
  • 住友商事の年12億円削減など、日本にも応用できる流れが生まれています
  • ただし数字は自己申告であり、AIのコスト管理とセットで考える必要があります

まずは自分の仕事の中で、毎日くり返している作業を1つ選び、AIに任せられないか試してみましょう。それが「収益1.5倍」への小さな第一歩になります。

参考文献

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