Anthropic最強AIが脆弱性検出|52億円の防御基金

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Anthropicが最上位AI「Claude Mythos 5」を脆弱性スキャンに開放したこと
  • 追加料金なしで使える代わりに「モデルに直接話しかけられない」設計の理由
  • 約52億円(3500万ドル)分のクレジットを配る「Defender Advantage Fund」の中身
  • OpenAIやGoogleの同種ツールと何が違うのか
  • 日本企業がいま準備しておくべきこと

自社のソースコードに、まだ誰も気づいていない穴が空いていたら——そう考えたことはありませんか。2026年8月21日、Anthropicはその穴を探す仕事を、自社で最も賢いAIに任せると発表しました。しかも追加料金はゼロです。ただし、そのAIと直接会話することはできません。

8月21日に発表された3つのこと

Anthropicが同日に打ち出した内容は、大きく3つに分かれます。

1つ目は、最上位モデル「Claude Mythos 5」を脆弱性スキャンサービス「Claude Security」に投入したことです。対象はClaude Enterpriseプランの契約企業で、パブリックベータ(正式版前の公開テスト)として提供されます。

2つ目は、総額3500万ドル(約52億円)のクレジットを配る「Defender Advantage Fund」の設立です。オープンソースソフトウェアの安全性を高める組織が対象になります。

3つ目は、審査を通った防御側の組織にMythosクラスのモデルを開放する計画です。既存の「Cyber Verification Program」を数週間以内に拡張するとしています。

ここでいう脆弱性(ぜいじゃくせい)とは、プログラムの設計ミスや書き間違いのうち、攻撃に悪用できてしまうもののことです。

Claude Securityは何をしてくれるのか

スキャン結果は「4点セット」で返ってくる

使い方はシンプルです。管理者が管理画面で機能を有効にし、調べたいリポジトリ(ソースコードの保管場所)を選ぶだけ。

返ってくる結果には、CWE分類・重大度・信頼度・修正案の4つが付きます。

CWEは「よくある弱点の国際的な分類番号」のことです。重大度は危険度、信頼度は「AIがどれくらい自信を持っているか」を示します。

つまり、100件の指摘が出ても「どれから直すべきか」が最初から並んでいる状態です。

見つけられる範囲も広く、メモリ破損、インジェクション欠陥(外部から不正な命令を注入される穴)、認証の回避、複数ファイルにまたがる論理エラーまでカバーするとされています。

SlackやJiraに流し込める

検出結果はWebhook(別のサービスに自動で通知するしくみ)でSlackやJiraへ送れます。CSVやMarkdownで書き出すこともできます。

ある金融系企業のセキュリティ担当者を想像してみてください。毎朝、前日のスキャン結果がSlackに届き、重大度「高」かつ信頼度「高」の5件だけをJiraのチケットに変える。残りは週次でまとめて見る——そんな運用が組めます。

ちなみに修正案は必ず人間の承認が必要です。AIが勝手に本番コードを書き換えることはありません。

料金は「トークン代」だけ

今回いちばん驚かれているのが課金方式です。Mythos 5のスキャンは、既存プランの通常のトークン使用量として請求されます。専用オプションの追加契約は不要です。

ただしPro・Max・Teamプランは対象外で、現時点ではEnterprise契約が条件になります。

なぜ「直接使わせない」のか

Claude Mythos 5は、Anthropicが「最も能力の高いフロンティアモデル」と呼ぶ存在です。一般向けの「Claude Fable 5」とは別枠に置かれています。

そして今回、利用者はMythos 5に直接プロンプト(指示文)を打ち込めません。受け取れるのはスキャン結果と修正案だけです。

理由はAnthropic自身が明言しています。脆弱性を見つける技術は、そのまま攻撃ツールを作る技術でもあるからです。

包丁は料理にも使えますが、渡し方を間違えれば危険です。だからAnthropicは「刃を握らせず、切った結果だけを渡す」という設計を選びました。

同社は「最もリスクの高い行動は、ユーザーがモデルに直接アクセスできる場合に起きる」と説明しています。用途を固定したインターフェース越しにすることで、悪用の余地を減らす狙いです。

専門家からは疑問の声も

この方針が全面的に歓迎されているわけではありません。

2026年5月にCNBCが報じた内容では、複数のセキュリティ専門家が「Mythosが示した危険は、古いモデルでも実現できる範囲だ」と指摘しました。

さらに「研究者がMythosを検証できないため、対策づくりに外部が参加できない」という批判もあります。安全のための非公開が、結果として防御側の遅れを生むのではないか、という懸念です。

実際、「攻撃側と防御側では、初期の優位は攻撃側にある」と見る研究者は少なくありません。

52億円の「Defender Advantage Fund」とは

もう一つの目玉が、総額3500万ドル(約52億円)相当のクレジットを配る基金です。通称は0xDAF。現金ではなく、Claudeを使うためのクレジットとして提供されます。

支援の優先順位は3つに整理されています。

  • 広く使われているOSSで、いま実在する脆弱性を直すこと
  • スキャンやパッチ適用を自動化し、他プロジェクトが真似できる形にすること
  • 攻撃手法の「種類ごと」に耐性を持たせる、より野心的な設計に挑むこと

まずは少数の大型パイロット助成から始め、初期の受給先は近日中に公表される予定です。

背景には、2026年4月に立ち上がった「Project Glasswing」があります。重要ソフトウェアの保護を目的とした取り組みで、これまでに400万ドル(約6億円)の直接寄付とクレジット提供が行われてきました。

週末に無償でライブラリを保守している個人メンテナーを思い浮かべてください。企業向けの高額なスキャンツールは手が届かない。そこにクレジットが届けば、放置されていた警告が一気に片付く可能性があります。

他社のAIセキュリティツールとの違い

この分野の競争は、2025年後半から一気に激しくなりました。主要なプレイヤーを並べてみます。

  • OpenAI「Codex Security」:旧称Aardvark。リポジトリを継続監視し、サンドボックス(隔離環境)で実際に攻撃を試して脆弱性を裏取りします。2026年7月にはCLI版がオープンソース化されました
  • Google「CodeMender」:DeepMind発。検出だけでなくパッチを自動生成し、危険なコードそのものを書き換える方向を目指しています
  • GitHub「Copilot Autofix」:プルリクエストの流れの中で修正案を出す、開発者に最も近い位置のツール
  • 従来型のSAST:ルールとパターンで機械的に検出。速い代わりに誤検知が多く、文脈を読めません

この中でAnthropicの立ち位置は独特です。最強のモデルを使わせるが、能力そのものは箱に入れて渡すという点が他社と異なります。

OpenAIがCLIを公開して裾野を広げたのとは、ほぼ逆の方向と言えます。どちらが正しいかは、まだ結論が出ていません。

なお実績面では、2026年2月にAnthropicが「Claude Code Security」で、従来のルールベースとは異なる意味理解型のアプローチによりOSSの本番コードから500件以上の未知の脆弱性を発見したと発表しています。

日本企業にとって何が変わるか

Claude Securityは2026年4月30日にパブリックベータが始まり、CrowdStrikeやPalo Alto Networks、SentinelOneといった大手セキュリティ基盤との連携も進んでいます。日本国内でも導入報告が出ています。

今回のMythos 5対応で、日本企業にとって現実的な変化は3つあります。

1つ目は、コスト構造の変化です。専用のセキュリティ製品を別契約する代わりに、既存のClaude Enterprise枠のトークンで賄えます。予算の稟議が通しやすくなります。

10年前に作られた社内の受注管理システムを抱えるEC企業を考えてみましょう。作った人はもう社内にいない。ドキュメントもない。それでもリポジトリさえあれば、AIが読み解いて危険箇所を並べてくれます。

2つ目は、人手不足への効きめです。日本のセキュリティ人材不足は慢性的で、多くの中堅企業には専任のコードレビュー担当がいません。信頼度付きの一覧が出るだけでも、トリアージ(優先順位付け)の負担は大きく減ります。

3つ目は、条件のハードルです。Enterpriseプランが前提のため、個人開発者や小規模チームはすぐには使えません。まずはOSS向け基金の受給先発表を待つ形になります。

もう一点、忘れてはいけないのが体制面です。修正案は人間の承認が必須のため、「誰が承認するのか」を先に決めておかないと、検出結果だけが積み上がります。

よくある質問(FAQ)

Q. Mythos 5を普通のチャットのように使えますか?

使えません。今回の開放はClaude Security経由の脆弱性スキャンに限定されています。受け取れるのは検出結果と修正案だけで、モデルへの直接の指示はできません。

Q. 料金はいくらかかりますか?

スキャン専用の追加料金はありません。Claude Enterpriseプランの通常のトークン使用量として消費されます。大規模なリポジトリを何度もスキャンすれば、その分トークンは減ります。

Q. AIが勝手にコードを直してしまいませんか?

直しません。提示されるのはあくまで修正案で、適用には人間のレビューと承認が必要です。運用ルールを決めたうえで導入するのが前提になります。

Q. 個人開発者やスタートアップでも使えますか?

現時点ではEnterpriseプランが条件で、Pro・Max・Teamプランは対象外です。ただしオープンソースの安全性向上に取り組む組織であれば、Defender Advantage Fundのクレジット支援が受けられる可能性があります。

Q. 見つかった脆弱性の情報が外部に漏れませんか?

検出結果はWebhookやCSVで自社の環境に出力されます。とはいえ機密コードを扱う以上、社内の情報取り扱い規程との突き合わせは事前に済ませておくべきです。

まとめ

  • 2026年8月21日、Anthropicが最上位AI「Claude Mythos 5」を脆弱性スキャンに開放した
  • 対象はClaude Enterprise顧客で、追加料金なし。通常のトークン使用量で消費される
  • 結果はCWE分類・重大度・信頼度・修正案の4点セット。修正の適用には人間の承認が必要
  • モデルへの直接アクセスは不可。攻撃転用のリスクを抑えるための設計
  • 総額3500万ドル(約52億円)の「Defender Advantage Fund」でOSSの安全性向上を支援
  • OpenAIやGoogleが公開路線を進むなか、Anthropicは「能力を箱に入れて渡す」路線を選んだ

すでにClaude Enterpriseを契約している企業は、まず管理画面で機能を有効にし、いちばん古いリポジトリを1本だけスキャンしてみるところから始めてみてください。

参考文献