みどりの窓口の行列は減る?|JR東のAI実証

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • JR東日本が「みどりの窓口 AI対応サービス(仮称)」の実証機を2026年7月17日に報道公開した
  • 立川駅は7月20〜22日、大宮駅は7月23〜25日に一般客も体験できる実証を実施
  • 立川はNEC製、大宮はソフトバンク子会社Gen-AX製と、2タイプの実証機を比較検証
  • 今の段階でAIがやるのは「要望の聞き取りと整理」まで。発券は窓口係員が担当する
  • JR東日本は2030年代早期に、要望確認から発券までAIで一体対応することを目指している

新幹線のきっぷを買おうと、みどりの窓口に並んで20分。やっと順番が来た経験はありませんか。その行列を、AIが短くしてくれるかもしれません。JR東日本が公開した「AIみどりの窓口」の中身と、行列が本当に減るのかを整理します。

JR東日本が公開した「AIみどりの窓口」とは

JR東日本は2026年7月17日、報道関係者に向けて新しい装置を公開しました。名前は「みどりの窓口 AI対応サービス(仮称)」の実証機です。

この装置は、みどりの窓口の中に置かれた特設ブースに設置されます。利用者は画面の前に立ち、AIに話しかけてきっぷの相談をします。

実証実験の日程は2つに分かれました。立川駅が7月20日から22日、大宮駅が7月23日から25日です。それぞれの駅に2台程度が置かれ、一般のお客さんも実際に体験できる形で行われました。

この計画自体は、2026年6月9日にJR東日本とNECが発表しています。同じ日に、2027年春から近距離の乗車券をQRコードのきっぷに切り替え、磁気乗車券(裏が黒い、あの自動改札に通すきっぷ)を廃止する方針も出されました。

つまり、AI窓口は単発の話題ではありません。きっぷの買い方そのものを作り替える流れの一部なのです。

AIは実際に何をしてくれるのか

音声対話で「要望の整理」を担当する

AIの役割は、利用者が何を買いたいのかを聞き出して、きれいに整えることです。

装置に向かって「来週の金曜日に仙台まで行きたいです」と話しかけると、AIが足りない情報を順番に質問してきます。

聞かれるのは、利用日、乗る区間、人数、座席の種類、割引の有無といった項目です。学生割引を使うかどうかまで確認してくれます。

候補の経路が複数あれば、画面に並べて提示してくれます。利用者はそこから選ぶだけです。

発券するのは、あくまで人間の係員

ここが今回の実証で一番大事なところです。AIとの対話だけでは、きっぷは買えません。

AIがまとめた申込内容は、有人窓口にある係員のタブレットへ送られます。そして最終的な発券は、これまで通り駅員が行います。

JR東日本はこの仕組みを「AIは駅員の代わりではなく支援役」と説明しています。判断の責任は人が持ち、面倒な聞き取り作業をAIが肩代わりする役割分担です。

窓口の係員から見れば、お客さんが来た時点で「行き先も日付も人数も割引もすでに整理済み」の状態になります。1人あたりの対応時間が短くなれば、そのぶん行列も進みやすくなります。

NEC版とGen-AX版、2つの実証機はどう違う?

今回おもしろいのは、JR東日本が1社に絞らず2タイプを同時に試したことです。

立川駅に置かれたのはNECが開発した実証機です。こちらは音声とタッチ操作を組み合わせるハイブリッド型でした。基本は声で会話しますが、似た名前の駅を選ぶ場面や、経路の候補から1つ選ぶ場面では画面をタッチします。

「新宿」と「新宿三丁目」のように、声だけでは取り違えやすい選択を画面に任せる作りです。

大宮駅に置かれたのは、ソフトバンク子会社のGen-AXが開発した実証機です。こちらは音声対話だけで申込を完結させる方式でした。画面の左側には会話の履歴がチャットのように表示され、自分が何を伝えたか目で確認できます。

Gen-AXはコールセンター向けAIの開発で知見を積んできた会社です。電話越しに用件を聞き出すノウハウを、駅の窓口に持ち込んだ形といえます。

どちらが優れているかを決める競争ではありません。駅の環境で本当に使えるのはどちらの型か、実際のお客さんの反応で確かめるのが狙いです。

最大の壁は「駅のうるささ」と会話のテンポ

実証実験で重点的に検証されたのが、騒がしい駅での音声認識の精度です。

駅のコンコースには発車ベル、車内アナウンス、大勢の話し声が絶えず流れています。静かなオフィスでうまく動くAIが、そのまま駅で動く保証はどこにもありません。

もう1つの課題が、AIと人間のテンポの違いです。ベテランの駅員なら「大宮から仙台、金曜、大人2人」と早口で言われても一度で処理できます。AIが1項目ずつ丁寧に聞き返していたら、かえって時間がかかりかねません。

さらに、きっぷの売り方は駅ごとに傾向が違います。観光客の多い駅と、通勤客が中心の駅では、聞かれることがまったく変わります。

JR東日本の担当者も、地域や駅ごとに異なるニーズをどう学ばせるかが課題だと語っています。多言語対応も、現時点では「将来的に視野に入れている」段階です。

「話せる指定席券売機」と何が違うのか

「オペレーターと話せる券売機ならもうあるのでは」と思った人もいるはずです。実はこの2つは、似ているようで中身がまったく違います。

話せる指定席券売機は、画面の向こうに実在のオペレーターがいます。遠隔地のセンターに座った人間が、カメラ越しに対応する仕組みです。JR東日本エリアでは100カ所前後の駅に導入されていると言われています。

この方式の弱点は、人手が要ることです。1台につき1人のオペレーターが必要なので、混雑時間帯には結局待たされます。窓口の場所が変わっただけ、という声も出ていました。

一方のAI対応サービスは、聞き取りの部分に人を必要としません。装置を2台置けば2人分の会話が同時に進みます。増やすほど処理能力が上がるのが、遠隔オペレーター方式との決定的な差です。

従来の指定席券売機(タッチパネル操作のみ)とも違います。券売機は「操作方法を知っている人」には速いのですが、複雑な割引や乗り継ぎになると途端に難しくなります。AI窓口は、そこを言葉で相談できるようにするアプローチです。

鉄道業界でのAI活用は広がっています。JR西日本は2026年6月25日、新幹線の車掌研修に対話型AIのロールプレイングを導入すると発表しました。こちらはAIが「お客さん役」を演じて、社員の接客力を鍛える使い方です。

なぜ今なのか——みどりの窓口をめぐる5年間

この実証の背景には、JR東日本が経験した手痛い失敗があります。

同社は2021年、約440駅にあったみどりの窓口を、2025年までに140駅程度まで減らす計画を打ち出しました。券売機とネット予約に置き換える構想です。

ところが2024年春、削減が進んだ駅で激しい混雑が発生しました。定期券や学割の手続きで長い行列ができ、批判が集まります。

JR東日本は2024年5月の会見で、この削減方針を凍結すると表明しました。現在は209駅の窓口を当面維持する方針に転換しています。2026年3月下旬には、新年度とゴールデンウィークに備えて46駅で窓口を増設し、5駅で臨時窓口を開設しました。

ただし、人手不足という現実は変わりません。窓口を維持したくても、駅員をいくらでも増やせるわけではないのです。

「窓口を減らして機械に置き換える」でも「窓口を守って人を増やす」でもない、第三の道を探した結果が今回のAI窓口だといえます。

日本の利用者と企業にとって、これは何を意味するか

まず旅行者にとってのメリットです。年に数回しか新幹線に乗らない人ほど、恩恵が大きくなります。

たとえば、金曜夜に東京から新潟の実家へ帰る会社員を想像してみてください。券売機の画面で「乗車券」「特急券」「往復割引」の関係がわからず固まってしまう。そんなとき、AIに「金曜の夜に新潟まで、日曜に戻ります」と話すだけで候補が出てくるなら、券売機の前で立ち止まる時間は確実に減ります。

訪日外国人にとっても大きな話です。2026年上半期の訪日客数は2108万4800人、4〜6月期の消費額は2兆5096億円で四半期として過去最高でした。この規模の人が日本の複雑な運賃制度と格闘しています。多言語対応が実装されれば、窓口の負担は目に見えて軽くなります。

企業にとっての意味も見逃せません。JR東日本がやろうとしているのは、AIによる置き換えではなく前工程の分業です。

これは駅に限った話ではありません。銀行の窓口、市役所の手続き、保険の相談。どれも「何をしたいのか聞き出す」時間が対応の大半を占めます。そこだけAIに任せ、判断と責任は人が持つ。この設計はそのまま他の業界へ持ち込めます。

NECもGen-AXも、ここで得た知見を他社向けのサービスに展開してくるはずです。駅の窓口は、実は日本中の対面業務の実験場になっています。

よくある質問(FAQ)

Q1. いま立川駅や大宮駅に行けば使えますか?

A. 今回の実証実験は立川駅が2026年7月20〜22日、大宮駅が7月23〜25日の期間限定でした。すでに終了しています。本格導入の時期は公表されていません。

Q2. AIと話すだけできっぷは買えますか?

A. 実証段階では買えません。AIは要望をまとめて窓口係員のタブレットに送るところまでを担当し、発券は係員が行います。JR東日本は2030年代早期に発券まで一体対応することを目指しています。

Q3. 英語や中国語には対応していますか?

A. 今回の実証は日本語が中心です。多言語対応は将来の実装課題として位置づけられています。

Q4. みどりの窓口はまた減らされるのですか?

A. JR東日本は2024年5月に削減方針を凍結し、209駅を当面維持する方針を示しています。2026年3月下旬には46駅で窓口を増設もしました。AI導入は窓口廃止のためというより、1件あたりの対応時間を短くする取り組みです。

Q5. 高齢者や機械が苦手な人はどうなりますか?

A. AIは話し言葉で操作できるため、券売機のタッチパネルより敷居が低い可能性があります。ただし駅の騒音下での聞き取り精度が課題で、そこが実証の検証項目になっていました。

まとめ

  • JR東日本が「みどりの窓口 AI対応サービス(仮称)」の実証機を2026年7月17日に公開した
  • 立川駅(7月20〜22日)でNEC製、大宮駅(7月23〜25日)でGen-AX製の2タイプを検証した
  • NEC版は音声とタッチの併用、Gen-AX版は音声のみで完結する方式という違いがある
  • AIの役割は要望の聞き取りと整理まで。発券は窓口係員が担当する「支援役」の設計
  • 背景には2021年からの窓口削減計画と、2024年春の混雑を受けた方針凍結がある
  • 駅の騒音下での音声認識精度と、AIと人の会話テンポの差が最大の課題
  • 目標は2030年代早期に、要望確認から発券までをAIで一体対応すること

次にみどりの窓口へ行くときは、行列の長さより「1人あたりの対応にかかっている時間」を眺めてみてください。AIが削ろうとしているのは、まさにそこです。

参考文献