- Appleが社内プロジェクト「Project Mulberry」として開発していたAI健康コーチを大幅縮小
- Eddy Cue氏がOuraやWhoopなど競合に対して「十分に魅力的でない」と判断。リーダーシップ変更も影響
- FDA規制リスクとAIの精度問題が障壁に。健康アドバイスの誤りは実害に直結するため慎重姿勢
- 完全中止ではなく「段階的リリース」に方針転換。栄養トラッキング等はiOS 26.4で先行提供の可能性
- Apple Watch+ヘルスケアアプリのAI戦略が再構築。Apple Car同様の「壮大な計画の縮小」パターン
Appleの健康事業に、またひとつ「方針転換」がありました。
Bloomberg報道によると、社内プロジェクト「Project Mulberry」——Apple Watch/ヘルスケアアプリと連携するAI健康コーチ構想が大幅に縮小されました。
医師・栄養士・心理士が監修するAIコーチが、あなたの睡眠・運動・食事を包括的にアドバイスする壮大な計画。
しかしEddy Cue氏は「競合に対して魅力が足りない」と判断。
Apple CarからProject Mulberryまで、巨大プロジェクトの縮小が続くAppleの戦略を読み解きます。
Project Mulberryとは何だったのか
Project Mulberryは、AppleのヘルスケアアプリにAI健康コーチを統合する野心的なプロジェクトでした。
- AIエージェント — Apple Watchのデータ(心拍数、睡眠、歩数等)を分析し、パーソナライズされた健康アドバイスを提供
- 専門家チーム — Appleが雇用した医師、睡眠専門家、栄養士、理学療法士、メンタルヘルス専門家、循環器専門医が監修
- 教育コンテンツ — 専門家による動画コンテンツを制作し、アプリ内で提供
- 目標 — ヘルスケアアプリを「データ表示ツール」から「積極的に行動を促すAIコーチ」に変革
たとえるなら、「Apple Watchに専属のパーソナルトレーナーと主治医が住み込む」ようなサービス。あなたの睡眠パターンが乱れていれば就寝時間を提案し、栄養バランスが偏っていればメニューを推薦する——そんな構想でした。
なぜ縮小されたのか|3つの理由
1. 競合に対する魅力不足
Apple上級副社長のEddy Cue氏は、Project Mulberryの計画を「OuraやWhoopと比較して十分に魅力的ではない」と評価しました。
- Oura Ring — 睡眠分析に特化し、直感的なスコアとAIによるパーソナライズド・アドバイスを提供
- Whoop — リカバリーと負荷のバランスを数値化。アスリートからビジネスパーソンまで幅広い支持
既にこれらの専門サービスが高い顧客満足度を獲得している市場に、Appleが後発で参入しても差別化が難しいという判断です。
2. FDA規制リスク
AIが健康アドバイスを提供する場合、医療機器としてのFDA(米国食品医薬品局)規制に抵触する可能性があります。「もっと運動しましょう」は問題ありませんが、「心拍数の異常から不整脈の可能性があります」とAIが判断した場合、それは医療行為に近づきます。
3. AIの精度と責任問題
健康アドバイスにおけるAIの誤りは、実害に直結します。
ChatGPTやGeminiが雑学で間違えるのは許容されますが、健康コーチが「この食事を続けてください」と誤ったアドバイスをすれば、ユーザーの健康を損なうリスクがあります。
Appleの品質基準を満たすレベルの精度が確保できなかったとみられます。
段階的リリースへの方針転換
完全中止ではなく、機能を分割して段階的にリリースする方針に切り替わりました。
- 栄養トラッキング — 食事の記録・分析機能。iOS 26.4(2026年春)で先行提供の可能性
- 縮小版AIヘルスエージェント — 包括的なAIコーチではなく、特定の健康データに基づく限定的な提案
- 睡眠改善提案 — Apple Watchの睡眠データを活用したアドバイス機能
たとえるなら、「フルコース料理を一度に出す予定が、前菜から順番に提供する」方針に変更。個々の機能を磨いてからリリースすることで、品質リスクを最小化する戦略です。
Apple Car、Titan、そしてMulberry|縮小の系譜
Appleには、壮大なプロジェクトを途中で縮小・中止してきた歴史があります。
- Project Titan(Apple Car) — 2014年開始の自動車プロジェクト。10年間で数十億ドルを投資後、2024年に完全中止
- AirPower — 2017年発表のワイヤレス充電マット。技術的課題で2019年に中止
- Project Mulberry — AI健康コーチ。段階的リリースに縮小
Appleのこのパターンは「失敗」というより、「完璧でないものは出さない」という品質哲学の表れです。
Googleなら「ベータ版」として市場に出すところを、Appleは完成度に満足できなければ引っ込める。
この姿勢がAppleの信頼性を支えている一方、イノベーションのスピードを犠牲にしている面もあります。
競合の動き|ヘルステックAIの現在地
- Oura Ring — 第4世代リング(2025年発表)でAIコーチ機能を強化。睡眠・活動・ストレスの包括的な分析
- Whoop — サブスクリプションモデルで月額データ分析サービスを提供。リカバリースコアが人気
- Google Fitbit — Gemini AIとの統合でパーソナライズド・ヘルスコーチングを強化
- Samsung Galaxy Ring — Galaxy AIとの連携で睡眠・健康データの分析を提供
よくある質問(FAQ)
Q. Project Mulberryは完全に中止されたのですか?
完全中止ではありません。当初の「包括的なAI健康コーチ」としてのリリースは見送られましたが、個別の機能(栄養トラッキング、睡眠アドバイス等)は段階的にiOSアップデートで提供される予定です。
Q. Apple Watchの健康機能は今後どうなりますか?
Apple Watchのセンサー技術自体は引き続き進化します。心電図、血中酸素、皮膚温度などのハードウェア機能は維持され、ソフトウェア面でのAI活用が段階的に強化される見込みです。
Q. OuraやWhoopの方がAppleより優れていますか?
特定分野でははい。
Ouraは睡眠分析、Whoopはリカバリー管理で高い専門性を持っています。
ただしApple Watchは健康以外の機能(通知、決済、通話等)も統合しており、総合力ではApple Watchが優位。
用途によって最適なデバイスは異なります。
Q. 日本のユーザーへの影響は?
栄養トラッキング機能がiOS 26.4で提供される場合、日本語対応のタイミングが焦点になります。Apple Intelligence自体の日本語対応が2025年に始まったばかりであり、ヘルスケアAI機能の日本語対応はさらに遅れる可能性があります。
まとめ
この記事のポイントを振り返りましょう。
- AppleのAI健康コーチ「Project Mulberry」が大幅縮小。段階的リリースに方針転換
- Eddy Cue氏がOuraやWhoopに対する競争力不足を指摘。魅力不足が縮小の主因
- FDA規制リスクとAI精度問題が追加の障壁。健康アドバイスの誤りは実害に直結
- 栄養トラッキング等の個別機能はiOS 26.4で先行提供の可能性
- Apple Car、AirPowerに続く「完璧でなければ出さない」Apple哲学の発露
Project Mulberryの縮小は、AIの限界を示す事例でもあります。
「AIなら何でもできる」という風潮の中で、健康という人の命に関わる領域では、まだAIだけでは責任を持てない。
Appleの判断は保守的に見えますが、「出して問題を起こす」より「磨いてから出す」方がユーザーにとっては正解です。
いつものAppleらしいと言えば、そうかもしれません。
参考文献
- Bloomberg. (2026). Apple Is Scaling Back Plans for AI-Based Health Coach Service. Bloomberg
- 9to5Mac. (2026). Apple reportedly scales back plans for AI-powered health coach. 9to5Mac
- GIGAZINE. (2026). Apple cancels plans for AI-based virtual health coach. GIGAZINE
- Healthcare Digital. (2026). Project Mulberry: Apple’s secret AI-powered health coach. Healthcare Digital
- PYMNTS. (2026). Apple Scales Back AI Health Coach Plans. PYMNTS


