- プログラマではない書き手が、AIを使って約7万5000行のアプリを3ヶ月で完成させました
- 本当の苦労は完成後。社内で使い始めた瞬間に「運用の壁」が立ちはだかりました
- Webアプリへの改修は1日で終わったのに、実運用では18項目もの不具合が噴出しました
- GitClearの2026年調査では、AI時代にコードの重複が81%増えたと報告されています
- 作る前に決めておくべき5つのチェックポイントを、日本企業の事情に合わせて解説します
「AIがあれば、プログラマでなくても社内システムは作れる」。そんな話を聞いたことはありませんか。実際に作れてしまう時代です。ただし本当の勝負は、作り終えたあとに始まります。7万5000行のアプリを完成させた人が直面した「運用の壁」から、失敗しない進め方を学びましょう。
7万5000行を3ヶ月で。非エンジニアが作った社内サービス
2026年7月27日、ASCII.jpにひとつの体験記が公開されました。
書いたのは、ゲーム業界に長く関わってきた新清士(しん きよし)さんです。新さんはプログラマではありません。
それでも、画像と動画を生成できるアプリ「百夜スタジオ」を作り上げました。もともとは自分ひとりで使うための道具でした。
ComfyUI(画像生成AIを部品のようにつなげて使うツール)やLM Studio(自分のパソコンでAIを動かすソフト)を、使いやすく包むアプリだったのです。
転機は、勤め先であるバリーン・スタジオの社内研修ツールとして使うことになった瞬間でした。創業7年目、スタッフ約50名の会社です。
ひとり用のデスクトップアプリを、みんなが使えるWebサービスに変える。コードの規模は約7万5000行、改修にかかった期間は3ヶ月でした。
AIが登場する前なら、数人がかりで1年はかかる規模です。
なぜ作れた? 設計はClaude、実装はCodexの二刀流
役割を分けてAIを使う
新さんが使ったのは、2種類のAIコーディング環境でした。
ひとつはAnthropicの「Claude Fable 5」、もうひとつはOpenAIの「Codex(GPT-5.5)」です。
面白いのは使い分けです。サーバー構成の設計はClaudeに任せ、実際のコードを書く作業はCodexに担当させました。
できあがった構成は、驚くほど素朴でした。Python(初心者にも人気のプログラミング言語)とFlask(小さなWebサービスを作る仕組み)、そしてSQLite(1個のファイルで動く軽量なデータベース)です。
画像生成の処理は、社内にある3台のパソコンに任せます。RTX 3070ti、RTX 4090、RTX 5090という、絵を描くのが得意な部品を積んだマシンです。
「作る」ハードルは本当に下がった
ここまでの話だけを聞けば、夢のような時代に見えます。
実際、社内向けの小さな業務ツールなら、外注に50万円と2週間かけていたものが、月3000円ほどのAIツールと1日で完結したという報告もあります。
ちなみに日本でも、非エンジニアの社員が数時間でアプリを作る研修が広がっています。作ること自体は、もう特別なスキルではなくなりつつあります。
立ちはだかった「運用の壁」で起きた3つのこと
1. 誰も原因を切り分けられない
初版を配ったあと、トラブルが次々に起きました。
最初の版はスタッフのパソコン側で動く形だったため、サーバーのIPアドレス(ネット上の住所にあたる番号)の設定ミスでつながらない人が出ます。
手元のプログラムが古いままなのに、本人がそれに気づいていないケースもありました。
いちばん厄介だったのは、そのパソコン特有の問題なのか、サーバー側の問題なのかを切り分けられないことです。
不具合が出るたびにAIに直してもらい、実機で確認する。新機能を足すと、またトラブルが出る。この繰り返しでした。
2. 「1日で改修完了」の落とし穴
社長からの指摘を受け、完全なWebアプリ型へ全面改修することになります。
改修そのものは、AIの力で1日で終わりました。ところが実際に運用に乗せた途端、18項目もの不具合が見つかったのです。
個人用のコードと社内共有用のコードがGitHub上でぶつかる。処理に失敗したのに「完了しました」と報告してくる部品もありました。
修正には、まる1日かかりました。作るのは1日、直すのも1日。この釣り合いの悪さが、運用の現実です。
3. AIごとに「クセ」が違う
Claude系とCodex系を併用するなかで、新さんはそれぞれに異なる弱点があることに気づきます。
どちらか一方に任せきりにするのではなく、クセをつかんで組み合わせる必要がある、というのが結論でした。
そして体験記はこう締めくくられます。「コードを書けることと、運用できることは違う」。この一文が、今回いちばん重い教訓です。
データで見る「AIコードの保守性ギャップ」
これは個人の感想ではありません。数字も同じ方向を指しています。
コード分析会社のGitClearは、2億1100万行という膨大なコードを調べました。
その結果、コピー&ペーストされた行の割合は2021年の8.3%から2024年には12.3%へ増えています。相対的に約48%の増加です。
逆に、書き直して整理する「リファクタリング」の割合は24〜25%から10%未満へ落ち込みました。
同社の2026年版レポートでは、さらに厳しい数字が並びます。コードの塊の重複は81%増、エラーを握りつぶす書き方は47%増、他のファイルの機能を呼び出す割合は35%減です。
つまり「同じような処理が、あちこちにコピーされて散らばっている」状態が広がっています。1箇所直せば済んだはずの修正が、10箇所探す作業に変わるということです。
セキュリティ面でも注意が必要です。Veracodeの2025年の調査では、AIが生成したコードの45%に何らかの弱点が見つかったと報告されています。
ツール比較:作るためのAIと、動かし続けるためのAI
では、どのツールを選べばいいのでしょうか。2026年時点で、選択肢は大きく2種類に分かれます。
- アプリビルダー型(Lovable、Replit、v0など):画面から作りたいものを説明すると、動くWebアプリが公開状態まで一気に用意されます。Lovableの入門プランは月20ドル前後です
- コーディング支援型(Claude Code、OpenAI Codex、Cursor、Windsurfなど):自分の手元のコードを深く理解して直してくれます。Claude Codeは月20〜200ドル、CodexはChatGPTのPlus(月20ドル)やPro(月200ドル)に含まれます
非エンジニアが最初のひとつを選ぶなら、公開まで面倒を見てくれるアプリビルダー型が近道です。
一方、今回の新さんのように数万行規模まで育ったものを直し続けるなら、コーディング支援型が向いています。
ただし、どちらを選んでも「運用」は付いてきません。ログを見る、バックアップを取る、誰かが困ったときに答える。この部分は依然として人間の仕事です。
日本企業への影響:増える「野良アプリ」と、ひとり情シス
この話は、日本の職場にとって他人事ではありません。
ある調査では、日本のナレッジワーカーの78%が、会社の許可を得ていないAIツールを職場で使っているとされています。
さらに、IT部門以外が選んだ生成AIツールの利用を認めている企業は75%にのぼります。実態を把握できていない、あるいは対策を取れていない企業は合計73%です。
ここで想像してみてください。営業部のAさんが、AIで受注管理アプリを作りました。便利なので10人が使い始めます。
半年後、Aさんが異動しました。誰もそのアプリの中身を知りません。エラーが出ても、直せる人がいないのです。
PwC Japanの「生成AIに関する実態調査2026 春」でも、効果を大きく出せている企業ほど、内製の運用体制をきちんと整えている傾向が示されています。
日本の中堅企業では、情報システム担当が1〜2名しかいない「ひとり情シス」も珍しくありません。作る人が増えるほど、支える側の負担は静かに膨らみます。
壁にぶつかる前に決めておく5つのこと
新さんの体験から、事前に決めておくと効く項目を整理します。
- 最初からWebアプリ型で作る:配布型は各パソコンの環境差でトラブルが起きます。今回も結局、全面改修になりました
- ログと動作確認の仕組みを先に入れる:「失敗したのに完了と報告する」ような不具合は、記録がないと見つけられません
- コードの置き場所を1本化する:個人用と共有用が分かれると、必ずぶつかります
- 引き継ぎメモをAIに書かせる:作った本人しか分からない状態が、いちばんの負債です
- 社内公開の前にIT部門へ一報を入れる:顧客情報や個人情報を扱うなら必須です
たとえば、経理担当者が請求書を仕分けるツールを作ったとします。便利です。しかし取引先の情報が入るなら、置き場所と権限の設計は避けて通れません。
製造現場で、点検記録をスマホから入力するアプリを作った場合も同じです。作った翌日から、それは「業務が止まったら困るシステム」に変わります。
よくある質問(FAQ)
Q1. プログラミングを全く知らなくても、社内アプリは作れますか?
作れます。今回の例が示す通りです。ただし完成後に必ずトラブルが起きるので、AIに質問しながら直し続ける根気は必要です。
Q2. 「運用」とは具体的に何をすることですか?
動き続けているかの確認、不具合の対応、データのバックアップ、使う人からの質問対応、AIツール側の仕様変更への追従などです。作る作業より地味ですが、終わりがありません。
Q3. AIが書いたコードは危なくないですか?
Veracodeの2025年調査ではAI生成コードの45%に弱点が見つかったと報告されています。社外に公開するものや個人情報を扱うものは、詳しい人のチェックを入れるのが安全です。
Q4. どのくらいの費用がかかりますか?
ツール代は月20ドル前後から始められます。ただし今回の例のように社内のパソコンで画像生成まで動かす場合は、機材代や電気代も加わります。
Q5. 会社に無断で作ってもいいのでしょうか?
おすすめしません。国内企業の7割超が無許可のAI利用を把握できていない状況で、情報漏えいのリスクが指摘されています。事前に一言相談するだけで、トラブルの多くは防げます。
まとめ
- 非エンジニアがAIを使い、約7万5000行のアプリを3ヶ月で社内Webサービス化しました
- 設計はClaude Fable 5、実装はCodex(GPT-5.5)という役割分担が効きました
- Webアプリへの改修は1日で完了したものの、実運用では18項目の不具合が発生しました
- GitClearの調査では、コードの重複が81%増、リファクタリングは10%未満に減少しています
- 日本ではナレッジワーカーの78%が無許可のAIツールを使っており、運用体制の整備が急務です
まずは業務で使っている手作業をひとつ選び、「作ったあと誰が面倒を見るか」を決めてから、小さく試してみてください。
参考文献
- ASCII.jp「社内WebサービスをAIで開発 完成後に直面した運用の壁」(新清士、2026年7月27日)
- GitClear「The Maintainability Gap: 2026 AI Code Quality Research」
- LeadDev「Code maintainability plummets in the AI coding era」
- ASCII.jp「“ひとり情シス”状態はビジネスリスク/シャドーAIを管理できている企業は3割未満」
- PwC Japanグループ「生成AIに関する実態調査2026 春」
- Appwrite「Best vibe coding tools in 2026」

