味の素の経理AIで工数76%削減|年1万時間創出

経理業務を自動化するAIエージェントのイメージ

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

taolis.net X note Voicy YouTube
  • 味の素グループが経理の「承認業務」をAIエージェントに任せ、工数を76%削減したこと
  • 年間で約1万時間もの作業時間が浮く見込みであること
  • AIの正答率が93.3%で、ふつうのAI(53.3%)を大きく上回った理由
  • バクラクやfreeeなど、ほかの経理AIサービスとの違い
  • あなたの会社の経理にも、この波がどう関係してくるのか

毎月の経費精算、確認するだけでヘトヘトになっていませんか?領収書のチェック、接待費の人数確認、タクシー代の妥当性。地味なのに時間だけは奪っていきます。その面倒な「確認」を、味の素グループがAIに任せました。結果はなんと工数76%削減。この記事を読めば、何がどう変わったのか、そしてあなたの会社にどう関係するのかがわかります。

味の素グループが導入した「経理AIエージェント」とは

2026年4月24日、ある発表が経理業界をざわつかせました。

味の素フィナンシャル・ソリューションズ(味の素FS)が、経理の承認業務をAIエージェントに任せ始めたのです。

味の素FSは、味の素の100%子会社です。グループ全体の経理を引き受けている、いわば「お金のプロ集団」です。

協力したのは、ファーストアカウンティングという会社です。経理に特化したAIをつくる専門企業です。

AIエージェントとは、人の代わりに「考えて判断する」AIのことです。ただ文章を書くだけでなく、ルールに照らして「これはOK」「これはダメ」と決めてくれます。

このAIは2026年2月から本番稼働しています。実験段階ではなく、すでに現場で動いているのがポイントです。

工数76%削減・年1万時間創出の中身

いちばん気になる数字を見てみましょう。

従来、経理担当者は経費の承認1件あたり約5分かけていました。領収書を見て、規定と照らして、問題ないかを判断するためです。

この処理が、なんと月に1万件規模もあります。

計算してみてください。1件5分 × 月1万件 × 12か月。これで年間およそ1万時間になります。

AIがこの確認作業を引き受けることで、ITmediaの報道では工数の76%が削減できたと伝えられています。

1万時間と言われてもピンと来ないかもしれません。社員1人がフルタイムで働く時間が、年に約2000時間です。つまり5人分の作業時間がまるごと浮く計算です。

しかも申請から結果が返るまで、約5分。担当者の手が空くだけでなく、申請する側の待ち時間も短くなりました。

なぜ高精度?正答率93.3%の秘密

「AIに任せて、間違えないの?」と不安に思いますよね。

ここが今回いちばん面白いところです。

ファーストアカウンティングが検証したところ、このAIエージェントの正答率は93.3%でした。一方、ふつうのLLM(人間みたいに文章を書けるAI)単体だと、正答率はわずか53.3%。その差はなんと40ポイントです。

検証したのは、次の3つの難しい判断です。

  • 領収書に必要な項目がそろっているかの確認
  • インボイス制度(消費税の新しいルール)に合っているかのチェック
  • 税務上、交際費として正しく扱えるかの判定

どれも経理のプロが頭を悩ませる領域です。ふつうのAIでは半分しか当たりませんでした。

では、なぜこのAIは高得点を出せたのでしょうか。

秘密は「分業」にあります。複雑な経理業務をいきなりAIに丸投げするのではなく、細かいタスクに切り分けてから、専門のAIが連携して処理する仕組みにしたのです。

そこにファーストアカウンティングが持つ経理専用のAI技術や、領収書を読み取るAI-OCR(画像から文字を読む技術)を組み合わせました。経理の知識を持ったAIが、人間のチームのように役割分担している、とイメージするとわかりやすいです。

具体的にどんな作業が自動化されたのか

もう少し身近な場面で考えてみましょう。

ある経理担当者の1日を想像してください。朝、出社すると承認待ちの経費申請が山積みです。

1件目。営業担当が使ったタクシー代。「この時間に、この距離。本当に必要だった移動かな?」と確認します。

2件目。取引先との接待費。「参加人数は何人? 1人あたりの金額は規定内かな?」と数えます。

3件目。領収書の写真がぼやけていて、宛名が読めません。「これは差し戻しだな…」とため息。

こうした判断を1日に何十件も繰り返すのです。今回のAIエージェントは、まさにこの「承認するか、差し戻すか」の判断を肩代わりします。

対象は経費精算システム上の申請データと、領収書の画像。この2つを照らし合わせて、AIが自動で妥当性をチェックします。

味の素FSの担当者は、これまでの課題を「ルール解釈の人による差」と「ベテランの暗黙知(言葉にしにくい経験則)の維持」だと話しています。AIなら判断基準がブレません。ベテランが辞めても知識が失われません。

今後は経費精算だけでなく、請求書の処理にも広げる計画です。前払費用の判定やリース取引の判定など、さらに難しい業務も視野に入っています。

他の経理AIサービスとの違い

「経理のAIなら、もう色々あるのでは?」と思った方も鋭いです。実際、似たサービスは増えています。

代表的なものを並べてみます。

  • バクラク経費精算:高精度のAI-OCRで領収書を一気にデータ化。申請時にリアルタイムでミスを指摘する「AI申請レビュー」が強み
  • freee会計:銀行やカードと連携し、AIが仕訳の候補を自動で作る統合型クラウド会計
  • TOKIUM:請求書や経費の受け取りからデータ化までを代行するサービス

これらの多くは「入力を助ける」「申請者のミスを防ぐ」ことが中心です。つまり、人の作業をラクにする方向です。

味の素グループの取り組みが違うのは、「最終的な承認の判断」そのものをAIに任せた点です。人が確認していた最後の関所を、AIが自律的にさばきます。

しかも大企業の本番業務で、月1万件という規模で動かしている実績があります。ここまで踏み込んだ事例は、まだ多くありません。

日本企業・日本の経理現場への影響

これは大企業だけの話ではありません。

日本の経理現場は今、深刻な人手不足です。少子高齢化で若い担当者が減り、ベテランも次々に引退していきます。

そんな中、経理の仕事は減るどころか複雑になっています。インボイス制度や電子帳簿保存法など、新しいルールが次々に増えているからです。

「人は減るのに、仕事は増える」。多くの会社が直面しているこのジレンマに、AIエージェントは一つの答えを示しました。

味の素FSの社長は、AI導入の狙いを「BPO(業務委託)の負荷軽減」と「業務の標準化」だと語っています。属人化していた経理を、誰がやっても同じ品質にする狙いです。

ファーストアカウンティングの森啓太郎社長は、さらに大きな絵を描いています。複数のAIが連携する「組織型AI」、そして企業の枠を超えた「会計AIエコシステム」を目指すと話しています。

もちろん、これは「経理担当者が要らなくなる」という話ではありません。退屈な確認作業から解放され、分析や経営への提言といった、より価値の高い仕事に集中できるという変化です。あなたの会社にも、遠からずこの波がやってくるかもしれません。

よくある質問(FAQ)

Q1. 経理AIエージェントとは、ふつうのAIと何が違うのですか?

ふつうのAIが文章を書いたり質問に答えたりするのに対し、AIエージェントは「判断して実行する」のが特徴です。今回の例では、経費を承認するか差し戻すかを自分で決めます。

Q2. AIに任せて、ミスや不正は防げるのですか?

検証では正答率93.3%と高い成績でした。判断基準がブレないため、人によるルール解釈の差がなくなります。ただし100%ではないので、重要な判断は人が最終確認する運用が現実的です。

Q3. 中小企業でも導入できますか?

今回は大企業の事例ですが、バクラクやfreeeなど中小企業向けのAIサービスも充実しています。規模に合わせて選べる時代になっています。

Q4. 経理の仕事はAIに奪われてしまいますか?

確認作業のような定型業務は減ります。一方で、データ分析や経営へのアドバイスといった、人にしかできない仕事の価値はむしろ高まると考えられています。

Q5. どのくらいの効果が期待できますか?

味の素グループの場合、対象業務の工数を76%削減し、年間約1万時間(社員約5人分)の創出を見込んでいます。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • 味の素グループが経理の承認業務をAIエージェントに任せ、工数を76%削減した
  • 年間で約1万時間(社員約5人分)の作業時間が浮く見込み
  • AIの正答率は93.3%で、ふつうのAI(53.3%)を40ポイント上回った
  • 高精度の秘密は、業務を細かく分けて専門AIが連携する「分業」の仕組み
  • バクラクやfreeeとの違いは「承認の判断」そのものをAIに任せた点
  • 人手不足の日本の経理現場にとって、現実的な解決策の一つになる

まずは自社の経理業務で「毎月くり返している確認作業」を書き出してみることから始めてみましょう。それが、AI活用の第一歩になります。

参考文献

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です