- テレビ朝日が映像を全編AIで作ったテレビCMを、2026年8月9日に地上波で全国放送しました
- 作品はサントリー「GREEN DA・KA・RA」の30秒CM。ハート型のモチーフに水分が広がる映像です
- AIを使ったのは映像だけ。テロップ・音声・ナレーションは人が担当しています
- 制作したのは2026年4月に発足した社内組織「AIクリエイティブスタジオ」です
- テレ朝は4年間で年間15万時間の業務削減を掲げ、AIを収益の柱のひとつに据えています
テレビCMは、大勢のスタッフとカメラと出演者で作るもの。そう思ったことはありませんか。その常識が、2026年8月9日の日曜午後に静かに崩れました。地上波のキー局が、映像を全部AIで作ったCMを全国に流したのです。しかも自社の宣伝ではなく、大手クライアントの実案件でした。
テレビ朝日が「映像全編AI」のCMを全国放送
流れたのは30秒の夏CM
テレビ朝日は2026年8月9日、映像を全編生成AIで制作したテレビCMを放送したと発表しました。
作品名は「楽しい夏にはGREEN DA・KA・RA」。サントリーの水分補給飲料「GREEN DA・KA・RA」を題材にした30秒のCMです。
放送されたのは同日13時55分から。テレビ朝日系「バスケットボール男子日本代表 国際試合 日本×モンゴル」の中継内などで、一部地域を除いて全国に流れました。
内容は、ブランドの象徴であるハート型のモチーフに水分が浸透していく映像です。親子でのお出かけ、運動、部活動といった真夏のシーンを次々と見せ、水分補給の大切さを訴えます。
生成AIは「同じ場所で何度も撮り直す」必要がありません。だから、実写では予算的に難しい多彩なシチュエーションを1本の中に詰め込めるのが特徴です。
どこにAIを使い、どこに使わなかったのか
ここが今回いちばん重要なポイントです。
テレビ朝日によると、生成AIを使ったのは映像のみ。テロップ(画面に出る文字)、音声、ナレーションにはAIを使っていません。
ナレーションを担当したのは、テレビ朝日アナウンサーの渡辺瑠海さんです。制作には東京都港区のAI model株式会社が協力しました。
つまり「全部AIに丸投げした」わけではありません。人の声と人の言葉で仕上げるという線引きを、放送局が意図的に引いた形です。
ちなみに、この制作の裏側は8月12日深夜0時45分からの番組「AI大作戦」で紹介される予定でした。作り方そのものをコンテンツにしてしまうあたりが、テレビ局らしい発想です。
作ったのは4月にできた社内チーム「AIクリエイティブスタジオ」
このCMを手がけたのは、外部の広告制作会社ではありません。テレビ朝日が2026年4月1日に発足させた社内組織「AIクリエイティブスタジオ」です。
経営計画「START UP テレ朝!!」の一環として作られた部署で、AIによる新しい収益の仕組みづくりを担っています。
この組織がやっているのはCM制作だけではありません。
- グループ内のクリエイター育成
- 社外のAIクリエイターの発掘
- オリジナルIP(自社で権利を持つ作品)やショートアニメの制作
- AIをテーマにしたバラエティ番組「AI大作戦」の制作
成果も出ています。AIを活用した短編オリジナルアニメ「ハナと不思議な冒険」は、「World AI Film Festival 2026 in KYOTO」のAIアニメ部門で審査員特別賞を受賞しました。
発足からわずか4か月で、受賞作と全国放送のCMを出したことになります。実験室で終わらせず、短期間で実案件に持ち込んだスピード感こそが、今回のニュースの芯です。
なぜテレビ局が自分でCMを作るのか
不思議に思いませんか。CMは普通、広告代理店と制作会社が作るものです。テレビ局は「流す側」でした。
背景には、テレビ局の収益構造の変化があります。
テレビ朝日は2026〜2029年の経営計画で、AIを5つの重点戦略のひとつに位置づけました。目標のひとつが、4年間で年間15万時間の業務削減です。
削って浮いた時間を、そのままコストカットで終わらせるのではなく、クリエイティブな仕事に回す。さらにデータ分析や広告システムとの連携で、新しい収入源を作ろうとしています。
放送局は撮影・編集・音響のプロを抱えています。そこに生成AIを足せば、「電波を売る会社」から「映像を作って売る会社」へ広がれる。今回のCMは、その実証実験でもあります。
実際、キー局5社のAIへの向き合い方には差が出ています。テレ朝が収益化を前面に出す一方、TBSは制作活用とガバナンス(守りのルール作り)の両輪。2026年7月には「AI Creative School」を立ち上げ、AIクリエイティブディレクターの育成を始めました。フジテレビは番組制作・社内DX・外販の3方向、日本テレビは放送品質管理などで具体例を示し、テレビ東京は方針表明の段階にとどまります。
伊藤園やパルコと何が違う?国内のAI広告を比べる
日本でAIを使った広告は、実は今回が初めてではありません。むしろ数年前から積み重なっています。
代表的な3つと比べてみます。
- 伊藤園「お~いお茶 カテキン緑茶」:AIで作った「AIタレント」をCMに起用。AIであることを隠さず、人のプロが大幅に手を入れた点が評価され、比較的好意的に受け止められました
- パルコ(2023年ホリデー広告):動画・ナレーション・音楽のすべてを生成AIで制作。「全部AI」に踏み込んだ先駆けです
- コカ・コーラ:生成AIで作った広告が物議をかもし、その対応が議論になりました
では、テレビ朝日の今回はどこが新しいのか。違いは「誰が作ったか」です。
これまでのAI広告は、広告主やその代理店が発注する形でした。今回は放送局が自前の組織で作り、自局の電波で流した点が違います。
言い換えると、テレビ局が広告制作のプレイヤーとして参入したということ。既存の広告代理店や制作会社にとっては、取引先が競合になりうる展開です。
もうひとつの違いは範囲の絞り方です。パルコが音楽やナレーションまでAIにしたのに対し、テレ朝は映像だけに限定しました。守るべき部分を明示することで、批判のリスクを抑える設計になっています。
日本の企業と視聴者にとって何が変わる?
「大手同士の話でしょ」と思うかもしれません。でも影響はもっと広い範囲に届きます。
地方の食品メーカーを想像してみてください。従業員30人、ローカル局にCMを出したいけれど、タレントを呼んでロケをする予算はない。企画は温めたまま何年も棚に置かれたままです。映像パートをAIで作れるなら、この会社が初めてCMを出せる可能性が出てきます。
採用の現場でも同じことが起きます。人手不足に悩む物流会社の人事担当者が、「うちの仕事の魅力を動画で伝えたい」と思っても、外注すれば数百万円。社内にAIで映像を作れる人がいれば、季節ごとに作り直すことすらできます。
学校の部活動や自治体の広報も他人事ではありません。夏の熱中症予防を呼びかける動画を、市の職員が数日で作って地域ケーブルに流す。そんな光景は、もう技術的には手の届く範囲にあります。
視聴者の側にも変化が起きます。これまで「CMに出ているのは実在の人や風景」が前提でした。これからは「この映像は誰が(何が)作ったのか」を意識する場面が増えます。
一方で、仕事が減る人もいます。CM撮影に関わるカメラマン、照明、美術、ロケコーディネーター。すべてがなくなるわけではありませんが、案件の総数が変わる可能性は否定できません。
見落とせない課題——「AIポリシー」と信頼の問題
ここまで前向きな話が続きましたが、慎重に見るべき点もあります。
テレビ朝日は2025年10月にAIポリシー(AIの使い方を定めた社内ルール)を策定し、「責任あるAI活用」を掲げています。今回のCMも、その枠組みの中での実施という位置づけです。
報道機関でもある放送局にとって、映像の信頼性は商売の土台です。ニュースで「この映像は本物か」を検証する会社が、CMではAI映像を流す。この使い分けを視聴者にどう説明するかは、これからの宿題です。
学習データの扱いも論点として残ります。生成AIは大量の既存映像を学んで作られています。誰の作品がどう使われたのか、権利の整理は業界全体でまだ途上です。
そして「AIだから安い」とは限りません。今回のようにナレーションや仕上げに人を入れるなら、その分のコストはかかります。品質を保つほど人の関与は増える、というのが現時点の実感に近いはずです。
よくある質問(FAQ)
Q1. このCMは本当に「全部AI」で作られたのですか?
いいえ。AIで作られたのは映像だけです。テロップ・音声・ナレーションは人が担当しました。ナレーションはテレビ朝日の渡辺瑠海アナウンサーが読んでいます。
Q2. いつ、どの番組で放送されたのですか?
2026年8月9日(日)13時55分から、テレビ朝日系「バスケットボール男子日本代表 国際試合 日本×モンゴル」の中継内などで放送されました。一部地域は除かれます。
Q3. AIで作ったことは視聴者に伝えられているのですか?
テレビ朝日はプレスリリースで制作方法を公表し、番組「AI大作戦」でメイキングも紹介する予定としていました。作り方を隠さない姿勢をとっています。ただしCM画面そのものへの表示ルールは、業界全体で議論が続いている段階です。
Q4. 中小企業でも同じようなCMを作れますか?
映像生成AI自体は、月額数千円から使えるサービスも増えています。ただし放送用の品質にするには、企画・構成・音声・権利確認といった工程が必要です。「AIツールを契約すれば明日CMができる」わけではないと考えたほうが現実的です。
Q5. 他のテレビ局も同じことを始めるのでしょうか?
その流れは強まっています。TBSは2026年7月に「AI Creative School」を始動し、ドラマ制作でも映像生成AIを試しています。フジテレビは外販も視野に入れており、各局が独自の形でAI活用を進めています。
まとめ
- テレビ朝日が映像を全編AIで制作した30秒CM「楽しい夏にはGREEN DA・KA・RA」を、2026年8月9日に全国放送しました
- AIを使ったのは映像のみ。テロップ・音声・ナレーションは人が担当しています
- 制作は2026年4月発足の社内組織「AIクリエイティブスタジオ」。発足4か月で実案件に到達しました
- 新しいのは「放送局が自前でCMを作り、自局で流した」という構図です
- テレ朝は4年で年間15万時間の削減を掲げ、AIを収益戦略の柱に据えています
- 一方で、報道機関としての信頼、学習データの権利、コストの実態など課題も残ります
次のアクションとして、自社の商品紹介や採用の動画で「映像だけAIに任せる」小さな試作を1本作ってみると、可能性と限界の両方が一気に見えてきます。

