- 2026年5月14日、東京地裁で朝日新聞・日経新聞対Perplexityの初弁論が開かれた
- 請求額は2社合計で44億円。読売新聞の21.6億円訴訟と並ぶ国内最大級のAI著作権訴訟
- 争点はrobots.txt無視・ハルシネーション・引用元なりすましの3点
- Perplexity側は「日本の検索引用ルール内で適法」と全面反論し請求棄却を求めた
- NYT対OpenAIと並ぶ判例形成局面で、日本のAI検索ビジネスの線引きが定まる
「AIが勝手に有料記事を読んで、しかも嘘の内容を表示している」。新聞社2社がそう訴えた裁判が、2026年5月14日、ついに東京地裁の法廷で動き出しました。請求額は44億円。日本のAI業界が固唾を呑んで見守る、生成AIと著作権の境界線を決める裁判の中身を、やさしくほどいていきます。
東京地裁で初弁論、何が争われているのか
2026年5月14日、ついに法廷へ
2026年5月14日、東京地裁で朝日新聞社と日本経済新聞社が米Perplexity AI(パープレキシティ)を訴えた裁判の第1回口頭弁論が開かれました。
2社は2025年8月26日に共同提訴。請求額は各22億円、合計44億円です。
これに先立ち、読売新聞社も2025年8月7日に単独で提訴済み。請求額は約21億6,800万円で、訴状によれば2025年2〜6月にかけて読売オンラインの記事11万9,467本がPerplexityに無断で取得されたとされています。
朝日・日経が主張する3つの罪
原告2社が裁判で主張しているのは、大きく3つの違反です。
1つ目は著作権法違反。Perplexityが新聞記事を無断で複製・翻案・公衆送信したとし、複製権・翻案権・公衆送信権の侵害を訴えています。
2つ目はrobots.txt(クロール拒否ファイル)の無視。両社は技術的にAIへの記事提供を拒否していたにもかかわらず、Perplexity側がそれを突破して記事を取得したと主張しています。
3つ目は不正競争防止法違反。引用元として「朝日新聞」「日本経済新聞」の社名を表示しながら、実際の記事と異なる虚偽の要約を表示していたとして、新聞社の信用が毀損されたと訴えています。
Perplexity側の反論
これに対しPerplexity側は請求棄却を求めて全面的に争う姿勢を示しました。
主張の柱は「日本の検索・引用に関する法制度の枠組みの下で適切に運用している」というもの。後述する著作権法第30条の4(AI学習目的での利用を一定範囲で許容する条文)や、軽微利用の規定を主な防御線にすると見られます。
「robots.txt無視」がなぜ致命的なのか
robots.txtという「玄関の看板」
robots.txt(ロボッツテキスト)とは、サイト運営者がクローラー(情報収集ロボット)に対して「ここは入っていい」「ここは入るな」と指示するためのファイルです。
多くの新聞社は2024年ごろからAI企業のクローラーをここで明示的にブロックしてきました。玄関に「営業お断り」と書いた看板を出しているイメージです。
Perplexityの「ステルス偵察」疑惑
問題は、Perplexityが看板を無視したと指摘されている方法です。
主要なPerplexityボットがブロックされると、ユーザーエージェント(自分の名乗り)を変えた別ボットを送り込み、IPアドレスやASN(ネットワーク識別番号)も切り替えて検出を回避していたとされます。これは「ステルスクロール」とも呼ばれる手口です。
文化庁が2024年7月31日に公表したAIと著作権のガイドラインでは、robots.txtの無視を「権利者の利益が不当に害されるケースの典型例」として明記しました。Perplexityの手法はまさにこの典型例に該当する可能性が高い、というのが原告側の組み立てです。
争点①:AI学習と引用は本当に適法か
日本にはアメリカのような「フェアユース」という万能な抜け道はありません。代わりに、著作権法第30条の4がAI学習を一定範囲で許容しています。
条文の核は「非享受利用」という考え方。AIが学ぶ過程で著作物を読み込んでも、それは作品を「楽しむ」目的ではなく計算のための素材として使うだけ、という整理です。この場合は権利者の許諾なしに使えます。
つまりPerplexity側は「学習目的だから30条の4でセーフ」と反論するわけです。
しかし原告側はこう切り返します。Perplexityは学習ではなく、検索のたびに記事をリアルタイムで取得し、ほぼ原文に近い要約を読者へ届けている。これは「学習」ではなく「コンテンツの代替提供」であり、30条の4の射程外だ、という主張です。
争点②:ハルシネーションと信用毀損
もう1つの大きな争点が、引用元の「なりすまし」問題です。
Perplexityは回答に「出典:日経新聞」のように引用元を表示します。しかし新聞社側は、実際の記事には書かれていない情報が、あたかも新聞記事の内容のように表示されるケースがあったと主張しています。
これはAIが事実と異なる内容を作ってしまう「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる問題です。読者は「日経が書いた記事」と信じて受け取りますが、中身は別物。これでは新聞社の信用そのものが傷つく、というわけです。
この主張が認められれば、AI検索の「引用機能」そのものに法的なメスが入ることになります。
海外との比較:NYT vs OpenAIの先行事例
同じ構図の戦いは、すでにアメリカで先行しています。
ニューヨーク・タイムズが2023年12月にOpenAIを提訴した裁判では、OpenAI側の請求棄却申立てが2025年3月に却下され、本案審理に進むことが確定しました。さらに2025年5月には、4億人以上のChatGPTユーザーの会話ログをすべて保全するよう裁判所が命令する異例の事態に発展しています。
2025年12月にはNYTがPerplexityをも提訴。「ペイウォール(有料の壁)を突破してビジネスを毀損した」と訴えています。
日米で同時並行的に判例が形成される状況です。今回の東京地裁判決は、日本版NYT vs OpenAIとして国際的にも注目される位置付けと言えます。
日本市場への影響:誰が何を変えなければならないか
この訴訟の結果は、日本のAI・メディア業界に幅広く波及します。
メディア企業にとっては、新たな収益源の可能性です。原告勝訴ならAI企業からの正式なライセンス契約が常識化し、ニュースコンテンツが新たな課金対象になります。実際、英フィナンシャル・タイムズやAP通信は早期にOpenAIとライセンス契約を結び、年間数千万ドル規模の収益を確保したと報じられています。
AI事業者にとっては、運用コストの増大です。robots.txtの厳格な遵守、引用元の正確性担保、コンテンツ提供者へのライセンス料支払いが必要になり、無料モデルの維持が難しくなります。
一般読者にとっては、AI回答の精度向上が期待できる一方、無料サービスの一部有料化や機能制限の可能性もあります。Perplexity Proなどの有料プランへの誘導が強まる流れも想定できます。
また、中小メディアやブロガーにとっても他人事ではありません。robots.txtの設定方法や、AIによる無断利用への対抗手段を学ぶ必要が出てきます。
よくある質問(FAQ)
Q1. Perplexityは日本でまだ使えますか?
はい、訴訟中でも通常通り利用可能です。サービス停止の仮処分は出ていません。ただし日本語の新聞記事に関しては、回答精度が今後変化する可能性があります。
Q2. 判決はいつ出ますか?
第1回口頭弁論からの一般的な民事訴訟では、判決まで1〜3年かかります。控訴・上告も想定すると、最終決着は2028〜2030年ごろになる可能性が高いです。
Q3. 個人ブログもAIに無断利用されたら訴えられますか?
理論上は可能です。ただし損害額の立証や弁護士費用を考えると、個人での提訴は現実的ではありません。robots.txt設定やAIブロックタグの活用といった予防策が現実的な対策になります。
Q4. ChatGPTやGoogleの検索AIも同じリスクを抱えていますか?
はい。OpenAI、Google、Anthropicなどもいずれrobots.txt遵守や引用元の正確性を厳しく問われる可能性があります。すでにOpenAIは主要メディアとライセンス契約を進めており、業界全体が「無料で使う時代」から「契約して使う時代」へ移りつつあります。
まとめ:AI検索の「無断利用フェーズ」が終わる日
今回の訴訟は、日本のAI業界にとって大きな分かれ目です。
- 朝日・日経のPerplexity訴訟は2026年5月14日に初弁論
- 請求額は44億円、読売も別途21.6億円を請求中
- 争点はrobots.txt無視・ハルシネーション・著作権侵害の3点
- 判決確定までは1〜3年、ライセンス契約モデルへの移行が加速する見通し
- 個人サイト運営者も、AIブロックの設定など自衛策を考える時期に
AI検索を仕事で使う人は、引用元の正確性をうのみにせず、必ず一次ソースを確認する習慣を今のうちから身につけておきましょう。

