AIが53万行を11日で移植|Bun大論争

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • 人気ツール「Claude Code」の中身に、こっそり別物のプログラムが入っていたと発覚しました
  • AIが約53万行のコードを、たった11日で別の言語に書き換えたのが正体です
  • 64個のAIが同時に働き、API利用料は約2,500万円かかりました
  • バグ128個が消え、動作も2〜5%速くなりました
  • 一方で「レビューなしの粗悪品だ」という強い批判も起きています

あなたが毎日使っているアプリの中身が、いつの間にか別物に入れ替わっていたら驚きませんか。いま開発者の間で、まさにそんな出来事が話題になっています。AIが人間の何十倍もの速さで巨大なプログラムを書き換えた、その舞台裏がついに明らかになりました。この記事では、何が起きたのか、なぜすごいのか、そして何が問題なのかを、やさしく整理します。

何が起きたのか?Claude Codeに「隠れた別物」が

きっかけは、ある技術者の発見でした。

開発者のサイモン・ウィリソンさんが、AIコーディングツール「Claude Code(クロードコード。AIがコードを書いてくれる開発ツール)」の中身を調べました。

すると、内部にまだ一般公開されていない新バージョンのプログラムが組み込まれていたのです。

それが「Bun(バン)」というソフトの新版「v1.4.0」でした。Bunは、JavaScript(ウェブでよく使われるプログラミング言語)を動かすための土台となるツールです。

Claude Codeの実行ファイルの中に、563個ものRust(ラスト)というプログラミング言語のファイル名が見つかりました。

つまり、公式発表より先に、AnthropicはこっそりBunの新版を自社ツールへ搭載していたのです。Anthropicは2025年12月にBunを買収していました。

なぜZigをやめてRustに?根本の理由

そもそもBunは、これまで「Zig(ジグ)」という言語で作られていました。

ではなぜ、わざわざRustに引っ越したのでしょうか。理由は大きく2つあります。

理由1:やっかいなバグに悩まされていた

Zigは、メモリ(データを一時的に置く場所)を人が手作業で管理する言語です。

この手作業と、JavaScript側の自動お片付け機能がぶつかり、原因の分かりにくいクラッシュ(急な停止)を何度も起こしていました。

一方Rustには「借用チェッカー」という仕組みがあります。これは、あぶない書き方をするとプログラムを作る段階でエラーとして止めてくれる見張り役です。

おかげで、この種のバグをまとめて防げます。

理由2:Zigは「AI製コードお断り」だった

もう1つの理由が、実は決定的でした。

Zigには「AIが書いたコードは受け付けない」という方針があったのです。AIを全面活用したいBun側とは、考え方が根本から合いませんでした。

11日で53万行 — AIはどう書き換えた?

ここからが今回いちばんの驚きです。

Bunの開発チームは、約53万行のZigコードを、わずか11日でRustへ書き換えました。生成されたコードは合計で100万行を超えたと言われています。

ふつう、これほどの引っ越しには何か月も、下手をすれば何年もかかります。それを2週間足らずで終えたのです。

64個のAIが同時に働いた

秘密は「数の力」でした。

プレリリース版の「Claude Fable 5」を使い、64個のAIを同時に走らせたのです。1時間あたり最大695回もの更新(コミット)が行われました。

AI同士でミスを潰し合う仕組み

ただ速いだけでは、AI特有の「もっともらしい間違い」が混ざります。

そこでチームは、役割の違うAIを組み合わせました。1体がコードを書き、別の2体が「壊してやろう」と粗探しをし、最後の1体が問題を直す、という流れです。

この「AI同士でチェックし合う」方式が、品質を支えました。

結果は?128個のバグ修正と速度向上

成果はしっかり形になりました。

完成した新版「Bun v1.4.0」では、バグが128個も修正されました。

動作スピードも、約2〜5%ほど速くなっています。

気になるお金の話もしておきましょう。この作業でかかったAPI(AIを使うための利用料)は、およそ16万5,000ドル(約2,500万円)でした。

人間の技術者を何か月も雇う費用と比べれば、決して高すぎる金額とは言えません。

「レビューなしの粗悪品」批判の中身

華々しい成果の裏で、強い批判の声も上がりました。

批判したのは、元となる言語Zigの生みの親、アンドリュー・ケリーさんです。

ケリーさんは「私たちはBunのコードを見て、だんだん恐ろしくなった」と書きました。そして「100万行ものレビューなしの粗悪品(slop)」と厳しく表現しました。

「テストが十分だから大丈夫」という主張に対し、「そのテストで、レビューしていない100万行のバグを本当に見つけられるのか」と疑問を投げかけたのです。

ケリーさんは、これはAIの是非の話ではなく、「2つのチームの価値観の違いだ」とも述べています。維持しやすさや長く使えることを大切にする立場からの、まっとうな警鐘とも言えます。

速さと信頼性のどちらを重んじるか。今回の件は、その難しい問いを私たちに突きつけています。

他のAIコーディングと何が違う?

AIにコードを書かせるツールは、今やたくさんあります。

代表的なものを比べてみましょう。

  • Claude Code(Anthropic):ターミナルで動き、大量のAIを並行して走らせる大規模作業に強い。今回の主役
  • OpenAI Codex:ChatGPTでおなじみOpenAI製。対話しながらの開発が得意
  • GitHub Copilot:エディタ内で入力を補完する定番。個人開発者に人気
  • Cursor(カーソル):AI前提で作られたエディタ。書きながらの提案がなめらか

多くのツールは「人が書くのを手伝う」段階にあります。

今回のBunが特別なのは、プロジェクト丸ごとの引っ越しをAI主導でやり切った点です。1行の補完ではなく、100万行規模の一大工事だったのです。

つまり今回の本当の主役は、AI単体ではありません。「たくさんのAIを段取りよく指揮し、チェック体制まで整えた人間の設計力」だと言えます。

日本のエンジニア・企業への影響

これは海の向こうだけの話ではありません。

Claude CodeもBunも、日本のエンジニアが日常的に使っているツールです。今回の新しいBunは、すでに日本のユーザーの手元でも動いています。

日本の開発現場では、こんな場面を想像してみてください。

ある中小のIT企業に、10年前に作られた古いシステムが残っているとします。担当者はとうに退職し、中身を分かる人がいません。

これまでなら、作り直しに何年もかかると諦めていた案件です。

しかし今回の事例は、AIを大量に指揮すれば、そうした「塩漬けシステム」の刷新も現実味を帯びることを示しました。

一方で、ケリーさんの批判も他人事ではありません。中身を人が理解しないまま動くコードが増えれば、いざという時に直せなくなる危険もあります。

日本企業がAIコーディングを取り入れるなら、「速さ」と「点検の仕組み」を必ずセットで考えることが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q. Bunとは何ですか?

JavaScriptというプログラミング言語を高速に動かすための土台となるツールです。似たものにNode.jsやDenoがあります。

Q. なぜZigからRustに変えたのですか?

メモリ管理が原因のバグを減らすためです。加えて、ZigがAI製コードを認めない方針だったことも大きな理由でした。

Q. AIが書いたコードは安全なのですか?

今回はAI同士でチェックし合う仕組みで品質を保ちました。ただし「人がレビューしていない」点への批判もあり、安全性は議論の途中です。

Q. 私たちが使うClaude Codeにも影響はありますか?

あります。すでに新しいRust版のBunが組み込まれた状態で配布されており、多くのユーザーが知らずに使っています。

Q. 人間のエンジニアはもう不要になりますか?

いいえ。今回もAIを段取りし、チェック体制を設計したのは人間です。指揮する人の役割は、むしろ重要になっています。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • Claude Codeの中に、未公開のRust版Bunがこっそり入っていたと発覚した
  • AIが約53万行を11日で書き換え、100万行超のコードを生成した
  • 64個のAIが並行し、費用は約2,500万円、バグ128個を修正した
  • Zig作者からは「レビューなしの粗悪品」と強い批判も出ている
  • 本当の鍵は、AIを指揮しチェック体制を作る「人間の設計力」にある

まずは自分の使う開発ツールが、いつの間にか進化していないか、リリース情報をのぞいてみましょう。

参考文献