Project Perception公開|AIが自律防御

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Microsoftが2026年8月3日、AIセキュリティ基盤「Project Perception」のパブリックプレビューを開始
  • Red(攻める)・Blue(見張る)・Green(直す)の3種類のAIエージェントがチームで自律的に動く
  • 自社開発の専用モデル「MAI-Cyber-1-Flash」がベンチマークで約96%を記録
  • Microsoft Defenderに統合され、料金は使った分だけの従量課金(SCU)
  • 人手不足に悩む日本のセキュリティ現場にとって、追い風にも新たな課題にもなる

セキュリティの担当者が足りない。でも攻撃はAIで加速している。そんな板挟みを感じたことはありませんか。Microsoftが2026年8月3日に公開した「Project Perception」は、AIが自分で弱点を探し、危険度を判断し、修理まで行う仕組みです。何ができて、何ができないのかを整理します。

Project Perceptionとは何か

Project Perceptionは、Microsoftが2026年7月27日に発表した新しいセキュリティ基盤です。

パブリックプレビュー(誰でも試せる試験公開)は2026年8月3日に始まりました。まずはMicrosoft Defender(同社の防御ソフト)の中に組み込まれる形で提供されます。

いちばんの特徴は、AIが「助言役」ではなく「実働部隊」になっている点です。従来のAIアシスタントは、人間が質問して答えをもらう道具でした。Project Perceptionは、人間が指示しなくても動き続けます。

Red・Blue・Greenの3チーム編成

Project Perceptionには、役割の違う3種類のエージェント(自分で判断して動くAI)がいます。

  • Redエージェント:攻撃者になりきって、侵入できそうな経路を探す
  • Blueエージェント:見つかった異常を調べ、本当に危ないものかを判断する
  • Greenエージェント:設定を直し、守りを固める

この3つがぐるぐると連携し続けます。泥棒役が鍵の開いた窓を見つけ、警備員が本当に危険かを見極め、修理係がその窓を閉める。その巡回が24時間止まらない、というイメージです。

中核技術「MDASH」と専用モデルの実力

Project Perceptionの心臓部はMDASH(Multi Model Agentic Scanning Harness)と呼ばれる仕組みです。

ここでは100以上のAIエージェントが同時に走ります。コードを別々の視点からスキャンし、互いの見解をぶつけ合い、実際に攻撃が成立するかの実証コードまで作ってから報告する、と説明されています。

1体のAIが「これ怪しいです」と言うだけなら、誤報の山になります。複数のAIに議論させて裏取りをさせることで、報告の精度を上げる設計です。

96%という数字の意味

Microsoftはセキュリティ専用の自社モデルMAI-Cyber-1-Flashも同時に発表しました。

このモデルは「CyberGym」というベンチマークで約96%を記録したとされています。CyberGymは、既知の脆弱性に対して実際に動く攻撃コードを作れるかを測るテストです。

同社の発表では、競合モデル「Mythos」を12ポイント上回ったと説明されています。ベンダー自身の発表なので、第三者の検証を待つ姿勢は必要でしょう。

コストを半分にする「モデルルーター」

見逃せないのがモデルルーターという仕組みです。

難しい判断が必要な場面では最上位の高性能モデルを呼び、定型的な処理には軽量な蒸留モデル(大きなAIの知識を小さく詰め直したAI)を使い分けます。

これにより、従来のMDASH構成と比べて運用コストが約50%削減できたとされています。AIエージェントを100体も動かせば費用は跳ね上がります。そこを現実的な水準に抑えたことが、実用化の鍵になりました。

なぜ今、このタイミングなのか

背景にあるのは、脆弱性の発見スピードが急上昇していることです。

報道によれば、Microsoftの2026年7月の月例パッチでは570件もの脆弱性が修正されました。これは前年同月の約3倍という規模です。

皮肉なことに、この増加自体がAIの成果でもあります。AIが探すから見つかる。見つかるから直す必要が出る。その量が人間の処理能力を超え始めました。

攻撃側も同じ道具を持っています。攻撃者がAIで自動的に弱点を探す時代に、守る側だけが手作業では追いつきません。Project Perceptionは「AI対AI」への回答という位置づけです。

競合サービス・従来手法との違い

AIセキュリティの分野には、すでに強力なライバルがそろっています。

Google「CodeMender」との違い

GoogleのCodeMenderは、脆弱性を見つけて修正コードまで書くAIエージェントです。研究プロジェクト「Big Sleep」から発展しました。

450万行を超えるオープンソースに対し、72件の修正を提供した実績があります。ただし主戦場は「ソースコードの修理」です。Project Perceptionは、コードだけでなく企業のIT環境全体の設定や運用まで対象にする点で射程が広くなっています。

CrowdStrike「Charlotte AI」との違い

CrowdStrikeは2026年3月25日、ノーコードでセキュリティAIを組み立てられる「Charlotte AI AgentWorks」を発表しました。AI管理の国際規格ISO 42001の認証を取得し、すべての実行に人間の承認を必須としている点が特徴です。

ここが思想の分かれ目です。CrowdStrikeは「人間が最後にハンコを押す」設計。Project Perceptionは修復まで自走させる設計。安全性を取るか、速度を取るかという選択になります。

Security Copilotとの違い

同じMicrosoft製品との混同にも注意が必要です。Security Copilotは70以上のエージェントを持つ「相談相手」型のサービスでした。Project Perceptionはそれとは別建てで、DefenderやGitHub Code Securityと統合される独立した基盤として動きます。

日本の企業・ユーザーへの影響

日本の現場にとって、この発表は決して他人事ではありません。

国内では約8割の企業がセキュリティ人材の不足を認識しているという調査があります。クラウドやSOC(監視センター)の経験者は年収1,000万円級を提示しても採れない、という声も珍しくありません。

地方の中堅メーカーを想像してみてください。情報システム担当は2人。日々の問い合わせ対応に追われ、脆弱性情報のチェックは後回しになりがちです。Redエージェントが夜間に穴を探し、Greenエージェントが設定を直しておいてくれるなら、その負担はたしかに軽くなります。

一方で新しい悩みも生まれます。AIが勝手に設定を変えた結果、業務システムが止まったら誰が責任を取るのか。日本企業の稟議文化では、この一点が導入の壁になりそうです。

また、地方自治体や医療機関のように「止められないシステム」を抱える組織では、自動修復の適用範囲を慎重に絞る運用設計が欠かせません。

導入前に確認したい3つのポイント

試す前に押さえておきたい点を整理します。

ひとつめは料金です。Project Perceptionは「Security Compute Units(SCU)」という単位の従量課金制です。使った分だけ払う方式なので、タスクが複雑になるほど消費量が増えます。月額固定ではないため、予算管理には注意が必要です。

ふたつめは成熟度です。あくまでパブリックプレビューであり、正式版ではありません。本番環境にいきなり入れるのではなく、影響の小さい範囲から試すのが現実的でしょう。

みっつめは日本語・国内提供の条件です。現時点で日本語対応の詳細や国内での提供条件は明確に公表されていません。導入検討時は販売代理店やMicrosoftの営業窓口への確認が必要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. Project Perceptionはいつから使えますか?

2026年8月3日からパブリックプレビューが始まっています。Microsoft Defenderに統合される形で提供されます。正式提供(一般提供)の時期は公表されていません。

Q2. 料金はいくらですか?

Security Compute Units(SCU)による従量課金です。使った分だけ支払う方式で、固定価格は示されていません。処理の複雑さによって消費量が変わります。

Q3. AIが勝手に本番環境を変更してしまいませんか?

Greenエージェントは修復や堅牢化を担当するため、自動的な変更が前提の設計です。どこまで自動化を許すかは運用側の設定次第になります。まずは検証環境や影響の小さい範囲から始めるのが安全です。

Q4. Security Copilotを使っていれば不要ですか?

役割が違います。Security Copilotは分析や調査を支援する相談相手型、Project Perceptionは検出から修復まで自走する実働型です。併用も想定される関係にあります。

Q5. 中小企業でも使えますか?

従量課金なので小さく試すことは可能です。ただしMicrosoft Defenderの利用が前提となるため、既存の契約内容とライセンス条件の確認が先になります。

まとめ

  • Microsoftが2026年8月3日、AIセキュリティ基盤「Project Perception」のパブリックプレビューを開始した
  • Red(攻める)・Blue(判断する)・Green(直す)の3チームが自律的に連携する
  • 専用モデルMAI-Cyber-1-FlashはCyberGymで約96%、競合を12ポイント上回ったとされる
  • モデルルーターの採用で運用コストは従来比約50%削減
  • CodeMenderはコード修理、Charlotte AIは人間承認必須。Perceptionは自走型という違いがある
  • 日本では人手不足の解消に役立つ一方、自動修復の責任範囲という新しい論点が生まれる

まずはMicrosoft Defenderの契約状況を確認し、影響の小さい検証環境でプレビューを試すところから始めてみてください。

参考文献