Alibaba、Claude Code禁止|中国追跡コードの正体

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Alibabaが2026年7月10日から社員のClaude Code利用を全面禁止すること
  • Claude Codeに中国ユーザーを見分ける「隠しコード」が仕込まれていたこと
  • 隠しコードは時刻設定やプロキシを調べ、見えない文字で情報を送っていたこと
  • 背景にAnthropicとAlibaba(Qwen)の「モデル蒸留」をめぐる激しい対立があること
  • 社員の移行先はAlibaba自社のAI開発ツール「Qoder(コーダー)」であること

あなたが毎日使っている道具が、実はこっそりあなたの国を見分けていたら、どう感じますか。いま世界中のエンジニアの間で、まさにそんな出来事が大きな話題になっています。中国の巨大IT企業Alibabaが、人気のAI開発ツール「Claude Code」を全面禁止すると決めたのです。この記事では、何が起きたのか、その裏にある技術と対立を、やさしく整理します。

Alibabaが「Claude Code」を全面禁止

まず起きた事実から見ていきます。

中国の大手IT企業Alibaba(アリババ)が、社員に対してClaude Codeの利用を禁止すると決めました。

Claude Code(クロードコード)とは、AI企業Anthropic(アンソロピック)が作ったAI開発ツールです。文章で指示するだけで、AIがプログラムを書いてくれます。

禁止が始まるのは2026年7月10日から。Alibabaはこのツールを「高リスクなソフトウェア」に分類したと報じられています。

社員は代わりに、Alibaba自社のツール「Qoder(コーダー)」を使うよう指示されました。世界的に人気のツールを、大企業が丸ごと締め出す。これはとても異例のことです。

見つかった「隠しコード」の正体

では、なぜAlibabaはここまで強い対応を取ったのでしょうか。きっかけは、ある発見でした。

きっかけは1人のエンジニアの解析

2026年6月30日、Redditというサイトで「LegitMichel777」と名乗る技術者が、Claude Codeの中身を解析しました。

すると、説明書きにも載っていない「隠しコード」が見つかったのです。このコードは、2026年4月2日公開のバージョン2.1.91から、こっそり入っていたとされます。

中国ユーザーを見分ける仕組み

この隠しコードは、いくつかの方法でユーザーを調べていました。

  • パソコンの時刻設定が「アジア/上海」や「アジア/ウルムチ」になっているか調べる
  • 通信の設定(プロキシ)を、中国の大手IT企業のリストと照らし合わせる
  • Alibaba、ByteDance、Baiduなどの名前をキーワードとして探す

つまり、使っている人が中国のユーザーかどうかを、自動で判定していたのです。

「見えない文字」で情報を送っていた

さらに驚くのが、情報の送り方です。

普通のように記録を残すのではなく、ステガノグラフィー(データを見えない形で隠す技術)が使われていました。

中国のユーザーだと判定されると、日付の区切りが「-」から「/」に変わりました。さらに「Today’s date is」の中のアポストロフィが、見た目はそっくりで中身は違う特殊な文字に、こっそり差し替えられていたのです。

人間の目には全く分かりません。でもAnthropicのサーバーは、この違いを機械的に読み取れます。コードは「91」という鍵で暗号化され、簡単には中身を見られないよう隠されていました。

なぜAnthropicは仕込んだのか

Anthropicはこの件を認めています。Claude Code開発チームのThariq Shihipar氏は、X(旧Twitter)でこう説明しました。

「これは3月に始めた実験だ。無許可の転売業者による不正利用を防ぎ、蒸留(じょうりゅう)から守るためのものだった」

ここで出てくる「蒸留」が、実はこの事件の核心です。

蒸留(distillation)とは、あるAIの答えを大量に集めて、別のAIを学習させる手法です。人気AIの回答をまねさせて、自分のAIを賢くするイメージです。

Anthropicは、この蒸留を「勝手にやられている」と強く警戒していました。実際、削除の作業自体は進めており、隠しコードを消す変更は2026年7月1日に反映されたとしています。

背景にあるAnthropicとAlibabaの対立

今回の禁止は、突然起きたわけではありません。両社の間には、以前から深い溝がありました。

2026年6月10日、Anthropicはアメリカの上院銀行委員会に手紙を送りました。その中で「Alibaba傘下のQwen(クウェン)AI研究所に関係する者が、史上最大級の蒸留攻撃を仕掛けた」と告発したのです。

Anthropicの主張によると、その規模はこうです。

  • 期間は2026年4月22日から6月5日ごろ
  • 約2万5000個の不正アカウントを使用
  • Claudeとのやり取りは約2880万回にのぼる

狙われたのは、ソフト開発やAIの推論といった、Claudeの最も価値ある能力だったといいます。Alibaba側はこの告発を否定しています。

アメリカの議会でも動きが出ています。一部の議員は、米国AIの出力を不正に使った中国企業を制裁対象にする法案を検討していると報じられました。

移行先「Qoder」とはどんなツール?

禁止されたAlibaba社員が使うのが、自社ツールのQoderです。Claude Codeとどう違うのか、比べてみましょう。

Qoderは、AIを中心にすえた開発用のIDE(統合開発環境。コードを書くための総合ソフト)です。中身にはAlibaba独自のAIモデル「Qwen3-Coder」が使われています。

主な特徴は次の通りです。

  • 画面のある開発ソフトの中で、AIが自動で作業を進める
  • 「Quest Mode」で、指示から結果まで自動でこなす
  • 現在は公開プレビュー中で、無料で使える

一方のClaude Codeは、ターミナル(文字だけで操作する画面)で動き、大きく複雑なプログラムの扱いに強いのが持ち味です。

ざっくり言えば、画面付きで自動作業を任せたいならQoder、ターミナルで大規模開発をしたいならClaude Codeという住み分けになります。今回の一件で、中国企業は自国産ツールへ一気に傾く可能性があります。

日本のユーザー・企業への影響は?

「これは中国の話でしょう」と思ったかもしれません。でも、日本にも関係する話です。

まず、日本のエンジニアはClaude Codeを普通に使えます。今回の隠しコードは中国判定のためのもので、日本のユーザーを禁止する話ではありません。

ただ、無視できない点が2つあります。

1つ目は信頼の問題です。「開発ツールが、説明なしにユーザーを見分けていた」という事実は、国を問わず不安を生みます。会社で使うツールほど、この不信感は重く響きます。

2つ目はツール選びへの影響です。ある日本企業の開発チームを想像してみてください。海外製ツールを1つに絞っていると、こうした騒動で急に使えなくなるリスクがあります。複数のツールを併用したり、国産や自社の選択肢を持ったりする動きが、これから加速しそうです。

すでに削除対応が進んでいるとはいえ、「AIツールが裏で何をしているか」を気にする姿勢は、日本の現場でも大切になっていきます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 日本でClaude Codeを使うと追跡されますか?

今回見つかった隠しコードは、中国のユーザーを見分けるためのものでした。日本のユーザーを対象にしたものではないと報じられています。すでに該当コードは削除されたとされています。

Q2. Anthropicは謝罪したのですか?

開発チームの担当者は、これを「不正利用と蒸留を防ぐための実験」と説明しました。以前から削除する予定だったとし、2026年7月1日に削除の変更を反映したとしています。

Q3. 「蒸留」はなぜ問題なのですか?

蒸留は、人気AIの答えを大量に集めて別のAIを学習させる手法です。開発に莫大な費用をかけた企業からすれば、成果を勝手にまねされる形になり、大きな損失につながると考えられています。

Q4. Qoderは日本でも使えますか?

QoderはAlibabaが提供するツールで、現在は公開プレビュー中です。無料で試せますが、業務利用の際は各社のセキュリティ方針に沿った確認が必要です。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • Alibabaが2026年7月10日から社員のClaude Code利用を全面禁止する
  • Claude Codeに中国ユーザーを見分ける隠しコードが見つかった
  • 時刻やプロキシを調べ、見えない文字で情報を送る仕組みだった
  • 背景にAnthropicとAlibaba(Qwen)の「モデル蒸留」対立がある
  • 社員の移行先はAlibaba自社ツール「Qoder」である

AIツールの「見えない部分」に、これまで以上に目を向けてみましょう。あなたが使うツールが裏で何をしているか、一度ニュースで確かめてみることをおすすめします。

参考文献

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