MetaがInstagram AI機能を3日で撤回した理由

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Metaが2026年7月7日に公開したInstagramのAI機能「Muse Image」を、わずか3日後の7月10日に撤回しました
  • この機能は、公開アカウントの人物を勝手にAI画像化できる仕組みで、大きな批判を浴びました
  • 問題の中心は「opt-out(拒否しないと自動でオン)」という設計にあります
  • 俳優組合SAG-AFTRAや大手芸能事務所CAAなどが強く反発しました
  • 日本でも肖像権への意識が高まる中、AIと同意のあり方を考える大きなきっかけになりそうです

自分のInstagramの写真が、知らない誰かにAIで勝手に加工されていたら、どう感じますか?

Metaが公開した新しいAI機能が、まさにそんな不安を現実にしかけました。そして公開からたった3日で撤回されました。この記事では、何が起きて、なぜここまで批判されたのかを、やさしく整理します。

何が起きた?MetaがAI機能をわずか3日で撤回

アメリカの大手IT企業Meta(旧Facebook。InstagramやFacebookを運営)が、大きな方針転換をしました。

Metaは2026年7月10日の金曜夜、Instagram向けのAI画像機能「Muse Image」を撤回したのです。

この機能が公開されたのは7月7日でした。つまり、公開からわずか3日での撤回です。

Metaは撤回にあたって、こうコメントしました。

「私たちの意図は、便利な創作ツールを提供することでした。しかし、この機能は的を外していたという意見を受け止めました。そのため、もう利用できないようにしました」

大企業が、鳴り物入りで出した新機能をここまで早く引っ込めるのは、めったにないことです。それだけ反発が激しかったということです。

「Muse Image」ってどんな機能だった?

そもそも「Muse Image(ミューズ・イメージ)」とは何だったのでしょうか。

Metaは7月7日のブログで、これを「これまでで最も高度な画像生成モデル」と紹介していました。指示に忠実で、細かい編集や複数の写真の合成ができるのが特徴です。

他人のアカウントを「@」で指定するだけ

問題になったのは、その使い方です。

公開アカウントであれば、そのユーザー名を「@」で指定するだけで、その人の顔や写真をもとにAI画像を作れたのです。

しかも、写真を使われた本人には通知が届きませんでした。知らないうちに、自分そっくりの画像が作られる可能性があったわけです。

ある会社員が休日に投稿した何気ない自撮り。それを見た見知らぬ相手が、名前を打ち込むだけで別の画像を生成できる。そんな状況を想像すると、不安に感じる人が多いのも当然です。

なぜここまで反発された?「opt-out方式」の問題

批判が集中した最大の理由は、機能の「初期設定」にあります。

Muse Imageは「opt-out(オプトアウト)」方式でした。opt-outとは「拒否の意思を示さないと、自動でオンになる」仕組みのことです。

18歳以上の公開アカウントは全員が対象に

この設計では、18歳以上で公開アカウントを持つ人は、全員が自動的に対象になりました。

使われたくない人は、自分で設定を変えて「拒否」しなければなりません。何もしなければ、勝手に対象へ組み込まれてしまうのです。

非公開アカウントや18歳未満は、最初から対象外でした。しかしMetaのユーザーの多くは公開アカウントです。つまり大半の大人が、知らないうちに巻き込まれる形でした。

悪用への不安が一気に広がった

この仕組みには、深刻な悪用のリスクが指摘されました。

いやがらせ、なりすまし、そして本人の同意なしのわいせつ画像(ディープフェイク)の作成です。「同意なき肖像の利用」への不安が、一気に広がりました。

電子フロンティア財団(EFF)やPrivacy International、Public Citizenといった権利団体も、次々と危険性を指摘しました。

ハリウッドの権利団体も反発

反発したのは、一般ユーザーだけではありません。エンタメ業界の大物たちも動きました。

俳優組合SAG-AFTRAが「拒否」を呼びかけ

アメリカの大きな俳優組合であるSAG-AFTRAは、会員だけでなく、すべてのInstagramユーザーに向けて呼びかけました。

「あなたの肖像を守るために行動を(Take Action to Protect Your Likeness)」として、この機能から今すぐ拒否設定をするよう促したのです。

大手事務所CAAは「同意が先だ」と主張

ハリウッドの大手芸能事務所CAAも、強い声明を出しました。

「名前、肖像、声、創作物は、AIモデルを含むいかなる第三者にも、明確で記録された同意なしに使われるべきではない」という内容です。

CAAは、初期設定を「保護」にして、使いたい人だけがオンにする「opt-in(同意した人だけ対象)」にすべきだと求めました。

他社はどうしている?OpenAI「Sora」との違い

では、他のAI企業はこの問題にどう向き合っているのでしょうか。よく比較されるのが、OpenAIの動画AI「Sora(ソラ)」です。

Soraは「opt-in(同意した人だけ)」方式

Soraには「カメオ」という機能があります。自分の姿を本人が録画して、あらかじめ登録した人だけが使える仕組みです。

誰が自分の姿を使えるかを細かく設定でき、あとから取り消すこともできます。つまりSoraは「本人が同意して初めて使える」opt-in方式です。

ここが、Metaのopt-out方式との決定的な違いでした。同じ「肖像を扱うAI」でも、出発点の思想が正反対だったのです。

2つの方式のちがいを整理

  • Meta Muse Image(opt-out):初期設定は「使える」。使われたくない人が自分で拒否する
  • OpenAI Sora(opt-in):初期設定は「使えない」。本人が登録した人だけが使える

ただし、Soraも完璧ではありません。専門家が安全対策を24時間以内に突破した例も報じられており、AIと肖像の問題は各社共通の難題です。

日本のユーザーへの影響は?

この話は、遠い海外の出来事ではありません。日本の私たちにも深く関わります。

日本にも「肖像権」がある

日本では、自分の顔や姿を勝手に使われない「肖像権」が、判例で認められています。

今回のような機能が日本で広まれば、この肖像権と真正面からぶつかる可能性がありました。Instagramは日本でも利用者が多く、他人事ではありません。

「AI疲れ」への静かな抵抗

もう一つ注目したいのが、ユーザー側の反応です。

最近は、あらゆるサービスにAIが強引に組み込まれ、「AI疲れ」を感じる人が増えています。今回の撤回は、そうした流れに対するユーザーの拒否反応が形になった出来事とも言えます。

企業がAIを入れれば喜ばれる、という時代は終わりつつあります。日本企業がAIサービスを設計するときも、「同意」と「使いやすさ」の両立が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. Muse Imageは完全になくなったの?

撤回されたのは、他人のアカウントを指定して画像を作れる部分です。Metaは「もう利用できない」と説明しています。Muse自体の画像・動画ツールは別の形で残る可能性があります。

Q. 自分のInstagram写真は勝手に使われた?

機能が有効だった間、18歳以上で公開アカウントの人は対象になっていました。心配な人は、アカウントを非公開にするのが最も確実な守り方です。

Q. opt-outとopt-inは何が違うの?

opt-outは「拒否しないと自動でオン」、opt-inは「同意して初めてオン」です。プライバシー保護の観点では、opt-inの方が安全だとされています。

Q. 日本のInstagramユーザーも対象だったの?

公式に日本を除外するという発表はありませんでした。世界共通の機能だったため、日本の公開アカウントも巻き込まれる可能性があったと考えられます。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • MetaはInstagramのAI機能「Muse Image」を、公開からわずか3日で撤回した
  • 他人の公開アカウントを指定するだけでAI画像を作れる仕組みが問題視された
  • 批判の中心は「拒否しないと自動でオン」というopt-out方式だった
  • SAG-AFTRAやCAAなど、権利団体も強く反発した
  • OpenAI Soraはopt-in方式で、思想が正反対だった
  • 日本の肖像権や「AI疲れ」とも深く関わる出来事だった

あなたも一度、自分のSNSアカウントの公開範囲やAI関連の設定を見直してみてはいかがでしょうか。

参考文献

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