- リオ市の公営IT企業が「独自開発」と発表したAIが、実は他社モデル2つの混合だった
- 暴いたのは混ぜられた側のNex-AGI。重みのデータがほぼ完全に一致していた
- システム指示を外すと79%の確率で「自分はNexだ」と答えてしまった
- 市側は「間違ったファイルをアップした」と弁明したが、疑問の声は収まらない
- 「AIウォッシング(中身を偽る見せかけ)」は世界的な問題で、日本の自治体AIにも教訓になる
「うちが一から作ったすごいAIです」と発表されたモデルが、たった1日で「実は他社のものを混ぜただけ」とバレたら、どう思いますか?2026年6月、ブラジルのリオデジャネイロ市で本当にこの騒動が起きました。この記事を読むと、何が起きたのか、なぜすぐバレたのか、そして日本の私たちが学べることが分かります。
リオ市が発表した「世界トップ級」の独自AIとは
話の始まりは、リオデジャネイロ市の公営IT企業「IplanRIO(イープランリオ)」です。
この会社が2026年6月、「Rio 3.5 Open 397B」という大型AIモデルを公開しました。
397Bとは、AIの賢さの目安になる「パラメータ(AIの脳の神経のような部品)」が3970億個あるという意味です。
市側はこれを「独自開発したモデル」と説明しました。プログラミングや数学でとても優秀だとアピールしたのです。
実際、ある性能テスト(Terminal-Bench 2.1)では70.8点を記録しました。これは強豪である中国のDeepSeek V4 Proの67.9点を上回る数字です。
「都市の役所がトップ級のオープンAIを作った」という話題はSNSで一気に拡散しました。世界中の開発者が「リオって何者だ?」と驚いたのです。
たった1日で暴かれた——AIは2つのモデルの混合だった
ところが、発表の熱が冷めないうちに疑惑が浮上します。
指摘したのは「Nex-AGI(ネックス・エージーアイ)」という別のAI開発組織でした。
彼らの主張はこうです。「Rio 3.5は、うちのモデルと別のモデルを混ぜただけのものだ」。
具体的には、Nex-AGI製の「Nex-N2-Pro」が約60%、アリババ製の「Qwen3.5-397B」が約40%の割合で混ぜられていたといいます。
重みのデータがほぼ完全に一致
Nex-AGIは2つの強い証拠を示しました。
1つ目は「重みテンソル」の一致です。重みとは、AIの判断のクセを決める膨大な数値データのことです。
AIには60層もの構造があります。その全60層すべてで、数値が「Nex 0.6 + Qwen 0.4」という同じ配合とぴったり重なったのです。
これは偶然では起きません。料理に例えるなら、隠し味まで含めて全レシピが一字一句同じだった、という状態です。
79%が「自分はNexだ」と答えた
2つ目の証拠は、AI自身の発言です。
Rio 3.5には「あなたはRioです」と名乗らせる固定の指示が組み込まれていました。
その指示を外して質問すると、なんと79%の確率で「私はNex-AGIのNexです」と自己紹介したのです。
中身が別物だと、AI自身が白状してしまったわけです。
そもそも「モデルマージ」とは何か
ここで気になるのが「混ぜる」という技術です。
これはモデルマージと呼ばれ、実はAI業界では珍しくない正当な手法です。
複数の学習済みAIの数値データを平均するように合体させ、1つの新しいAIを作ります。
追加の学習がほとんど要らないので、低コストで「いいとこ取り」ができるのが利点です。
つまり、モデルマージ自体は悪いことではありません。問題は「混ぜた事実を隠して、独自開発と言ったこと」にあります。
ちなみに市側は後から「オンポリシー蒸留(より強いAIを先生役にして学ばせる追加学習)も予定していた」と説明しています。
リオ市の弁明「間違ってアップした」は通用する?
批判を受けて、IplanRIOはこう釈明しました。
「完成版ではなく、途中段階のファイルを誤ってアップロードしてしまった。混乱させて申し訳ない」。
そして説明書きを「Nex-N2-ProとQwenをマージして作った」と正直な内容に書き換えました。
ただ、この弁明に納得しない人は多いです。
なぜなら、最初は明確に「独自開発で性能トップ級」と宣伝していたからです。
「ミスでした」で済ませるには、最初のアピールが大きすぎた、という見方が広がっています。
広がる「AIウォッシング」——なぜ起きるのか
今回の騒動は、世界的な問題の一例にすぎません。
それが「AIウォッシング」です。実態以上にAIをすごく見せかける行為を指します。
似た言葉に「オープンウォッシング」もあります。本当は中身を隠しているのに「オープン(公開)です」と名乗る行為です。
調査会社RedMonkが2026年5月に68個のモデルを調べたところ、衝撃的な結果が出ました。
非公開でない40モデルのうち、本当の意味で「オープンソースAI」と呼べるものは1つもなかったのです。多くは「重みだけ公開」のレベルにとどまっていました。
違いを整理すると、こうなります。
- オープンソースAI:学習データも手順もすべて公開。再現できる
- オープンウェイトAI:数値データは公開するが、作り方は非公開
- 見せかけ(ウォッシング):中身を偽る、または出所を隠す
なぜ起きるのか。AIは国や企業の「技術力の象徴」になり、注目も投資も集めるからです。だから、実態を大きく見せたい誘惑が生まれます。
日本市場への影響——「自治体AI」をどう見るか
「ブラジルの話でしょう?」と思うかもしれません。でも、日本にも深く関係します。
いま日本では、自治体や企業が「独自AI」「自社開発LLM」を打ち出す動きが増えています。
その多くは、QwenやLlamaなど海外のオープンモデルを土台にしています。これ自体は賢く、悪いことではありません。
大切なのは「何を土台に、どこを自分で作ったか」を正直に説明することです。
身近な例で考えてみましょう。ある市役所が「市民向けの独自AI窓口を開発」と発表したとします。
もし中身が海外モデルそのままなら、税金の使い道として「開発費は何に使ったの?」という疑問が出ます。
また、企業が取引先に「自社AI」と売り込む場合、土台のライセンス(利用規約)違反が隠れていると、後でトラブルになりかねません。
今回の事件は、私たち利用者にも「独自開発」という言葉をうのみにしない姿勢が必要だと教えてくれます。
よくある質問(FAQ)
Q1. モデルマージは違法なのですか?
いいえ、手法そのものは合法で一般的です。問題なのは、混ぜた事実を隠して「独自開発」と偽った点です。
Q2. なぜそんなにすぐバレたのですか?
AIの「重み」という数値データは指紋のように個性が残ります。比べれば一致がすぐ分かるうえ、AI自身も出所を答えてしまったためです。
Q3. 混ぜられたNex-AGIは何が困るのですか?
自分たちの成果が、無断で他人の手柄にされる形になります。オープン公開でも、出所の表示などルールを守る必要があります。
Q4. 利用者として何に気をつければいい?
「独自開発」と聞いたら、土台に何を使ったか、どこを自前で作ったかを確認する習慣を持つと安心です。
Q5. リオ市のAIはもう使えないのですか?
説明書きが正直な内容に修正されたので、マージモデルとしては利用できます。ただし「独自開発トップ級」という当初の評価は見直されています。
まとめ
今回のポイントを振り返ります。
- リオ市の「独自AI」は、実は他社モデル2つの混合だった
- 重みデータの完全一致と、79%の自己認識で証拠が固まった
- モデルマージ自体は合法。問題は「隠して独自開発と偽ったこと」
- 世界的に「AIウォッシング」が広がり、透明性が問われている
- 日本の自治体AI・独自LLMにも「正直な説明」という教訓になる
次にAIの「独自開発」というニュースを見たら、まず「土台は何か」を確かめてみてください。それだけで情報を見る目がぐっと鋭くなります。
参考文献
- GIGAZINE「リオ市の独自開発AIが既存モデルの混合だったと判明」
- Nex-AGI GitHub Issue「Rio-3.5-Open-397B ≈ 0.6 x Nex-N2_pro + 0.4 x Qwen」
- Yahoo Tech「Rio de Janeiro Built an AI Model That Beat DeepSeek—But Was Based on Someone Else’s Work」
- Dealroom「Nex claims viral Rio 3.5 model is a re-skin of its open-source Nex-N2-Pro」
- LeadDev「Be careful with ‘open source’ AI」


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