- ChatGPTの会話57万件を調べたら、3分の1以上が「物語作り」だった
- 一番人気はファンフィクション(49%)、次いでエロティカ(27%)
- 一部のヘビーユーザーが同じ物語を何千回も作り直していた実態
- Doki Doki Literature Clubやナルトなど、人気作品が舞台に
- Character.AIやNovelAIとの違い、日本のユーザーへの意味もわかる
あなたはChatGPTを何に使っていますか?仕事のメール、調べもの、翻訳。多くの人はそう答えます。
ところが、実際の会話データ57万件をのぞいてみると、まったく別の姿が見えてきました。その3分の1以上が「物語づくり」に使われていたのです。この記事では、その驚きの研究結果をやさしく解説します。
ChatGPTの3分の1は「物語作り」だった
2026年6月末、ある研究論文が公開されて話題になりました。タイトルは「AI Fiction in the Wild(野生のAIフィクション)」です。
この研究を行ったのは、アメリカのワシントン大学とコロラド大学ボルダー校のチームです。ニール・グプタ氏、マリア・アントニアク氏、メラニー・ウォルシュ氏の3人が中心になりました。
彼らが調べたのは、実際にやり取りされたChatGPTの会話です。その数、なんと57万件以上。英語の会話をまとめて分析しました。
すると、意外な事実がわかりました。全体の34%、つまり3分の1以上が「フィクション(作り話)」を生み出すために使われていたのです。
ここでいうフィクションには、いろいろな種類があります。オリジナルの小説、キャラクターになりきる「ロールプレイ」、既存の作品を使った「二次創作」などです。
「AIは仕事の道具」というイメージが強いですよね。でも実際は、多くの人が娯楽や創作の相棒として使っていたのです。
57万件をどう調べた?公開データ「WildChat」の正体
「他人の会話をのぞくなんて、プライバシーは大丈夫なの?」と思ったかもしれません。ここが大事なポイントです。
研究チームが使ったのは、「WildChat(ワイルドチャット)」という公開データです。これはアレン人工知能研究所(AI2)という団体が集めたものです。
集め方には工夫があります。「あなたの会話を研究に使ってもいいですか?」と同意を得たうえで、無料でChatGPTを使ってもらい、その記録を匿名で保存しました。
だから、勝手にのぞき見たわけではありません。ユーザーが「使ってOK」と認めた会話だけが対象です。
WildChatの規模はとても大きく、会話は100万件を超え、68の言語が含まれています。2023年から2024年にかけて集められました。
今回の研究チームは、その中から英語の会話57万件以上を取り出し、じっくり中身を読み解いたのです。
一番人気はファンフィクションとエロティカ
では、人々はどんな物語を作っていたのでしょうか。中身を分類すると、はっきりした傾向が出ました。
もっとも多かったのはファンフィクション(二次創作)で、フィクション全体の49%を占めました。約半分です。
二次創作とは、すでにある漫画やゲームのキャラクターを借りて、自分だけの物語を作ることです。「もしこのキャラがこんな状況になったら」を想像して書きます。
2番目に多かったのは、エロティカ(性的な内容)で27%でした。4分の1以上がこのジャンルだったのです。
どんな作品が舞台に選ばれたかも調べられています。言及された回数を見ると、上位はこうなりました。
- Doki Doki Literature Club(恋愛ゲーム):22,381回
- Freedom Planet(アクションゲーム):5,204回
- League of Legends(対戦ゲーム):4,514回
- NARUTO -ナルト-(人気漫画):4,342回
1位のDoki Doki Literature Clubは、2位以下を大きく引き離しています。この作品には、あとで触れる「ある理由」がありました。
「無限に物語を求める人」あるユーザーの異常な熱量
この研究でもっとも驚かれたのが、一部の「ヘビーユーザー」の存在です。
研究チームは彼らを「infinite story demanders(無限に物語を求める人たち)」と名づけました。同じような物語を、長い期間にわたって何度も何度も作り直す人たちです。
数字がその熱量を物語ります。もっともよく使う上位2%のユーザーでは、プロンプト(AIへの指示)の69%が「繰り返し」だったのです。ほぼ同じ内容を、少しずつ変えて何度も投げていました。
中でも際立った一人がいました。この人物は数か月にわたり、Doki Doki Literature Clubのヒロイン「ナツキ」が出産する場面の物語を作り続けたのです。
「ナツキが急に産気づいて、その先を続けて」という指示を、なんと何千回も繰り返したと報告されています。1位の言及回数が飛び抜けていた理由は、ここにあったのです。
研究チームはこの人を「極端な例外」と呼びました。ただ、程度の差はあれ、似た傾向を持つ人は少なくなかったといいます。1時間に複数の物語を生み出す人も80人以上いました。
なぜ、人は同じ物語を何千回も作るのでしょうか。研究では「solipsistic reader-writer(自己完結する読み手=書き手)」という考え方が示されました。
これは、たった一人でAIと向き合い、自分で物語を生み出しながら、同時にそれを読んで楽しむ姿を指します。書く人と読む人が同じ、閉じたループの中にいるのです。
Character.AIやNovelAIと何が違う?
「物語作りなら、専用のAIもあるのでは?」と思う人もいるでしょう。実は、AI創作の世界には有名なサービスがいくつもあります。
それぞれの特徴を、かんたんに整理してみましょう。
- ChatGPT:もともとは万能アシスタント。物語専用ではないのに、多くの人が創作に使っている点が今回の発見です
- Character.AI:キャラクターと会話することに特化。好きな人物になりきったAIと延々とおしゃべりできます
- NovelAI:小説の執筆に特化した有料サービス。文章の続きを書かせたり、挿絵を生成したりできます
- AI Dungeon:物語を冒険ゲームのように進められる、老舗のAI創作サービスです
ここで注目したいのは、ChatGPTは「創作専用ではない」のに、これほど創作に使われているという事実です。
専用サービスがたくさんあるのに、あえて汎用のChatGPTが選ばれる。その理由を研究チームは、「手軽さ」「反応の速さ」「マニアックな要望にも応える柔軟さ」の組み合わせだと分析しています。
日本のユーザーと創作にとっての意味
この研究は英語の会話が中心でした。でも、日本の私たちにとっても人ごとではありません。
理由の一つが、ランキングの顔ぶれです。上位にナルトが入り、恋愛ゲームやアニメが舞台になっています。日本発のコンテンツが、世界中でAI創作のネタになっているのです。
日本には「pixiv」や「小説家になろう」といった、二次創作や小説投稿の巨大な文化があります。AIはこの流れを、さらに加速させる可能性があります。
一方で、大きな課題も見えてきます。二次創作は元の作品があってこそ成り立ちます。AIが大量に物語を生み出すことで、著作権やクリエイターの権利がどうなるのか、という議論は避けて通れません。
ある個人クリエイターの立場を想像してみてください。自分が生み出したキャラクターが、知らないうちにAIで何千もの物語に使われている。うれしい反面、複雑な気持ちにもなるはずです。
AIによる創作が当たり前になるこれからの時代、「作る楽しさ」と「作り手を守るルール」のバランスが、日本でも問われていきそうです。
よくある質問(FAQ)
Q1. この研究は勝手に人の会話をのぞいたのですか?
いいえ。使われたのは「WildChat」という、ユーザーが同意したうえで匿名で集められた公開データです。無断で個人の会話を見たわけではありません。
Q2. 57万件すべてを人が読んだのですか?
全部を人力で読んだわけではありません。研究では57万件超を対象に傾向を分析し、その中から代表的な数千件を選んで、より詳しく中身を調べています。
Q3. なぜDoki Doki Literature Clubが1位なのですか?
あるユーザーが、このゲームのキャラクターの物語を数千回も作り続けたためです。極端なヘビーユーザー一人の影響で、言及回数が大きく伸びました。
Q4. ChatGPTで二次創作をするのは問題ないのですか?
個人で楽しむ範囲なら大きな問題になりにくいですが、公開や販売をする場合は元作品の著作権に注意が必要です。作品ごとにルールが異なるため、確認をおすすめします。
まとめ
今回の研究が教えてくれたことを、最後に整理します。
- ChatGPTの会話57万件超を調べたら、3分の1以上が「物語作り」だった
- フィクションの内訳は、ファンフィクション49%、エロティカ27%が中心
- 一部のヘビーユーザーは、同じ物語を何千回も作り直していた
- 上位2%のユーザーは、指示の69%が「繰り返し」だった
- Character.AIなど専用サービスがある中で、汎用のChatGPTが選ばれている
- 日本発の作品も多く登場し、著作権や創作文化への影響が問われる
AIは「仕事の道具」であると同時に、「一人で物語を楽しむ相棒」にもなっている──。あなたも一度、ChatGPTで好きな物語を書かせてみてはいかがでしょうか。

