この記事でわかること
- カインズが導入したAI投稿支援の仕組み
- 「AI が書いた感」を抑える技術的な工夫
- なぜ今、EC サイトで口コミ(UGC)が重要なのか
- Google Gemini API を活用した具体的な実装方法
- この技術が小売業界に与える影響
カインズが「暮らシェア」にAI投稿支援を導入
ホームセンター大手のカインズが、自社の コミュニティサイト「暮らシェア」に AI 投稿支援機能を実装しました。このサイトは、商品の使い方アイデアや暮らしの工夫を ユーザー同士で共有するプラットフォームです。
開発を担当したのは、岐阜県のシステムサポート社。Google Cloud の Gemini API(ジェミニ API、Google が提供する AI サービス)を活用して、ユーザーが簡単に投稿できる仕組みを作りました。
ユーザーは最小 1 文から投稿を始めることができ、AI が「家族の思い出」「意外な使い方」といった目的を提案してくれます。さらに「フォーマル」「フレンドリー」など、文体のトーン調整も可能です。
なぜ「AI 感」を抑える必要があるのか?
カインズの投稿支援 AI が特徴的なのは、「AI が書いた感を抑える」という設計思想です。つまり、AI に任せきりで不自然な文章が生まれることを避けています。
2026 年現在、AI 生成テキストは一般的で曖昧な表現になりやすく、実体験や個人的意見が感じられないという課題があります。たとえば EC サイトの口コミで「この商品は素晴らしいです。多くの人におすすめできます」のような、誰が書いても同じような内容になってしまうのです。
こうした「AI 丸出し」の投稿が増えると、読む人は「本当にこの人が使ったの?」と疑ってしまいます。その結果、せっかくの口コミが信頼されず、購買につながりません。
カインズの AI 投稿支援は、ユーザーが自分の言葉で最初の 1 文を書き、AI がそれを膨らませたり整えたりするスタイルです。つまり「AI が代筆する」のではなく「ユーザーの言葉を AI がサポートする」という立ち位置なのです。
口コミ投稿のハードルを下げる工夫
EC や小売業界では、ユーザーが「投稿したいけど、どう書けばいいかわからない」と感じることが大きな課題でした。特にホームセンターで購入した商品は、DIY や日常の工夫など、説明が複雑になりがちです。
カインズの AI 投稿支援は、この「投稿のハードル」を 3 つの方法で下げています。
- 投稿目的の選択:何を伝えたいか、コンセプトから選べる
- トーン調整:硬い文章が良いか、親しみやすい文章が良いかを指定できる
- 推敲支援:書いた文章を AI が見直し、より良い表現を提案してくれる
これにより、投稿は「難しい作業」から「簡単で楽しいもの」に変わったと、開発チームは説明しています。
なぜ UGC(口コミ)が EC で重要なのか?
UGC とは「User Generated Content(ユーザー生成コンテンツ)」の略で、企業ではなくユーザー自身が作った口コミや投稿のことです。
2026 年現在、AI の進化により「嘘の情報」は淘汰され、「本物の体験」だけが価値を持つ時代になったと言われています。特に高額商品や大型家具などの購入には高いハードルがあり、他のユーザーのレビューが購入の助けとなります。
ユーザーは共通のニーズを持っていると感じた既存購入者のコメントに親近感を抱き、「ほかの人も満足しているなら、私も購入してみよう」という気持ちが生まれやすくなります。つまり UGC は、売上に直結する重要な要素なのです。
しかし UGC を増やすには課題があります。ユーザーが投稿したくなる仕掛けを設計しなければ、投稿数は増えません。カインズの AI 投稿支援は、この課題に対する 1 つの解決策と言えるでしょう。
Google Gemini API の活用方法
技術的な仕組みについても見ていきましょう。カインズの AI 投稿支援は、Google Cloud の Gemini API を活用しています。
Gemini API は、テキストだけでなく画像・音声・動画まで扱える「マルチモーダル AI(複数の形式のデータを処理できる AI)」です。2026 年時点での強みは、1 本の API で「なんでも入力してなんでも出力する」土台が揃っていることです。
システムサポート社は以下のような実装を行いました。
- ユーザーが選択した投稿目的や入力したテキストを API 経由で Gemini に送信
- Gemini が最適な文章を生成して返す
- BigQuery(ビッグクエリ、Google のデータ分析ツール)で投稿データを蓄積し、UX 改善に活用
タスクの難易度に応じてモデルを使い分けることも重要です。簡単な要約や分類なら高速・低コストな「gemini-1.5-flash」を、複雑な推論や長文生成なら「gemini-1.5-pro」を使うといった工夫が、実務では効果的とされています。
オンラインとオフラインの融合を目指す
カインズは「暮らシェア」を通じて、オンラインとオフラインのギャップを縮小することも目指しています。店舗での体験とオンラインコミュニティを連携させることで、顧客の購買体験全体を向上させる狙いです。
たとえば、店舗で見た商品についてその場で投稿したり、他のユーザーの投稿を参考にして店舗で商品を探したりする流れが考えられます。このような「オンラインとオフラインの融合」は、小売業界全体のトレンドでもあります。
カインズは関連する DIY コミュニティ「Cainz DIY Square」も運営しており、会員数は 10 万人を突破しました。こうした複数のコミュニティを通じて、顧客との接点を増やし、ロイヤリティ(企業やブランドへの愛着)を高める戦略を進めています。
業界への影響と今後の展開
カインズの AI 投稿支援は、他の EC 事業者や小売業にとっても参考になる取り組みです。特に以下の 2 点が重要です。
1 つ目は「AI を代筆ツールではなく、支援ツールとして位置づける」という考え方です。AI に全てを任せるのではなく、ユーザーの言葉を引き出し、整える役割に徹することで、自然で信頼できる投稿が生まれます。
2 つ目は「データ分析を UX 改善に活用する」という点です。BigQuery で投稿データを蓄積し、どのような投稿目的が選ばれやすいか、どのトーンが好まれるかを分析することで、システムを継続的に改善できます。
今後は、他の業界でも「AI 感を抑えたライティング支援」が広がる可能性があります。たとえば旅行レビュー、飲食店の口コミ、SNS 投稿などでも、同様の技術が応用できるでしょう。
まとめ
- カインズが「暮らシェア」に AI 投稿支援機能を導入し、口コミ投稿のハードルを下げた
- 「AI が書いた感」を抑えるため、ユーザーの言葉を支援する設計を採用
- UGC(口コミ)は EC の売上に直結する重要な要素で、信頼性が鍵
- Google Gemini API と BigQuery を活用し、継続的な UX 改善を実現
- オンラインとオフラインの融合を目指し、顧客体験全体を向上させる戦略
- 他業界にも応用可能な「AI 支援型ライティング」のモデルケース

