- アリババが動画生成AI「Wan3.0」を2026年8月24日に正式リリースした
- 1回の生成で最大30秒。前世代の15秒から2倍に伸びた
- PowerPointやPDFをそのまま読み込ませて動画にできる新機能
- 料金は1080pで1秒0.20ドル(約32円)。30秒フルで約956円
- 公開の前日、アリババは香港で約1兆5000億円の株式売り出しを実施していた
作った企画書が、そのまま動画になったら楽だと思ったことはありませんか。アリババが8月24日に正式公開した「Wan3.0」は、まさにそれをやります。スライドを投げ込むだけで、最大30秒のPVができあがる。しかも1本あたり1000円以下。動画制作の常識が、また1段ずれました。
Wan3.0とは何か
Wan(ワン)は、中国のアリババが開発している動画生成AIです。
文章や画像を入力すると、AIが動画を作ってくれます。今回発表されたWan3.0は、そのシリーズの最新版です。
正式リリースは2026年8月24日。実は8月6日から公開ベータ(試験公開)が始まっていて、そこから約3週間での本番投入でした。
いちばんの変化は「30秒」
Wan3.0で最も分かりやすい進化が、生成できる長さです。
1回の生成で最大30秒の動画を作れるようになりました。前の世代であるWan2.7-Videoは最大15秒だったので、ちょうど2倍です。
「たった15秒増えただけ」と思うかもしれません。でも、この差はかなり大きいです。
15秒だと、商品を映して終わりです。30秒あれば「問題提起 → 商品登場 → 使っている様子 → ロゴ」という起承転結が入ります。テレビCMの標準尺が15秒と30秒であることを思い出すと、実用ラインに乗ったと言えます。
解像度は3段階
出力できる画質は480p・720p・1080pの3つです。
480pは下書き確認用、720pはSNS投稿用、1080pは本番用、といった使い分けになります。フルHD(1080p)まで出せるので、企業のWebサイトに載せる動画としても十分な画質です。
企画スライドを読ませてPVが作れる
Wan3.0の目玉機能が、オフィス文書をそのまま入力できることです。
これまでの動画生成AIは、基本的に「文章」か「画像」しか受け付けませんでした。動画にしたい内容が資料にまとまっていても、人間がそれを読んで、プロンプト(AIへの指示文)に書き直す必要があったのです。
Wan3.0はその手間を飛ばします。
対応している形式が幅広い
読み込めるファイル形式は、かなり守備範囲が広いです。
- doc(Word文書)、xls(Excel表計算)、ppt(PowerPointスライド)
- pdf、txt、md(マークダウン)
- key、pages、numbers(Apple製オフィスソフトの形式)
- Webページのリンクそのもの
制限はファイルサイズ最大100MB、文書は最大50ページまで。普通の企画書なら問題なく収まる容量です。
Appleの形式に対応しているのは地味に親切です。Macで作った資料を、いちいちPowerPointに変換しなくて済みます。
文書以外もまとめて入れられる
入力できるのは文書だけではありません。
テキスト、画像、音声、動画も同時に渡せます。報道によれば、画像は最大10枚、動画は最大5本、音声は最大5ファイルまで受け付けるとされています。
つまり「企画書PDF+商品写真5枚+BGM1本」をまとめて投げる、という使い方ができます。素材をバラバラに管理して継ぎ足す作業が、ぐっと減ります。
実際にどう使われているか
ベータ期間中の用途として報告されているのが、ショートドラマ・映画制作、広告やマーケティング、観光プロモーション、ミュージックビデオです。
身近な場面に置き換えてみます。
地方の観光協会で働く担当者を想像してください。町の魅力をまとめた20ページのPDFパンフレットはある。でも動画予算はゼロ。これまでは諦めるしかありませんでした。Wan3.0なら、そのPDFを投げて30秒のプロモーション動画を作り、1080pでも1000円程度で仕上がります。
社内研修も同じです。新人向けの操作マニュアルがWordで50ページある。読んでもらえない。それを教材動画に変えるという使い方が、公式にも想定されています。
中小企業の商品PRも現実的です。展示会用に作ったスライドをそのまま流し込めば、ブースで流す30秒動画が当日中にできる。外注すれば数十万円かかっていた作業です。
料金はいくらか
Wan3.0はAPI(プログラムから呼び出す仕組み)経由での提供で、秒単位の従量課金です。
標準版(Standard)の価格
- 480p:1秒あたり0.05ドル(約8円)/30秒で約1.5ドル
- 720p:1秒あたり0.10ドル(約16円)/30秒で約3ドル
- 1080p:1秒あたり0.20ドル(約32円)/30秒で約6ドル(約956円)
高速版(Prime)の価格
- 480p:1秒あたり0.068ドル(約11円)
- 720p:1秒あたり0.14ドル(約22円)
- 1080p:1秒あたり0.28ドル(約45円)/30秒で約8.4ドル
Prime版は生成が速い代わりに、約4割高い設定です。締め切り直前に回すならPrime、まとめて夜間に流すならStandard、という選び方になります。
さらにリリース時点では、9月23日まで30%割引キャンペーンが実施されています。1080pの30秒動画なら、実質700円弱で試せる計算です。
広告代理店に30秒のPV制作を頼むと、安くても数十万円はかかります。もちろん品質は別物ですが、「まず案を10本作って社内で選ぶ」という段階なら、1万円かからずに全部作れてしまいます。
他の動画生成AIとどう違うのか
2026年の動画生成AIは激戦区です。Wan3.0の立ち位置を整理します。
長さでは頭ひとつ抜けている
多くの主力モデルは、1回の生成で10秒前後が上限です。GoogleのVeoシリーズ、快手(クアイショウ)のKling、バイトダンスのSeedanceなど、有力どころも短いクリップを何本もつないで長尺にするのが基本でした。
Wan3.0の30秒は、この点で明確な差別化になっています。つなぎ目を作らずに1本で流せるのは、キャラクターや背景の一貫性を保つうえで有利です。
画質の頂点争いでは他社が上
一方で、映像そのものの美しさでは競合が強いです。
GoogleのVeo 3.1は4K・60fpsの出力と音声同期に対応していると報じられています。Kling系は物理的に自然な動きの表現で評価が高い。「1カットの完成度」で勝負するなら、これらが有力です。
Wan3.0の強みは、長さ・入力の柔軟さ・価格の3点セットにあります。最高峰の映像美より、業務でそこそこの動画を大量に安く作りたい層に刺さる設計です。
重みは公開されていない
Wanシリーズは、これまでオープンソースであることが大きな武器でした。Wan2.2系はモデルの重み(AIの中身のデータ)がHugging Faceで公開され、Apache 2.0ライセンスで商用利用も自由でした。自分のパソコンやサーバーで動かせたわけです。
ところがWan3.0は、現時点ではAPI経由のみの提供とされています。重みの公開は確認されていません。
最先端モデルはクローズドで収益化し、1世代前をオープンにする。この流れは他社でもよく見られるパターンです。ローカルで動かしたい人は、当面Wan2.2系を使うことになります。
背景にある1兆5000億円の資金調達
Wan3.0のリリースには、見逃せない伏線があります。
公開のわずか前日、アリババは香港で800億香港ドル(約102億ドル、日本円で約1兆5000億円)の新株発行を実施しました。香港上場企業による追加公募としては過去最大規模です。
調達資金の使い道は明快で、全額をAI関連への投資に充てると表明されています。AIインフラの拡張と強化が中心です。
その裏返しとして、アリババは直近の四半期決算で利益が前年同期比75%減という数字を出しています。AI向け設備投資が急増したためです。
つまりWan3.0は、稼ぎを削って莫大な投資を続けている企業が、その成果を示すために出した看板商品でもあります。1兆5000億円を集めた翌日に新モデルを出す。タイミングは偶然ではないでしょう。
日本のユーザーにとってどうか
日本から使えるのか、が気になるところです。
クラウド経由なら利用できる
Wan3.0はAlibaba Cloud Model StudioとQwen Cloudから提供されています。加えて、消費者向けサイト「wan.video」も会員制で準備が進んでいると報じられています。
Alibaba Cloudは日本にもリージョン(データセンター拠点)を持ち、日本語のサポート窓口もあります。ただしWan3.0の利用には申請が必要とされており、誰でもすぐ使える状態ではありません。
日本の動画制作コストとの落差
日本で30秒のプロモーション動画を外注すると、シンプルなものでも20万〜50万円、撮影を伴えば100万円を超えることも珍しくありません。
Wan3.0の約956円という数字は、その3桁下です。もちろん出来上がるものは別物ですし、実写の説得力にはかないません。
それでも、これまで動画に手を出せなかった層が動きます。個人商店、地方の観光地、小さなNPO。予算がゼロだったところに、千円で選択肢が生まれる意味は小さくありません。
気をつけたいこと
実務で使うなら、確認しておきたい点が2つあります。
1つは、アップロードする資料の扱いです。未発表の商品企画書を海外のクラウドに送ることになるので、社内の情報管理ルールと照らし合わせる必要があります。
もう1つは、生成物の権利関係です。商用利用の条件は提供元の利用規約に従うので、広告に使う前に必ず確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. Wan3.0は無料で使えますか?
いいえ、秒単位の従量課金です。480pなら1秒約8円なので、10秒のテスト動画で80円程度。ただし2026年9月23日まで30%割引が実施されているため、試すなら今が安く済みます。
Q2. パソコンにインストールして使えますか?
Wan3.0は現時点でAPI提供のみで、モデルの重みは公開されていません。ローカルで動かしたい場合は、Apache 2.0ライセンスで公開されているWan2.2系を使うことになります。こちらはHugging Faceからダウンロードでき、商用利用も可能です。
Q3. スライドを入れれば、勝手にいい動画ができるのですか?
資料を読み取って動画の骨組みを作ってくれますが、意図どおりになるとは限りません。Wan3.0にはプロンプトから最適な動画の長さを提案する機能や、既存動画を延長するツールも備わっています。何度か調整を重ねる前提で考えたほうが現実的です。
Q4. 30秒より長い動画は作れませんか?
1回の生成での上限が30秒です。それ以上の尺が必要なら、複数回生成してつなぐか、搭載されている動画延長機能を使うことになります。Wan3.0はキャラクターや小道具の一貫性向上に力を入れているとされ、つないだときの違和感は以前より減ると期待されています。
Q5. 日本語のプロンプトは通りますか?
Wanシリーズは多言語に対応しており、日本語での指示も基本的に受け付けます。ただし細かいニュアンスは英語や中国語のほうが伝わりやすい傾向があるため、思った結果が出ないときは英語で書き直すと改善する場合があります。
まとめ
- アリババが動画生成AI「Wan3.0」を2026年8月24日に正式リリースした
- 1回の生成で最大30秒。前世代の15秒から2倍になり、CM尺が1本で作れるようになった
- PowerPoint・PDF・Word・Webページなど、オフィス文書をそのまま入力できる
- 料金は1080pで1秒0.20ドル。30秒フルでも約956円と、外注費の3桁下
- 画質の頂点ではVeoやKlingが上。Wan3.0は長さ・入力の柔軟さ・価格で勝負している
- Wan3.0は現状API提供のみで、ローカル実行したいならWan2.2系を使う
- リリース前日に約1兆5000億円をAI投資向けに調達した、アリババの看板商品でもある
手元に眠っている企画書やパンフレットを1つ選んで、30秒の動画にしたらどう見えるか——割引期間中に千円だけ試してみるのが、いちばん早い理解の近道です。
参考文献
- 動画生成AI「Wan3.0」が正式リリース、最大30秒生成に対応 – GIGAZINE
- Wan3.0: 30-Second AI Video Generation from Any Input – Alibaba Cloud
- Alibaba’s Wan3.0 generates AI videos up to 30 seconds long – THE DECODER
- Alibaba launches Wan3.0 video model with 30-second generation and document input – TechNode
- Alibaba to issue US$10 billion in new shares for huge AI push – SCMP
- Wan-AI/Wan2.2-T2V-A14B – Hugging Face


