iPhoneに穴87件|見つけたのはAI

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • iOS 26.6は87件のCVE(脆弱性の識別番号)に対応する、過去最大級のセキュリティ更新
  • 謝辞欄にAnthropicのClaude、OpenAIのCodex Security、Z.aiのGLMなどAIの名前が並んだ
  • 背景にはAppleも参加するAnthropic主導の「Project Glasswing」がある
  • Glasswing参加企業は1万件超の高・重大度の脆弱性を発見したと報告されている
  • 日本のiPhone利用者がいますぐやるべきことは「設定からのアップデート」1つだけ

iPhoneの「アップデートがあります」の通知を、あとで、と閉じたことはありませんか。2026年7月27日に配信されたiOS 26.6は、少し事情が違います。修正された穴は87件。しかも、その一部を見つけたのは人間ではなくAIでした。何が起きているのかを整理します。

iOS 26.6で何が起きたのか

Appleは2026年7月27日(現地時間)、iOS 26.6とiPadOS 26.6を配信しました。

修正されたセキュリティ問題は78項目、CVE番号にすると87件にのぼります。CVEとは、世界共通で脆弱性につけられる管理番号のことです。1つの修正が複数のCVEをまとめて塞ぐことがあるため、数がずれます。

影響範囲はiPhoneのほぼ全域でした。App Store、Wi-Fi、Siri、画像処理、そしてNeural Engine(AI処理を担当する専用チップ)まで含まれます。

Mac向けのmacOS Tahoe 26.6では155件。watchOS、tvOS、visionOSもそれぞれ100件前後が修正されました。合計すると、Appleの歴史でも記録的な規模です。

報道では、アプリにroot権限(機器を何でも操作できる最上位の権限)を渡してしまう恐れのあるMediaRemoteの欠陥や、カーネル(OSの中核部分)レベルでコードを実行されうるAVEVideoEncoderの問題が挙げられました。

Apple自身は「悪用された報告はない」としています。ただし公開された時点で、攻撃者にも設計図が渡ったのと同じです。

「発見者」の欄にAIの名前が並んだ

今回とくに注目されたのは、修正の中身ではなく謝辞(クレジット)の欄でした。

Appleはセキュリティ更新のたびに、脆弱性を報告してくれた研究者の名前を載せます。そこに今回、AIの名前が混ざりました。

クレジットされたAIたち

  • Anthropic Claude:WebKit(Safariの心臓部にあたる表示エンジン)のメモリ関連の不具合、CVE-2026-64757の発見に貢献したと報じられています
  • OpenAI Codex Security:WebKitのメモリ管理の問題(CVE-2026-43707)と、書き込みが範囲外にはみ出す不具合(CVE-2026-43745)
  • Z.ai GLM:WebKitのメモリ脆弱性(CVE-2026-64783)
  • NVIDIA AI Red Team:macOSの権限昇格(CVE-2026-39875)とwatchOSのサンドボックス回避(CVE-2026-43701)

ここには含みがあります。AIは「人間の助手」として名前が出たのではなく、研究者と並ぶ発見者として記載されたのです。

これまでセキュリティ研究は、腕利きの人間が何週間もコードをにらむ仕事でした。その名簿に、機械が並び始めています。

なぜAIは脆弱性を見つけられるのか

脆弱性探しは、実はAIと相性がいい作業です。

ソフトウェアの穴の多くは、「ある特殊な条件がそろったときだけ、想定外の場所にデータが書き込まれる」といった細かいミスから生まれます。

見つけるには、膨大なコードを読み、ありえない入力の組み合わせを延々と試す必要があります。人間には退屈で、集中力が続きません。

AIは疲れません。何万通りの経路を並行して試し、怪しい箇所に印をつけ、実際に攻撃が成立するかまで検証できます。24時間働く、極端に根気強い監査担当者が何百人も増えたようなものです。

WebKit関連の指摘が目立つのも理由があります。ブラウザは外部から届く未知のデータを大量に処理するため、境界の判断ミスが起きやすい場所だからです。

背景にある「Project Glasswing」

今回の大量修正は、単発の出来事ではありません。

2026年4月7日、AnthropicはProject Glasswingという取り組みを発表しました。未公開の最先端モデル「Claude Mythos Preview」を使い、社会の基盤となるソフトウェアの穴を探して直す計画です。

発足時の参加企業は12社。AWS、Apple、Broadcom、Cisco、CrowdStrike、Google、JPMorgan Chase、Linux Foundation、Microsoft、NVIDIA、Palo Alto Networksなどが名を連ねました。その後40以上の組織にも利用が広がっています。

Anthropicは1億ドル分のモデル利用クレジットを提供し、オープンソースのセキュリティ団体にも400万ドルを寄付しました。

成果はすでに数字で出ている

2026年5月22日に公開された中間報告の数字が、この規模を物語ります。

  • 参加企業全体で、高・重大度の脆弱性を1万件以上発見
  • オープンソース領域では6202件を推定
  • Cloudflareは約2000件のバグを検出(うち400件が高・重大度)
  • MozillaはFirefoxで271件を検出
  • オープンソースの検証済み1752件のうち、90.6%が本物の脆弱性だった

誤検知が1割程度という精度は、実務で使える水準です。Appleの謝辞欄にAIが並んだのは、この流れの表に出た部分といえます。

他社のAIバグ探しと比べると

AIに脆弱性を探させる試みは、Anthropicだけではありません。

Google「Big Sleep」

DeepMindとProject Zeroが共同開発したAIエージェントです。2025年にオープンソースソフトウェアで20件の脆弱性を自動発見しました。

特筆すべきは、攻撃者だけが知っていたSQLiteの重大な欠陥(CVE-2025-6965)を、悪用される前に見つけて報告した事例です。守りが攻めに先回りした形になります。

XBOWなどの専業プラットフォーム

AIで侵入テストを自動化する専業サービスも育っています。Anthropicの中間報告でも、外部評価としてXBOWから「既存モデルより大幅な進歩」という評価を得たと記されています。

3つのアプローチの違い

  • Glasswing型:大手企業に強力なモデルを配り、各社が自社製品を自分でスキャンする。Appleのケースがこれにあたる
  • Big Sleep型:Google社内のチームが、社会インフラ的なソフトを狙い撃ちで検査する
  • 専業サービス型:企業が外部サービスとして侵入テストを買う

共通しているのは、人間の研究者を置き換えるのではなく、人間が最終判断する前の「ふるい」を機械に任せる設計です。

日本のiPhoneユーザーにとって何が変わるか

まず現実的な話をします。日本のスマホOSシェアは、2026年時点でAndroidが55.4%、iPhoneが44.6%とされます。iPhone利用者は依然として数千万人規模です。

ところが更新は行き渡っていません。2026年2月時点で、iOS 26の普及率は全iPhoneのうち66%程度という調査があります。3台に1台は、古いOSのまま使われている計算です。

ここが弱点になります。公開された脆弱性の情報は、誰でも読めます。専門家は「79%の組織が重要なパッチ適用に1日以上かかる」一方、攻撃者は公開から数時間で悪用に動くと指摘しています。

身近な場面で考えてみます。営業先のフリーWi-Fiにつないだ古いiPhoneで、届いたURLを開く。会社の書類が入った端末が、WebKitの穴を突かれる。ここまで一度も「怪しい操作」はしていません。

もう一つ。子どもに渡したお下がりのiPhoneが、更新されないまま家庭のWi-Fiにぶら下がっている家は珍しくありません。家庭内ネットワークの入り口になりえます。

中小企業では、経理担当者の私物iPhoneで請求書PDFを確認する運用もよくあります。端末1台の放置が、取引先情報の流出につながる経路になります。

いますぐやること

  • 「設定」→「一般」→「ソフトウェアアップデート」を開き、iOS 26.6を適用する
  • 同じ画面で「自動アップデート」をオンにしておく
  • iPad、Apple Watch、Macも同時に更新する(今回は全OSが対象)
  • 家族や社内の古い端末も忘れずに確認する

よくある質問(FAQ)

Q1. AIが見つけたバグは、人間が見つけたものより危険度が高いのですか?

危険度そのものはCVEの評価で決まり、発見者がAIかどうかは関係ありません。ただしAIは網羅的に探すため、これまで見逃されてきた地味で発見しにくい穴が表に出やすくなっています。

Q2. 87件も修正されたということは、iPhoneは危険なのですか?

逆の読み方が正確です。件数が増えたのは、検査の網が細かくなったからです。放置された穴が減るという意味では、更新した端末はむしろ安全になります。

Q3. 攻撃者も同じAIを使えるのではないですか?

その懸念は各社が共有しています。だからこそAnthropicは、最先端モデルを先に防御側へ配る形でGlasswingを設計したと説明しています。先に見つけて塞ぐ側が勝つという前提の競争です。

Q4. 古いiPhoneでもアップデートできますか?

iOS 26に対応している機種であれば適用できます。対応外の古い機種には、別途セキュリティ修正のみが配信される場合があります。設定画面で更新が出ない場合は、機種の対応状況を確認してください。

Q5. 企業として何を準備すべきですか?

更新の適用スピードを上げる体制づくりです。公開から悪用までの時間が短くなっている以上、月次の一斉更新では間に合わない場面が出てきます。

まとめ

  • iOS 26.6は78項目・CVE 87件に対応する記録的なセキュリティ更新
  • 謝辞欄にClaude、OpenAI Codex Security、Z.ai GLM、NVIDIA AI Red Teamが並んだ
  • 背景にはApple も参加するProject Glasswingがあり、参加企業全体で1万件超を発見
  • AIによる脆弱性発見の精度は9割超と報告され、実務水準に達している
  • 日本ではiOS 26の普及が66%程度にとどまり、更新の遅れが最大のリスク

この記事を読み終えたら、まず自分のiPhoneで「設定」→「一般」→「ソフトウェアアップデート」を開いてください。AIが見つけてくれた87件の穴は、あなたが更新ボタンを押して初めて塞がります。

参考文献