乙一がClaude Codeでゲーム開発|最深部は180京階

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • 小説家の乙一(本名・安達寛高)氏が、AIコーディングツール「Claude Code」でローグライク『Minimal Rogue』を制作し、ブラウザで無料公開しました
  • 地下100階でエンディング。さらに奥の「真エンド」は約180京階で、24時間ぶっ通しでも138億年かかる設計です
  • 音楽はSuno AIで生成。公開ページには「全編AIで制作」と明記されています
  • ソースコードはGitHubでMITライセンス公開。中身はHTML・CSS・JavaScriptの3ファイルで、137コミットが積まれています
  • 本人いわく「RPGツクールのような楽しさ」。コードを書かない表現者がゲームを完成させる時代の、わかりやすい実例です

ゲームを作ってみたい。でもプログラミングは書けない。そう思ったまま止まっている人は多いはずです。その壁を、日本を代表するミステリ作家があっさり越えてしまいました。しかも完成品は無料公開、ソースコードまで丸ごと公開。何がどう作られたのかを追います。

小説家・乙一がゲームを作って無料公開した

2026年8月、小説家の乙一(本名・安達寛高)氏が、自作のゲーム『Minimal Rogue』を公開しました。

配信先はitch.io(インディーゲームの配信サイト)。ブラウザを開けばすぐ遊べて、料金はかかりません。

日本語と英語の両方に対応しています。スマートフォン対応は途中で止めたそうで、PCでのプレイが推奨されています。

乙一氏は1978年、福岡県生まれ。1996年に『夏と花火と私の死体』で第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞してデビューしました。

2003年には『GOTH リストカット事件』で第3回本格ミステリ大賞を受賞。『ZOO』などの代表作は映画化・漫画化もされています。中田永一、山白朝子といった別名義も使い分ける、キャリア30年目の書き手です。

その人が、8月に出したのは新刊ではなくゲームでした。

『Minimal Rogue』はどんなゲームなのか

画面は文字と記号だけ

『Minimal Rogue』は、いわゆるローグライク(もぐるたびに地形が変わる、探索型のRPG)です。

しかも1980年代の元祖『Rogue』に近い、徹底したミニマル路線。画面にはグラフィックがなく、文字と記号だけが並びます。

自分は「@」。敵は「E」。次の階へ降りる階段は「○」。この3つを覚えれば、もう遊べます。

操作もシンプルです。

  • 矢印キー:移動。敵に体当たりすると攻撃になる
  • スペースキー:防御。減ったスタミナが回復する
  • スペース+方向キー:壁を作る特殊能力
  • Xキー:メニュー/キャンセル、Returnキー:決定

攻撃するとスタミナが減るので、殴り続けることはできません。「攻める・守る」のリズムを作れるかが生死を分けます。

ダンジョンには滑る床や溶岩の床といった仕掛けがあり、拾った装備は攻撃力・防御力に自動で加算されます。魔導書などのアイテムを集めて強くなっていく、王道の作りです。

オートセーブとコンティニューにも対応しているので、途中でブラウザを閉じても大丈夫です。

100階でエンディング、その先に「138億年」がある

このゲームがネットで話題になった理由は、その異常な深さにあります。

まず、地下100階に到達するとエンディングが流れます。ここまでは3〜5時間ほどの、健全なプレイ時間です。

問題はその先。真のエンディングを見るには、約180京階(1.8×10の18乗階)まで潜る必要があります

必要時間はおよそ7.51×10の14乗時間。1日24時間、一睡もせずに潜り続けたとして約138億年かかる計算です。

138億年は、宇宙が誕生してから今日までとほぼ同じ長さです。つまり真エンドは、人類には物理的に到達できません。

この「絶対に届かない最下層がある」という設定自体が、短編小説のような仕掛けになっています。作家が作ったゲームらしい部分です。

「Claude Codeで作った」とは、どういうことか

制作に使われたのはClaude Code。Anthropic社のAI「Claude」を、パソコンの黒い画面(ターミナル)から動かす開発ツールです。

普通のAIチャットと違うのは、AIが自分でファイルを作り、書き換え、動かして、バグを直すところまでやる点です。人間は日本語で「敵が強すぎるから弱くして」と言えばいい。

こうした作り方はバイブコーディング(vibe coding/雰囲気で指示して作る開発)と呼ばれ、2025年後半から一気に広まりました。

乙一氏がこのツールに触れたのは2026年の春頃。本人はこう振り返っています。

今年の春頃、Claude Codeがおもしろくて、何となくゲームを作っていました。RPGツクールのような楽しさがありました。

「何となく」で完成品が出てくるのが、今のAI開発の怖いところです。

音楽も人間が作っていません。BGMはSuno AI(文章から曲を作る生成AI)で生成されています。itch.ioのページには「This work was created entirely using AI(この作品は全編AIで制作されました)」とはっきり書かれています。

ソースコードが公開されている意味

もうひとつ注目したいのが、ソースコードがGitHubで丸ごと公開されていることです。

ライセンスはMIT。ざっくり言うと「著作権表示さえ残せば、自由に改造も再配布も商用利用もしていい」という、いちばん緩い条件です。

リポジトリを覗くと、構成の素朴さに驚きます。

  • index.htmlstyle.cssscript.js の3ファイル
  • BGM用のMP3が4本
  • AIへの指示をまとめた CLAUDE.md
  • コミット(保存の履歴)は137回

ゲームエンジンも、難しいフレームワークも使っていません。ブラウザが最初から持っている機能だけで動いています。

そして137回という数字は、「一発で完成した」わけではないことを示しています。何十回も指示を出し、直し、また試す作業を積み重ねた結果です。

CLAUDE.mdが置いてあるのも象徴的です。これはAIに向けた「このプロジェクトのルール説明書」で、AIと長く付き合うほど必要になるファイルです。

他のAIゲーム制作ツールと何が違う?

2026年現在、AIでゲームを作る手段はいくつもあります。整理しておきます。

  • Rosebud AI:ブラウザに文章を打つだけで遊べるゲームが出てくる。最速で形になるが、プロジェクトのコード一式を落とすには有料プラン(Pro・月50ドル)が必要と言われています
  • Unity Muse:ゲームエンジンUnityに組み込まれたAI機能群。テクスチャ生成やコード補助を担当。すでにUnityを使っている開発者向け
  • GDevelop:無料寄りで、ストア公開までいちばん安く行ける選択肢
  • Claude Code/Cursor+Godot・Unity:本職の開発者が実際に使う組み合わせ。AIがコードを書き、エンジンが重い処理を受け持つ

この中で『Minimal Rogue』が異質なのは、エンジンすら使っていない点です。

専用ツールに乗らなかったぶん、成果物は「ただのWebページ」になりました。だから誰のブラウザでも動き、誰でもコードを読めて、公開に許可もいりません。

作りたいものが小さいなら、汎用のAIコーディングツールで十分――そういう実例になっています。

日本のクリエイターと企業にとって何が変わるか

乙一氏の「RPGツクールのような楽しさ」という言葉は、日本の文脈をよく突いています。

日本には、ツクールやフリーゲーム、同人ゲームという長い土壌があります。プロでない人が作った作品が、そのまま文化として流通してきました。

今回の出来事は、その入り口がさらに広がったことを意味します。絵が描けなくても、コードが書けなくても、「こういう体験を作りたい」という設計だけ持っていれば形になる

具体的な場面を3つ考えてみます。

まず、小さな出版社の編集者。担当作家の新刊が出る前に、作品世界を歩ける短いブラウザゲームを作りたいと考えたとします。以前なら外注で数十万円と数か月。いまは、企画書の代わりにAIへ指示を出し、数日で試作品を社内で回せます。

次に、地方の観光協会の担当者。町の史跡を巡るデジタルスタンプラリーを作りたいが、アプリ開発の予算はありません。ブラウザで完結する簡単な仕組みなら、担当者ひとりでプロトタイプまで持っていけます。

そして、中学校の先生。歴史の授業で使う年表クイズを、生徒がスマホで遊べる形にしたい。教材づくりの延長として、放課後の数時間で試作できるようになります。

もちろん良いことばかりではありません。「全編AI制作」と明記された作品が増えれば、AI生成物をどう扱うかという議論は避けられません。

音楽・グラフィック・コードのどこまでをAIが作ったのか。学習元は何か。読者や購入者にどう伝えるべきか。乙一氏がページに明記したのは、その意味でひとつの作法を示したと言えます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 『Minimal Rogue』は本当に無料で遊べますか?
はい。itch.ioのページからブラウザで直接プレイでき、料金はかかりません。インストールも不要です。ただしスマートフォンは非推奨で、PCでの利用が想定されています。

Q2. プログラミングが全くできなくても、同じようにゲームを作れますか?
小さなものなら可能性はあります。ただし137コミットという履歴が示すとおり、実際には何度も指示と修正を繰り返す作業です。コードは書けなくても、「何がおかしいか」を言葉にする力は必要になります。

Q3. Claude Codeは無料で使えますか?
利用にはClaudeの有料プランやAPI利用料がかかります。プラン内容や価格は変更されることがあるため、公式サイトで最新の条件を確認してください。

Q4. ソースコードを改造して自分のゲームとして公開してもいいですか?
MITライセンスなので、著作権表示とライセンス文を残せば改変・再配布・商用利用が認められています。とはいえ元作品への敬意として、改造版であることを明示するのが無難です。

Q5. 真エンドを見た人はいるのですか?
いません。約180京階、24時間プレイし続けて約138億年という設計上、人間が到達することは不可能です。到達できない目的地があること自体が、この作品の仕掛けです。

まとめ

  • 小説家の乙一(安達寛高)氏が、Claude Codeで制作したローグライク『Minimal Rogue』をitch.ioで無料公開しました
  • 画面は文字と記号だけ。地下100階でエンディング、真エンドは約180京階=約138億年という到達不能な設計です
  • 音楽はSuno AI製で、ページには「全編AIで制作」と明記されています
  • ソースコードはGitHubにMITライセンスで公開。HTML・CSS・JavaScriptの3ファイル、137コミットという素朴な構成です
  • ゲームエンジンを使わない小規模制作なら、汎用のAIコーディングツールだけで完成まで届くことが示されました

まずは実際に遊んでみてください。3〜5時間で100階のエンディングまで届きます。そのうえでGitHubのコードを覗けば、「AIと人間が137回やりとりして作った成果物」がどんなものか、自分の目で確かめられます。

参考文献