AI画像に透かし義務化|違反は1日75万円

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • カリフォルニア州のAI透明化法(SB 942)が2026年8月2日に発効しました
  • 対象は月間100万人以上が使う画像・動画・音声の生成AIサービスです
  • 違反は1回5000ドル(約75万円)、しかも1日ごとに別カウントされます
  • Midjourneyは透かしもC2PA対応も未実装と報じられ、対応済み陣営と明暗が分かれました
  • 同じ8月2日にEU AI法の透明性義務も発効し、事実上の世界標準になりつつあります

ネットで見かけたあの写真、本物だと言い切れますか。2026年8月2日、その答えを機械が判定できるようにする法律が、アメリカで初めて罰則付きで動き出しました。違反すれば1日約75万円。対応済みの企業と、まだの企業の差がくっきり見えた1日でした。

8月2日、米国初の「AI透かし義務」が動き出した

発効したのは、カリフォルニア州のAI透明化法(SB 942)です。

この法律は2024年9月19日にニューサム知事が署名していました。ただ、すぐには動きませんでした。

当初の施行予定日は2026年1月1日。それが2025年10月13日に成立した改正法「AB 853」によって、2026年8月2日へずらされたのです。

準備期間が7か月延びた形になります。それでも「間に合わなかった」サービスが出た、というのが今回のニュースの中身です。

ポイントは、これがアメリカで初めて罰則付きで動き出した「AIコンテンツの出所表示」の州法だということ。ルールを作った州は他にもありますが、実際にお金を取れる仕組みが走り出したのはカリフォルニアが最初です。

ちなみに対象は画像・動画・音声だけで、文章は含まれません。ChatGPTが書いた文章に透かしを入れろ、という話ではないのです。

生成AI企業に課された3つの宿題

法律が求めているのは、大きく3つです。順番に見ていきます。

① 目に見えない「透かし」を必ず埋め込む

1つ目が潜在的開示(latent disclosure)と呼ばれるものです。

生成した画像・動画・音声のデータそのものに、機械だけが読み取れる情報を埋め込みます。埋め込む内容は、提供元の名前、AIシステムの名前とバージョン、作成日時、そして固有のID。

しかも「消すのが不可能、または極めて困難」でなければいけません。スクリーンショットを撮ったりSNSにアップして圧縮されたりしても、消えずに残ることが求められます。

技術的な土台になっているのがC2PA(コンテンツの出所と履歴を証明するための業界共通規格)です。Adobe、Google、Microsoft、Intelなどが推進してきました。

② 誰でも無料で使える判定ツールを出す

2つ目が検出ツールの提供義務です。

「この画像はあなたのAIが作ったものですか?」を誰でも無料で確かめられるツールを、Webの画面とAPI(プログラムから呼び出す窓口)の両方で公開しなければいけません。

プライバシー保護も条件に入っています。判定のために送られてきた画像を、結果を返した後まで保存してはいけない、というルールです。

③ 「AI製」と目に見えるラベルを付けられるようにする

3つ目が顕在的開示(manifest disclosure)です。画面上に見える形で「これはAI生成です」と表示する機能を指します。

こちらは必須ではなく、ユーザーが選べるようにしておくのが企業側の義務です。付けるかどうかを決めるのは使う人、というバランスになっています。

罰金は1日約75万円 しかも毎日カウントされる

気になるのは罰則でしょう。

違反1件あたり5000ドル(約75万円)。そして、守れていない状態が続いた日数は、それぞれ別の違反として数えられます

つまり30日放置すれば15万ドル、日本円でおよそ2250万円。1年なら億単位です。放置するほど雪だるま式に膨らむ設計になっています。

訴えを起こせるのは州司法長官だけではありません。市の法務担当や郡の顧問弁護士も提訴できます。米国のAI規制でここまで窓口を広げた例は初めてと言われています。弁護士費用も相手方に請求できる仕組みです。

他社に技術を貸している場合も油断できません。ライセンス先が透かしを外していると知ったら、96時間以内に利用を止めさせる必要があります。「知らなかった」で逃げ切れない作りです。

義務はここで終わりません。2027年1月1日からは大規模なオンラインプラットフォームやAIのホスティング事業者にも表示義務が加わります。さらに2028年1月1日には、カメラなどの撮影機器メーカーが「これは人間が撮った本物です」と記録できる機能を用意する番になります。

対応済みと未対応で明暗 Midjourneyの現在地

では、実際にどこまで各社は準備できていたのでしょうか。

すでに対応が進んでいるとされるのが次の顔ぶれです。

  • Adobe Firefly:2023年3月のサービス開始時からコンテンツクレデンシャルを標準搭載
  • OpenAI DALL-E 3:2023年からC2PAマニフェストを画像に付与
  • OpenAI Sora:動画向けにC2PA v2.2仕様で対応(MP4・MOV)
  • Google Imagen:C2PAに加え、目に見えない透かし技術「SynthID」を併用

一方で厳しい立場に置かれたのがMidjourneyです。

報道によれば、Midjourneyは発効日の時点でC2PAのコンテンツクレデンシャルを付けておらず、ピクセルに埋め込む透かしも確認されていません。米国で最も広く使われている画像生成AIの1つだけに、注目度は高くなっています。

皮肉なのは、Midjourneyが2023年からC2PAを推進する業界団体のメンバーだったとされる点です。規格づくりの輪の中にはいたけれど、実装は出していない。そういう状態で発効日を迎えた形になります。

Stable Diffusionのようなオープンソース系も、扱いが少し複雑です。Stability AIが自ら運営するサービスでは付与されるものの、ComfyUIやAutomatic1111といった自前で動かす環境では、初期設定のままだと透かしは埋め込まれないと説明されています。

EU AI法と同じ日に発効したのは偶然ではない

ここで面白いのが日付です。

2026年8月2日は、EU AI法の第50条(透明性義務)が適用開始になる日でもあります。EU側も、AIが作った音声・画像・動画・文章に機械が読み取れる印を付けることを求めています。

この一致は偶然ではありません。改正法AB 853が施行日をずらしたのは、EUの適用開始日にわざと合わせるためだったと解説されています。

結果として、大西洋の両側で同じ日に似たルールが動き出しました。世界規模でサービスを出す企業からすれば、「カリフォルニア用」と「EU用」を作り分ける必要が薄くなります。事実上の共通仕様ができたわけです。

ただし違いもあります。EU側は2026年5月の「AIオムニバス」暫定合意により、すでに市場に出ていた生成AIには2026年12月2日までの猶予が認められました。カリフォルニアにはこの猶予がなく、8月2日から即スタート。今回カリフォルニアの方が話題になったのは、この差が大きいでしょう。

もう1つの違いは対象範囲です。EUは文章も含みますが、カリフォルニアは画像・動画・音声に絞っています。

日本のユーザーと企業にどう関係するのか

日本から使っても、透かしは付いてくる

「アメリカの州法でしょ?」と思うかもしれません。ところが、影響は日本にも届きます。

理由はシンプルで、各社は国ごとに出力を作り分けたりしないからです。カリフォルニア向けに透かしを入れる実装をすれば、日本から使ったときも同じように透かしが付きます。

あなたが今日DALL-E 3で作った画像にも、すでに出所情報が埋め込まれている可能性が高い、ということです。

日本企業が「対象事業者」になるケース

対象になるかどうかの線引きは、カリフォルニア州で一般に使える生成AIで、月間100万人以上の利用者がいるかです。会社の所在地は問われません。

日本発のサービスでも、英語版を出して米国ユーザーが集まれば射程に入り得ます。「日本の会社だから関係ない」とは言い切れないのです。

なお日本国内には、現時点でAI生成物への透かしを義務づける法律はありません。総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」などで方向性が示されている段階です。つまり日本企業にとっての実質的なルールは、当面この海外法になります

現場ではこう変わる

もう少し身近な話をします。

たとえば、地方の食品メーカーで販促を1人で回している担当者。商品ページのイメージ画像をAIで作り、取引先の大手小売に納品しています。これまで誰も気にしませんでしたが、これからは納品先の審査で「AI生成かどうか」を機械的にチェックされる可能性が出てきます。透かしのないツールで作った素材は、説明を求められる場面が増えるはずです。

次に、フリーランスのイラストレーター。「AIは使っていません」と主張しても、これまでは証明が難しいままでした。2028年から撮影機器側にも来歴を記録する仕組みが入れば、逆に「人間が作った証明」を残せる方向に進みます。潔白を示す道具が増えるわけです。

3つ目は、地域のニュースサイトを運営する編集者。読者から「駅前の事故現場の写真」が送られてきたとします。今までは目で見て判断するしかありませんでした。無料の判定ツールが各社から公開されれば、アップロードして数秒で真偽の手がかりを得られるようになります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 個人ユーザーが罰金を払うことはありますか?

いいえ。罰金の対象は、透かしの仕組みを用意しなかったAIの提供事業者です。そのツールを使って画像を作った個人が、この法律で直接罰せられる形にはなっていません。

Q2. 透かしを消したらどうなりますか?

法律は「消すのが極めて困難」な埋め込みを事業者に求めています。ただ、実際には透かしを除去しようとするツールも存在します。技術的にいたちごっこが続くとみられ、この法律だけで偽情報が消えるわけではありません。

Q3. 手元のパソコンで動かすオープンソースのAIは対象ですか?

「月間100万人以上が使える公開サービス」が対象なので、個人が自分の端末で動かす環境は基本的に外れます。ただし前述のとおり、その出力には透かしが付きません。抜け道になりやすい部分だと指摘されています。

Q4. 日本のクリエイターは今から何をすべきですか?

まずは自分が使っているツールが透かしに対応しているかを確かめることです。納品先やクライアントから「AI使用の有無」を聞かれる場面は確実に増えます。対応済みのツールを選んでおくと、後から説明する手間が減ります。

Q5. 画像の透かしは、加工しても残りますか?

SNSへのアップロードによる圧縮や、基本的な編集では残るよう設計されています。ただし、スクリーンショットの撮り直しや大幅な加工で失われるケースもあると言われています。100%確実な仕組みではない点は押さえておきたいところです。

まとめ

  • カリフォルニア州AI透明化法(SB 942)が2026年8月2日に発効し、米国初の罰則付きAI来歴表示義務が始まった
  • 対象は月間100万人以上の画像・動画・音声生成AI。文章は対象外
  • 義務は「見えない透かし」「無料の判定ツール」「見えるラベルの選択肢」の3点セット
  • 罰金は1件5000ドル(約75万円)で日数分カウント。30日で約2250万円規模になる
  • Adobe・OpenAI・Googleは対応済みとされる一方、Midjourneyは未実装と報じられた
  • 同日にEU AI法第50条も適用開始。ただしEUには2026年12月2日までの猶予がある
  • 日本に義務化法はないが、海外法対応の副産物として日本のユーザーにも透かしが届く

まずは、あなたが普段使っている画像生成AIが透かしに対応しているかどうかを一度確認してみてください。これからは「AIで作ったか」より「証明できるか」が問われる時代になります。

参考文献