- スターバックスがNomadGoと共同開発したAI在庫管理ツールを、導入からわずか9カ月で廃止しました
- 牛乳やシロップを自動で数える仕組みでしたが、数え間違いやラベル誤りが多発しました
- 当初は「手作業の8倍速い、精度99%」とうたわれていました
- 北米の11,000店舗以上が対象で、現在は手作業の在庫管理に戻しています
- 日本のスターバックスには導入されておらず、AI導入の進め方を見直すヒントになります
最先端のAIを入れれば、面倒な作業はすべて自動化できる。そう思ったことはありませんか。ところが世界的なコーヒーチェーン、スターバックスが導入したAIを、たった9カ月で手放しました。何が起きたのでしょうか。この記事では失敗の原因と、私たちが学べる教訓をやさしく解説します。
スターバックスのAI在庫管理ツールとは何だったのか
まず、廃止されたツールがどんなものだったのか見ていきます。
スターバックスは2025年9月、北米の11,000以上の店舗にAI在庫管理ツールを導入しました。
このツールは「Automated Counting(自動カウント)」と呼ばれます。スタートアップ企業のNomadGo(ノマドゴー)と共同開発したものです。
仕組みはこうです。店員がカメラとLiDAR(光を使って距離を測るセンサー)を備えたデバイスで棚をスキャンします。
すると、牛乳やシロップ、コーヒー豆の在庫数をAIが自動で数えてくれます。
背景にあるのは「Spatial Vision」という技術です。画像を理解するコンピュータービジョン(映像から物を見分けるAI)と、空間を立体的にとらえる3D認識を組み合わせたものです。
狙いはシンプルでした。面倒な在庫数えを自動化し、バリスタが接客に集中できるようにすること。とても理にかなったアイデアに思えます。
なぜ9カ月で廃止されたのか
ところが、この便利なはずのツールはうまく動きませんでした。
2026年5月21日、通信社のロイターがスターバックスの社内文書を入手し、ツールの廃止を報じました。導入からわずか9カ月での撤退です。
廃止の理由は、ミスの多さでした。
AIは似た種類の牛乳を取り違えたり、商品を数え忘れたりしました。
その結果、在庫が足りなくなる「欠品」と、在庫が増えすぎる「過剰在庫」の両方が起きてしまったのです。
象徴的な出来事もあります。スターバックス自身が公開した宣伝動画の中で、AIがペパーミントシロップのボトルを数え落としている様子が映っていました。
現場の従業員は、むしろ廃止を歓迎しました。ある店員はこう書いています。「自動カウントを廃止してくれてありがとう。アイデアは素晴らしかったけれど、実行が難しかった」
現在、スターバックスは昔ながらの手作業による在庫管理に戻しています。
「8倍速い、99%精度」の触れ込みと現実のギャップ
では、なぜここまで期待外れの結果になったのでしょうか。
導入当初、このツールは華々しく宣伝されていました。「手作業の最大8倍の速さ」「精度は99%」という触れ込みです。
在庫を従来の8倍の頻度でチェックでき、リアルタイムで在庫状況がわかる。そんな未来が語られていました。
CEOのブライアン・ニコル氏も、商品の欠品が売上を落としていると考え、在庫管理の改善を急いでいました。
しかし現実は違いました。デモ環境ではうまく動いても、実際の店舗は棚の並び方も照明も商品の置き方もバラバラです。
AIはその多様さに対応しきれませんでした。
「99%の精度」という数字も曲者です。残りの1%がミスでも、毎日何百回と数える現場では、その積み重ねが大きな混乱を生みます。
他社のAI在庫管理システムと比べてどうなのか
在庫管理の自動化に挑んでいるのは、スターバックスだけではありません。代表的な方式を比べてみましょう。
従来の手作業。店員が目で見て数える方法です。時間はかかりますが、人が判断するので柔軟に対応できます。
NomadGo方式(今回のツール)。店員がカメラ付きデバイスを持って棚をスキャンします。ロボットより安く導入できますが、精度が課題でした。
Simbe Roboticsの「Tally」。店内を自走するロボットが棚をスキャンします。アメリカのスーパー、Schnucksなどが採用しています。
Amazonの「Just Walk Out」。天井のカメラとセンサーで購入を自動判定する無人レジ技術です。ただしAmazonも一部店舗でこの方式を縮小しました。
各社が知恵を絞っていますが、在庫管理の完全自動化はまだ難しいのが正直なところです。
日本のスターバックスや小売業への影響は?
気になるのは、日本への影響です。
結論から言うと、今回のツールは北米の店舗だけに導入されていました。日本のスターバックスでは使われていません。
そのため、日本の店舗のオペレーションに直接の変化はありません。
とはいえ、日本も他人事ではありません。日本のコンビニやスーパーでも、AIによる在庫管理や自動発注の導入が進んでいます。
ある小売業では、現場への説明がないままAI在庫システムを導入しました。その結果、スタッフがAIの提案を信用せず、導入3カ月後でも無視率が68%に達したという事例もあります。
大企業のスターバックスでさえつまずいたのです。日本企業にとっても「AIの導入は慎重に」という教訓になります。
このニュースから学べる3つの教訓
スターバックスの撤退は、AI活用を考えるすべての人にヒントをくれます。
実は、AI導入の失敗は珍しくありません。マサチューセッツ工科大学(MIT)の調査では、企業の生成AIの試験導入のうち95%がROI(投資した費用に見合う成果)を出せず失敗しているとされます。
失敗には共通パターンがあります。現場の声を聞かない、機能が複雑すぎる、使い方の教育が足りない。この3つです。
逆に、成功のコツも見えてきます。小さく試して効果を確かめる。現場の人を最初から巻き込む。そして「ここまでダメなら撤退する」というラインを決めておくことです。
その意味で、スターバックスの判断は「失敗」というより素早い損切りとも言えます。ダラダラ続けず9カ月で見切ったのは、むしろ賢い決断かもしれません。
よくある質問(FAQ)
スターバックスはAIを完全にやめたのですか?
いいえ。やめたのは在庫管理の自動カウントだけです。スターバックスは今後もサプライチェーン(商品の調達から店舗への供給までの流れ)でAIを活用する方針を示しています。
日本のスターバックスでもこのツールは使われていましたか?
使われていません。今回のツールは北米の店舗だけに導入されていました。日本の店舗のやり方は変わりません。
共同開発したNomadGoはどうなるのですか?
NomadGoはAI在庫管理を手がけるスタートアップです。大口の導入先を失った形ですが、技術そのものが消えるわけではなく、他の企業向けに改良を続けると見られます。
なぜ「99%の精度」でも失敗したのですか?
毎日何百回も数える現場では、残り1%のミスでも積み重なって大きな混乱になるからです。デモ環境と実際の店舗の違いも、精度が落ちた原因と考えられます。
AI在庫管理は今後も広がりますか?
広がると見られます。ただし今回のように、現場で使えるレベルまで精度を高めることが課題です。完全自動ではなく、人とAIが役割を分担する形が現実的でしょう。
まとめ
今回のポイントを振り返ります。
- スターバックスはNomadGoと共同開発したAI在庫管理ツールを、導入から9カ月で廃止した
- 牛乳やシロップの数え間違い・ラベル誤りが多発し、欠品と過剰在庫を招いた
- 当初は「手作業の8倍速い、精度99%」とうたわれていたが、現場では機能しなかった
- 対象は北米の11,000店舗以上で、日本のスターバックスには導入されていない
- MITの調査では企業の生成AI試験導入の95%が失敗しており、AIは万能ではない
AIの導入を考えているなら、まずは身近な業務で小さく試し、現場の声を聞きながら進めてみてください。
参考文献
- スターバックスがAI在庫管理ツールを導入から9カ月で廃止、ミス多発のため – GIGAZINE
- Starbucks abandons its AI inventory tool after only nine months – Engadget
- Starbucks scraps AI inventory tool across North America – CNBC
- NomadGo’s Inventory AI Brings Automated Counting to More than 11,000 Starbucks Locations – Business Wire
- MIT report: 95% of generative AI pilots at companies are failing – Fortune

