NVIDIAのAIが満点|同じモデルは30%

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • NVIDIAのAIエージェント「AVO」がARC-AGI-3で満点(RHAE 100.00)を記録した
  • 中身のAIはClaude Opus 5。単体の別条件評価では約30%にとどまっていた
  • 差を生んだのはモデルではなく「ハーネス」と呼ばれる周辺システムの設計
  • 25環境183レベルを6,624アクションでクリアし、従来手法より約12%少ない手数だった
  • AI業界の勝負どころが「賢いモデル選び」から「使わせ方の設計」へ移りつつある

同じAIなのに、点数が30%と100%に分かれる。そんなことが本当に起きました。違いはモデルではなく、その周りを固める仕組みでした。この記事では、NVIDIAが示した「ハーネス」という考え方と、それが私たちの仕事にどう関わるのかを、やさしく整理します。

何が起きたのか|同じAIが30%から100%へ

NVIDIAは2026年8月21日、自社の技術ブログである発表をしました。

AIエージェントシステム「AVO(Agentic Variation Operators)」が、難関ベンチマーク「ARC-AGI-3」で満点のRHAE 100.00を記録した、という内容です。

ベンチマークとは、AIの実力を測るための共通テストのことです。

驚きはここからです。AVOの頭脳として動いていたのは、Anthropic社のClaude Opus 5でした。

ところが、同じClaude Opus 5を別の条件でARC-AGI-3にかけた評価では、スコアは約30%にとどまっていたのです。

NVIDIAはモデルそのものには一切手を加えていません。手を入れたのは、モデルに情報を渡す仕組み、記憶を管理する仕組み、失敗から立て直す仕組みだけでした。

つまり「AIが賢くなった」のではなく、「AIの働かせ方がうまくなった」ということです。

ARC-AGI-3とは? 説明書ゼロのゲーム183面

ARC-AGI-3は、ARC Prize Foundationが2026年3月25日に公開した、対話型の推論ベンチマークです。

中身は、ゲームデザイナーが1本ずつ手作りしたターン制のミニゲーム群です。

最大の特徴は、説明書がまったくないこと。ルールも、目的も、操作方法も一切教えてもらえません。

AIは自分でボタンを押して反応を観察し、「どうやら壁は通れない」「これを集めると先に進むらしい」と推測していきます。

初めて遊ぶゲームをマニュアルなしで渡され、手探りでクリアするのに近い状況です。

RHAEという、かなり厳しい採点方法

スコアの単位であるRHAEは「Relative Human Action Efficiency(人間と比べた行動効率)」の略です。

基準になるのは、そのレベルを初見でクリアした人間のうち2番目に良かった手数です。

採点は非常に厳しく設計されています。人間の2倍の手数をかけると、得点はわずか1%まで落ちます。

上限は人間の5倍の手数まで。それを超えると打ち切りです。

クリアするだけでは足りず、人間並みに無駄なくクリアしないと点にならない仕組みです。

登場時は全モデルが1%未満だった

公開直後のARC-AGI-3は、AIにとって壁のような存在でした。

当時のフロンティアモデル(各社の最上位AI)は、そろって1%未満のスコア。一方で人間は、すべての環境をクリアしています。

この差は「AIには対話しながら学ぶ力が足りない」という指摘として受け止められました。

それが半年も経たずに満点まで到達した、というのが今回のニュースの重みです。

「ハーネス」とは何か AVOを支える4つの仕組み

ハーネス(harness)とは、AIモデルを実際の仕事に接続するための実行基盤のことです。

モデルがエンジンだとすれば、ハーネスは車体・ハンドル・ブレーキ・カーナビにあたります。エンジンだけ最高性能でも、車体がなければ目的地には着きません。

AVOはそのハーネスを、次の4つの要素で組み立てていました。

1. 検査→計画→実装→評価のループ

AVOは同じ流れをぐるぐる回します。状況を調べ、計画を立て、実行し、結果を評価する。

そして評価の結果を次の計画に反映させます。一発勝負ではなく、改善の繰り返しで正解に近づく設計です。

2. 永続的なメモリ

AVOは過去の試行を捨てません。過去の実装、評価結果、コンパイラやプロファイラの出力、積み上げた推論をすべて保持します。

AIの弱点のひとつは「さっきの失敗を忘れて同じ失敗を繰り返す」ことです。

記録が残っていれば、同じ壁に2度ぶつからずに済みます。

3. スーパーバイザー(監督役)

AVOには、探索の流れ全体を見張る監督機能があります。

進みが止まっていると判断すれば、途中で介入して方針を切り替えさせます。

行き詰まったチームに、一歩引いた視点から「その方向は違う」と声をかける先輩のような役割です。

4. ツールの利用

AVOは環境ごとのインターフェースを通じて、外部を実際に操作します。

頭の中だけで考えるのではなく、手を動かして反応を確かめる。ARC-AGI-3のように説明書がない世界では、これが決定的に効きます。

ちなみにAVOはもともと、汎用の推論用に作られたものではありません。GPU上で動くCUDAカーネルの自動最適化のために開発された仕組みでした。

NVIDIAの検証では、7日間連続で動かし続けた結果、同社の標準ライブラリを上回る性能のプログラムを生み出したと報告されています。

そのコード最適化用の枠組みを、ルールの分からないゲームにそのまま持ち込んで満点を取った。ここに「汎用性がある」という主張の根拠があります。

他のエージェント基盤と何が違うのか

ハーネスという発想自体は、AVOだけのものではありません。2026年時点で、選択肢はすでに複数あります。

  • Claude Agent SDK(Anthropic):サブエージェント、セッション、フック、権限管理やサンドボックスを備えた基盤。Claude系モデルに最適化されています
  • OpenAI Agents SDK / AgentKit:ビジュアルな構築ツールが強みで、動くデモまでが最短。ネイティブのサンドボックス実行にも対応しています
  • LangGraph(LangChain):状態管理の細かさに定評があり、KlarnaやReplit、Uberなどが本番運用しています。モデルを問わず使えるのが利点です
  • VISTA:ARC-AGI-3で先行していた手法。全183レベルのクリアに7,542アクションを要しました

ここでAVOの数字を並べると、位置づけがはっきりします。

AVOは25環境・183レベルを6,624アクションでクリアしました。VISTAの7,542アクションに対して、約12%少ない手数です。

単にクリアしただけでなく、より少ない手数で到達したという点が評価されています。

大きく分けると、選択肢は「特定のモデルに最適化されたベンダー純正SDK」と「モデルを問わない独立系フレームワーク」の2系統です。AVOは前者に近い立ち位置ながら、中身にClaude Opus 5とGPT-5.6 Solの両方を試している点が特徴的でした。

日本の企業と個人に何が起きるか

「NVIDIAがベンチマークで満点」と聞くと、遠い世界の話に感じるかもしれません。

けれど今回の教訓は、かなり身近なところに効いてきます。

「AIを変えたら解決する」という発想が変わる

ある地方メーカーの情報システム担当者を想像してみてください。社内でAIに議事録要約をさせたものの、精度が今ひとつです。

これまでの解決策は「もっと高性能なモデルに乗り換える」でした。上位プランへの契約変更に、毎月数万円を追加で払うわけです。

ところが今回の結果は、別の道を示しています。渡す情報の整え方、過去のやり取りの残し方、失敗したときの立て直し方を設計するだけで、同じモデルのまま結果が変わる可能性があるということです。

長時間まかせる仕事ほど差が出る

都内の受託開発会社で、レガシーコードの移行を任されたチームを考えてみます。

数千ファイルを1つずつ書き換える作業は、数分で終わる仕事ではありません。数日単位でAIを走らせ続ける必要があります。

この長さになると、途中で文脈を見失う、同じ修正を何度も繰り返す、といった問題が必ず起きます。

AVOが持つ永続メモリと監督機能は、まさにこの長時間の自律作業のための装備でした。7日間動かし続けた実績が、それを裏づけています。

日本企業の「次の壁」と重なる

国内でも、生成AIの導入は一巡しつつあります。使えることは分かった、では業務にどう組み込むか、という段階です。

個人ユーザーにとっても無関係ではありません。ChatGPTやClaudeで思うような答えが出ないとき、原因はモデルの賢さではなく、渡している材料や会話の残し方にあるかもしれない、という視点が持てます。

なお、AVO自体は現時点で誰でも自由に使えるプロダクトとして提供されているわけではありません。日本のユーザーがすぐ触れるのは、Claude Agent SDKやLangGraphといった既存の基盤のほうです。

うのみにできない3つの注意点

華やかな数字ですが、冷静に見るべき点もあります。

第一に、今回の満点は「公開セット」での結果です。ARC-AGI-3には非公開の評価セットもあり、そちらでの成績は検証されていません。

公開されている問題は、対策のしようがあります。本当の汎用性が示されたと言い切るには、まだ材料が足りません。

第二に、コストの情報がはっきりしていません。6,624アクションを回すのに、どれだけの計算資源と料金がかかったのか。企業が導入を検討するなら、ここは避けて通れない論点です。

第三に、ARC-AGI-3はあくまでゲーム環境です。実際の業務は、正解が1つに定まらず、途中で条件が変わり、失敗のコストも高くなります。

ベンチマークで満点だからといって、明日から経理や法務をそのまま任せられるわけではない、と言われています。

よくある質問(FAQ)

Q1. AVOは誰でも使えますか?

A. 現時点では、一般向けの製品として自由に使える形にはなっていません。関連する論文は公開されていますが、コードの提供状況は明確ではありません。同じ考え方を試したい場合は、Claude Agent SDKやLangGraphなど既存の基盤から始めるのが現実的です。

Q2. なぜ同じモデルで30%と100%に分かれるのですか?

A. 評価の条件が違うためです。30%はモデル単体を別条件で測った数字で、100%はAVOという実行基盤に組み込んだ状態の数字です。記憶の持たせ方、失敗からの復帰、ツールの使わせ方が加わることで、同じ頭脳でも出せる結果が変わります。

Q3. ハーネスとプロンプトエンジニアリングは同じものですか?

A. 重なる部分はありますが、範囲が違います。プロンプトは主に「1回の指示文の書き方」を指します。ハーネスは、記憶の管理、ツールの接続、進捗の監視、エラーからの復帰までを含む、システム全体の設計を指します。

Q4. ARC-AGI-3で満点なら、AGIが完成したということですか?

A. そうとは言えません。ARC-AGI-3は人間なら解ける問題をAIが解けるかを測るテストで、AGI(人間並みに何でもこなす汎用AI)の完成を証明するものではありません。非公開セットでの検証も残っています。

Q5. 個人でもこの考え方を活かせますか?

A. 活かせます。作業の履歴をメモに残してAIに読ませる、長い仕事を小さく区切る、途中結果を必ず確認して方向を修正する。この3つだけでも、ハーネスの発想を取り入れたことになります。

まとめ

  • NVIDIAのAVOがARC-AGI-3で満点のRHAE 100.00を記録した(2026年8月21日発表)
  • 中身はClaude Opus 5で、単体の別条件評価では約30%だった
  • 差を生んだのは、記憶・監督・ツール・改善ループからなる「ハーネス」の設計
  • 25環境183レベルを6,624アクションでクリアし、従来手法より約12%効率的だった
  • ただし公開セットでの結果であり、コストや実務適用は未知数のまま

次の一歩として、いま使っているAIに「前回の作業内容と失敗の記録」を渡してから同じ依頼をしてみてください。モデルを変えずに結果が変わる感覚が、いちばん早く体験できます。

参考文献