- DeepSeek創業者・梁文鋒(りょう・ぶんほう)氏が、約4時間の投資家説明会で「NVIDIAのCUDAの優位性は崩れつつある」と語りました。
- その理由は「AIが自分でコードを書けるようになった」ことと、TileLangという新しい技術の登場です。
- ファーウェイと深く協業し、性能差は「4倍プラス2年」まで縮まったと明かしました。
- 目標は利益ではなくAGI(人間並みの汎用AI)で、「抑制」を戦略に掲げます。
- NVIDIA株は6月のピークから2割以上下落し、世界時価総額トップの座も一時失いました。
「AIの王様はNVIDIA」——ここ数年、そう思ってきた人は多いはずです。ところが中国AIの旗手・DeepSeekの創業者が、約4時間の講演で「その優位性は崩れつつある」と言い切りました。何を根拠に、そこまで踏み込んだのでしょうか。この記事を読むと、発言の中身と、日本のわたしたちへの影響までまるごとわかります。
4時間の投資家説明会で何が語られたのか
ことの発端は、2026年5月20日に開かれた投資家向けの説明会です。
DeepSeekの創業者である梁文鋒(りょう・ぶんほう)氏が、約4時間にわたって語りました。テック系メディアのGIGAZINEが2026年7月24日にその内容を報じ、大きな話題になりました。
DeepSeek(ディープシーク)は、中国のAIスタートアップです。安く高性能なAIモデルをオープンソース(設計図を無料公開する方式)で出し、世界を驚かせてきました。
この説明会で梁氏は、会社の使命からオープンソース戦略、API(外部サービスとの接続口)の価格の考え方、AGIへの道筋まで、8つのテーマを体系的に語ったとされます。ふだんメディアにほとんど姿を見せない人物だけに、その一言ひとことに注目が集まりました。
「NVIDIAのCUDAの優位性は崩れる」発言の中身
今回いちばん注目されたのが、この一言です。
梁氏は「NVIDIAのCUDAエコシステムの優位性は、新しい技術によって打ち破られつつある」と指摘しました。
ここで出てくる「CUDA(クーダ)」とは何でしょうか。CUDAは、NVIDIAのGPU(AI計算に使う高性能チップ)を動かすためのソフトウェアの土台です。
世界中のAI開発者は、長年このCUDAを前提にプログラムを書いてきました。だから他社のチップに乗り換えたくても、ソフトを一から作り直す手間が大きくて動けない。これがNVIDIAの「牙城(がじょう)」、つまり簡単には崩せない強みでした。
なぜ「崩れる」と言えるのか
梁氏は2つの理由を挙げました。
1つ目は、AIが自分でコードを書けるようになったことです。かつては人間が何年もかけて作ったソフトの土台を、いまはAIが手伝って一気に組める。だから「CUDAがないと動かせない」という壁が低くなります。
2つ目は、TileLang(タイルラング)という新技術です。これは北京大学が開発したオープンソースの言語で、AIの計算処理を効率よく書けます。
実際、DeepSeekは自社の高性能モデル「V3」を訓練したとき、NVIDIAのチップは使ったものの、CUDAのエコシステムからはほぼ独立していたといいます。「NVIDIAのチップは使うが、NVIDIAの世界に縛られない」という状態です。
壁さえ取り払えば、残る勝負は「純粋な計算能力」だけになる。梁氏はそう見ています。
ファーウェイとの協業と「4倍プラス2年」
では、中国製チップはNVIDIAにどこまで迫っているのでしょうか。
梁氏は、その差を「4倍プラス2年」と表現しました。ファーウェイの「950」というチップ4枚で、NVIDIAの最新GPU「GB300」1枚ぶんの性能。そして時間にして2年遅れ、という意味です。
数字だけ見れば、まだ大きな差に思えます。しかし梁氏は、DeepSeekがファーウェイと深く協業していることを明かしました。すでに約1万6000枚のファーウェイ製チップを確保したと報じられています。
そして「1年以内に、国産チップのエコシステムの問題はまったく問題ないと証明される」と予測しました。いま最大の壁は性能ではなく、チップを作る生産能力の不足だといいます。
裏を返せば、量さえ作れれば追いつくという自信の表れです。
利益よりAGI──「抑制」という戦略
もう一つ驚かされるのが、DeepSeekのお金への向き合い方です。
梁氏は「利益の最大化は目指さない。AGIの研究を最優先する」と明言しました。AGIとは、特定の作業だけでなく、人間のように幅広く考えられる汎用AIのことです。
実際、DeepSeekのAPI価格は「約10か月でハードウェアの費用を回収できる」程度に抑えて設計されているといいます。ぼろ儲けする気はない、というわけです。しかも最高性能のモデルは、これからもオープンソースで無料公開する計画です。
梁氏はこれを「抑制(よくせい)はAGI達成の確率を上げるための戦略」だと説明します。3D生成や動画生成、世界モデルなど、話題性はあっても本筋から外れるものには手を出さない。目標はただ一つ、AGIだと言い切りました。
AGIへ進む4つの段階
梁氏は、AGIへの道のりを段階で示しました。
- ①思考連鎖(CoT):AIが順を追って考える力。すでに達成済み。
- ②エージェント:AIが自分で作業を進める段階。いまここ。
- ③継続学習:AIが使いながら学び続ける力。次の大きな壁。
- ④身体性:ロボットなど、体を持って動く段階。最後の到達点。
とくに梁氏は、AIに足りないのは「判断力や直感」そのものではなく、学び続ける力だと考えています。継続学習を解決したとき、AIは自分で自分を改良し始める「特異点(シンギュラリティ)」に近づく。そう見ているのです。
NVIDIAと市場はどう反応したのか
これだけの発言に、当のNVIDIAはどう答えたのでしょうか。
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、CUDAの脅威に正面から反論はしませんでした。むしろ中国のオープンソースAIを「ワールドクラス(世界水準)」と称賛し、DeepSeekやKimiなどの名前を挙げてみせました。
もっとも以前のフアン氏は、「DeepSeekがファーウェイ製チップで動くのは、アメリカにとって恐ろしい結果だ」と警戒感も示しています。称賛の裏に緊張がにじみます。
市場の反応はもっと正直でした。半導体セクターは6月のピークから2割以上も下落。NVIDIAは一時、世界時価総額トップの座を明け渡しました。投資家たちが「NVIDIA一強」の前提を、少しずつ疑い始めた証拠です。
ちなみにDeepSeekは、この強気の背景に巨額の資金も持ちます。初回の資金調達は約500億元(人民元、日本円でおよそ1兆円規模)とされ、梁氏自身が約200億元を出資して経営権を握ったと報じられています。
【比較】CUDA陣営 vs 中国国産チップ陣営
ここで、いま起きている対立をわかりやすく整理します。
- NVIDIA(CUDA陣営):世界標準のGPUとCUDA。開発者が圧倒的に多く、ソフトが豊富。ただし価格が高く、米国の輸出規制で中国には最新品が届きにくい。
- ファーウェイ+DeepSeek(国産陣営):チップ単体の性能はまだ4分の1。しかしAIとTileLangでソフトの壁を突破中。強みは価格と「自国で作れる」安心感。
- OpenAIやAnthropic(クローズ陣営):高性能モデルを非公開で提供。DeepSeekのオープンソース路線とは正反対の戦略。
つまり争点は「チップの速さ」だけではありません。ソフトの囲い込みを崩せるか、そしてオープンにするか閉じるかという、2つの戦いが同時に進んでいるのです。
日本のユーザー・企業への影響
遠い米中の話に聞こえるかもしれません。ですが、日本にも確実に関わってきます。
まずコストです。日本の企業や大学のAI開発は、いまNVIDIAのGPUに大きく頼っています。値段は高く、入手にも時間がかかります。もし中国が安いチップとソフトの土台を確立すれば、AIインフラの選択肢が増え、価格競争が起きる可能性があります。長い目で見れば、日本のAI導入コストが下がる追い風になりえます。
次にモデルの使いやすさです。DeepSeekのモデルはオープンソースなので、日本の開発者も自分のパソコンやサーバーに入れて使えます。高性能なAIを無料で試せるのは、中小企業や個人にとって大きな魅力です。
一方で注意点もあります。中国製AIをめぐっては、政府機関や大企業で情報管理の観点から利用を制限する動きも出ています。導入するなら、どのデータを扱わせるかを慎重に線引きする必要があります。
ある地方の製造業が、社内の問い合わせ対応にAIを入れる場面を想像してみてください。従来は高価なGPUと有料APIが前提でした。しかし選択肢が広がれば、より安く、自社サーバーの中だけで完結する使い方も現実的になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. CUDAが崩れると、NVIDIAはもう終わりですか?
いいえ、そう単純ではありません。NVIDIAのチップ性能はいまも世界最高水準です。あくまで「独占的な強みが揺らぎ始めた」という段階です。
Q2. TileLangは誰でも使えますか?
はい。TileLangは北京大学が開発したオープンソースの技術で、公開されています。ただし使いこなすには専門知識が必要です。
Q3. ファーウェイのチップは日本で買えますか?
現状、日本を含む多くの国では、ファーウェイ製の高性能AIチップの入手は容易ではありません。米国の規制や生産能力の問題があるためです。
Q4. DeepSeekはなぜ利益を追わないのですか?
目標がAGI(人間並みの汎用AI)の実現だからです。梁氏は「抑制こそがAGI達成の近道」と考え、短期の儲けより研究を優先しています。
Q5. 日本の企業は今、何をすべきですか?
特定のチップやサービスに依存しすぎない準備が大切です。複数の選択肢を比べられる体制を整えておくと、価格競争の恩恵を受けやすくなります。
まとめ
今回のポイントを振り返ります。
- DeepSeek創業者・梁文鋒氏が、約4時間の説明会で「NVIDIAのCUDAの優位性は崩れつつある」と発言した。
- 根拠は「AIが自分でコードを書ける」ことと、TileLangという新技術の登場。
- ファーウェイとの性能差は「4倍プラス2年」。約1万6000枚のチップを確保し、1年以内の追い上げに自信を見せた。
- 目標は利益ではなくAGI。「抑制」を戦略とし、最高性能モデルはオープンソースで公開し続ける。
- NVIDIA株は2割以上下落。日本にとってもAIコストや選択肢の面で無縁ではない。
まずは、自社や自分が使うAIが「どのチップ・どの企業に依存しているか」を一度確認してみましょう。それが、変化の波に備える第一歩になります。
参考文献
- 「NVIDIAのCUDAの優位性は崩壊しつつある」とDeepSeek創業者が約4時間の講演で発言 – GIGAZINE
- DeepSeek CEO Believes NVIDIA Is Now “Digging Its Own Grave” – Wccftech
- Liang Wenfeng in His Own Words: 64 Quotes from DeepSeek’s Investor Call – Geopolitechs
- A Chinese CEO Just Outlined the Bear Case for NVIDIA – 24/7 Wall St.
- DeepSeek首輪融資と梁文鋒の出資構造 – 動区動趨(BlockTempo)

