- KPMGとAnthropicが2026年5月19日、世界規模のAI提携を発表しました
- 世界138カ国、約27万6000人のKPMG社員がClaudeを使えるようになります
- 業務ソフト「Digital Gateway」にClaudeが直接組み込まれます
- 税務向けツールづくりが「数週間→数分」に短縮されます
- 日本のあずさ監査法人でもAIエージェントの活用が進んでいます
「監査法人」と聞くと、ぶ厚い書類と数字に向き合う仕事を思い浮かべるかもしれません。
その堅い世界が、いま大きく変わろうとしています。
世界4大会計事務所のひとつKPMGが、AIを全社員に配る決断をしました。対象は27万人以上です。
この記事では、何が発表されたのか、ライバルはどう動いているのか、そして日本にどう関係するのかを、やさしく解説します。
KPMGとAnthropicが結んだ「世界規模の提携」とは
2026年5月19日、大きなニュースが飛び込んできました。
会計事務所のKPMGと、AI企業のAnthropic(アンソロピック)が、世界規模の提携を結んだのです。
KPMGは「Big4」と呼ばれる世界4大会計事務所のひとつです。監査(会社の決算が正しいかをチェックする仕事)や税務、コンサルティングを手がけています。
その規模は世界138カ国、社員は約27万6000人にのぼります。
一方のAnthropicは、対話型AI「Claude(クロード)」を開発する会社です。ChatGPTのライバルとしてよく知られています。
今回の提携で、KPMGの全社員27万6000人がClaudeを使えるようになります。
KPMGのビル・トーマスCEOは「セキュリティ・信頼・ガバナンスを最優先する、責任あるAIへの共通の思いを反映したものだ」とコメントしました。
実はKPMGは、いきなりこの規模に踏み切ったわけではありません。
アメリカのKPMGでは、過去2年間にわたってClaudeを先行導入していました。その手応えがあったからこその全社展開です。
「Digital Gateway Powered by Claude」で何ができる?
今回の提携の目玉は「Digital Gateway Powered by Claude」という仕組みです。
Digital Gatewayとは、KPMGの社員と顧客が実際の仕事に使う業務ソフトのことです。マイクロソフトのクラウド「Azure」の上で動いています。
ここに、Claudeの2つの機能が直接組み込まれます。
ひとつは複数人で作業を進める「Cowork」、もうひとつは作業を自動でこなす「Managed Agents」です。
つまり、社員はわざわざ別のAIアプリを開く必要がありません。ふだん使う画面の中で、そのままClaudeに頼めるようになります。
ちなみにKPMGは、Big4の中で初めて、自社の主力プラットフォームにClaudeを直接組み込んだ事務所になりました。
数週間かかった作業が数分に
この提携でいちばんわかりやすい変化は「スピード」です。
ある場面を想像してみてください。政府が新しい税制(税金のルール)を発表しました。
KPMGの税務チームは、その変更に顧客が対応できるよう、専用のAIツールを用意します。
これまでこの作業には数週間かかっていました。担当者が複数のツールやチャット画面を、何度も行き来していたからです。
ところがDigital Gatewayの中でCoworkとManaged Agentsを使えば、同じツールがわずか数分で完成します。
数週間が数分へ。働き方そのものが変わるレベルの差だと言えます。
税務・法務からサイバーセキュリティまで
Claudeが活躍する場面は、税務だけではありません。
たとえば、ある投資ファンドが1つの会社を買収したとします。
買収した会社のシステムやデータは、すぐに分析しなければなりません。ここでKPMGはプログラミング支援AI「Claude Code」を使い、作業を一気に加速させます。
Anthropicはこの「プライベートエクイティ」(PE、企業に投資して価値を高める投資ファンド)の分野で、KPMGを優先パートナーに指名しました。
投資先の企業向けに、両社で新しい製品を共同開発する計画も進みます。
サイバーセキュリティの現場でも活躍します。
企業のシステムには、見えない弱点(脆弱性)が潜んでいることがあります。Claudeはその弱点を探し出し、直す作業を手伝います。
さらに、古くなって動きの悪いITシステムを、新しく作り直す作業にも使われます。
なぜ大手監査法人がこぞってAIと組むのか
「なぜ会計事務所が、そこまでAIに力を入れるの?」と思った人もいるはずです。
理由はいくつかあります。
1つめは、仕事の中身です。監査や税務は、大量の書類やデータを1件ずつ確認する作業のかたまりです。
こうした地道な確認作業は、AIがとても得意とする分野です。つまり相性がいいのです。
2つめは、人材をめぐる競争です。優秀な若手は、最新のAIを使える職場を選びます。AIへの投資は、採用力にも直結します。
3つめは、顧客の期待です。企業はいま「AIを使いこなす専門家」に相談したいと考えています。
ただし、KPMGは大事な点もあわせて強調しています。
KPMGはテキサス大学オースティン校との共同研究で、AIを導入しても人間の判断力こそが価値の源だと示しました。
AIはあくまで道具です。最後に責任を持って判断するのは人間、という考え方です。
競合比較:Big4のAI提携を整理する
AIと組んでいるのは、KPMGだけではありません。Big4の他の3社も、それぞれ動いています。
状況を整理してみましょう。
- PwC:Anthropicとの提携を拡大。さらにMicrosoft・Google Cloud・AWS・OpenAIとも組む「マルチベンダー戦略」をとっています。2023年には生成AIに10億ドル(約1500億円)を投じると発表しました。
- デロイト:2025年にAnthropicと提携。世界の社員約47万人にClaudeを展開しています。
- KPMG:今回の提携。Big4で初めて、主力プラットフォームにClaudeを直接組み込みました。
- EY:複数のAIベンダーと連携しながら、独自のAIプラットフォームの強化を進めているとされます。
こうして見ると、Big4はそろってAIへの巨額投資に走っているとわかります。
中でもKPMGの特徴は「Claudeを業務ソフトの内側に埋め込んだ」点です。社員が特別な操作をしなくてもAIを使える形にした、ということです。
つまり競争の焦点は「AIを導入したかどうか」から「どれだけ自然に使える形にしたか」へ移りつつあります。
日本市場への影響:あずさ監査法人とAIの今
「これは海外の話でしょう?」と感じた人もいるかもしれません。でも、日本も無関係ではありません。
日本のKPMGは「KPMGジャパン」と呼ばれます。監査を担うのは、あずさ監査法人です。
今回の世界規模の提携は、日本のメンバーファームにも広がっていくと見られています。
実は、日本でもAI活用はすでに進んでいます。
KPMGジャパンは監査プラットフォームにAIエージェントを導入し、会計士1000人規模で使う計画を進めてきました。
2026年3月には、企業の「AIエージェント管理態勢」づくりを支援するサービスも本格化しました。
さらに2026年5月には、サステナビリティ情報(環境や人権への取り組みの開示)の保証業務にも、AIエージェントを使い始めています。
日本企業にとって、これは他人事ではありません。
監査を受ける会社は、AIを前提とした新しいチェックの流れに合わせる必要が出てきます。
会計士をめざす学生にとっても、AIを使いこなす力が今後の必須スキルになりそうです。
よくある質問(FAQ)
Q1. KPMGの監査は、これからすべてAIがやるようになるの?
いいえ。AIは確認作業や下準備を助ける道具です。最終的な判断と責任は、人間の専門家が担います。KPMG自身も「人間の判断力が価値の源」と強調しています。
Q2. ClaudeとChatGPTは何が違うの?
どちらも文章を理解して答えるAIです。ClaudeはAnthropicが開発し、安全性や企業利用での信頼性を重視している点が特徴とされます。今回KPMGが選んだのもClaudeです。
Q3. 顧客の機密データは安全なの?
KPMGは「セキュリティ・信頼・ガバナンスを最優先する」と明言しています。Claudeは顧客データが集まるDigital Gatewayの中で動くため、KPMGのデータ管理の枠組みの中で利用されます。
Q4. 日本のあずさ監査法人でもClaudeが使えるの?
今回の提携は世界規模なので、日本のメンバーファームにも広がると見られています。日本ではすでに別のAIエージェント活用も進んでおり、AI監査への流れは加速しています。
Q5. 会計士や税理士の仕事は、AIに奪われてしまうの?
単純な確認作業は、AIが引き受ける可能性が高いです。一方で、複雑な判断や顧客への助言は人間の役割として残ります。AIを使いこなせる人ほど、価値が高まると言われています。
まとめ
今回のポイントを振り返ります。
- KPMGとAnthropicが2026年5月19日、世界規模のAI提携を発表しました
- 世界138カ国、約27万6000人の社員がClaudeを使えるようになります
- 業務ソフト「Digital Gateway」にClaudeが直接組み込まれます
- 税務向けツールづくりが「数週間→数分」に短縮されます
- Big4はそろってAIへ巨額投資。KPMGは「埋め込み型」が特徴です
- 日本のあずさ監査法人でもAIエージェントの活用が進んでいます
AIは、もはや一部の専門家だけの道具ではありません。
監査や税務という堅い仕事の世界にも、一気に広がり始めています。
まずは身近なニュースとして、Big4各社のAI活用の動きを追いかけてみてください。働き方の未来が見えてくるはずです。
参考文献
- Anthropic「KPMG integrates Claude across its core business and workforce of more than 276,000 in strategic alliance」
- KPMG「KPMG and Anthropic sign global alliance and launch Digital Gateway Powered by Claude」
- Accounting Today「KPMG enters alliance with Anthropic」
- KPMGジャパン「KPMG、監査プラットフォームにAIエージェントを導入し監査業務を変革」
- 日本経済新聞「KPMG、監査にAIエージェント 9月から会計士1000人で利用」

