ガスタービンが2031年待ち|AI増設の新たな壁

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • GE Vernovaが「今日発注しても届くのは2031年」と表明し、AI用の電力確保が一気に難しくなりました
  • 世界のガスタービン製造能力は年60〜70GW、対する注文残は約110GW。作れる量の倍近くが行列しています
  • タービン単体の価格は2027年末に2019年比195%上昇(約3倍)へ。発電所の建設費も2年で1.4倍に
  • 燃料電池やレシプロエンジンが「つなぎ」として急浮上。Bloom Energyは2カ月で設置できます
  • 三菱重工の大型機受注残は35GW。日本では系統接続待ちが最大10年という別のボトルネックもあります

AIの成長を止めるのはGPU不足だと思っていませんか。いま現場でいちばん深刻なのは、電気を生み出す機械そのものの不足です。今日発注したガスタービンが届くのは2031年。この一文が、2027年までのAIデータセンター計画をすべて揺さぶり始めています。

今日注文すると、届くのは2031年

2026年7月22日の決算説明会で、米GE Vernova(ジーイー・ベルノバ)が衝撃的な数字を出しました。

大型ガスタービンを今日発注しても、納品は2031年になるという説明です。

ガスタービンは、天然ガスを燃やして発電機を回す装置です。大型のものは1台で数十万世帯分の電力をまかないます。AIデータセンターが真っ先に頼る電源でもあります。

同社の受注残は2026年第2四半期に116GWまで積み上がりました。うち53GWが確定注文、63GWが「製造枠の予約」です。工場の生産ラインを5年先まで押さえる争奪戦が起きています。

他社も似た状況です。Siemens Energy(シーメンス・エナジー)の受注残は69GW、納期は3年以上。三菱重工は大型機で35GWを抱え、2026年3〜6月に受注した案件の納入は2028年から2030年にかけてと説明しています。

「電源が5年待ち」が意味すること

データセンターを建てる会社の立場で考えてみます。土地を買い、GPUの割り当て交渉をまとめ、建物の設計も終わった。ところが電気が足りない。

自前の発電設備を注文しに行くと、窓口で「2031年の枠なら空いています」と言われるわけです。GPUは1〜2年で世代交代します。5年待ちの電源計画とは、時間の単位がまるで違います。

数字で見る需給ギャップ|作れる量の倍が並んでいる

不足の規模は、2つの数字を並べるとはっきりします。

世界のガスタービン製造能力は年間60〜70GW。それに対し、2025年末時点の受注は約110GWありました。

作れる量のおよそ倍が行列している計算です。2026年第2四半期の世界受注は38GWで、前年同期比71%増。うち半分を米国が占めました。

需要側の伸びも急です。ゴールドマン・サックスの分析では、米国のデータセンター電力需要は2025年の31GWから、2026年に41GW、2027年には66GWへ拡大します。

ピーク需要に占める割合も4.1%から8.5%へ倍増する見通しです。

2027年に必要な36GWをどう埋めるのか

供給側の新設容量は、2025年が8.5GW、2026年が13.6GW、そして2027年には36.3GWが必要とされています。

この36.3GWという数字は、大手タービンメーカー3社の年間生産量を合計しても届かない水準です。

しかも今から発注しても2031年。2027年の山は、既存の設備をやりくりして越えるしかありません。

なぜ増産できないのか|ボトルネックは羽根1枚

「注文が殺到しているなら工場を増やせばいい」と思うところです。実際にはそう簡単にいきません。

問題はタービンの「ホットセクション」と呼ばれる高温部にあります。1,000度を超えるガスの通り道に並ぶ単結晶タービンブレード(金属を一つの結晶として鋳造した羽根)です。

この特殊な鋳造ができる工場は世界に数えるほどしかなく、新設するだけで数年かかります。組み立てを担う熟練の溶接工や機械工も、10年前の需要低迷期に多くが職場を離れ、補充されないままです。

GE Vernovaの生産計画は現在の年約20GW相当から、2028年に24GW、2030年に30GWへ。増やしてはいますが、需要の伸びには追いつきません。

価格は3倍へ|AIのコストに跳ね返る

需要が供給の倍あれば、価格は上がります。

調査会社Wood Mackenzie(ウッドマッケンジー)は、タービン単体の価格が2027年末に1kWあたり600ドルに達し、2019年比で195%の上昇になると予測しています。ほぼ3倍です。

発電所全体の建設費も動いています。ガス火力の主流であるコンバインドサイクル発電所は、2023年には1kWあたり1,500ドルを切っていました。それが2025年には平均2,157ドルまで上がっています。

2030〜2031年に完成予定の案件では、2,000ドル超が前提になりつつあります。

GE Vernovaの2026年上半期の機器受注は、2025年第4四半期より20%以上高い価格で成立しました。完全な売り手優位の市場です。

この費用は誰が負担するのか

発電所の建設費は、電気料金か、AIサービスの利用料か、そのどちらかに乗ります。

米PJM(東部13州を束ねる電力市場)の2028/2029年度向け容量オークションは、3年連続で上限価格の1MW・日あたり325ドルで約定しました。

それでも新たに集まった電源はわずか525MW。信頼度の要件に対して6,831MW足りていません。電気を「予約しておく権利」の値段が、上限に張り付いたまま動かない状態です。

タービンを待たない選択肢|3つの代替手段を比べる

5年待てない事業者は、別の手を打ち始めています。主な選択肢は3つです。

1つめは燃料電池です。Bloom Energy(ブルーム・エナジー)の固体酸化物形燃料電池は、データセンター敷地内に約2カ月で設置できます。同社はOracleと最大2.8GW分の供給契約を結びました。2030年にはデータセンターの38%が何らかの自家発電を主電源に使うと同社は見ています。1年前は13%でした。

2つめはレシプロエンジンです。CaterpillarやWärtsiläが手がける、船舶用に近い大型エンジン発電機です。1台あたりの出力は小さいものの、数を並べられ、納期も短くて済みます。

3つめは既存設備の延命です。稼働率を上げる、退役予定だった石炭火力の停止を先送りする、といった対応が実際に取られています。

SMR(小型モジュール炉)や地熱も候補ですが、本格稼働は2030年代です。2027年の穴埋めには間に合いません。

それぞれの弱点

代替手段にも制約があります。固体酸化物形燃料電池は100%運転でこそ効率が出るため、負荷の上下に弱い性質があります。

PEM形燃料電池は起動に約7分かかります。ディーゼル発電機の1分と比べると、瞬時のバックアップには向きません。

稼働率99.99%を求める現場では、この差は小さくありません。あくまで「つなぎ」であって本命の置き換えにはならない、というのが現時点の見方です。

日本への影響|受注残35GWと「接続10年待ち」

この話は日本と無関係ではありません。世界の大型ガスタービンを供給する3社の一角が、三菱重工だからです。

同社は大型機で35GWの受注残を抱え、2030年度までに生産能力を2024年度比で2倍にする計画を進めています。日米の生産拠点に1,000億円超を投じ、保守部品の供給力も高める方針です。

2026年のガスタービン市場規模については、70〜100GW程度という見通しを示しています。日本のメーカーにとっては、久しぶりの大きな追い風です。

国内では「別のボトルネック」が効いている

一方、国内でデータセンターを建てる側は、タービン以前の壁にぶつかっています。送電網への接続待ちです。

データセンター銀座と呼ばれる千葉県印西市では、系統接続に最大10年待ちのケースがあると報じられています。

投資額はAWSが約2.26兆円、Microsoftが約1.6兆円と巨額です。電力広域的運営推進機関の想定では、2034年度のデータセンターと半導体由来の電力需要は合計で約51TWhに達します。

国内向けのAIサービスが「東京リージョンだけ空きがない」「新機能の提供が国内は後回し」といった形で影響を受けるのは、こうした事情が背景にあります。

需要は本当に続くのか|早くも出てきた揺り戻し

ここまでは不足の話でした。ただし、逆方向の兆しも同時に出ています。

米電力大手Exelonは2026年7月30日、実現可能性が高いデータセンター負荷の見積もりを約18GWから約11GWへ、およそ40%引き下げました。接続申請のパイプラインも1四半期で43GWから25GWに減っています。

テキサス州では2026年8月、Abbott知事が監査を指示し、ERCOT(州の系統運用者)が大口需要の接続手続きを一時停止しました。接続待ちの申請は474GW、その9割がデータセンターです。BloombergNEFは、このうち約50GWが遅延リスクにさらされると見ています。全米のパイプラインの5分の1に当たります。

同じ案件が複数の電力会社に重複して申請されている、いわゆる「幽霊需要」が混ざっているためです。

5年先の設備投資を、消えるかもしれない需要予測に賭ける。メーカーが慎重に増産する理由がここにあります。

よくある質問(FAQ)

Q. なぜ太陽光や風力ではだめなのですか?

A. データセンターは24時間365日、一定の電力を使い続けます。天候で出力が変わる電源だけでは支えきれません。蓄電池を組み合わせる方法もありますが、必要な規模が大きくコストがかさみます。「いつでも出せる電源」としてガス火力が選ばれています。

Q. AIの電気代は今後どうなりますか?

A. 上がる方向です。発電設備の建設費が2年で1.4倍になり、タービン価格は2027年末に2019年比195%上昇の見込みです。この費用はAPI利用料やクラウド料金の形で、じわじわと転嫁される可能性があります。PwCは、AI業界の天然ガス消費量が2035年までに5倍以上になると予測しています。

Q. 日本のAI利用に直接の影響はありますか?

A. 短期的には、国内リージョンの空き不足や新サービスの提供遅れという形で表れます。海外の大規模データセンターを使うサービスであれば当面は影響が小さいものの、電力コストの上昇は世界共通です。

Q. この不足はいつ解消しますか?

A. メーカーの増産計画は2028〜2030年に効いてきます。GE Vernovaは2030年に年30GWを目標にしています。ただし需要予測どおりに伸びれば、それでも足りません。逆にデータセンター需要が下振れすれば、2029年ごろに急に緩む可能性もあります。

Q. 個人や中小企業にできることはありますか?

A. AIの利用料が上がる前提で、用途に応じてモデルを使い分けるのが現実的です。すべてを最上位モデルで処理せず、軽い作業は小型モデルに任せる設計にしておくと、価格改定の影響を受けにくくなります。

まとめ

  • GE Vernovaは「今日発注すると納品は2031年」と表明。受注残は116GWに達しました
  • 世界の製造能力は年60〜70GW、注文は約110GW。作れる量の倍が並んでいます
  • ボトルネックは単結晶タービンブレードの鋳造と熟練工の不足で、工場を増やしても数年かかります
  • タービン価格は2027年末に2019年比195%上昇の見込み。発電所建設費も2年で1.4倍になりました
  • 燃料電池やレシプロエンジンが「つなぎ」に浮上。ただし本命の置き換えには至りません
  • 三菱重工は受注残35GWを抱え生産能力を2倍へ。国内では系統接続に最大10年待ちの地域もあります
  • Exelonの40%下方修正やテキサスの手続き停止など、需要側の揺り戻しも同時に起きています

AIの制約はGPUから電力へ移りました。今後クラウド料金の改定通知が届いたら、その背景にこの5年待ちの行列があると思い出してみてください。

参考文献