- Mac Studioを4台つないで、合計メモリ帯域4.8TB/sを達成しました
- カギはThunderbolt 5経由の「RDMA」。遅延が300マイクロ秒から3マイクロ秒に縮みました
- M5 UltraはM3 Ultra比でAI性能4.3倍、メモリは最大512GBです
- 2.8兆パラメータの巨大AI「Kimi K3」も手元で動かせます
- 価格は94万9800円から。日本での発売は2026年9月22日です
巨大なAIを動かすにはデータセンターが要る。ずっとそう思われてきました。ところが2026年8月25日、その前提が机の上でひっくり返ります。Mac Studioを4台つなぐだけで、合計メモリ帯域4.8TB/s。この数字が何を意味するのか、順番にほどいていきます。
Mac Studio 4台で「4.8TB/s」という異常な数字
Appleが2026年8月25日、新しいMac Studioを発表しました。予約は同日開始、発売は9月22日です。
目を引いたのは本体スペックだけではありません。Appleの製品ページに、EXO Labs(エクソ・ラボ)というスタートアップの名前が載ったことです。
EXO Labsは、複数のパソコンをつないで1台の大きなAIマシンに変えるソフトを作っている会社です。同社によれば、この1年間Appleと密に協力してきたといいます。
帯域とは「AIが記憶を読み出す速さ」
メモリ帯域(メモリとの間でデータをやりとりできる速さ)は、AIの応答速度をほぼ決めてしまう数字です。
AIが文章を1文字生成するたびに、モデル全体のデータを読み直す必要があります。だから帯域が2倍になれば、生成速度もおおよそ2倍になります。
M5 Ultra搭載のMac Studioは、1台あたり1.2TB/s。これを4台束ねると、合計で約4.8TB/sに届きます。
少し前まで、この領域はデータセンター向けGPUだけのものでした。それが100万円クラスの箱を並べるだけで手が届く。ここが今回のニュースの核心です。
4台で推論は最大3倍速に
Apple自身も、4台構成のMac Studioクラスタは1台のときと比べて最大3倍速いAI推論を実現すると説明しています。
台数を増やすと遅くなる。分散処理では、これがずっと当たり前でした。通信の待ち時間が積み上がるからです。
今回はその常識が逆転しています。増やすほど速くなる。理由は次の技術にあります。
カギはRDMA──待ち時間が100分の1になった
今回の主役はRDMA(Remote Direct Memory Access)という技術です。
ふつう、パソコンAからパソコンBのデータを読むときは、OSとCPUがいちいち仲介します。荷物を渡すたびに受付を通すようなもので、そのたびに時間が削られます。
RDMAはこの受付を飛ばします。相手のメモリに直接、読み書きしに行くのです。
300マイクロ秒が3マイクロ秒へ
EXO Labsの公表値によると、Mac同士の通信遅延は300マイクロ秒から3マイクロ秒まで下がりました。実に100分の1です。
なぜここまで遅延が効くのでしょうか。答えは「テンソル並列」という分割のやり方にあります。
テンソル並列は、1つの計算を4台で切り分けて同時に進める方式です。ただし切り分けた結果は、計算のたびに全台で突き合わせる必要があります。
つまり通信は、1回の生成につき何百回も走ります。1回あたり300マイクロ秒なら合計は致命的ですが、3マイクロ秒なら誤差の範囲に収まります。
ソフトはオープンソースで公開済み
この仕組みを動かすソフトがEXO 1.0です。2025年12月18日にリリースされ、Thunderbolt 5上のRDMAに初日から対応しました。
EXOはオープンソースで公開されています。同じネットワークにある端末を自動で見つけ、モデルを分割し、まとめて1つのAIクラスタとして扱ってくれます。
ちなみに対応はMac Studioだけではありません。MacBookやMac miniも同じ枠組みに入ります。
ただし条件があります。Thunderbolt 5が必須で、Thunderbolt 4止まりのM1・M2世代では利用できません。
M5 Ultraのスペックを整理する
クラスタの話に入る前に、単体の実力を押さえておきましょう。
M5 Ultraは最大36コアCPU・80コアGPU
M5 Ultraは、スーパーコア12基と高性能コア24基を組み合わせた最大36コアCPUを積みます。
GPUは最大80コア。Ultraクラスとしては初めて、GPU側にNeural Accelerators(AI計算専用の回路)が載りました。
ユニファイドメモリ(CPUとGPUが共用する1つのメモリ)は最大512GB、帯域は1.2TB/sです。前世代のM3 Ultraと比べて帯域は50%伸びました。
AI性能で見ると、M3 Ultra比で4.3倍、M1 Ultra比では9.8倍とされています。
M5 Maxという現実的な選択肢
同時発表のM5 Maxも侮れません。18コアCPU、最大40コアGPU、メモリは最大128GBです。
帯域は614GB/sで、AI性能はM4 Max比3.5倍。「まずローカルAIを試したい」層には、こちらが現実解になります。
価格は94万9800円から
日本での価格は、M5 Maxモデルが41万9800円から、M5 Ultraモデルが94万9800円からです。
ただし94万9800円は最小構成の値段です。メモリ256GB・ストレージ1TBまで積むと190万3800円まで上がります。
なお最大の512GBメモリ構成だけは供給が遅れ、提供開始は10月下旬の予定です。
2.8兆パラメータのAIが、机の上で動く
では実際、何が動くのでしょうか。EXO Labsが名前を挙げたのは「Kimi K3」と「GLM-5.3」です。
Kimi K3は世界最大級のオープンモデル
Kimi K3は、中国のMoonshot AIが2026年7月に公開した約2.8兆パラメータのモデルです。ウェイト(学習済みの中身)は7月27日に一般公開されました。
パラメータは、AIが持つ「調整つまみ」の数だと思ってください。多いほど賢くなりますが、そのぶんメモリを食います。
Kimi K3はMoE(Mixture of Experts)という構造を採ります。2.8兆すべてを毎回動かすのではなく、質問に応じて必要な専門家だけを起動する方式です。
1トークンあたりで実際に動くのは約1040億パラメータ。文脈は100万トークンまで扱えます。
それでもウェイト全体はメモリに載せておく必要があります。512GB×4台=約2TBというメモリプールが効いてくるのは、まさにここです。
誰がこれを必要とするのか
3つの現場を想像してみてください。
ひとつめは病院です。ある総合病院では、退院サマリ(患者さんの入院経過をまとめた書類)の作成に医師が長時間を取られていました。院内にAIサーバーを置いて自動生成に切り替えたところ、作成にかかる稼働時間が52.8%減ったと報告されています。カルテは外に出せませんから、手元で動くことが絶対条件でした。
ふたつめは製造業の設計部門です。図面や不具合報告をAIに読ませたいけれど、社外のサービスにアップロードするのは論外。かといって自社でGPUサーバーを組むと億単位になる。この隙間に、数百万円で組めるMacクラスタがぴたりとはまります。
みっつめは個人の開発者や小さなスタジオです。APIの従量課金は、大量のコード生成や長文処理を回すと一気に膨らみます。買い切りのマシンで青天井の実験ができる意味は、思っている以上に大きいはずです。
NVIDIA DGX Sparkと比べるとどうなのか
ローカルAI機の対抗馬といえば、NVIDIAのDGX Sparkです。両者は得意分野がきれいに分かれます。
| 項目 | Mac Studio(M5 Ultra) | NVIDIA DGX Spark |
|---|---|---|
| メモリ容量 | 最大512GB | 128GB |
| メモリ帯域 | 1.2TB/s | 273GB/s |
| 価格(米国) | 5,499ドルから | 4,699ドル |
| 得意な処理 | 文章の生成(decode) | 長文の読み込み(prefill) |
| ソフト資産 | MLX・EXOなど | CUDAフルスタック |
「読む」のと「書く」のは別の仕事
AIの処理は大きく2つに分かれます。プロンプトを一気に読み込むprefillと、答えを1文字ずつ吐き出すdecodeです。
prefillは計算パワーがものを言います。DGX SparkはFP16で約100 TFLOPsあり、ここで強い。
一方decodeは帯域勝負です。メモリ帯域が4.4倍あるMac Studioが有利になります。
実は両方つなぐのが最速だった
おもしろいのは、EXO Labsが「両方使えばいい」と示してみせたことです。
Llama-3.1 8Bに8192トークンのプロンプトを与えた実験では、DGX Spark単独が4.34秒、M3 Ultra単独が6.42秒でした。
ところがprefillをDGX Sparkに、decodeをMac Studioに振り分けると2.32秒。Mac単独比で2.8倍の高速化です。
メーカーの垣根を越えて役割分担する。ローカルAIの組み方は、そんな段階に入りつつあります。
日本のユーザーと企業にとって何が変わるか
日本では9月22日に発売されます。512GB構成は10月下旬なので、フル装備を狙う人は少し待つことになります。
「クラウドに出せないデータ」の受け皿になる
国内では、機密データを扱う業種ほど生成AIの導入が遅れてきました。カルテ、設計図、与信情報。どれも社外に出しにくいものばかりです。
この流れを受けて、TISインテックグループのインテックは2026年1月29日からオンプレミス環境でのローカルLLM導入支援を始めています。対象は製造業や金融業です。
これまでの選択肢は、高価なGPUサーバーを組むか、諦めるかの二択でした。そこにMac Studioのクラスタという第三の道が加わります。
買う前に確認したい3つの落とし穴
もちろん万能ではありません。冷静に見ておきたい点が3つあります。
1つめは総額です。256GB構成が190万3800円ですから、4台そろえれば軽く数百万円を超えます。フル装備なら400万円超という試算も出ています。
2つめは世代の縛りです。RDMAはThunderbolt 5が前提です。手持ちのM1・M2世代のMacを足しても、この恩恵は受けられません。
3つめはソフト資産です。研究や学習の現場ではCUDA前提のライブラリがまだ主流です。推論だけならMacで十分でも、学習まで含めるとNVIDIA側に分があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. Mac Studioを4台買わないと意味がないのですか?
いいえ。1台でもM5 Ultraなら1.2TB/sの帯域と最大512GBのメモリがあり、多くのオープンモデルは単体で動きます。4台構成は、2.8兆パラメータ級の最大モデルを高速に回したい場合の話です。
Q2. EXOを使うのにお金はかかりますか?
EXOはオープンソースとして公開されています。ソフト自体の費用はかからず、GitHubから入手できます。
Q3. MacBookやMac miniでもクラスタは組めますか?
組めます。EXO 1.0はMacBook・Mac mini・Mac Studioに対応しています。ただしRDMAを効かせるにはThunderbolt 5を備えた世代である必要があります。
Q4. ChatGPTのAPIを使うより安く済みますか?
使い方次第です。毎日大量のトークンを消費するなら、買い切りのマシンが有利になる場面はあります。逆に月に数回しか使わないなら、従量課金のほうが圧倒的に割安です。
Q5. 512GBメモリのモデルはいつ買えますか?
512GB構成のみ提供開始が遅れ、2026年10月下旬の予定です。他の構成は9月22日から入手できます。
まとめ
- Mac Studio 4台のクラスタで、合計メモリ帯域約4.8TB/sを達成した
- Thunderbolt 5上のRDMAにより、機体間の遅延が300マイクロ秒から3マイクロ秒へ短縮された
- M5 Ultraは最大36コアCPU・80コアGPU・512GBメモリ、AI性能はM3 Ultra比4.3倍
- 2.8兆パラメータのKimi K3など、オープンモデルの最上位が手元で動く
- DGX Sparkは長文読み込みに強く、Mac Studioは文章生成に強い。組み合わせが最速だった
- 価格は94万9800円から。日本発売は9月22日、512GB構成は10月下旬
まずはM5 Maxの1台構成で小さなモデルを回してみて、自社のデータで本当に価値が出るかを確かめるところから始めるのが現実的です。
参考文献
- Apple introduces new Mac Studio with M5 Max and M5 Ultra – Apple Newsroom
- 4台のM5 Ultra Mac Studioで「データセンター級」メモリ帯域幅4.8TB/s – ITmedia AI+
- Combining NVIDIA DGX Spark + Apple Mac Studio for 4x Faster LLM Inference with EXO 1.0 – EXO Labs
- 2.8兆パラメータのオープンモデル「Kimi K3」が予定通り公開 – GIGAZINE
- インテック、オンプレミス環境で生成AIを活用できるローカルLLMの導入支援を開始
- M5 Max/Ultraの「Mac Studio」登場。最大512GBメモリ搭載 – PC Watch

