AIが人型ロボを全身制御|電球交換は92%成功

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Google DeepMindが2026年7月30日、ロボット向けAI「Gemini Robotics 2」を発表
  • 足・胴体・腕・指を1つのAIでまとめて動かす「全身制御」に初対応
  • 電球の取り外し92%、精密部品の挿入89.6%など成功率を実数で公開
  • 複数のロボットが役割分担して協力する機能も追加された
  • 新しいロボットへの適応は「数時間・200例未満」で完了すると説明

ロボットが自分で歩いて、しゃがんで、電球をくるくる回して外す。そんな動きを1つのAIがまとめて指揮する時代が来ました。Google DeepMindが公開した新モデルの中身と、公開された成功率の数字が何を意味するのかを解説します。

Gemini Robotics 2とは?3つのモデルで役割分担

Google DeepMindは2026年7月30日、ロボット向けAIの新世代「Gemini Robotics 2」を発表しました。

今回は1本のモデルではなく、役割の違う3つのモデルがセットで公開されています。

頭脳・手足・持ち運び用の3層構造

1つめはGemini Robotics 2です。VLA(映像と言葉から、ロボットの動きを直接つくるAI)にあたります。カメラに映った光景と「水やり缶を棚に置いて」といった指示から、関節の動かし方を生成します。

2つめはGemini Robotics ER 2。ERは「Embodied Reasoning(体を持った推論)」の略です。周囲を観察して数分がかりの作業手順を組み立て、VLAに指示を出し、進み具合を見張る司令塔の役目を担います。

3つめがGemini Robotics On-Device 2です。こちらはインターネットにつながっていなくても、ロボット本体の中だけで動きます。通信が切れる倉庫の奥や災害現場でも止まりません。

考える係と動く係を分けたことで、重い推論を毎秒くり返さずに済みます。ER 2は上位モデルに近い精度を保ったまま、従来比で約4倍の実行速度を出せると説明されています。

「全身制御」で何が変わったのか

これまでのロボットAIは、腕の動きが主役でした。土台となる車輪や脚は別のプログラムが担当し、境目でぎこちなさが出ます。

Gemini Robotics 2は、足・胴体・腕・多指ハンドを1つの学習済みポリシー(動き方のルール一式)でまとめて動かします。人型ロボットの全身を一括制御したのは、同社にとって初めてです。

公開デモでは、部屋を歩いて移動し、床の物を拾うためにしゃがみ、棚の上へ手を伸ばす一連の動作をこなしています。カセットテープをラジカセに入れる、電球をねじ込む、ゴミ袋の口を縛る、といった作業も披露されました。

これまでなら、人が横でジョイスティックを握って補助していた種類の家事です。

数字で見る「得意」と「苦手」

今回の発表でうれしいのは、成功率が実数で出ている点です。ロボットAIの発表は動画の見栄えばかりが語られがちですが、今回は違います。

人型ロボット「Apollo 2」にInspire製の手を付けた全身作業では、次の結果でした。

  • 棚から物を取る:76.3%
  • テーブルから物を取る:68.4%
  • 床から物を拾う:45.7%

床の物を拾う作業は、しゃがむ動きと視界の変化が重なるため、成績が落ちます。半分以上は失敗しているという事実は、正直に押さえておきたいところです。

一方、2本指グリッパーの「Franka Duo」では数字が上がります。工具の箱詰めが78.9%、精密部品の挿入が89.6%、一般的な物の移動が74.2%でした。

さらにSharpaWave製の5本指ハンドを使った電球の取り外しは92%に達しています。ただし同じ多指ハンドでも、他の課題は32〜44%にとどまるものがありました。

司令塔のER 2側も評価されています。作業動画の進み具合を当てる課題で57.4%、「ここが重要な場面だ」と特定する課題で91.3%の正解率です。

複数ロボットの協働と、数時間での機体適応

もう1つの目玉がマルチロボット協働です。

種類の違うロボット同士が連絡を取り合い、得意な作業を分け合います。1台では終わらない工程を、チームとして片づける発想です。

倉庫での作業を想像してみてください。背の高い人型ロボットが棚の上段から段ボールを下ろし、机に固定された2本指のアームが中身を仕分ける。どちらが何をやるかは、ER 2が状況を見て割り振ります。

学習の効率も上がりました。On-Device 2は、まったく新しい2本腕ロボットへの適応が数時間、しかも200例未満のデータで済むと報告されています。

ロボットを1台導入するたびに、何か月もデータを集め直す。その常識が崩れかけている、ということです。

安全性はどう確かめているのか

体を持ったAIは、間違えると物や人を傷つけます。そこでDeepMindはASIMOV-Agenticという新しい安全ベンチマーク(性能を測るテスト)を導入しました。

測るのは主に2つです。危ない道具の呼び出しをきちんと断れるか。そして、自信が持てないときに人間の判断を求められるか。

「できません」と言える力と、「これでいいですか?」と聞ける力。この2つを性能として数値化した点が新しいところです。

安全ルールの遵守と、人が近くにいる状況でのふるまいについても改善したとされています。ただし工場や家庭で無条件に安全、という話ではありません。

競合と比べてどこが違うのか

ロボット基盤モデルの競争は、2026年に入って一気に激しくなりました。主な顔ぶれを整理します。

  • Figure AI「Helix」:自社ロボットFigure 03に搭載。BMWの生産ラインで実運用中。モデルとハードを一体で磨く戦略
  • Tesla「Optimus」:自動運転FSDと同じ設計思想とデータ基盤を転用。走行データの蓄積が武器
  • NVIDIA「GR00T」:業界共通の部品として提供。半導体とシミュレーターの商売とセットで広げる
  • Physical Intelligence「π0」:ロボット本体は売らず「頭脳」だけを提供。一部を公開している

Googleの立ち位置は、この中間にあります。自社でロボットは作らず、Apptronik(Apollo 2)、Agile Robots、Franka、Boston Dynamicsといった各社の機体に載せる形です。

Boston Dynamicsとは2026年5月の提携で、Atlasの車両提供を受けてGemini Roboticsを統合する話が進んでいます。

提供形態にも差があります。ER 2はGoogle AI Studioで一般の開発者が今すぐ試せます。企業向けのGemini Enterprise Agent Platformではプライベートプレビュー扱いです。一方、VLAとOn-Device 2は早期アクセスのパートナー限定で、申し込み制となっています。

日本の私たちにどう関係するのか

日本は人手不足の当事者です。物流倉庫、建設現場、介護、製造ラインのどこでも人が足りません。全身を使えるロボットAIは、まさにその穴を埋める技術です。

ただし日本勢の現在地は複雑です。ハードは強い一方で、基盤モデルの開発ではGPU・データセット・学習基盤のいずれも劣勢と指摘されています。

手は打たれています。AIロボット協会(AIRoA)にはトヨタ自動車、日立製作所、KDDIが参画し、ロボット基盤モデルの開発に着手しました。

川崎重工業の人型ロボット「Kaleido」は転倒に強く、重い荷物を運べるため建設現場や災害対応に向きます。トヨタは力の感覚まで伝わる遠隔操縦技術を持っています。

つまり日本の勝ち筋は、体と現場データにあります。頭脳を海外モデルに任せ、稼働データの収集と標準化で巻き返す戦い方です。今回のGoogleの発表は、その分業を後押しする材料とも読めます。

個人の開発者にとっては、ER 2がAI Studioで触れる点が入り口になります。ロボット本体がなくても、映像を見せて手順を立てさせる部分だけなら試せるからです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 日本でもGemini Robotics 2を使えますか?

ER 2はGoogle AI Studio経由で試せます。ただしVLAとOn-Device 2は早期アクセスのパートナー向けで、申し込みが必要です。一般販売されているロボットにすぐ載る段階ではありません。

Q2. 家庭用ロボットはいつ買えるようになりますか?

時期は公表されていません。床から物を拾う成功率が45.7%という数字を見ても、家庭の散らかった環境で安定して働くには距離があります。当面は工場や倉庫など、環境を整えやすい現場から広がると見られています。

Q3. 「全身制御」はそんなにすごいことなのですか?

人間には当たり前ですが、ロボットには難題です。歩きながら腕を伸ばすと重心が崩れ、転びます。移動と操作を別々のプログラムで扱うと、その境目で失敗します。1つのAIでまとめたことは、そこを構造的に解こうとする試みです。

Q4. ロボットが仕事を奪うのでしょうか?

日本の文脈では、奪う前に足りない、が実情です。物流や介護の現場は募集しても人が集まりません。ただし作業の切り出し方は変わります。ロボットに任せる工程と、人が判断する工程を分ける設計力が問われます。

Q5. 安全面の心配はありませんか?

ASIMOV-Agenticという安全ベンチマークで、危険な指示を断る力や人に確認を求める力を測っています。とはいえベンチマークは実運用の保証ではありません。人の近くで動かす場合は、従来どおり物理的な安全対策が必要です。

まとめ

  • Google DeepMindが2026年7月30日、ロボット向けAI「Gemini Robotics 2」を発表した
  • VLA・ER 2・On-Device 2の3モデル構成で、考える係と動く係を分けている
  • 足から指先までを1つのポリシーで動かす全身制御に初めて対応した
  • 電球の取り外し92%、精密部品の挿入89.6%の一方、床からの拾い上げは45.7%
  • 複数ロボットの協働と、200例未満・数時間での新機体適応を実現した
  • ER 2はGoogle AI Studioで公開。VLAとOn-Device 2は早期アクセス限定
  • 日本はハードと現場データで勝負する分業戦略が現実的な道筋になる

まずはGoogle AI StudioでGemini Robotics ER 2に手持ちの作業動画を見せて、手順をどこまで正確に組み立てられるか試してみてください。

参考文献