- スクウェア・エニックスがGeminiでゲームの品質テストを自動化したこと
- AIが画面を見てコントローラーを操作し、自分で検証を進める仕組み
- 2027年末までにデバッグ作業の7割をAI化する目標の中身
- ドラクエXに8月実装予定の対話AI「おしゃべりスラミィ」との関係
- ゲームテスターの仕事はどうなるのか、海外開発者からの反論
ゲームのバグ探しって、人間が何百時間もひたすら遊んで見つけるもの——そう思っていませんか。その常識が、いま日本の大手ゲーム会社で崩れはじめています。AIが画面を見て、自分でコントローラーを握り、勝手にバグを探しに行く。スクウェア・エニックスが公開した実演の中身を追いました。
スクエニがGeminiでゲーム検証を自動化
2026年7月30日、東京で開かれた「Google Cloud Next Tokyo ’26」の基調講演。ここでスクウェア・エニックスが、いま社内で動いている取り組みを実演しました。
登壇したのは、同社AI&エンジン開発ディビジョンのジェネラル・マネージャー、荒牧岳志氏です。
披露されたのは、ゲームの品質テスト(QA)をGeminiで自動化する仕組みでした。GeminiはGoogleが開発したAIです。
QA(Quality Assurance=品質保証)とは、発売前のゲームを徹底的に遊んで不具合を洗い出す工程のこと。壁をすり抜けないか、会話が途中で止まらないか、文字が枠からはみ出していないか——そういった確認を一つひとつ潰していきます。
AIが「画面を見て」コントローラーを握る
実演でいちばん驚かれたのが、AIの動き方です。
AIはゲーム画面を視認して、いま何が起きているかを把握します。そのうえで自動的にコントローラーを操作し、与えられたタスクに沿って検証を進めていきます。
デモでは、AIが自らゲーム内の地図を開いて現在地を確認し、キャラクターを動かして目的地へ向かう場面が流れました。
しかも画面には、AIが「いま何を考えているか」という思考過程と、残っているタスクリストが並んで表示されます。人間の担当者は、AIの検証がどこまで進んだかを横から眺められるわけです。
従来の自動テストは、プログラムに「この座標のボタンを押せ」と細かく指示する必要がありました。画面のレイアウトが少し変わるだけで動かなくなる、という弱さも抱えています。
画面を見て判断するAIなら、その縛りから抜けられます。
現場が欲しかったのは「目と耳を持つAI」
荒牧氏のコメントが、この取り組みの狙いをよく表しています。
「本当に現場が求めていたのは、文字のやりとり(ができるAI)だけではなく、ゲームの音を聞き、複雑に変化するゲーム画面を見て、状況を把握できる能力」
ここで鍵になるのがマルチモーダルAI(文字だけでなく画像や音声もまとめて扱えるAI)です。
ゲームのバグは「文字」では説明しづらいものだらけです。キャラクターの足が地面に沈む、効果音が二重に鳴る、水面の反射がおかしい——どれも見たり聞いたりしないと気づけません。文章しか読めないAIでは、この壁を越えられませんでした。
技術基盤はGemini Enterprise Agent Platform
スクエニが採用したのは、Google Cloudの「Gemini Enterprise Agent Platform」です。以前は「Vertex AI」という名前で提供されていた、企業向けにAIエージェントを組み立てるための基盤にあたります。
AIエージェントとは、指示を受けて自分で手順を考え、実際に作業まで進めるAIのこと。チャットで答えるだけのAIとは役割が違います。
基調講演では、このプラットフォームが日本リージョン(国内のデータセンター)に対応している点も説明されました。データを国内に置いたまま処理できます。
未発表タイトルの画面をAIに見せる作業を考えれば、この点は小さくありません。ゲーム会社にとって発売前の映像は最重要機密だからです。
自動化の対象はテスト設計から誤字チェックまで
スクエニが構築を進めている基盤は、コントローラー操作だけにとどまりません。
公表されている範囲は、次の4つに広がっています。
- テスト設計——どこをどう確認すべきか、検証項目そのものをAIが立てる
- 自動プレイ——AIが実際にゲームを操作して進行する
- グラフィックス不具合の検出——表示の乱れやチラつきを画面から見つける
- テキストチェック——セリフやメニューの誤字・表示崩れを確認する
この基盤づくりは経済産業省の支援事業にも採択されています。一社の効率化にとどまらない、国内ゲーム産業の課題として扱われているということです。
「2027年末までにデバッグの7割をAI化」の本気度
今回の実演は、突然出てきた話ではありません。
スクウェア・エニックスは2025年11月6日、事業改革の資料を公開しました。そこで打ち出されたのが「2027年末までに、デバッグなどの作業の70%をAIで自動化する」という数値目標です。
同じ資料では、海外の開発スタジオを閉鎖して開発拠点を日本に集約する方針も示されました。「量から質への転換」「選択と集中」という言葉が並びます。
つまりQAのAI化は、会社全体の立て直し策の一角なのです。
土台にあるのは東大・松尾研との共同研究
技術の裏付けとして挙げられているのが、東京大学の松尾・岩澤研究室との共同研究です。松尾研は日本のAI研究をリードしてきた存在として知られています。
共同研究のテーマは、QA・デバッグ工程の自動化技術そのもの。狙いは大きく2つあるとされています。
ひとつは作業量の平準化です。ゲーム開発では発売直前にバグ修正が集中し、現場が一気に消耗します。AIが常時走り続ければ、この山を低くできます。
もうひとつは検証速度の向上です。確認が速く回れば、発売延期のリスクを抑えられます。QA自動化は、コスト削減であると同時にリスク管理でもあるわけです。
ドラクエXの「おしゃべりスラミィ」がついに実装へ
今回の基調講演では、開発の裏側だけでなく、プレイヤーが直接触れるAIも紹介されました。
「ドラゴンクエストX オンライン」に登場する対話型AIバディ「おしゃべりスラミィ」です。8月に実装が予定されています。
ドラクエXは2012年8月のサービス開始で、2026年8月にちょうど14周年を迎えます。この節目にAIの相棒が加わることになります。
プレイヤーの冒険を覚えている相棒
スラミィは、ゲーム内のチャットで会話できるAIキャラクターです。音声での応答にも対応しています。
特徴は「一方通行ではない」こと。
プレイヤーの過去のプレイ状況を会話に反映させ、スラミィのほうから話しかけてくることもあります。開発を担当した安西氏は「相棒ならば、双方向の会話があってしかるべき」として、この点に力を入れていると語っています。
会話の内容は他のプレイヤーには表示されません。あくまで自分だけの相棒という位置づけです。
導入はいきなりではありませんでした。2026年3月にクローズドベータテストの参加者を募集し、実際のプレイヤーからの反応を確かめる期間を挟んでいます。
「開発を助けるAI」と「遊びを広げるAI」を同じ基盤の上で走らせる——これがスクエニの描く絵です。
他社の自動テストと何が違うのか
ゲームのAI自動テストは、スクエニが初めて手を付けた領域ではありません。すでにいくつかの潮流があります。
海外勢:ボットで広大なマップを走らせる
modl.aiは、AIによるゲームテストを専門にするサービスです。「プロシージャル・ペルソナ」という手法で、性格の違う仮想プレイヤーを大量に生成します。
戦闘好き、探索好き、決まったルートしか通らない人——タイプの異なるボットを走らせ、実際のプレイヤー層に近い遊ばれ方を再現しようという発想です。
Ubisoftの研究部門「La Forge」も、機械学習ボットの活用を公開しています。オープンワールドの経路検証や、行けてはいけない場所へ抜けられないかの境界チェックが中心です。
国内:ツール型のサービスも登場している
日本にも動きがあります。生成AIを使ったゲームQA自動化ツール「Playable!」は、自然言語で指示してテストプレイさせる機能を掲げてきました。
ただし業界の見方は慎重です。ゲームテストへのAI活用はまだ限定的で、実用レベルの精度に届かない例も多いと指摘されています。
そのなかでスクエニの取り組みが目を引くのは、汎用の大規模AIモデルに画面そのものを見せて判断させている点です。ゲームごとに専用ボットを訓練するのではなく、人間のテスターと同じ入力(画面と音)で動かそうとしています。
加えて、7割という具体的な数値目標と期限を公開した国内メーカーは、ほかにほとんど見当たりません。
ゲームテスターの仕事はどうなるのか
この発表には、賛成ばかりが集まったわけではありません。
「QAの7割AI化」という目標に対しては、海外の開発者から批判が出ています。『バルダーズ・ゲート3』のパブリッシングディレクターを務めたMichael Douse氏は、「QA部門はどの会社でも、そのビデオゲームにいちばん深く関わっている人材だ」と指摘しました。
何百時間もそのゲームを触り続けたテスターは、仕様書に書かれていない「なんとなく気持ち悪い」を拾えます。数値化しづらいその感覚こそが品質を支えている、という反論です。
日本のSNSでも「ゲームテスターが不要になる時代か」といった声が広がり、賛否が分かれました。
置き換えではなく、役割の移動という見方
一方で、AIが得意な領域と人間が得意な領域は、そもそも違うという見方もあります。
ある新作RPGのQA担当者の月末を想像してみてください。数百体のモンスターについて、出現位置・ドロップ品・耐性値が仕様どおりかを一体ずつ確認していく。数日がかりの単純作業です。
この種の「答えが決まっている確認」は、AIが夜通し回すのに向いています。逆に「このボス戦、強さは仕様どおりだけど遊んでいて楽しくない」という判断は、いまのAIには難しい領域です。
MMORPGでは、QA費用が開発予算の半分近くを占めることもあると言われています。加えて運営型タイトルは毎日のように更新が入るため、すべてを人力で見るのは物理的に不可能になりつつあります。
日本のゲーム業界と私たちプレイヤーへの影響
この話は、日本のゲーム産業にとってどんな意味を持つのでしょうか。
まず開発費の高騰という背景があります。大型タイトルの制作費は年々膨らみ、1本の失敗が会社を揺るがす構造になりました。QAの自動化は、この圧力を和らげる現実的な手段のひとつです。
次にデバッグ受託会社への波及があります。日本にはゲームのデバッグを専門に請け負う企業が複数あり、多くの人が働いています。発注元の大手が自動化を進めれば、求められる仕事の中身は変わっていきます。単純な動作確認より、AIが出した検出結果を精査する役割や、テスト設計そのものを担う役割の比重が増していくとみられます。
そしてプレイヤーへの影響です。バグ検証が速く回れば、発売延期や発売直後の不具合祭りが減る可能性があります。パッチ配信までの時間も縮まるかもしれません。
ただし注意も必要です。7割自動化はあくまで2027年末の目標であり、いま完成している技術ではありません。実演で見えたのは、そこへ向かう途中経過です。
もうひとつ、日本のプレイヤーにとって身近なのがドラクエXのスラミィです。国内最大級のMMORPGに、日本語で会話するAIキャラクターが正式に入る——生成AIがゲーム内に常駐する体験として、8月は一つの区切りになりそうです。
よくある質問(FAQ)
Q1. AIはどうやってバグを見つけているのですか?
ゲーム画面を画像として見て、いまどんな状況かを理解します。そのうえでコントローラー操作を出力し、キャラクターを動かして検証を進めます。地図を開いて現在地を確認するなど、人間と同じ手順を踏むのが特徴です。
Q2. 「7割自動化」は、もう実現しているのですか?
いいえ。2027年末までの目標として2025年11月に公表されたものです。今回の基調講演で示されたのは、その途中段階にあたる実演です。東京大学の松尾・岩澤研究室との共同研究を土台に開発が続いています。
Q3. ゲームテスターの仕事はなくなりますか?
すぐになくなるとは考えにくい状況です。仕様どおりか確認する定型作業はAIに向きますが、「遊んで面白いか」の判断は人間の領域として残ります。ただし求められる役割は、単純な動作確認からテスト設計やAIの検出結果の精査へ移っていくとみられます。海外開発者からは、QA人材の知見を軽く見るべきではないという批判も出ています。
Q4. 「おしゃべりスラミィ」は誰でも使えますか?
8月に「ドラゴンクエストX オンライン」への実装が予定されています。2026年3月にはクローズドベータテストの参加者募集が行われ、製品版を利用中であることなどが条件とされていました。正式実装時の詳しい条件は、公式サイトの発表を確認するのが確実です。
Q5. この技術は他のゲーム会社でも使えますか?
基盤のGemini Enterprise Agent Platformは、Google Cloudが企業向けに提供しているサービスです。日本リージョンにも対応しており、技術的には他社も利用できます。ただし検証項目づくりやワークフローへの組み込みは各社の作り込み次第で、そこがノウハウの差になります。
まとめ
今回の内容を振り返ります。
- スクウェア・エニックスが2026年7月30日、Google Cloud Next Tokyo ’26でGeminiによるQA自動化を実演した
- AIがゲーム画面を見て状況を把握し、自らコントローラーを操作して検証を進める
- 基盤はGemini Enterprise Agent Platform。テスト設計・自動プレイ・グラフィックス不具合検出・テキストチェックまで対象
- 2027年末までにデバッグ作業の70%をAI化する目標を掲げ、東大・松尾研と共同研究を進めている
- ドラクエXには8月に対話型AIバディ「おしゃべりスラミィ」を実装予定
- QA人材の価値を軽視すべきではないという批判も海外開発者から出ている
8月のドラクエX 14周年アップデートで「おしゃべりスラミィ」が実際にどう動くのか、まずはそこを追いかけてみてください。

