OpenAIがスライドAI買収|脱PowerPointの本気度

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • OpenAIがプレゼン資料を自動生成するスタートアップ「NextSlide」を買収したことが2026年8月8日に判明
  • 買収自体は2026年前半に完了しており、数か月経ってから創業者本人の投稿で明かされた
  • OpenAIは2026年3月までの3年間で17社を買収。2026年は第1四半期だけで6社という異常なペース
  • 狙いはChatGPTの中に「文書・表計算・プレゼン」がそろったオフィス環境を作ること
  • PowerPointを持つMicrosoftはOpenAI最大の出資者。味方と競合が同居する構図が強まっている

資料作りに追われて、肝心の中身を考える時間が残らなかった経験はありませんか。そのパワーポイント作業を丸ごと引き受ける会社を、OpenAIが静かに買っていました。しかも買収したのは半年近く前。発表がここまで遅れた理由と、ChatGPTが「オフィスソフト」へ姿を変えようとしている本当の狙いを整理します。

OpenAIが「NextSlide」を買収していた

2026年8月8日、AIでプレゼン資料を作るスタートアップNextSlide(ネクストスライド)がOpenAIに買収されていたことが明らかになりました。

報じたのは米メディアのTechCrunchです。

買収額は非公表。買収された時点の従業員数も、NextSlideというサービス自体が今後どうなるかも、いっさい公表されていません。

わかっているのは、NextSlideのチームがまるごとOpenAIに合流し、ChatGPTの開発に加わっているという事実だけです。

発表は会社ではなく「創業者の個人的なメモ」だった

この買収、少し変わった形で世に出ました。

OpenAIの公式発表ではなく、NextSlide創業者Ahmed Beshry(アハメド・ベシュリー)氏個人の投稿で告げられたのです。

ベシュリー氏は「視覚的なコミュニケーションをもっと身近にし、より多くの人が自分の考えをはっきり表現できるようにしたかった」と、創業の動機を振り返っています。

買収完了は数か月前。なぜ黙っていたのか

さらに気になるのが時期です。

買収が完了したのは2026年の前半。公表まで数か月の空白がありました。ベシュリー氏自身も「報告が数か月遅れた」と認めています。

企業買収の公表が遅れること自体は珍しくありません。ただ今回は、そのあいだにOpenAIが自前でプレゼン生成機能を出していた点が引っかかります。

OpenAIは2026年5月にPowerPoint向け公式アドインのベータ版を、7月には後述する「ChatGPTワーク」を公開しています。買収したチームの技術が反映されたのか、それとも並行して別々に開発が進んでいたのか。そこは説明されていません。

NextSlideとはどんな会社だったのか

NextSlideは、買収のわずか1年ほど前に創業したばかりの若い会社でした。

やっていたことはシンプルです。指示文、メモ、資料、調査データ——こうした素材を放り込むと、そのまま編集できるスライドに変換してくれる。それだけに特化していました。

狙っていたのは、デザインを専門に学んでいない人たちです。

営業担当者が客先に持っていく提案書。研究者が学会で使う発表資料。経営企画の人が役員会に出す1枚。どれも「伝えたい中身」は頭にあるのに、見た目を整える工程で何時間も溶けていきます。その工程を消すのがNextSlideの発想でした。

創業者は「2度目の売却」

ベシュリー氏は、これが初めての成功ではありません。

前職ではCaper AIという会社を共同創業しています。レジに並ばず会計が済む「スマートカート」を作っていた企業で、2021年に食品宅配大手のInstacartが買収しました。そのときの評価額は3億5000万ドル(1ドル150円換算で約525億円)と伝えられています。

つまりOpenAIが手に入れたのは、スライド生成の技術だけではありません。ゼロから会社を立ち上げて売却まで持っていった経験を2度重ねた人材ごと、というわけです。

狙いはChatGPTの中に「オフィス一式」を作ること

ここからが本題です。

OpenAIは今、ChatGPTの中にオフィスソフトの機能を一式そろえようとしています。NextSlideの買収は、そのパズルの一片にすぎません。

すでに「ChatGPTワーク」が動いている

2026年7月、OpenAIはChatGPTワークという機能を公開しました。Pro・Enterprise・Eduプランから順次提供されています。

できることは、文書・スプレッドシート・プレゼン・レポート・分析資料の作成と編集です。

Googleドキュメント/スプレッドシート/スライドに対応し、デスクトップアプリ経由でMicrosoft Excelとも連携します。技術的な土台になっているのは、プログラミングを代行するエージェント「Codex」だと説明されています。

単発の質問に答える相棒ではなく、何時間も文脈を保ったまま複数のアプリやファイルをまたいで作業を進める存在。それがOpenAIの描く方向性です。実際、同社のエージェント機能の利用者は1000万人を超えたと報じられています。

3年で17社という買収ラッシュ

買い物のペースも尋常ではありません。

OpenAIは2026年3月までの3年間で17社を買収しました。2025年の通年が8社だったのに対し、2026年は第1四半期だけで6社。明らかに加速しています。

2025年12月にはGoogleからAlbert Lee氏をM&A責任者として招き入れました。買収を「たまにやること」から「常設の機能」に変えた形です。

主な案件を並べると、ハードウェアのio(65億ドル)、分析ツールのStatsig(11億ドル)、そして個人向け家計アプリのHiroやRoiのチームなどが並びます。多くは製品そのものより人材の獲得が目的と見られています。

買収後にサービスが消えることもある

ここは正直に書いておきます。買われた製品がそのまま残るとは限りません。

家計アプリのHiro Financeは、買収からわずか7日でサービスを終了しました。一方でTorchのチームはChatGPT Healthに組み込まれ、機能として生き残っています。

NextSlideがどちらの道をたどるかは、現時点では誰にもわかりません。

最大の出資者Microsoftとの微妙な距離

この買収には、無視できない緊張関係が潜んでいます。

NextSlideが置き換えようとしているのはPowerPoint。そのPowerPointを持つMicrosoftは、OpenAI最大の出資者です。

ある海外メディアは、OpenAIが生産性ソフトへ一歩踏み出すたびに「出資者の庭に足を踏み入れている」と表現しました。言い得て妙です。

協力と競争が同時に進んでいる

ややこしいのは、両社が対立だけしているわけではない点です。

2026年7月9日、MicrosoftはOpenAIのGPT-5.6をMicrosoft 365 Copilotに導入しました。Word、Excel、PowerPoint、Chat、Copilot Coworkで使えます。

つまりOpenAIは、Microsoftの製品にエンジンを供給しながら、同じ用途の対抗製品を自分でも育てているのです。

規制当局もこの関係を注視しています。英国に続きEUがOpenAIとMicrosoftの関係の精査に加わったと報じられました。

Googleは逆の道を進んでいる

同じゴールに、別ルートで向かっている会社もあります。

Googleの戦略は「新しい入り口を買う」ではなく、すでに使われているツールにAIを足していくやり方です。DocsやSlidesにGeminiを入れる方向ですね。

使い慣れた道具が賢くなるのがいいのか、AIを前提に作り直された新しい道具に乗り換えるのがいいのか。この問いの答えが、数年後の勢力図を決めることになりそうです。

GammaやイルシルとChatGPTはどう違う?

「AIでスライドを作る」ツールは、実はもう選び放題です。ChatGPTは後発になります。

代表的な選択肢を整理します。

  • Gamma(ガンマ):文章を入れると一気に全体が組み上がる速さが売り。社内の定例資料や軽めの外部プレゼン向き
  • イルシル:日本製で、日本語の営業資料や提案書がきれいに整う。大企業や官公庁向けの稟議書と相性がいい
  • Canva AI:デザイン素材が豊富で、見栄えのする資料を作りたいときに強い。スライド以外にも使える
  • Microsoft Copilot:PowerPointの中で完結する。既存のテンプレートや社内資産をそのまま活かせる
  • ChatGPT:資料作成が独立した機能ではなく、調査・分析・執筆の延長線上にある点が最大の違い

料金感としては、1〜2本に絞れば月20〜40ドル程度で運用できる水準です。「メイン1本+用途別サブ1本」という組み合わせが現実的、という声もあります。

ChatGPTの強みは、スライド単体で勝負していないところにあります。市場データを調べ、表計算で数字をまとめ、その流れのままスライドに落とす。作業の切れ目がなくなるのが本命の価値です。

日本のビジネスパーソンにどう影響するか

「海外の買収話でしょ」と思うかもしれませんが、日本の職場ほど直撃する話もありません。

日本人がAIに一番させている仕事が「資料作り」

2026年の調査では、日本のインターネット利用者のうち直近1年で生成AIを使った経験がある人は54.7%。企業の導入・準備率も4割に達しています。

そして管理職1008名への調査では、生成AIの用途の1位が文書作成(企画書・議事録・報告書など)で63.1%でした。情報収集・要約が51.4%、アイデア出しが37.4%と続きます。

つまり日本の現場でAIに任されている仕事の中心は、まさにNextSlideが狙っていた領域そのものなのです。

現場では何が変わるのか

具体的な場面を3つ思い浮かべてみてください。

ひとつめは中堅メーカーの営業担当者。金曜に受け取った他社比較の依頼に対し、月曜の朝までに20枚の提案書を用意しなければなりません。これまでは競合サイトを開いて手で表にまとめ、そこからスライドに貼り直していました。ChatGPTワークのような仕組みなら、調査から清書までを1本の指示で流せます。

ふたつめは地方自治体の職員。議会向けの説明資料は、体裁の決まりが細かく、図表の作り直しに半日かかることも珍しくありません。ここでは日本語の様式に強いイルシルのような国産ツールに分がありますが、下書きの構成案づくりはAIの得意分野です。

みっつめは三菱UFJ銀行の事例です。社内向けChatGPTである「AI-bow」の利用率は、公開から8か月で3倍以上に伸びました。稟議書や提案書の作成に使われているといいます。大企業でも、入り口はやはり資料作りなのです。

気をつけたいこと

期待だけで話を終わらせるのはフェアではありません。

ChatGPTワークは現時点でPro・Enterprise・Eduプランが中心で、誰でもすぐ使える機能ではありません。社内の機密資料を扱う際の情報管理も、導入前に必ず確認すべき点です。

また、AIが作った資料の数字が正しいかを確かめる責任は、最後まで人間側に残ります。ここは変わりません。

よくある質問(FAQ)

Q1. NextSlideは今も使えるのですか?

A. サービスの今後についてOpenAIは何も公表していません。過去には買収からわずか7日でサービスを終了した例(Hiro Finance)もあれば、ChatGPTの機能として統合された例(Torch)もあります。現時点では新規の利用を前提に計画を立てないほうが安全です。

Q2. 買収額はいくらだったのですか?

A. 公表されていません。従業員数も明かされていないため、規模の推定は難しい状況です。ただ創業から1年ほどの会社であることを考えると、大型案件というより人材獲得型の買収と見るのが自然でしょう。

Q3. PowerPointはもう不要になるのですか?

A. すぐにはなりません。むしろMicrosoftは2026年7月からGPT-5.6をMicrosoft 365 Copilotに載せ、PowerPoint内でAIが使えるようにしています。当面は「PowerPointの中でAIを使う」か「AIの中でスライドを作る」かの、入り口の選択になります。

Q4. 日本語のスライドもきれいに作れますか?

A. 用途によります。日本語の営業資料や官公庁向けの様式に寄せたいなら、国産のイルシルなどが有利という評価が一般的です。ChatGPTの強みは、調査から資料化までを一続きで進められる点にあります。

Q5. 個人でも今から準備できることはありますか?

A. まずは手元の資料作成のうち「調べる」「まとめる」「体裁を整える」のどこに時間を取られているかを書き出してみてください。AIに任せられるのは主に前の2つです。無料枠のあるGammaやCanvaで一度試すと、感覚がつかめます。

まとめ

  • OpenAIがプレゼン生成スタートアップNextSlideを買収していたことが2026年8月8日に判明した
  • 買収完了は2026年前半で、公表まで数か月かかった。金額も従業員数も非公表
  • 創業者Ahmed Beshry氏は、2021年にInstacartが買収したCaper AIの共同創業者でもある
  • OpenAIは3年で17社を買収。2026年は第1四半期だけで6社という加速ぶり
  • 狙いはChatGPT内に文書・表計算・プレゼンがそろうオフィス環境を作ること
  • PowerPointを持つMicrosoftは最大の出資者。協力と競争が同時進行し、EUも関係を精査している
  • 日本では生成AI用途の1位が文書作成(63.1%)。この変化の影響を最も受ける領域といえる

まずは自分の資料作成のうち「調べる工程」だけをAIに渡してみるところから始めると、変化の実感がつかめるはずです。

参考文献