- 中国の美団(Meituan)が、1.6兆パラメータの巨大AI「LongCat-2.0」を無料公開しました
- NVIDIA製GPUを一切使わず、中国国産チップだけで訓練した初のフロンティア級モデルです
- 2か月間「Owl Alpha」という匿名でランキング上位を独走していた、覆面の実力者でした
- プログラミング性能ではGPT-5.5を上回る場面もあり、料金は大手の数分の1です
- MITライセンスなので、日本の企業や個人も自由に商用利用できます
「正体不明のAIが、いつの間にかランキング1位を独走していた」。そんな出来事が2026年に起きました。その正体は、フードデリバリーで有名な中国企業のAIだったのです。しかも米国製の高性能チップを一切使わずに作られていました。この記事では、話題の「LongCat-2.0」が何なのか、なぜこれほど注目されるのかを、やさしく解説します。
LongCat-2.0とは?1.6兆パラメータの中国製AI
LongCat-2.0(ロングキャット2.0)は、中国企業の美団(Meituan)が2026年6月30日に公開したAIモデルです。
美団は日本でいうと「出前館」や「Uber Eats」のような、フードデリバリー・地域サービスの会社です。そんな会社が、世界トップ級のAIを作ったことが驚きを呼びました。
このモデルの規模は1.6兆パラメータ。パラメータとは、AIの賢さを支える「脳のつなぎ目」の数のようなものです。数が多いほど複雑な処理ができます。
ただし、1.6兆すべてを毎回使うわけではありません。質問に応じて必要な部分だけを動かす「MoE(専門家を使い分ける仕組み)」を採用しています。実際に動くのは1回あたり約480億パラメータです。
さらに、一度に約100万トークン(およそ本1〜2冊分の文章量)をまとめて読み込めます。大きなプログラムのコード全体を一気に理解できるのが強みです。
「Owl Alpha」の正体判明|2か月の覆面テスト
今回の話題で最も面白いのが、「Owl Alpha(アウル・アルファ)」という匿名モデルの正体だった点です。
AIを試せる「OpenRouter」というサービスがあります。ここでは開発者が正体を隠したまま、新しいAIをこっそり公開できます。
「Owl Alpha」という謎のモデルは、約2か月間ここで動き続けていました。そして誰の作品かもわからないまま、利用回数ランキングの上位を独走していたのです。
ある作業スペースでは1位、Claude Code向けでは2位という成績でした。「この覆面AIは誰が作ったのか」と、開発者の間で話題になっていました。
6月30日、その正体がLongCat-2.0だと発表されました。実力を隠して十分にテストしてから名乗り出る、という演出も注目を集めた理由です。
なぜ驚き?NVIDIAなしで訓練した意味
LongCat-2.0が世界を驚かせた本当の理由は、性能だけではありません。訓練にNVIDIA製のGPUを一切使っていない点です。
今のAI開発は、米国NVIDIA社の高性能な計算チップ(GPU)が必須とされてきました。しかし米国は、こうした最先端チップの中国への輸出を制限しています。
そこで美団は、中国国内で作られたASIC(特定の計算に特化したチップ)を5万台使い、訓練を最初から最後まで自国のチップだけで完成させました。
学習に使ったデータは35兆トークンという膨大な量です。しかも途中で大きな失敗ややり直しもなかったと説明されています。
これまでの中国AIは、国産チップを「AIを動かす段階(推論)」でしか使えていませんでした。一番負荷の高い「AIを作る段階(訓練)」まで国産だけで乗り切ったのは、LongCat-2.0が初めてとされています。
つまり「米国の最新チップがなくても、世界レベルのAIは作れる」と証明したことになります。これは技術ニュースを超えた、大きな意味を持ちます。
性能ベンチマーク|GPT-5.5を上回る場面も
気になるのは「実際にどれくらい賢いのか」ですよね。LongCat-2.0は、特にプログラミング(コーディング)を得意としています。
プログラムの不具合を自動で直す能力を測る「SWE-bench Pro」というテストでは、59.5点を記録しました。これはGPT-5.5の58.6点をわずかに上回る成績です。
ほかにも主要なテストで高い点数を出しています。
- Terminal-Bench 2.1(端末での作業能力):70.8点
- SWE-bench Multilingual(多言語のコード修正):77.3点
- FORTE(企業の業務を再現するテスト):73.2点
特徴的なのは、指示を受けて自分で考えながら作業を進める「エージェント型」に強い点です。人が細かく指示しなくても、目標を伝えれば手順を組み立てて動いてくれます。
料金は?無料で使える範囲と価格
LongCat-2.0のもう一つの魅力は、圧倒的な安さです。
まず、AI本体(モデルの中身)はMITライセンスで完全無料公開されています。誰でもダウンロードして自分のパソコンやサーバーで動かせます。配布元は「Hugging Face」という共有サイトです。
手軽に使いたい人向けのAPI(外部から呼び出す仕組み)も用意されています。標準の料金は、入力100万トークンあたり約113円、出力100万トークンあたり約445円ほどです(1ドル150円換算)。
さらに公開記念のキャンペーン中は、入力が約45円、出力が約180円まで下がっています。大手の有料AIと比べて数分の1という安さです。
まとめ買いプランもあり、10億トークンのパックが約9,000円ほど。コードをたくさん書く人ほどお得になります。
他の中国オープンモデルとの違い
実は今、中国発の「無料で使えるAI」が世界を席巻しています。LongCat-2.0はその最新の一角です。
代表的なライバルには、次のようなモデルがあります。
- DeepSeek V4:コード生成に強い定番モデル
- Qwen3.5(アリババ):数学や論理の推論が得意
- Kimi K2.5(ムーンショット):エージェント機能に定評
- GLM-5(智譜AI):総合力が高い
これらと比べたLongCat-2.0の最大の違いは、やはり「訓練まで国産チップだけで完結した」点です。ライバルの多くは、作る段階では海外製チップに頼っていました。
その勢いは数字にも表れています。AIの利用を仲介するOpenRouterでは、2026年5月時点で使われるデータの約61%が中国製オープンモデルだったと報告されています。
日本のユーザー・企業への影響
「海外の話でしょ?」と思うかもしれません。しかしLongCat-2.0は、日本にも身近な影響があります。
まず、MITライセンスなので日本の企業も自由に商用利用できます。自社サーバーで動かせば、社内の機密データを外部に出さずにAIを使えます。
ある日本のスタートアップを想像してみてください。開発費を抑えたいけれど高性能なAIも使いたい、というジレンマがあります。無料で高性能なLongCat-2.0は、その悩みを一気に解決する選択肢になります。
コードを書くエンジニアにとっても、安いAPI料金は魅力です。個人開発者が趣味のアプリを作るときも、コストを気にせずAIに手伝ってもらえます。
一方で、注意点もあります。中国製AIには、企業の機密や個人情報の扱いを慎重に考える声もあります。用途によっては、自社環境で動かすなどの工夫が求められます。
また、日本は「安全なAIをどう選ぶか」という議論の真っ最中です。安さだけでなく、信頼できる提供元かどうかも含めて選ぶ視点が大切になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. LongCat-2.0は本当に無料で使えますか?
はい。モデル本体はMITライセンスで公開され、無料でダウンロードして使えます。手軽なAPI利用は有料ですが、大手の数分の1と格安です。
Q2. 日本語には対応していますか?
多言語に対応しており、日本語でのやり取りも可能です。特に多言語のコード修正テストで高い成績を出しています。
Q3. 「国産チップだけで訓練」がなぜそんなに重要なのですか?
米国が最先端チップの対中輸出を制限しているためです。それでも世界レベルのAIを作れたことは、輸出規制の効果を問い直す出来事とされています。
Q4. どんな用途に向いていますか?
プログラミングの自動化や、指示に沿って作業を進めるエージェント用途が得意です。大量のコードを一度に読める点も開発向きです。
Q5. ChatGPTやClaudeの代わりになりますか?
コーディング用途では十分に競争力があります。ただし総合的な使いやすさや安全性は、目的に合わせて比較することをおすすめします。
まとめ
LongCat-2.0は、AI業界の常識を揺さぶる一台でした。ポイントを振り返ります。
- 美団が公開した1.6兆パラメータの巨大AIで、MITライセンスで無料
- NVIDIA製GPUを使わず、国産チップだけで訓練した初のフロンティア級モデル
- 2か月間「Owl Alpha」として匿名で首位を独走していた実力者
- コーディング性能はGPT-5.5を上回る場面もあり、料金は数分の1
- 日本の企業や個人も自由に使えるが、機密情報の扱いには注意が必要
まずはHugging Faceの公開ページやAPIで、その実力を自分の目で確かめてみてはいかがでしょうか。

