- Sakana AIが日本語特化のLLM「Sakana Namazu」をAPIとして2026年8月3日に提供開始
- 土台は中国Moonshot AIの公開モデル「Kimi K2.6」。そこへ日本語データを追加学習
- 料金は入力100万トークン0.95ドル(約143円)、出力4ドル(約600円)の従量課金
- 日本の文脈を測るテストでは34.10%から56.30%へ22.2ポイント改善
- EU・英国・スイスでは利用できず、入力は初期設定のまま使うと学習に回る
「日本語が得意なAI」と聞くと、どこか物足りない性能を想像しませんか。ところが2026年8月、日本のSakana AIが出したAPIは、その先入観をひっくり返す作りになっていました。値段、性能、そして意外な土台まで、順番に見ていきます。
Sakana Namazuとは?8月3日に何が始まったか
Sakana AIは2026年8月3日、日本語特化のLLM(人間のように文章を読み書きできるAI)「Sakana Namazu(サカナ・ナマズ)」をAPIとして公開しました。
API(アプリから機能を呼び出す窓口)で公開されたことが、今回の大きな変化です。
Namazu自体は新顔ではありません。もともと同社のチャットサービス「Sakana Chat」の中で動いていたモデルです。
これまでは同社のサービスを使うしか触る方法がありませんでした。今回のAPI公開で、自社のシステムや自作アプリにNamazuを直接組み込めるようになりました。
接続先も分かりやすく設計されています。エンドポイント(接続先のURL)は https://api.sakana.ai/v1 で、モデル名は sakana-namazu です。
しかもOpenAI互換になっています。つまりChatGPTのAPI向けに書いたプログラムがあれば、接続先URLとモデル名を書き換えるだけで動きます。
ちなみに、Web検索とコード実行が最初から道具として組み込まれています。調べものをして、その結果を計算まで済ませる、といった一連の作業を任せられます。
中身は中国発の「Kimi K2.6」 それでも国産と言える理由
ここが今回いちばん意外なポイントです。
Namazuの土台は、中国のMoonshot AIが公開したオープンモデル「Kimi K2.6」です。ゼロから日本で作ったモデルではありません。
「それって国産なの?」と思った方は鋭いです。ただ、AIの世界では珍しい話ではありません。
公開されたモデルは、誰でも中身を持ってきて自分のデータで鍛え直せます。Sakana AIは自社が持つ日本語のデータを使い、日本語力と日本のビジネス文脈を強化しました。
同時に、必要のない回答拒否や答えの偏りを減らす調整も加えています。
この作り方には合理性があります。基礎体力の高い選手を連れてきて、日本のルールに合わせて再教育するようなものです。
一からモデルを育てるには数百億円規模の計算費用がかかります。既に強いオープンモデルを土台にすれば、費用と時間を大幅に節約しながら、日本語部分だけを深く磨けます。
ただし、この構造は覚えておく価値があります。土台が海外の公開モデルである以上、「完全な純国産」を条件にしている調達案件では説明が必要になる場面もあります。
料金は出力100万トークンで約600円 内訳を分解する
料金は使った分だけ払う従量課金です。月額の固定費はありません。
公開されている単価は次のとおりです(1ドル150円で換算)。
- 入力:100万トークンあたり0.95ドル(約143円)
- 出力:100万トークンあたり4.00ドル(約600円)
- キャッシュ済みの入力:100万トークンあたり0.15ドル(約23円)
- Web検索:1,000回あたり7.00ドル(約1,050円)
- コード実行:1時間あたり0.12ドル(約18円)
トークンとは、AIが文章を数える単位です。日本語ではおおむね1文字が1トークン前後になります。
100万トークンは、原稿用紙にすると約2,500枚ぶんです。それを読み込ませて約143円と考えると、体感がつかみやすくなります。
注目したいのはキャッシュ料金です。同じ前提文(社内マニュアルや商品リストなど)を毎回送る使い方だと、2回目以降は約23円まで下がります。入力単価の6分の1以下です。
扱える文章量も大きめです。コンテキスト(一度に読み込める量)は262,144トークン、出力は最大65,536トークンまで対応します。
数百ページの契約書や仕様書を、分割せずまとめて渡せる水準です。
敬語と日本の常識 ベンチマークで伸びたのはどこか
性能はベンチマーク(共通テスト)の数字で公開されています。
最も伸びたのはFairPoliticsQAで、34.10%から56.30%へ22.2ポイント上がりました。政治的に中立な答えを返せるかを測るテストです。
企業がAIを客対応に使うとき、偏った意見を口走られるのは事故になります。この改善は地味ですが、実務では効いてきます。
日本語の指示理解を測るJFBenchでも、土台のKimi K2.6を1.5%上回りました。日英翻訳でも、日本特有の固有名詞や敬語の扱いで上回ったとされています。
一方で、数学のAIME26、幅広い知識のMMLU-Pro、コーディングのLiveCodeBench v6では、土台モデルの高い成績をほぼ維持しています。日本語を伸ばしつつ、基礎能力を落とさなかった形です。
ただし注意点もあります。公開された比較相手は土台のKimi K2.6のみで、GPTやGemini、他の国産モデルとの直接比較は出ていません。
現場ではどう効くのか
通販会社のサポート担当を思い浮かべてください。配送が遅れたお客様へのお詫びメールは、言葉づかいを一段階間違えるだけで火に油を注ぎます。敬語の精度が上がることは、そのまま炎上リスクの低下につながります。
建設会社の営業事務も同じです。見積書に添える送付状には「ご査収」「何卒」といった定型表現が並びます。ここを毎回人が書き直す時間は、月にすると数時間規模になります。
市場調査の担当者ならどうでしょう。アンケートの自由記述が1万件届いたとき、方言や言い回しの揺れを含めて分類できるかどうかで、集計にかかる日数が変わります。Sakana AIも市場調査の自動化を想定用途として挙げています。
PLaMo・tsuzumi・Sarashinaとの違い
国産・日本語特化のLLMは、Namazuだけではありません。主な選択肢を並べてみます。
- PLaMo(Preferred Networks):純国産のフルスクラッチ開発。料金を公開し、個人でもAPIを使える
- tsuzumi(NTT):軽量で推論コストが低く、1GPUでの社内設置が現実的。法人契約が前提
- Sarashina(SB Intuitions):ソフトバンク系の純国産。国内クラウド上での提供でデータ主権を重視
- ELYZA(KDDI系):オープンソース配布が中心で、自前のマシンで動かせる
価格で比べると差がはっきりします。PLaMo 3.0 PrimeのStandardプランは、128Kトークンまでの入力で100万トークンあたり入力60円・出力250円です。
単価だけを見れば、PLaMoのほうがNamazuより安く収まります。
ではNamazuの強みはどこか。ひとつは262Kという長い読み込み量、もうひとつはWeb検索とコード実行を最初から抱えている点です。
調べて、考えて、実行する。この多段階の作業(エージェント的な使い方)を組みたい場合、道具が最初から揃っているのは実装の手間を減らします。
逆に、短い文章を大量にさばくだけなら、単価の安い選択肢のほうが総額は下がります。
日本企業が気をつけたい3つの落とし穴
日本語に強いAPIが増えるのは歓迎すべき話です。ただ、導入前に確認したい条件が3つあります。
1つ目は入力データの扱いです。Sakana AIは初期設定のまま使うと、入力をモデルの改善に使う場合があるとしています。コンソール画面でオプトアウト(利用停止の申請)はできますが、機密情報を扱うなら最初に設定を確認すべきです。
2つ目は提供地域の制限です。EU・EEA・英国・スイスでは提供されていません。GDPR(EUの個人データ保護ルール)への対応を進めている最中とされています。
欧州に拠点や顧客を持つ企業は、そこだけ別のモデルを使う設計が必要になります。
3つ目は通貨と処理場所です。請求は原則ドル建てで、円建てはエンタープライズ契約が前提とされています。円安が進めば、同じ使用量でも円換算の請求額は膨らみます。
また、データを日本国内だけで処理することは保証されていないという指摘もあります。国内処理が必須の業界では、この点の確認が欠かせません。
背景として、Sakana AIはシリーズBで約200億円を調達し、企業価値は約4,000億円規模と報じられています。2026年1月にはGoogleとの戦略提携も発表しており、資金面での体力は日本のAI企業では突出しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 個人開発者でも使えますか?
APIコンソールでアカウントを作り、APIキー(利用のための鍵)を発行すれば使えます。月額固定費はなく、使った分だけの支払いです。
Q2. ChatGPT用に作ったプログラムを移せますか?
OpenAI互換のため、接続先URLとモデル名の書き換えでおおむね動きます。ただし本番投入の前に、自社の用途で出力を比べる検証は必要です。
Q3. 中国のモデルが土台だと、セキュリティ面は大丈夫でしょうか?
土台になっているのは公開されたモデルの重み(AIの頭脳にあたる数値)で、APIの運用はSakana AIが行っています。中国のサーバーに接続する仕組みではありません。気になる点は入力データの扱いと処理地域なので、そこを契約時に確認するのが実務的です。
Q4. どんな業務から試すのが良いですか?
失敗しても被害が小さく、日本語の質が効く仕事が向いています。社内文書の要約、問い合わせメールの下書き、アンケートの分類などが入口として現実的です。
まとめ
- Sakana AIが日本語特化LLM「Sakana Namazu」のAPIを2026年8月3日に提供開始した
- 土台は中国Moonshot AIの公開モデル「Kimi K2.6」で、そこに日本語と商習慣を追加学習している
- 料金は入力100万トークン約143円、出力約600円。キャッシュ利用なら入力は約23円まで下がる
- FairPoliticsQAは34.10%から56.30%へ22.2ポイント改善し、基礎能力は維持された
- EU・英国・スイスでは使えず、入力は初期設定だと学習に使われる点に注意が必要
まずは社内文書の要約など被害の小さい業務でAPIキーを発行し、既存のモデルと出力を並べて比べるところから始めてみてください。

