Vertex AI終了|Google新AI基盤に全統合

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

taolis.net X note Voicy YouTube
  • Google Cloud Next ’26(2026年4月)でVertex AIが「Gemini Enterprise Agent Platform」に改称・統合
  • 2026年4月22日に一般提供開始。今後Vertex AIの単独サービスは廃止
  • 2,800社・800万シートが既に導入、Q1 MAUは前期比40%増の急成長
  • Agent2Agent (A2A) プロトコルが150組織で本番稼働。エージェント同士が会話する標準規格
  • Microsoft 365 Copilot Agent 365との直接対決がいよいよ本格化

「うちのVertex AI、これからどうなるの?」——Google Cloudを使っている企業のIT担当者から、こんな声が一気に増えています。2026年4月のGoogle Cloud Next ’26で発表された「Gemini Enterprise Agent Platform」は、Vertex AIブランドを事実上終わらせる大改編です。何が変わるのか、何ができるようになるのか、ライバルのMicrosoftとどう違うのかを整理します。

何が発表されたのか|Vertex AIから一気に統合へ

Vertex AIが「Gemini Enterprise Agent Platform」に改称

Google Cloudは2026年4月のCloud Next ’26で、AI関連サービスを「Gemini Enterprise Agent Platform」という1つの傘の下にまとめると発表しました。

これまで企業向けAIといえば「Vertex AI」が代名詞でした。しかし今後、Vertex AIブランドの単独サービスは廃止。新しい機能はすべてGemini Enterprise Agent Platformから提供されます。

つまり「ブランド名が変わるだけ」ではなく、AIエージェント中心の設計に大幅に作り直されたということです。

一般提供は2026年4月22日から

新プラットフォームは2026年4月22日に一般提供(GA)を開始しました。

同時に、別ブランドだった「Agentspace」(社内向け検索+エージェント連携サービス)もGemini Enterpriseに統合。これでGoogleのエンタープライズAIは、ほぼ1つの入口に集約されました。

従来のVertex AIユーザーは自動的に新プラットフォームへ移行しており、APIエンドポイントなどはおおむね互換性が保たれています。

4つの柱「Build / Scale / Govern / Optimize」

Googleは新プラットフォームを「Build(構築)」「Scale(拡張)」「Govern(統治)」「Optimize(最適化)」の4つの柱で説明しています。

これまでバラバラだった「モデル選定」「エージェント開発」「本番運用」「セキュリティ管理」が、1枚のダッシュボードから操作できるようになりました。

Google Cloud社内では「企業AIのコントロールプレーン(操作中枢)」と位置付けています。

主要機能を5つに整理

①Agent Studio|業務担当でもAIエージェントが作れる

Agent Studioは、ローコードでAIエージェントを設計できるツールです。

業務担当者が「請求書を読んで会計システムに登録するエージェント」のような自動化を、自然言語で「こういう動きをして」と指示するだけで作れます。

Googleはこれを「vibe-coding(バイブコーディング)」と呼んでいます。コードを書く代わりに、ふんわりとした要件をAIが解釈してエージェントを構築するイメージです。

②Agent Designer|完全ノーコード版

もっとシンプルに使いたい人向けがAgent Designer

画面上でカードをドラッグ&ドロップするだけでエージェントの動きが組めます。「営業メールが来たら→要約して→Slackに通知」といった処理を、プログラミング知識ゼロで実装できる手軽さです。

非エンジニアの部門でも自部門用のAIアシスタントを内製できる、というのが狙いです。

③Agent2Agent (A2A) プロトコル|エージェント同士の共通言語

もっとも野心的な機能が「Agent2Agent (A2A) プロトコル」です。

これは「異なる会社・異なる開発元のAIエージェント同士が会話できる共通規格」

Webの世界でいうHTTPに相当します。HTTPがあるから、Google Chromeで作られたサイトをSafariで見られますね。同じように、A2AがあればOpenAIで作ったエージェントとGoogle製エージェントが対話してタスクを分担できるわけです。

すでに150組織で本番運用中。SAP、ServiceNow、Salesforceなど主要なエンタープライズSaaS各社が対応を表明しています。

④Agent Identity / Registry / Gateway|ガバナンス3点セット

企業AIで一番怖いのが「誰がどのエージェントを動かしているかわからない」状態です。Gemini Enterprise Agent Platformは、この問題に3点セットで対応します。

  • Agent Identity:個々のエージェントに固有IDを発行し、誰が動かしたかを追跡
  • Agent Registry:社内で使える全エージェントを台帳管理
  • Agent Gateway:外部APIとの通信を1本化し、認証・ログ・レート制限を統一

従来「シャドーAI(部門が勝手に動かす野良AI)」が問題視されていましたが、これらの仕組みでIT部門が全社のAI利用を可視化・統制できるようになります。

⑤Agent Observability|AIの動きを丸裸にする

運用に入ったエージェントが「なぜその判断をしたか」を追跡するAgent Observabilityもあります。

呼び出したモデル、参照したドキュメント、消費したトークン数まで時系列で記録。トラブル時の原因究明や、コスト最適化に直結します。

同じカテゴリではDatadogやLangSmithが先行していましたが、Googleが純正でこの機能を提供するインパクトは大きいです。

200モデル+Gemini 3.1新世代を一元提供

Model Gardenで200種類以上のモデル選択

Gemini Enterprise Agent Platformの心臓部が「Model Garden」

ここでは200種類以上のAIモデルを、同じ画面から呼び出せます。

Google純正のGemini 3.1 Pro / Gemini 3.1 Flash Imageはもちろん、オープンソースのGemma 4、さらにはライバルであるAnthropicのClaudeシリーズまで利用可能です。

「タスクごとにベストなモデルを選ぶ」という、いわゆるマルチモデル戦略を、面倒な切り替え作業なしで実装できます。

Model Optimizer|コストか品質か、AIが自動判断

新機能の「Model Optimizer」も注目です。

「安く済ませたい」「とにかく品質重視」「バランス型」などの方針を指定すると、その時点で最適なモデルをAI側が自動で選んでルーティングしてくれます。

たとえば「コスト最優先」を選べば、安いモデルから試して品質が足りないときだけ高性能モデルへエスカレーション。月のAPI料金が大きく変わる可能性があります。

Agent Development Kit (ADK) v1.0|開発者向け本格フレームワーク

エンジニア向けにはAgent Development Kit (ADK) v1.0が提供されています。

Python・Go・Java・TypeScriptに対応。Geminiに最適化されつつもモデル非依存で、Kubernetesクラスタにそのまま載せられる設計です。

OpenAIのSwarmやAnthropicのClaude Agent SDKと真正面から競う形となり、開発者の囲い込み競争が激化しています。

価格と採用実績|800万シート突破の勢い

エディションと価格体系

Gemini Enterpriseの料金は2エディション制です。

  • Gemini Enterprise Standard:1ユーザー月額30ドル(年契約、約4,500円)/月額35ドル(コミットなし)
  • Gemini Enterprise Plus:1ユーザー月額50ドル(年契約、約7,500円)/月額60ドル(コミットなし)

これに加え、Agent Engineのランタイム料金(vCPU時間あたり0.0864ドル、メモリGB時間あたり0.0090ドル)、セッション保存料(1,000イベントあたり0.25ドル)、Vertex AI Search(1,000クエリあたり1.50〜6.00ドル)など従量課金が加算されます。

2,800社・800万シートが導入済み

2026年5月時点でGoogleが公表している採用実績がこちら。

  • 導入企業:2,800社以上
  • 有料シート数:800万シート以上
  • Q1 2026の有料月間アクティブユーザー:前期比40%増

ユニリーバ、メルカドリブレ、ベライゾン、Toyotaなど大手が公表事例として並びます。「Vertex AIで様子を見ていた企業が、Agent Platform発表で本格導入を決めた」パターンが多いとGoogle側は説明しています。

競合比較|Microsoft 365 Copilotとの違い

価格はほぼ同じ、勝負は周辺機能

最大のライバルがMicrosoft 365 Copilot(およびAgent 365)。価格はGemini Enterprise Standardと同じく1ユーザー月額30ドルからで、ほぼ横並びです。

違いは「どの周辺サービスと組むか」。Microsoftはオフィス系、Googleはクラウド系に強みを持ちます。

3つの観点で比較

主要な違いを整理するとこうなります。

  • 連携の深さ:Copilotは Microsoft 365 / Teams / SharePointと深く統合。Geminiは Google Workspace / BigQueryと深く統合
  • エージェント機能:GoogleはA2Aプロトコル・コネクタ群・統治機能・200万トークンの長文脈で優位
  • ROI実績:Copilotは3年の運用実績、Geminiは7か月と歴史が浅い

結論としては「M365中心の組織はCopilot、Google Workspace中心ならGemini」が基本路線。両方併用して「Geminiを横断オーケストレーター、Copilotを部門ツール」とするハイブリッド構成も増えています。

ServiceNowなどとの関係

ServiceNow、SAP、Salesforceといった既存エンタープライズSaaSは、自社のエージェント基盤を持ちながらもA2Aプロトコル経由でGeminiと連携する道を選んでいます。

つまり、Googleは「ハブ&スポーク」戦略で勢力を伸ばし、各社のエージェントを束ねる立ち位置を狙っているわけです。

日本企業にとって何が変わるのか

Vertex AI利用中の企業は「自動移行」

すでに国内でVertex AIを使っている企業——例えば三井住友銀行、丸紅、サイバーエージェントなどは、特別な作業なく新プラットフォームに移行できます。

東京リージョン(asia-northeast1)も従来通り利用可能で、データレジデンシー要件を満たしながらA2Aプロトコルなどの新機能が利用できる設計です。

G-genやクラスメソッド、TIS、NTTデータなど国内パートナーも移行支援サービスを一斉に発表しており、移行ハードルは低めです。

日本語サポート・国産モデル統合の動き

Model Gardenには日本語特化モデルもラインナップ。Sakana AIや国産大規模言語モデル各社のモデルを呼び出せます。

つまり「グローバル基盤+日本語特化モデル」のハイブリッド設計が、Google純正環境内で完結するようになりました。

中堅・中小企業にとっての意味

従来Vertex AIは「敷居が高い」と感じる中小企業も多かったのが実情です。Agent Designerのノーコード化と、Standardプランの30ドル/月は「最小コストで業務AIを試せる」選択肢となります。

例えば、20人の中小企業が全員Standardを契約しても月7万円程度。社内問い合わせ対応や見積書作成の自動化を1〜2か月で内製化できる可能性があります。

よくある質問(FAQ)

Q. Vertex AIは使えなくなるのですか?

A. ブランドは消えますが、機能はすべてGemini Enterprise Agent Platformに引き継がれます。

既存のVertex AIユーザーは自動的に新プラットフォームへ移行済みです。APIエンドポイントもしばらく旧URLが互換動作するため、コード書き換えなしで利用継続できます。むしろ新機能(A2A、Agent Studioなど)が追加された分、できることは増えています。

Q. Microsoft 365 Copilotとどちらを選べばいい?

A. すでに使っているオフィス環境で決めるのが基本です。

Microsoft 365を全社利用している組織はCopilotがスムーズ。Google Workspaceならば迷わずGemini Enterprise。両方使っている企業は、部門ごとに使い分けるか、エージェント連携の中心をどちらにするかで決めます。価格はほぼ同じなので、機能面の親和性で判断するのが現実的です。

Q. A2Aプロトコルって本当に他社のAIと話せるんですか?

A. はい、すでに150組織が本番運用中の実績があります。

A2AはGoogleが2025年に提唱したオープン規格で、IBM、SAP、ServiceNow、Salesforceなど主要SaaSが対応。AnthropicのClaudeエージェントとも会話可能です。「ベンダーロックインを避けたい大企業」から特に支持を集めています。

Q. 中小企業でも使いこなせますか?

A. Agent Designerのノーコード機能が登場したので、十分現実的です。

従来Vertex AIはエンジニア前提で敷居が高かったですが、画面操作だけでエージェントを組める設計に変わりました。社内のExcelやスプレッドシートと連携する小さな自動化から始めて、段階的に拡張するのがおすすめ。月額30ドルから試せるので、PoC(試行)コストも低いです。

Q. データセキュリティは大丈夫?

A. 東京リージョン利用+Agent Identity / Gatewayで国内法対応も可能です。

asia-northeast1(東京)にデータを留める設計が標準で、改正個人情報保護法やFISCガイドラインにも対応しやすい構造です。Agent Identityで誰がどのデータにアクセスしたか追跡でき、Agent Gatewayで外部API呼び出しを統制できます。金融機関や医療機関でも利用検討が進んでいるのが実状です。

Q. いま導入を検討するなら何から始めるべき?

A. 「社内で繰り返している定型作業」を1つだけ選び、Agent Designerで試作するのが最短ルートです。

例えば、毎日10件届く問い合わせメールを「分類→担当者へ振り分け→定型回答ドラフト作成」までエージェント化するだけでも、効果が見えやすいです。Standardプランで1〜2席だけ契約してPoC、効果が出たら全社展開という段階的アプローチが王道。3か月で投資判断できる粒度から始めるのが現実的です。

まとめ

  • Vertex AIブランドは消滅し、Gemini Enterprise Agent Platformへ統合(2026年4月22日GA)
  • Build / Scale / Govern / Optimizeの4つの柱でエージェント構築から運用まで一元化
  • Agent Studio・Agent Designerで非エンジニアでもエージェントが作れる時代へ
  • A2Aプロトコルが150組織で本番運用、エージェント間の標準言語に
  • 200種類以上のモデルをModel Gardenから選択、Anthropic Claudeも利用可能
  • 2,800社・800万シートが導入済み、Q1 MAUは前期比40%増
  • 価格はStandard $30、Plus $50でMicrosoft 365 Copilotと同水準
  • 日本企業はVertex AIユーザーが自動移行、東京リージョンで国内要件にも対応

次のアクション: 自社の業務で「毎日繰り返している定型作業」を1つ書き出し、Agent Designerでの自動化候補としてリストアップしてみましょう。Standardプランの1席だけ契約するPoCなら、月額4,500円から始められます。

参考文献

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です