ワークマンが商品撮影をAIに|通知開封1.5倍

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • ワークマンが商品の「利用シーン画像」の制作に画像生成AIを導入していたことが2026年8月6日に判明
  • 使っているのはGoogleの画像生成AI「Nano Banana」と動画生成AI「Veo」
  • 一部のアプリのプッシュ通知では、AI画像のほうが開封率が約1.5倍高かった
  • ロケ地・モデル・カメラマンの調整が間に合わない「撮れないとき」の代替手段として運用
  • 実物との見た目のズレを防ぐため、全画像を人がチェックし、AI生成であることをサイトに明記

ネット通販の商品ページに並ぶ「使っているシーン」の写真。あれ、本当に撮影しているのでしょうか。作業服チェーンのワークマンが、その一部を画像生成AIで作っていたことを明かしました。しかも、AIで作った画像のほうが読まれるケースまで出ています。

ワークマンが明かした「実は使っていた」画像生成AI

2026年8月6日、ITmedia NEWSがワークマンの生成AI活用を報じました。

同社が生成AIを使っていたのは、ECサイトや公式スマホアプリに載せる商品イメージの制作です。

商品ページの画像には、大きく2種類あります。ひとつは商品そのものを撮る「物撮り」。もうひとつは、実際に着たり使ったりしている様子を見せる「利用シーン画像」です。

ワークマンが生成AIに置き換えたのは、後者の利用シーン画像でした。

語ったのは営業企画部マネジャーの荻原勇太氏です。「”撮れない”とき、生成AIを使ってコンテンツを制作することで、これまでなら諦めてしまっていたケースをかなり救えるようになった」と話しています。

つまり、撮影を全部AIに置き換えたわけではありません。撮影が間に合わないときの「代打」という位置づけです。

なぜ商品撮影をAIに置き換えたのか

1枚の写真を撮るまでに動く人の数

商品写真は、シャッターを押せば終わりではありません。

荻原氏は課題をこう挙げています。「ロケ地選定からカメラマン、モデル、アシスタント配置、撮影スケジュール調整など、実に多くの手間と時間がかかる」。

屋外で使うウエアなら、天気の影響も受けます。雨が降れば撮り直しです。

さらに厄介なのが、季節商品のタイミング。冬物の防寒ウエアは、寒くなる前に売り場とサイトに並べる必要があります。撮影が1週間遅れると、売れる期間がそのまま1週間削られます。

「諦めていた企画」が実行できるようになった

従来なら、撮影が間に合わない企画は静かに消えていました。

ここが今回の話の核心です。ワークマンにとってのAI導入効果は、単なるコスト削減ではありません。これまで実現できなかった企画そのものを救い出すことにあります。

ある担当者が、急に決まったキャンペーンの告知画像を明日までに用意しなければならなくなった場面を想像してみてください。モデルの手配は間に合わない。撮影スタジオも空いていない。以前ならキャンペーン自体を見送るしかありませんでした。

いまはその場で生成して、翌日に配信できます。

使っているのはGoogleの「Nano Banana」と「Veo」

ワークマンが採用したのは、Google Cloudが提供する2つのツールです。

  • Nano Banana(Gemini 2.5 Flash Image):画像生成AI。文章で指示するだけで画像を作れます
  • Veo:動画生成AI。文章や画像から短い動画を作れます

Nano Bananaは、2025年に登場して一気に話題になったモデルです。愛称で呼ばれることが多く、正式名称よりこちらのほうが知られています。

特徴は編集のしやすさにあります。複数の画像を組み合わせる「マルチ画像フュージョン」という機能を持ち、用意した商品を、別のシーンの中に自然に配置できます。EC事業者にとって使い勝手がいいのは、この点です。

個人がGeminiアプリやGoogle AI Studioで試す範囲なら無料枠があります。企業がシステムに組み込む場合は、Gemini APIやVertex AI経由で、生成量に応じた従量課金になります。商用利用も認められています。

なお、Googleは2026年2月26日に後継の「Nano Banana 2(Gemini 3.1 Flash Image)」を発表しており、この分野の進化はかなり速いです。

アプリ通知の開封率が1.5倍になった理由

今回いちばん目を引く数字がこれです。

ワークマンは公式スマホアプリのプッシュ通知用画像をAIで制作しました。その結果、一部の通知では生成AI画像のほうが開封率が約1.5倍高かったといいます。

AI画像のほうが「よく撮れている」から勝ったわけではないでしょう。効いたのは速さだと考えられます。

プッシュ通知は鮮度が命です。急に寒くなった日に防寒ウエアの通知を送れるかどうかで、反応はまったく変わります。撮影を待っていたら、その日は終わってしまいます。

ワークマンにとってアプリは重要な武器です。同社は公式アプリで2027年に会員500万人を目指しており、通知の開封率はそのまま来店や購入につながる指標になります。

社内の打ち合わせでも効いている

使い道は対外的な画像だけではありませんでした。

展示会ブースや店舗レイアウトを検討するとき、その場でAIにビジュアルを生成させて共有しているといいます。

これまで、こうした議論は言葉と断片的なイメージで進むのが普通でした。「もう少し明るい感じで」と言われても、頭の中の絵は人それぞれです。画像があれば、関係者の認識合わせが一気に進みます。

他社の生成AI活用と何が違う?

小売・アパレル業界の生成AI活用は、すでにいくつかの型に分かれています。ワークマンの位置づけを整理してみます。

  • バーチャル試着型:Googleが2025年10月8日から日本でAI試着を提供。写真1枚で服を着たイメージを生成します
  • AIモデル型:H&Mが2025年7月2日に実在モデル30名の「デジタルツイン」を使った広告を公開しました
  • テキスト生成型:ワールドは生成AIツール「Maison AI」を全社展開し、EC商品説明文の制作を20分から約3分に短縮しています
  • 業務自動化型:ZOZOはレビューの自動チェックを導入し、4カ月で業務時間を67.7%削減しました

この中でワークマンは、「撮影の代打」という守りの使い方に振り切っている点が特徴です。

AIモデルを主役に据えて話題を作る攻めの活用ではありません。撮影が回らないという現場の詰まりを解消する道具として入れています。だからこそ、社内に定着したとも言えます。

従来の撮影と比べた違いも整理しておきます。撮影は実物どおりの質感が確実に出せる代わりに、日数と人手がかかります。生成AIは即日で出せる代わりに、細部が実物とズレるリスクを抱えます。どちらが上ではなく、使いどころが違うという話です。

課題は「歩留まり」と実物との乖離

複雑な商品ほど苦手

ワークマンは課題も率直に語っています。

細かいディテールを持つ商品は、生成が難しいのです。例として挙がったのが冷感ベストで、パーツの数や位置がずれる現象が起きたといいます。

ポケットが3つのはずが4つになる。ファスナーの位置が違う。通販でこれが起きると、届いた商品と写真が違うという話になりかねません。

対策として、同社はすべてのAI画像を人間がクオリティチェックしています。AI任せにはしていません。

「歩留まり」という見極め

荻原氏が挙げたキーワードが「歩留まり」です。

何度やり直しても思いどおりの画像が出ないとき、そのまま生成を続けるのか、人手で修正するのか。この見極めが、トータルで見た効率と品質を左右すると指摘しています。

生成AIは1枚あたりの単価が安いぶん、「あと1回だけ」を無限に繰り返せてしまいます。気づけば撮影より時間を使っていた、という落とし穴があるわけです。

実際、動画生成AIのVeoについては、まだ歩留まりが悪く活用が進んでいないとしています。一方で画像生成AIは利用を広げる方針で、後から修正できない紙の冊子への活用も検討しているそうです。

日本市場への影響:表示ルールと「うちもやるか」の波

AI生成であることを明記している

ワークマンは運用ルールも定めています。

実在人物の肖像権を侵害しないようにし、AIで生成した画像であることをサイト上で明記するというものです。

これは日本の現状を踏まえると、かなり手堅い判断です。2026年時点の日本法には、AI生成コンテンツであることを開示する一般的な義務はありません。

ただし、間接的な規制はあります。景品表示法のステルスマーケティング規制が2023年10月から施行されており、実在の利用者やスタッフの体験に見せかける表現は問題になり得ます。

経済産業省・総務省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版・2026年3月31日)」も、透明性の確保を好ましい取り組みとして挙げています。法的な強制力はありませんが、実務では任意開示が推奨されている状況です。

国内の中小EC事業者にとっての意味

ワークマンは2025年9月時点で売上1,831億円・1,062店舗という規模の企業です。EC比率は1.2%と低く、約8割の顧客が店舗受取を選ぶという独特の戦略を取っています。

その同社が、派手なAIモデル広告ではなく地味な撮影代替から入った事実は、国内の事業者にとって参考になります。

撮影スタジオを持たない中小のショップこそ、この使い方の恩恵は大きいはずです。商品を仕入れたその日に、季節感のある利用シーン画像を用意できるからです。

ただし、真似するなら人によるチェックと表記のルールもセットで、というのが今回の教訓でしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. ワークマンの商品画像はすべてAI製になったのですか?

いいえ。AIを使っているのは主に利用シーン画像で、しかも通常の撮影が間に合わない場合の代替手段です。商品そのものを写す物撮りは従来どおり撮影しています。

Q2. どの画像がAI生成かは分かりますか?

分かります。ワークマンはAIで生成した画像であることをサイト上に明記するルールを設けています。

Q3. Nano Bananaは個人でも使えますか?

使えます。GeminiアプリやGoogle AI Studioから試せて、無料で使える範囲もあります。企業がシステムに組み込む場合はGemini APIやVertex AI経由で、生成量に応じた従量課金になります。

Q4. 生成AIで作った商品画像を自社ECで使っても法律違反になりませんか?

2026年時点の日本法に、AI生成であることの一般的な開示義務はありません。ただし実物と大きく異なる画像は景品表示法の優良誤認にあたる恐れがありますし、実在の利用者の体験談に見せかけるとステマ規制の問題になります。実物に忠実であることと、必要に応じた表記が現実的な線です。

Q5. コストはどれくらい下がるのですか?

ワークマンは具体的な削減額を公表していません。同社が強調しているのは金額よりも、これまで諦めていた企画を実行できるようになった点です。

まとめ

  • ワークマンが商品の利用シーン画像の制作に画像生成AIを導入していたことが2026年8月6日に判明した
  • 使用ツールはGoogle Cloudの「Nano Banana(Gemini 2.5 Flash Image)」と動画生成AI「Veo」
  • 一部のアプリ通知では、AI画像のほうが開封率が約1.5倍高かった
  • 位置づけは撮影の全面置き換えではなく、撮影が間に合わないときの代替手段
  • 細かいディテールの再現が課題で、全画像を人がチェックし、AI生成であることを明記している
  • 動画生成AIは歩留まりの問題でまだ本格活用に至っていない

まずは自社の商品画像で「撮影が間に合わずに見送った企画」がないか振り返ってみてください。そこが、生成AIを試す最初の一歩になります。

参考文献