ChatGPTがEU最強規制へ|違反で売上6%

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • EUがChatGPTとRobloxを「超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP)」に指定する見通し。早ければ2026年8月
  • 基準はEU域内の月間利用者4500万人。ChatGPTの検索機能は1億2040万人、Robloxは約4800万人と大きく超えた
  • 指定されると、リスク評価・年次の外部監査・研究者へのデータ開示などが義務になる
  • 違反すると全世界の年間売上高の最大6%が制裁金。2026年7月にはAliExpressが約1020億円を科された
  • 日本でも2026年4月に情報流通プラットフォーム対処法が施行済み。方向性は似ているが強さがまったく違う

あなたが毎日使っているChatGPTが、いきなり「巨大SNSと同じ規制」の対象になると聞いたらどう感じますか。EUがまさにそれをやろうとしています。対象はChatGPTとRoblox。基準となる数字は「EU域内で月4500万人」でした。

EUがChatGPTとRobloxを「最も厳しい枠」に入れる

2026年7月29日、Bloombergが大きなニュースを報じました。

EUの執行機関である欧州委員会が、OpenAIのChatGPTとRoblox(ロブロックス)を「超大規模オンラインプラットフォーム」に指定するという内容です。

この枠組みはDSA(デジタルサービス法)という法律にもとづくものです。DSAは、ネット上の違法な情報や有害な情報にプラットフォーム側が責任を持つよう定めたEUの法律です。

指定は早ければ2026年8月に行われる見込みと報じられています。

Robloxを知らない人へ

Robloxは、利用者自身がゲームを作って公開できるオンラインゲームのプラットフォームです。ブロック状のキャラクターが特徴で、世界中の子どもに人気があります。

つまり今回EUがまとめて規制対象にしようとしているのは、「大人が仕事で使うAI」と「子どもが遊ぶゲーム空間」という、一見まったく違う2つのサービスです。

「4500万人」という線引きの数字

DSAでは、EU域内の月間利用者が4500万人を超えると最も厳しい区分に入ります。この4500万人という数字は、EUの人口のおよそ10%にあたります。

では、2社の実際の数字はどうだったのでしょうか。

  • ChatGPTの検索機能:EU月間平均1億2040万人(2025年9月30日までの6か月平均、OpenAIの透明性報告より)
  • Roblox:EU月間およそ4800万人(2026年2月13日までの6か月、同社開示)

ChatGPTは基準の2.7倍近くです。もはや「超えるかどうか」を議論する段階ではありません。

ちなみにDSAでは、プラットフォームが自分で利用者数を定期公表する義務があります。今回はその自己申告の数字が、そのまま規制入りの根拠になったという構図です。

ChatGPTは「検索エンジン」なのか

ここで論点がひとつあります。DSAには、プラットフォーム(VLOP)とは別に「超大規模オンライン検索エンジン(VLOSE)」という区分があるのです。

DSA第3条(j)は検索エンジンを「利用者が入力した質問に対して、あらゆるサイトから情報を探して結果を返すサービス」と定義しています。

ChatGPTの検索機能は、この定義にかなり近いところにあります。だからこそ欧州委員会は、ChatGPTを検索エンジンとして扱うべきかを検討してきました。

もしVLOSEに指定されれば、ChatGPTはGoogleやBingと同じ棚に並ぶことになります。

指定されると何をしなければならないのか

指定は「レッテルを貼られて終わり」ではありません。正式指定から4か月以内に、具体的な体制を作る必要があります。

主な義務は次のとおりです。

  • システミックリスク評価:自社のアルゴリズムが社会に与える悪影響を毎年正式に評価し、対策を示す
  • 独立した外部監査:第三者による年次監査を受け入れる
  • 研究者へのデータ開示:大学や市民団体の研究者に内部データへのアクセスを認める
  • 透明性の確保:広告、レコメンド(おすすめ表示)の仕組み、削除判断の基準を公開する
  • 連絡窓口の設置:当局と一般利用者、それぞれに窓口を用意する
  • 犯罪の通報:重大な犯罪の兆候を当局に報告する
  • 監督手数料:欧州委員会に年間手数料を支払う(上限は世界純利益の0.05%)

特に重いのが3つ目の「研究者へのデータ開示」です。AI企業にとって内部データはそのまま競争力の源泉だからです。

守らないとどうなるか

制裁金は全世界の年間売上高の最大6%です。EU域内の売上ではなく、世界全体の売上が基準になります。

これは脅しではありません。2026年7月20日、欧州委員会はAliExpressに5億5000万ユーロ(約1020億円)の制裁金を科しました。DSA史上最高額です。

理由は、偽造品や危険な商品のリスク評価と対策を怠ったこと。AliExpressは2026年10月20日までに改善計画を出さなければなりません。

Temuへの処分と合わせると、直近の制裁金は合計9億ユーロ近くに達しています。

なぜこの2社が一緒に選ばれたのか

ChatGPTとRobloxには、実は共通点があります。どちらも「子どもの安全」で批判を受けているという点です。

Robloxをめぐっては、35件を超える訴訟が家族から起こされています。プラットフォーム上で子どもが大人に狙われた、という趣旨の訴えです。

2026年2月には、48州の800人以上の親が公開書簡を出しました。訴訟を非公開の仲裁手続きに持ち込もうとする企業側の姿勢に抗議する内容でした。

同社は2026年1月から、チャットを使う全利用者に顔による年齢推定を義務づけています。同年4月にはアラバマ州と1200万ドルで和解しました。それでもなお、複数の州から訴えられている状況です。

OpenAIも無縁ではありません。銃撃事件の容疑者のアカウントを停止した際、当局に通報しなかったことが批判されました。その後、同社は「信頼できる脅威は当局に通報する」と方針を示しています。自殺に関連した訴訟にも直面しています。

EUの狙いは明確です。「使われ方が大きくなったサービスには、大きさに見合った説明責任を求める」ということです。

EU AI法とは何が違うのか

「AIの規制ならEU AI法があるのでは」と思った方もいるはずです。そのとおりで、この2つは別の法律です。整理しておきましょう。

項目DSA(デジタルサービス法)EU AI法(AI Act)
見ているものサービス上で流通する情報と、その悪影響AIモデルそのものの危険度
対象の決まり方利用者数(4500万人)用途のリスク区分
制裁金の上限世界売上の6%世界売上の7%(禁止用途の場合)
ChatGPTの扱い超大規模プラットフォームとして指定へ汎用AIモデルとして義務あり

ここで注目したいのが日程です。EU AI法の本格適用は2026年8月2日から始まります。DSAの指定が見込まれる時期とほぼ重なります。

OpenAIは同じ月に、性格の違う2つの規制へ同時に対応することになるわけです。

日本にはどう影響するのか

「EUの話でしょ」で終わらせるには惜しいニュースです。理由を3つの場面で見てみます。

場面1:EUで事業をする日本企業

ドイツに販売拠点を持つ日本のメーカーを想像してください。問い合わせ対応にChatGPTを組み込んでいるとします。

OpenAIがDSA対応で仕様や記録の取り方を変えれば、その影響は連鎖します。利用規約の改定や、ログ保存に関する説明の追加が必要になる可能性があります。

場面2:子どもがRobloxで遊ぶ家庭

顔による年齢推定は、すでに日本の利用者にも適用が広がっています。EU向けに強化された安全機能が、そのまま世界共通の設定として降りてくることは珍しくありません。

GDPRのときと同じ流れです。EUで作られたルールが、結果的に世界標準になっていく現象は「ブリュッセル効果」と呼ばれています。

場面3:日本の規制はどこまで来ているか

日本にも似た法律があります。情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)で、2026年4月1日に施行されました。

総務省が指定した大規模事業者には、削除の申し出を受け付ける窓口の設置、原則14日以内の調査と通知、削除基準の公表などが義務づけられています。

AIそのものについては、2025年5月28日成立のAI推進法があります。ただしこちらは名前のとおり推進が主眼で、罰則はありません。2026年3月にはAI事業者ガイドライン1.2版が公表されました。

方向性はEUと似ています。しかし、世界売上の6%という制裁金を背負わせるEUと、罰則なしで指針を示す日本とでは、企業に対する圧力の強さがまるで違うのが実情です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 日本からChatGPTが使えなくなることはありますか?

その心配はありません。DSAはあくまでEU域内向けの規制です。サービス停止ではなく、体制整備を求める仕組みです。

Q2. なぜGoogleのGeminiは対象に入っていないのですか?

Googleの検索エンジンはすでに2023年から指定を受けています。今回は、これまで枠の外にあったChatGPTとRobloxが新たに加わるという話です。

Q3. 「4500万人」はどう数えているのですか?

各社が自ら算出してEUに報告し、その数字を公表します。OpenAIが出した1億2040万人も、同社の透明性報告に載っていた数字です。

Q4. 指定されたら、すぐに制裁金が科されるのですか?

いいえ。指定はスタート地点です。4か月の準備期間があり、その後に義務違反が認定されて初めて制裁金の対象になります。AliExpressも指定から3年後の処分でした。

Q5. 日本の企業がEUで指定される可能性はありますか?

基準は国籍ではなく利用者数です。EU域内で月4500万人を超えるサービスを持てば、日本企業でも対象になり得ます。

まとめ

  • EUがChatGPTとRobloxを超大規模プラットフォームに指定する見通し。早ければ2026年8月
  • 基準はEU月間4500万人。ChatGPTの検索機能は1億2040万人、Robloxは約4800万人
  • 指定から4か月以内に、リスク評価・外部監査・研究者へのデータ開示などの体制が必要
  • 違反すれば全世界売上の最大6%。AliExpressは2026年7月に約1020億円を科された
  • EU AI法の本格適用も2026年8月2日。OpenAIは2つの規制に同時対応することになる
  • 日本の情プラ法は2026年4月施行済み。ただし制裁の重さはEUと大きく異なる

まずは自社がEU向けにAIサービスを使っているかどうか、利用規約とデータの流れを一度確認してみることをおすすめします。

参考文献